19話
「というわけだ。これから難易度の高いクエストで尚且つ高報酬のクエストを選んで受けるぞ」
ロレンスの屋敷から出て、未だに拘束魔法に捕らわれたままになっていたリリーナとミカを助け出した俺とアイリスとザックは、リリーナとミカに屋敷での出来事を端的に話した。
「アイリス! なんでそんなこと言っちゃったのよ! もし借金が返せなかったらあんたあのクソ貴族のとこで働くのよ!? あいつの女遊びの評判の悪さはアイリスも知ってるでしょ!!」
俺の話を聞いてリリーナがアイリスを怒鳴った。ミカも口にこそ出さないがアイリスを怒った視線で見つめている。
いつものアイリスならここで「すいません」と二人に謝っていただろう。
しかし、今日のアイリスは違った。確かな覚悟があった。
「大丈夫です。ユウマさんが借金を返すって言いました。なら私はユウマさんを信じます。私の大好きなユウマさんを信じます。それが今の私にできる精一杯のことなんです」
そんなアイリスの覚悟の籠った言葉にリリーナもミカも黙り込む。そして、アイリスには何も言えなくなったからだろうか、当たる先が俺になった。
「ユウマ! 絶対に何とかしなさいよ! 自分の言葉に責任くらい持ちなさいよ!」
「そうだよユウマ! もし返せそうになかったらユウマの内臓全部売ってでもお金にするから!!」
「いいわねミカ! それは名案だわ!!」
「名案じゃねえよ! どっからどう見ても聞いても迷案だよ!!」
なにやら物騒な話をしだした二人にツッコミを入れる俺。
なんでこんな時にまで緊張感がないんだ俺たちは。
「それよりもユウマ、本当にちゃんと考えがあるんでしょうね?」
リリーナがまだ俺を疑っているようで、俺の睨み付けながらそんなことを言ってくる。
「ん? ああ、ちゃんとあるさ。見てみろよ、この純粋で綺麗な黒の瞳を。この瞳が嘘をついているはずないだろ」
俺がそう言うと、リリーナはさっきより顔を近づけて俺の瞳をのぞき込んできた。
自分で言っておいてなんだけど―――近い近い近い! リリーナのルビーみたいなきれいな赤い瞳が俺を映してる! 目の前にはリリーナの形のいい唇とか、整った形の鼻とか、よく見なくてもかわいい顔立ちが俺の視界をジャックしてる!!
元童貞引きニートにはすごいやばいよ! 何がって、ナニがやばいよ!!
しかも引きニートは元だけど、童貞は現在進行形だよ!!
俺が頭の中を一人で混乱させていると、リリーナは俺の瞳を見たまま言った。
「……うん、これは悪者の目ね。変態で引きこもりでロリコンの目よ。完全に腐ってるし、犯罪者の目だわ」
……。
リリーナの言葉に一瞬でさっきまでの感情の数々が凍り付くのを感じた。
愛が覚めるのは一瞬だと聞いたことがあるが、本当のことだったようだ。
そして俺は―――
「……『ボルト』」
真顔で右手でリリーナの肩に触れ、スタンガン(魔法式)を行使する。
「いやーーーーーーっ!! ちょ!? ユウマ! 何してるのよ!? 私は正直に言っただけじゃない! ちょっと、なんかさっきより強くなってないかしら? さっきから体が痺れて動かなくなってきてるんだけど、にゃんかロレチュもまわりゃなくにゃってきてりゅんだけどーっ!! リュウーマ!!」
「ははははは。リリーナ、リューマって誰だよ。俺の名前を忘れちゃったのか? しょうがないなー。俺はユウマだよ。ユ・ウ・マ」
そう言ってさらに電力を上げる俺。
「ぎょぎょぎょ、ぎょめんなしゃい! だかりゃやめなしゃい!」
リリーナが謝ってきたので、『ボルト』をやめてやった。
俺がいい仕事をしたとばかりに搔いてもない汗を拭きとると、リリーナ以外の妙な視線を感じた。
アイリスとミカ、それにザックの視線だ。
しかもみんな俺から少し距離を取ってる。
なんで? どうして俺から距離をとるの? 俺が童貞だから? 俺が元引きニートだから?
そうなの?
