18話
「ん!? 貴様ら何者だ! ここはこの辺りを管理されているロレンス様のお屋敷だぞ! それを知っての行動か!」
俺とザックとアイリスが屋敷の前の兵士に話しかけると、早速歓迎されていないことを理解する。
まあ、歓迎なんてされたくもないのだが。
「あのー。俺はこっちのザックっていう少年の借金についてロレンス卿に話が合ってきたんです。どうにかロレンス卿とお話をする時間をもらえませんかね?」
「なに? そいつの借金? そんなことは我らにはどうでもいい。私たちも遊びではないんだ。わかったらその弱そうな装備をもっと強くしてくるんだな」
イライラ……。
「いつまでここにいるつもりだ! 仕事の邪魔だと言っているだろ! いつまで経ってもロレンス様には会わせんぞ! こんなところで無駄な時間を使っているくらいなら、クエストの一つでも受けていろ!」
イラ……イラ……
「貴様は人の言葉もわからんのか! そうだとしたらそこら辺で遊んでいる子供とでも遊んで来い! 貴様にはその方がお似合いだ!!」
兵士のそんな横暴な言葉と強い口調で、アイリスが怯えて俺の後ろに隠れてしまう。
「……ユウマさん。やっぱり無理そうですよ。今度また改めて来ましょう。その時はきっとロレンス卿も会ってくれますよ……ってユウマさん!? その右手は何ですか!?」
「『フリーズ』!!」
アイリスの声も聴かずに俺はただ無心で目の前の兵士二人の口を『フリーズ』で固めてやった。
「『フリーズ』! 『フリーズ』! 『フリーズ』!!」
口元を固めた後さらにそこへ『フリーズ』を重ね掛けしていく。
これでしばらくコイツラは話すことができないだろう。
「んー! んんんんーっ!!」
目の前の兵士は俺の胸倉をつかみ何やら言ってくる。
俺はそんな兵士の一人に―――
「えーっ? なーにーっ? 人の言葉喋ってくれきゃユウマわかんなーい! だって俺人間だしーっ!」
わざと大声で、そして挑発するように言ってやる。
「んんんーっ!!」
たぶん語感的に「きさまーっ!」とか言っているのだろう。
「わかんないなー。お前こそその辺の子供たちに言葉を教えてもらって来たらどうだ? きっと子供たちは優しいからいろいろ教えてくれるぞー」
「んんんーっ!!」
未だに俺の胸倉をつかんで離さない兵士に俺は新たな行動に出る。
「『リスント』」
俺はさっきザックに教えてもらった拘束魔法を早速試してみる。ちなみに覚えるのに使ったポイントは3。これで俺の残りスキルポイントも12と少なくなってきた。
……早くレベルが上がりたい。
俺の新スキル、『リスント』によって二人の兵士がその場でぐるぐる巻きになり、そのおかげで俺の胸倉を掴んでいた手も自然とぐるぐる巻きになった。
兵士二人は足元までぐるぐる巻きになったので体制を崩して尻餅を着き、そのまま地面に寝転がる。
なるほど、これが地球大好き! ってやつなのか。
しかし俺の猛攻は止まらない。
散々俺を馬鹿にした罰だ。
「『サンド』」
俺は手のひらに作り出したさらさらな砂を寝転がっている兵士に向かって振りまいた。
すると拘束されてロクに動けない兵士は目をこすりたいのだろう、体を激しく揺らす。その上叫びたいにも口元は『フリーズ』で固まっていて動かない。
俺が少しすっきりして満足げな顔をしていると、ザックとアイリスの少し引いた顔が視界の端に映ったような気がした。
……うん、気のせいだな。気のせいってことにしておこう。
二人の視線を気のせいということにした俺は、ぐるぐる巻きになった二人の兵士に近寄る。
「どうしたんだ? 目にゴミでも入ったのか? しょうがない。俺も鬼じゃないんでな。ちゃんと助けてやるよ」
「んーんーんっ!?」
兵士が何やら口にする。おそらく語感的に「本当か!?」ってところだろう。
「あー。もちろんだ。その代わりにちゃんと俺らをロレンス卿に会わせろよ?」
俺の言葉に兵士は苦渋の選択をしたように重く首を振る。
「よーし、それじゃあ二人とも辛いだろうが目を開けてくれ」
俺がそう言うと二人の兵士はすぐに目を開けた。
今だ!!
