1話
お待たせしました!
最弱ニートの異世界転生第三章更新です!
感想なりなんなりたくさんいただけると嬉しいです。
ロレンスの件から一カ月。なんだかんだで俺が日本からこの異世界にやってきてから二か月が経った。
俺がこっちにやってきたのが五月の頭、それから二カ月だから今は七月だ。
七月と言えば、太陽のやつが一番活発に活動を始める季節だ。外に出ればどんなに嫌でもギラギラと輝く太陽に焼かれる。ニートには一番つらい季節である。ただでさえニートは太陽の光に弱いのだ。
ん? この設定、なんか吸血鬼みたいでかっこよくね?
俺もしかしてニートなんかじゃなくて吸血鬼だったんじゃないの? だから外の太陽の光が苦手なんじゃないの? うん、そうだな、ニートより吸血鬼の方がかっこいいし、そういうことにしておこう。
そんなことを考えながら、俺は今日も今日とて宿の自室にあるベッドの上でダラダラ過ごしている。のだが、汗が止まらない。まるで滝のように汗がとめどなくあふれ出る。体がベタベタして気持ち悪い。
この世界にはエアコンというものがないらしい。いや、正確に言えばあるらしいのだが、それは王都のような都会な場所にあるだけで、俺のいる街、イニティのような田舎町にはギルドなどの公共機関でもない限りおかれていないようだ。買いに行くにも王都までは馬車を使っても数日掛かるみたいだし、この暑さの中そんな大冒険はしたくない。というかめんどい。
そして驚くことに、この異世界には扇風機なんてものもないらしい、この世界の人は一体どうやってこれまでの夏を乗り超えてきたのかと問いたい。
そんな蒸し風呂状態の部屋の中で、俺はだらしなくベッドの上で溶けそうになっていた。
「太陽さんマジ働きすぎっすよ。これじゃあ俺溶けちゃいますって。もう少し手加減してもらえませんかねー? いやマジで」
そんな独り言をむなしくつぶやく。
「あちー……」
そんな祈りにも近い声も外でミンミンと鳴くセミの声にかき消される。
「あっ! そうだ!!」
ここで俺に電流奔る!
「いいこと思いついたぞ! 『フリーズ』!!」
宿屋の店主に頼み込んで要らなくなった木箱を四つほど持ってきて、その中に『フリーズ』で大きな氷を作り出す。俺の申し訳程度の魔力のせいで少し時間がかかってしまったが、これからのことを思えば安い代償である。
そしてそれを部屋の四方に置き、しばらくすると―――
「ひゃーーっ! すずしいーっ! これはもう外に出れん!」
四方に置いた氷がいい感じに部屋の温度を下げていき、さっきまで止まらなかった汗はだんだんと引いていく。簡易式エアコンの完成だ。
俺は簡易式エアコンのおかげで快適になった部屋で、もうひと眠りをしようと再びベッドにその身を任せる。
「ねえユウマー。熱いから外に何か冷たいもの食べに行こうってアイリスちゃんとリリーナで話してたんだけど、ユウマはどうするー?」
簡易式エアコンを手に入れ快適に部屋でだらけていると、ドアの向こうでミカが俺を呼ぶ声が聞こえた。ミカの言葉から察するにドアの向こうにはリリーナとアイリスもいるのだろう。
「俺はいいやー」
せっかく簡易式エアコンでキンキン冷えたこの部屋を誰が出てなるものか!
「えー、ユウマにおごってもらおうと思ったのにー」
外からそんなミカの声が聞こえてくる。
最近ミカとリリーナはいつもこんな感じだ。何かと俺におごらせたり買わせたりしてくる。それもこれも、俺がこの前のロレンスの一件で金持ちになったことが原因だ。
あれから結構好き勝手に生きているのだが、お金が全然減らない。あの件から二カ月たった今も、まだ百万ギルすら使いきれていない。まあこの世界には俺のほしいアニメグッズやラノベなどがないからかもしれないが。
「あのなー。お前らにも少し分け前はやったろ。それ使って自分で買えよ」
そう、俺はさすがにあの大金を全部自分のものにするのはなんだか落ち着かなくて、アイリス、リリーナ、ミカ、それにザックとシュリちゃんに一億ギルずつ金を渡した。総額五億ギルである。それでも俺の手元にはまだ五億ちょいの金が残っている。リリーナとミカは喜々として受け取ったが、アイリスとザック、それにシュリちゃんは中々受け取ってくれなくて苦労したことも記憶に新しい。
「それに今の俺は快適なんだ。ここから一歩も出たくない。お外怖い、熱い。暑い。俺のパラダイスはここにある」
そう言ってこれ以上の対応を拒否するようにドアに背を向けるように寝返りを打つ。
「えーっ! うっそだあー! この世界にはエアコンも扇風機もないんだよ。そんなはずが……うわっ! 涼しい! なにこれ!?」