「ユウマの兄ちゃん。この街で一番魔力の属性変換の使い方上手いんじゃないか?」
ザックのそんな言葉を聞いて、少しうれしかった俺でした。
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俺はアイリス、リリーナ、ミカ、そしてザックを引き連れて、とりあえずギルドへと足を運んでいた。
そして俺は現在クエストボードとにらめっこ中である。
「それでユウマ、結局どうやってお金を稼ぐの? 一週間で一億ギルなんて普通無理だと思うんだけど」
「ああ。だから普通になんてやらないぞ。ちゃんと俺たちの実力と報酬、その他モロモロを考えてるさ」
俺だって馬鹿じゃない。普通にクエストを受けたぐらいで一週間で一億を稼げないことぐらいは一瞬でわかる。
しかし、俺のパーティーには『金剛力』という物理的チートスキル持ちのミカ。女神様からチートももらってないのに魔力がチートレベルのリリーナ。補助魔法、回復魔法のエキスパートアイリス。それに加えて今日は盗賊のザックまでいる。
その上、長年両親を泣かせて取得していった俺の初期スキル『ゲーム脳』。これがあれば大抵のことはどうにかなる……はずだ。
「とりあえず、このクエストを受けるぞ」
俺はそう言って四人に見えるようにテーブルの真ん中にクエスト用紙を置く。
「えーっと、湖に住むワニバーンの討伐ですか?」
アイリスがクエストの討伐対象を読み上げる。
「そうだ。今回はこの湖の浄化のために邪魔なワニバーンの討伐クエスト、湖のワイバーンを全部倒すだけで三十万。かなりの高収入になる」
このクエストの言っている湖とはこの始まりの街イニティを出て、三十分くらいのところにある湖だ。今日はなんだかんだ言って半日ほど情報収集で使ってしまったので、これくらいが丁度いいだろう。
「でもこれすごい難しいクエストなんじゃないのか?」
サックが不安そうに言った。
「大丈夫だ。俺に作戦がある」
「ここだな」
結局あのままワニバーン討伐クエストを受けた俺たちは、現在クエストの指定場所である湖まで来ていた。
湖はこの前オークの集落を破壊しに行ったときに見たときは水が透き通っていて、夏にこの湖で四人で水浴びとかしたいな。主に三人の水着が見たいという意味で。とか思っていたのだが、今の湖はなんというか泥湖だ。
透き通っていた水は茶色い汚水へと変わっていて、出来の悪いコーヒーみたいな色をしている。だが、決して飲みたいとは思わない。
そして水面には数々の魚の死骸。頭だけの魚だったり、腹の部分がない魚だったり、中にはこの湖に住んでいた魔物なのか、大きなピラニアみたいな魔物の死骸もあった。
「それじゃあいっちょクエストを片付けますか」
俺はそう言って汚い湖へと近づく。
すると、湖の表面にいくつか波紋が生まれた。
「……やばっ! 来ちゃったか?」
俺が言葉を発した瞬間、まるでそれをフラグだとでも言いたいかのようにワニバーンが数体水面からその巨体を表す。
ワニバーン。
ギルドのお姉さんに聞いていた通り、見たまんまワニだ。ただしサイズが規格外。実際のワニなんて見たことないが、普通のワニの三倍くらいの大きさはあると思う。
他に俺の知っているワニと違うのは色、俺の知っているワニは緑というか、少し黒い緑なのだが、このワニバーンは赤い。真っ赤だ。
そしてさらに違うところがもう一つ。ある意味それがワニバーンの一番の特徴とも言えるかもしれない。それは牙。大きな牙だ。
口の中に入りきらないほどの大きさの牙。そのため口を閉じていても口の端から大きな二本の牙が姿をのぞかせている。
そんな巨体で凶悪な牙を持ったワニバーンがすごいスピードでこっちに向かってくる。
「やばいやばいやばい!」
俺はワニバーンがこっちに向かってきていることに若干涙目になりながらも、急いで湖に手を突っ込んで魔法を唱える。
「『サンダー』!!」
魔力がなくなるのも厭わず、力で『サンダー』をブチかます。
湖の水面に電気が流れていき、こちらに向かってくるワニバーンどころか、今も水中に身を隠すワニバーンにも攻撃を仕掛ける。さっき見た通り、今はこの湖の魚たちはワニバーンに食い殺されている。こんなことをして困るような人はいない。
