20話
この後も俺のゲーム脳をフルに使って資金をためていく。
例えば森の中の昆虫系の魔物の駆除依頼。
相手は巨大なカブトムシやクワガタ、カマキリやセミ。正直怖い。
そんな相手に俺はリリーナに魔力の属性変換ですごい大きな炎を作らせ、嫌がるミカを拘束魔法で動きを封じ、昆虫が寄ってくる蜜を鎧を着せて鎧に塗り昆虫の魔物をおびき寄せてもらって、ミカに塗った蜜を目当てに向かってきた昆虫系の魔物に向かってリリーナの作り出した巨大炎に向かって俺が『エアー』で巨大炎を巨大火炎放射器のように使って撃退した。
その他にはダンジョンからアンデッド系の魔物が沸いてきていて困っている。どうにかしてほしい。というクエストで、ダンジョンの入り口で匂い袋を使ってアンデットを呼び出してからリリーナの魔法とミカの岩の暴投をひたすらぶっ放したり。
他の街まで行くのに橋が壊れてしまって安全なルートが通れないから護衛してほしい。というクエストを橋が壊れたという場所でアイリスに端から端まで『スプラッシュ』を届かせてもらい、俺はそれを『フリーズ』で固めて簡易的な氷の橋を完成させ、その上を渡ってもらっていつもの安全ルートを通ってもらったり。
リリーナが魔物の群れに突っ込んだり、アイリスが弱った魔物を回復したり、せっかくクエストが上手くいってたところをミカがドジで台無しにしたり、いろいろあったが一週間で金を稼ぎまくる。
そんなこんなで借金返済の一日前の夜。
俺たちの前にはテーブルいっぱいの金、銀、銅の硬貨、つまりは大金がおかれている。
「す、すごいです! この一週間で私たちこんなにお金を稼いだんですね! 信じられません!」
「すごいわ私たち! 一週間で小金持ちよ! これでまた杖に魔力アップの装飾品をつけられるわ!」
「ねえユウマ! これだけお金があったらお札風呂ならぬ硬貨風呂とかできるんじゃない!?」
なにやら本来の目的を忘れているやつも数人見られるが、どうにか一週間でこれだけのお金を稼いだ。
「でも……。これだけじゃ足りませんよね……」
アイリスが消え入りそうな声でつぶやいた。
「ああ……。全然足りない……」
アイリスのそんな一言に俺は至って冷静に言葉を返す。
そしてそんな俺の言葉にみんなが一様に顔を暗くした。
まあ、それも無理はない。みんなでこれだけ頑張ってこの一週間で稼いだのは一千万ギル。目標の十分の一だ。
これでも高額のクエストをギルドのお姉さんに無理言って近くの街のギルドからも集めてもらった結果なので、本来だったら数百万ギル稼げるかどうかといったくらいだろう。普通なら俺だってこうはいかない。始まりの街というだけあって高額なクエストなどほとんどないのだ。
話を戻すが、普通の冒険者なら一週間でこれだけ稼げたら相当なものだろう。だが俺たちにはこんな額では足りない。
「どうすんのよユウマ! これじゃあザックの借金返せないわよ!」
そんな重たい空気の中、リリーナが怒声を挙げる。
「どうするもこうするもない。これでどうにかするしかない」
俺はリリーナの怒声に即答で答える。
「……でもユウマさん。ロレンス卿は前にも言った通り、お金と女の人のことに関してはしつこい人だと聞きます。どうにかなるでしょうか?」
今度はアイリスだ。アイリスが暗い顔のまま落ち込んだ声で訪ねてくる。
「どうにかなるかじゃなくてするんだよアイリス。奇跡は待っていても来ないんだぞー。自分から行動しないとな」
俺はそんなアイリスにそこまで意味のないそれっぽい言葉を返す。
「……ねえユウマ……。……ほんとに大丈夫なの?」
最後は幼馴染のミカだ。この三人の中では一番性質が悪い。幼馴染だからこそ俺の考えや行動をなんとなく察してくる。下手な嘘はすぐに見破られる。
だから俺は正直に言った。
「ミカ……大丈夫だ。……たぶん」
「たぶんって言った!! 今たぶんって言ったよ!! ユウマたぶんって言ったよ!!」
ミカがそんなことを言いながら、テーブルをバンバンとたたく。
これが大事なことなので三回言いましたってやつか。二回でいいのに。
「おいミカ、このテーブル宿のなんだから壊すなよ?」