俺が部屋から出てこないことに痺れを切らしたのか、ミカがドアの鍵が開いているのをいいことに無断で部屋に入ってくる。アイリスとリリーナもミカに続いて部屋に入ってきた。
「ちょっとユウマ! どういう魔法を使ったのよ! なんでユウマの部屋だけこんなに涼しいのよ! 私の部屋にもやりなさい!」
部屋に入ってくるなりリリーナが俺に怒声を浴びせる。
「……ぷい」
そんなリリーナの大きな態度に気を悪くした心の狭い俺は、そっぽを向いて答えた。
もう少し可愛く頼んでこりゃあこっちだって動いてやらんこともなかったのに。
「なんで無視するのよ! 私の部屋にもやってくれてもいいじゃない! せめて方法だけでも教えなさいよ」
「……ぷい」
再びそっぽを向く俺。
「それにしても本当に涼しいですね。どんな方法を使ったのかわかりませんが、私にもできるなら教えてほしいです」
今度はアイリスだ。リリーナと違って、なんと礼儀の正しい子なのだろう。本当にお嫁さんにほしい。アイリスのためなら俺ニートやめるよ。……たぶん。
「アイリス。部屋の四隅を見てごらん」
種明かしをしようとアイリスにそう言った。
「部屋の四隅ですか? ……あっ!」
「わかったか? 部屋の四隅に『フリーズ』で氷を作って、それで部屋を冷やしてるんだ。これならアイリスにもできるぞ。むしろ俺より魔力の高いアイリスは俺より長時間涼しくできると思うぞ」
「はい! 後で試してみます!」
アイリスは胸の前で両手を組んで嬉しそうにしている。
この笑顔にはこの情報の価値どころかそれ以上の価値がある。
いや、この笑顔にはどんな宝石や宝よりもすごい価値があるに違いない。だって、この俺が宝石とかをもらうより断然にうれしい。癒される。異世界最高!!
「ねえユウマ! 後で私の部屋にもやってよ!」
「ユウマ私も頼むわね」
ミカとリリーナがこの涼しさに味を占めたのか、俺の部屋なのに寛ぎながらそんなことを言ってきた。そんな二人に俺は―――
「一回千ギル」
金を請求することにした。
「お金取るの!?」
「そりゃー俺の貴重な体力と時間、それに魔力を使うんだ。それくらいはもらわないとな。……っていうかリリーナは『フリーズ』を習得すればいいだろ。ミカと違って魔法使いのお前は覚えられるだろ? 俺が使うのを見てるだろうからわかってるだろうが、結構便利だぞ?」
ミカは武闘家だから『フリーズ』を習得することはできないだろうが、リリーナは魔法使いだから覚えられるはずだ。実際、氷属性の攻撃魔法は覚えているので、『フリーズ』だけ覚えられないなんてことはないはずだ。
「嫌よ、『フリーズ』は攻撃魔法じゃないもの。私は攻撃魔法しか覚える気はないわ」
「そかですか。なら千ギル払え」
手を出して二人に千ギルを要求する。
「あはは……。いいですよユウマさん。私がお二人の部屋にも『フリーズ』で氷を作ってきます。ユウマさんにお手間は掛けさせません」
アイリスの優しすぎる天使のようなお言葉。アイリスの爪の垢を煎じてリリーナとミカに飲ませてやりたい。
「いや! アイリス、俺がやろう! 俺はお兄ちゃんだからな!」
「お兄ちゃんではないですけど……。それじゃあユウマさんと私で交代でやりましょう。私も『フリーズ』が使えますし、その方が公平です」
「あ、アイリス……」
アイリスの天使っぷりに涙をこらえる俺。
ほんといい子に育ってくれてありがとうアイリス。アイリスだけが俺の癒しです。
「「……」」
俺がアイリスの天使っぷりに感動している中、リリーナとミカは俺のことをなにやら冷めた目で見ていた。
「……なんだよ。タダでやってやるってんだから文句ないだろ」
「ないわよ。文句なんて全くないわ。ただ……」
「うん。リリーナの言う通り、文句なんてないよ。ただ……」
「ただ?」
「「やっぱりユウマってロリコンだなって」」
二人ハモって言った。
「よーし! 早速二人の部屋に行こうか! 四隅に氷を作るどころか部屋中を凍らせて、中の私物も凍らせて、ついでにドアノブと鍵穴と窓も凍らせて部屋から出れないようにしてやる!」
俺は寝転がっていたベットから身を起こし、ドアのほうへ向かう。
「待ってユウマ! 冗談だから! 半分くらいは本気だったけど、半分は冗談だから!」
「そうよユウマ! ユウマはロリコンじゃなかったわ。かわいい女の子だったら誰でもいい変態だったわ! だからそんなことはやめなさい!」
「うるさい! 俺はやるときはやる男だ!」
「「ユウマーーっ!」」
結局、アイリスがこの後仲裁に入ってくれるまで、俺はリリーナとミカを引きずって、宿の廊下を歩いていた。