「『スプラッシュ』!!」
俺はその二人の顔に、主に目を狙って全力の『スプラッシュ』を放つ。
「「んんんんんんんっーーーーーーっ!!!!!」」
俺の渾身の『スプラッシュ』をまともに食らった兵士二人は声にならない悲鳴をあげながら、そのまま気絶した。
「おーい。目のゴミは取れたかー?」
気絶しているとわかってはいるが、一応念のために声をかける。結果は返事がない。ただ気絶しているだけのようだ。だった。
「うん。大丈夫みたいだな。よし、アイリス、ザック入ろうぜ……って、なんで二人とも俺から距離取ってるの?」
俺は後ろにいるアイリスたちの方へ振り向くと、二人は俺から絶妙に傷つく距離をとっていた。
「いや、ユウマの兄ちゃんてやっぱり噂通りの人なんだなって……」
鬼畜とか、外道とか、そんな根も葉もないうわさだろう。
全く誰だよ、俺の嘘の噂を流してるやつは。
「アイリスー。ほら、こっちに来いよ」
「……やっぱりユウマさんって……時々怖いです……」
「……」
なんだか泣きたい気分になってきた。
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「あの……ユウマさん。勝手にお屋敷の中に入っちゃってよかったんでしょうか? それに外の兵士さんも……」
「屋敷に関しては大丈夫だろう。……ただ、外の兵士には少しやり過ぎた。でも、反省はしていない」
「ユウマの兄ちゃん。そこは嘘でも反省しとこうぜ……」
三人でこんなやり取りをしながら、だだっ広い屋敷の中を練り歩く。
屋敷の中はアニメなんかでよく見る感じだった。高そうな壺、素人には変なラクガキにしか見えない絵画、真っ赤な絨毯に、無駄に高そうなシャンデリア。
日本で親のすねを齧って生き続けていたら、一生こんな風景は見ることはなかっただろう。
そんな慣れない場所なのに妙に緊張感はない。ただ広すぎてロレンスを探すのが面倒なくらいだ。
俺からしたらこんなだだっ広い家より、こじんまりした一部屋に必要なものがなんでも揃ってる部屋の方がいい。
……それって日本にいた頃の俺の部屋じゃん。
そんなことを考えていた時だった。目の前の曲がり角から一人のデブなおっさんが出てきたのは―――
お腹がだっぷりとしていて、似合いもしない高そうな服を着ている。顔はなんというかゲスイ顔、またはげひた顔をしている。手にはこれまた似合いもしない、宝石が付いた指輪をいくつもしていて、もう見るからにクソ貴族を絵に描いたようなおっさんだった。
「貴様ら何者だ。こんなところで何をしている」
おっさんが俺たちに気づいて、話しかけてきた。
「ユウマさん。あの人がロレンス卿です。ロレンス卿の最高責任者です」
おっさんに話しかけられた瞬間、アイリスが俺に小声で教えてくれた。
まあ、見た目でそうなんだろうとわかってはいたのだが。
「これはこれはロレンス卿、お初にお目にかかります。私はロレンス様が管理されているイニティの街で冒険者をさせていただいている冒険者のユウマと申します」
とりあえず俺はアニメや漫画で得た知識を総動員して、それっぽい口調と話し方、動作で目の前のおっさんに話しかける。
「ほう、冒険者か。野蛮でバカばっかりの冒険者にしては貴族に対する口の利き方を少しは知っているようだな」
どうやらアニメや漫画で仕入れた知識に間違いはなかったようだ。ありがとう。執事とお嬢様系の漫画やアニメたち!!