「今はそんな冗談言ってる場合じゃないでしょ!」
いつもの俺の軽口も今はみんなまともに突っ込めない。それほど今は切羽詰まった状態なのだ。
再び、みんなの顔が一斉に暗くなる。
「悪ぃ……、ユウマの兄ちゃん……」
みんなの空気が重くなったのに耐えきれなかったのか、ザックがそんなことを言った。
「俺のせいでユウマの兄ちゃんにも、リリーナ姉にも、ミカ姉にも、アイリスにも迷惑かけてる……。やっぱりこの件は俺たち兄妹の問題だ。俺がどうにかする。……俺の体の一部でも売ればどうにかなるよきっと……」
みんながザックを見守る中、ザックがそんなふざけたことを言い出した。
さすがにこれにはニートの俺もカチンと来ましたわ。
「おいザック」
「な、なんだよ兄ちゃん」
俺の表情に驚いたのか、ザックは少し後ずさりしながら言った。
「お前な、俺が任せろって言ってるんだぞ? この引きニートの俺が、だ。毎日宿でダラダラしていたい俺が人様のために動こうってんだから、お前は黙って俺について来い。大丈夫だ、なんとかしてやる」
「に、兄ちゃん……」
ザックが涙目になりながら、必死に涙をこらえる。
そんな中、俺は心の中で―――
よっしゃあーーーーっ!!
今の俺絶対にかっこよかった! 弱虫な弟分を引っ張っていく兄貴分だった! こんなの一度はやってみたかったっ!!
これでグラサンでもあったら完璧だったな。あとドリル!!
俺に元から付いているドリルはゲフンゲフン。
「とりあえずこれだけしか金が集まらなかったのはしょうがない。こんな状況で考えてもロクな考えは出ないし、今日はもうみんな部屋で休もうぜ」
未だに暗い表情のみんなに俺はこの状況にはにつかわないお気楽な言葉を投げかける。
「……そうね。ユウマの言うとおりだわ。私は部屋に戻るわね」
俺の言葉に最初に動いたのは意外にもリリーナだった。てっきり「なに言ってんのよ! 今は休んでる暇なんてないでしょ!」とか言ってくるもんだと思っていたのだが、特に突っかかってくることなく部屋へと戻っていく。ちょっと拍子抜けだ。
「私も部屋に戻ります。ザック君。……私、部屋でも私なりにいろいろ考えるからあきらめないでね」
次に動いたのはアイリス。ザックに一言声をかけて足取り重くこの場を立ち去る。
「……ユウマ。私、信じてるから……」
最後はミカだ。やっぱりミカは長年の感というやつで俺に何か考えがあるんだろう。とか思ってるみたいだ。
全く、かいかぶりすぎだっての。俺は普通の冒険者。いや、普通じゃなかった。最弱の冒険者。少し魔力と知力と敏捷が高いだけの器用貧乏どころかただの貧乏。そんな俺に何を期待してるんだあいつは。
ミカはそれだけ言うと、部屋へと戻っていった。
「ほら、ザック。お前も部屋に戻れよ。大丈夫だからさ」
「あ、ああ。ユウマの兄ちゃん……」
俺は未だに動こうとしないザックを部屋まで送ってから、自分も部屋に戻った。
それからしばらくして、夜も深まり人々が寝静まった騒がしいこの街唯一の静かな時間。酒を飲んでバカ騒ぎする冒険者たちや、大きな声で物を売る商人たちも静かに眠るこの時間。
俺は一人横になっていた布団から這い出る。
「やっぱりニート体質は治ってねぇな。全然眠くないし、むしろ絶好調! この世界に来てニートなんてしたくてもできなかったけど、俺の心の底にはまだニート魂が残ってるんだなー。今回ばかりは俺の初期スキルの『徹夜』が生きるぜ!」
そんなことを言いながら、部屋着からいつもの軽装に着替えていく。
「こんな時間に活動ってやっぱり俺って夜の男だわ」
日本にいたころはこの時間からが俺の本当の活動時間だった。
毎日好きな時にアニメ見たり、寝たり、ラノベ読んだり、ゲームしたり、と好き放題やってたが、やっぱり夜、それも両親が寝静まったこの時間帯が俺の一番の活動時間だった。
そんな俺からしたら異世界でだってこの時間からが本番である。
ゲームはないし、アニメどころかテレビもないし、ラノベなんてものもないけど、やっぱりこの時間からが俺の本来の活動時間らしい。
……あと、夜の男ってなんかエロくない?