だからこうすれば、一瞬で全部のワニバーンを倒すことができるはずだ。
しかし―――
「ユウマ! なんかワニバーン、ユウマの魔法なんて全然気にしないでこっちに来てるんだけど! 私の『金剛力』でもあんな数どうにもできないよ!! ていうか怖いから近づきたくない!!」
「うるせーっ!! 俺の魔力はリリーナみたいに強くないんだよ!! リリーナ! 早く電気属性の魔法を詠唱しろ! 俺じゃ火力が足りない! アイリスは俺と一緒に全力で湖に『フリーズ』だ! 水面を凍らせて少しでワニバーンの進行を遅らせるぞ!」
「わかったわ!」
「わかりました!」
俺の指示を受けてリリーナが魔法の詠唱を開始し、アイリスも全力の『フリーズ』を撃つために詠唱を始める。
「ねえねえユウマ、私は!?」
そんな中指示をもらえなかったミカがキラキラした瞳で問いてくる。
「ミカはもしこっちにワニバーンが来ちまったら……囮だ!」
「わかった……って、ユウマ! 私だけ扱いひどくない!?」
「ザックはもし陸にワニバーンが上がって来たら、ミカが囮をしてくれるからその隙に『リスント』で少しでも拘束してくれ!」
「わかったぜユウマ兄ちゃん!」
「ねえユウマ! 私の話聞いてる!? ねえユウマったら!!」
俺は何かと騒いでいるミカを無視してアイリスに呼びかける。
「アイリス。準備はいいか?」
「はいっ! いつでもいけます!」
「それじゃあいくぞ!」
「「『フリーズ』!!」」
俺とアイリスの全力『フリーズ』で湖全体が凍り付く。ほとんどはアイリスのおかげだろうが、少しは俺のおかげでもあると思いたい。
俺とアイリスの『フリーズ』のおかげでワニバーンがこっちに向かってくるスピードは確かに激落ちした。
これならリリーナの魔法が間に合う。
「おいリリーナ詠唱はまだ終わらないのか!?」
「ねえユウマ! 今日の私はすごく調子がいいみたい! なんだかずっと詠唱してられそうなのよ! 魔力が心の奥底から無限に出てきているみたいだわ! ねえユウマ。私、自分自身の限界を試してみたいわ! いいわよねユウマ?」
「このバカっ! 今そんなこと言ってる場合か!」
俺が渾身のツッコミを入れると同時に湖に張っていた氷が全部砕け散った。どうやら相当の数のワニバーンの猛攻に耐えきれなかったらしい。
氷が砕けたのをいいことにワニバーンのすごい勢いでこちらに向かってくる。
「リリーナ! 自分の限界とかどうでもいいから早く魔法撃て! こっちがやられるぞ!」
「まだよ! 私はまだやれるわ! ねえ見てユウマ! 私今、すごい魔力に満たされてる! 最高の気分よ!」
「お前は魔物に集られたいマゾなのかこのやろーっ!! くそ! アイリス、俺に筋力増強魔法を!」
役に立たなくなってしまったリリーナをいったん無視して、俺はアイリスに向き直る。
「よくわかりませんがわかりました『アグレッシオ』!!」
アイリスの魔法により俺の体にキラキラとした光が纏い、力が増す。
「ねえユウマ。そんなことしてどうするの? ユウマが少し筋力を挙げたところで、私の足元にも及ばないよ?」
ミカが全く悪気のない顔言って来る。
でもな、ミカ。天然の発言が一番傷つくんだぞ? 悪意とかがないぶん嘘に思えないから。
「んなことわかってる」
「じゃあどうするの?」
ミカにそう尋ねられて、俺はゆっくりとリリーナに近づいた。
「こうするんだよーーーーっ!!」
俺はリリーナを持ち上げ、そのまま湖へと放り投げた。
「ぎゃあーーーーっ!! ちょ、ちょっとユウマ! なにすんのよ! っていうかこの状況最近見たことがある気がするわよ! というか体験した気がするわよーーーーーーっ!!」
リリーナが湖に向かって飛んでいく中、俺はいい仕事をしたとばかりに汗をぬぐった。
そんなことをしているうちにリリーナは汚い湖に大きな音を立てて落ちる。結構深かったのかリリーナはしばらく上がってこない。そして少しすると水面から顔を出した。