「まず、勝手にお屋敷に入ってしまったこと、深く謝罪させてもらいます。それでなんですが、少しお話を聞いてもらってもよろしいでしょうか? なに、そんなに長い時間は取らせません。私たちのような冒険者と違ってロレンス様はお忙しいでしょうから手短に済ませさせていただきます。……それに、ロレンス卿にも悪い話ではないと思いますよ」
悪い笑顔で俺がそう言うと、ロレンスは少し興味深げに笑いながら
「ふんっ。おもしろいことをぬかすな。いいだろう、少しぐらいなら聞いてやる。私に無駄な時間を取らせるなよ」
「大丈夫です。絶対にロレンス卿に悪い話ではございません」
ロレンスと立ち話をした後、俺とアイリスとザックはロレンスに案内されて応接室というか客室のような場所に案内された。
中の家具はどれもこれも高そうで、一つくらい盗んでもいいかな? なんて考えが何度も浮かんでは消えていく。
俺の頭の中では天使と悪魔が必死に戦っていた。
「おいおい。こんな高そうなもんがいくつも並んでんなら一つくらいパクっても大丈夫だろ。なあ、天使。帰りに一つくらいパクってこうぜ!」
と、悪魔。
「なにを言っているのですか悪魔。これは不当な借金を背負わされた人たちが汗水流して集めたお金で買われているんですよ。ここは手当たり次第の物を盗んで、それを売って買い物をし、街の人に返すべきです」
と、天使。
……。あれ? 悪魔より天使の方が悪いこと言ってね? それっぽい良いことを言ってたはずなのに、途中から悪魔よりすごいこと言ってなかったか?
「お、おい……。お前、俺より悪魔に向いてるぜ……」
ほら! 俺の中の悪魔が悪魔として負けを認めてるじゃん!! もっと良いこと言えよ俺の中の天使! 俺にだって善の心ぐらいあるだろ!!
心の中で俺の中の天使と悪魔の立場が入れ替わろうとしていた時、ロレンスが口を開いた。
「それで貴様。話とは何だ?」
「はい。それはこのザックという少年の借金のことでございます」
「ザック……借金……。あー、あの娘の……」
ザックという名前と、借金という言葉でロレンスはようやく思い出したという顔をした。もしかしたら、お金の管理は別の人間にやらせているのかもしれない。
「はい。その借金についてなのですが、どれほどの額なのでしょう?」
早速俺は今日の本題へと踏み出す。
今日の本題はこのザックの抱えている借金の額を知ることだ。ザックは借金があるということしか言われていないようだった。額は具体的に教えられていない。そう言っていた。
しかしそれは明らかにおかしい。そんなの借金があるのかすらわからない。だから俺はその額を具体的に聞き出そうとここに来た。
「ふむ、借金の額か……。少し待ってろ」
そう言うとロレンスは手を二回叩いた。すると三回のノックの後に一人のメイドが入ってくる。年は俺と変わらないくらいの結構かわいい子だ。
正直、結構タイプだ。
くそ! こんなクソやろうと似たような女の子が好きなんて!!
そんな場違いなことを考えていると、メイドさんが口を開いた。
「なんでしょうかロレンス様」
くっ、声までかわいいじゃねえか!
「コイツの借金の額を教えてやれ、名前はザックだ」
「かしこまりました」
短いやり取りを交わしたメイドはいったん部屋を出てすぐにまた戻ってくる。そしてロレンスにだけ聞こえるように小声で恐らく借金の額を伝えると、ロレンスが口を開いた。
おい、おっさん! 俺もその子に耳打ちされたい。そこ変われ!