「さーて、もう一仕事しますか!」
着替えの終わった俺はたった一人、誰一人道を歩いていない寂しくも静かで幻想的な街へと足を踏み出した。
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「もう時間だね……」
ミカが暗い声でつぶやく。
今日はロレンス卿の家に行ってからちょうど一週間目、つまりは借金返済の期限の日。
俺たちは再び宿の食卓テーブルを五人で囲んで暗い顔をしていた。
―――俺一人を除いては。
「ねえユウマ。なんでユウマはそんなに余裕そうな顔をしているの?」
ミカが俺の特に何も気にしていないような顔を見てそう言った。
実際俺は何にも心配なんてしていない。
どうにかなるさ、と楽観視している。
物語は最終的にうまく終わる。それがアニメやドラマのお約束。それが悲しい結末でも話がまとまってて感動できればそれでいい。それが俺の考え方だ。
「そりゃあどうにかなるだろ。って思ってるからだよ」
だから俺は特に何か思うこともなくそんな適当なことを口から吐いた。
「……ユウマ。あんたねえ……!」
俺の適当な言葉と態度が気に食わなかったのか、リリーナが俺の胸倉を掴んでくる。いつもの冗談の時と違って力が強い。ちょっとやちょっとじゃ振りほどけそうにない。
「なんだよリリーナ。せっかくのかわいい顔が台無しだぞ、だから笑えよ。人生笑ってたほうが上手くいくらしいぞー」
リリーナのいつにも増して真面目な発言に俺はまたも適当な発言を返す。
「……。……もういいわ。アイリス、ミカ、ザック、行きましょ」
そう言うとリリーナ俺に背を向けて宿の入口へと向かっていく。
「ユウマさん……本当にどうしちゃったんですか? ……私、なんか今のユウマさん……いやです」
「そうか、アイリスにそう言われちゃうとお兄ちゃん悲しいよ」
俺がそう返事をすると、アイリスは何も言わずにリリーナの後を追った。
「ユウマ、私は信じてるよ……」
「信じるって俺をか? 笑わせんな。俺は天下の引きニート。親を泣かせた回数だけは誰にも負けるつもりはない」
「ふふっ」
ミカは俺の言葉に少しだけ笑みをこぼし、リリーナとアイリスの背中を追う。
「ほら、ザックも行け」
「兄ちゃん……。なにか隠してないか?」
「なにも隠してないぞ。隠してるとしたらそれは俺の性癖かなんかだ」
「……そっか。頼むぜ兄ちゃん。俺は昨日の兄ちゃんの言葉を信じてる」
ザックはそう一言言い残すとみんなの後を追った。
「……はあー。みんな好き勝手言ってくれちゃって。俺はコミュ障の引きニートだぞ。心がシングルティッシュ並みに耐久度がないんだから少しは遠慮しろっての」
俺はそんな独り言を言いながら宿を出た。