「ちょっとユウマ! 最近私への扱いが一段とひどいんじゃないの! こう見えて私はすごい魔法使いなのよ? いい加減そのことをわかった上で私と接してほしいわね!」
水面から顔を出したリリーナに俺は無言で後ろを向くように指をさす。リリーナは「なによもう! こっちは今怒ってるのに!」とか言いながら、後ろを振り向く。そしてようやく自分の今の状況に気が付いたのだろう。
大量のワニバーンに自分が囲まれていることに―――。
「ゆ、ユウマーーっ! 助けてーーーっ! さすがにこれは無理よ! こんなのにいつもみたく遊ばれたら私死んじゃうわよ! そしたら絶対にあんたのこと一生、霊として取りついて呪ってやるからね!」
「なにバカなこと言ってんだ。 そんなこと言ってる暇があったら早く詠唱してた魔法を唱えろよ」
俺がそう言ってやると、リリーナはそうだったとばかりに手をポンとたたき、離さずに持っていた杖をワニバーン向ける。
「フフフ……。……そうよ。私には魔法があるわ。負けるはずがない」
あー、なんだろう。あのすごいフラグは。あいつはフラグを立てるのが好きなんだろうか。
「おーい、リリーナ。一応言っておくが、魔法を使う前にどうにか陸に……」
「食らいなさい! 私の怒りの雷を! 『エレクトリカルバースト』!!」
「……あ」
そう思った時にはすべてが遅かった。
リリーナが魔法を唱えて、湖中のワニバーンがどんどんとその命を絶って逝く。あるワニバーンは水中に浮き、あるワニバーンは黒焦げになっている。
そしてもう一つ、ワニバーンとは違う命も一つ絶たれようとしていた。
「あややややややややややっ! ……ユウマ……がががががっがががが」
リリーナだ。声にならない声で、俺の名前を呼ぶ。
そりゃあワニバーンを一気に倒すために湖に電気を流したのだ。その湖の中にいれば自分にも電気が流れてくるのは必然。
「安らかに眠れ、リリーナ。……お前のことは今日一日は忘れない……」
湖で未だに自分で流した電気に感電しているリリーナに手を合わせる。
「ユウマさん! まだリリーナさんは死んでませんから!」
「そうだよユウマ! それにさすがに一日で忘れるのは可哀想だよ! せめて三日は頑張ってあげようよ!」
「ミカさん!? だからリリーナさんは生きてますって! それに三日でも可哀想ですよ! そこはずっと覚えてましょう?」
「……っていうかリリーナ姉を早く助けてやろうよ……」
ザックの一言で俺たちは正気に戻り、リリーナをどうにか救出した。
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昨日のワニバーン討伐の次の日。今日も俺たちはザックの妹を助けるために金を稼ごうと、いつもは受けないようなクエストを受けている。
『巨大ワイルドボアの討伐、報酬三十万ギル』
今はこのクエストを受けている。ギルドのお姉さんによると普通のワイルドボアの十倍近い大きさを誇っているらしい巨大ワイルドボア。
ミカの『金剛力』でも一発で倒せるかわからない。それにドジなミカのことだ。目の前でコケて、そのまま飛ばされて一人だけ強制戦線離脱させられるに違いない。
「これでよし!」
「ねえユウマ、私に地面にこんな大きな穴なんて空けさせてどうするの?」
「いいからちょっと待て。……来た! みんなこっちだ!!」
俺は四人を誘導して、目の前の巨大ワイルドボアにがこっちに向かって来るのを待つ。
「ちょっとユウマどうすんのよ!? あんなのどうすんのよ!!」
リリーナがぎゃあぎゃあわめきだした。
そんなリリーナを無視して、俺は目の前の巨大ワイルドボアを見据える。
こっちに向かって来た巨大ワイルドボアは俺たちの元へたどり着くつく前にさっきミカに地面を殴って空けさせた巨大な穴に体の半分を埋めた。頭から穴に突っ込んだのでお尻の部分が今は無防備にさらされている。
これこそ本当の頭隠して尻隠さず、だろう。
「よし! みんな! 好き勝手に攻撃を叩き込めーーーっ!!」
「「「「おーーーっ!!」」」」
このまま抵抗もできない巨大ワイルドボアを一方的に虐殺した。
した。