「一億ギルだ」
「……一億」
その額を聞いた俺はさっきまでのふざけた考えが吹き飛び、この件が一筋縄ではいかないということを思い知った。
一億ギル。
それはスモールゴーレム百体分。ミカが入れば楽にこなせるかもしれないが、そんなにスモールゴーレムのクエストがあるとは思えないし、何より問題は―――
「それで、期限とやらは?」
「一週間だ」
そう。借金返済の期限だ。
これがなければミカのチートやリリーナの魔法力、アイリスの補助魔法に俺のゲーム脳があれば時間をかければどうにでもなるが、一週間では無理だ。
普通に考えて現実的ではない。
「その期限を延ばすことは?」
「できないな。それにザックとかいう少年も早く妹に会いたいのではないかね?」
下卑た顔で言うロレンス。
こっちの痛いところばかりついてきやがって。
「話はそれだけか?」
「はい。それだけです。それでは私たちはこれ以上ロレンス様のお時間を無駄にさせてしまうのは心が痛いので失礼させていただきます。いくぞ、アイリス、ザック」
俺は両隣で緊張から少しも話すことのできないアイリスと、ぶん殴りたい心を必死に押しとどめる健気なザックに声を掛け、この場を去ろうとする。
「おい、待てユウマとやら」
「なんでしょう?」
「貴様、さっき私にいい話だと言ったな? その話とはなんだ? まさかこの話がいい話だとは言わないだろうな?」
ほんっと、金に汚ねえなコイツ。
「ああ、そのことですか―――」
俺は口調をいつもの調子に戻して
「その借金。俺が全額返してやるよ。ちゃんと一週間以内でな」
ロレンスに言ってやった。
「……ほう。面白い奴だな。ならどうだろう? 賭けをしないか?」
「賭け……?」
「そう、賭けだ。私は酒と女と賭け事が好きでな。これもある意味勝負事、なら賭け事にもなろう。勝負内容はもちろん借金の返済ができるかできないか。お前が一週間以内に借金を返せたらそいつの借金をなしにして、妹もちゃんと帰してやる」
ここまでなら本当にいい条件だ。ここまでなら、だけどな。
「……俺たちが負けたら?」
「そこのヒーラーがいるだろう。その子を家で働かせる。なに心配するな。ちゃんとかわいがってやるぞ」
そら来た。
このロリコン野郎め!
「それはできない。俺は仲間を見捨てるような屑じゃない」
「貴様は借金を返す当てがあるのだろう? ならいいではないか」
コイツ、人の足元ばっかり見やがって。
俺が再び口を開こうとすると、さっきから緊張で固まっていたアイリスが一歩前に出て、口を開いた。
「……い、いいですよ。そ、その賭け、受けて立ちます!」
そう、ロレンスに向かって宣言した。
「あ、アイリス! 何言ってんだ! こういう顔の奴はわな、アイリスみたいに小さくてかわいい子にいっぱい変なことさせるんだぞ! 変な服着せられたり恥ずかしいポーズさせられたりペロペロされたりさせられたりするんだぞ!!」
「い、言いがかりは止めろ貴様! 誰がそんなことするか!」
「えっ!? しねぇの!? こんなかわいい子を自分好みにできるのにしねぇの!?」
「するか馬鹿者! むしろそんなことを思いつく貴様のことが怖くて仕方ないわ!!」
あ、ありえない……。
アイリスみたいなかわいい子を合法的に好き放題できるってのに何もしないってのか……。
そんなことさせる気なんて絶対にないけど、こいつ狂ってる。
「それでどうするのだ? 賭け事には賭けるもの必要だ。言っておくが私はこの条件以外呑む気はないぞ」
「このロリコンやろう……」
「ユウマさん、大丈夫です。私はユウマさんを信じてます。ユウマさんができると言ったら私はそれを信じるだけです」
「あ、アイリス……」
「ふん、決まりだな。せいぜいクエストで小金でも稼いで無駄に頑張るのだな。フハハハハハハハハハっ!」
そう言うとロレンスは俺たちを置いて部屋を出て行った。




