16話
「これ全部売ったらかなり儲かりそうだな」
オークの集団を倒した俺たちパーティーは現在俺がオークを一か所にまとめ、アイリスがオークたちの装備を全て剥ぎ、まとめている。
リリーナはさっきオークたちにもみくちゃにされている間に気を失ったようで、女の子なのに白目を開けて地面に横になっている。防御力アップのおかげなのか、それとも幸運アップのおかげなのかは知らないが無傷だったし、トラウマが生まれる前に気絶できたのなら本望だろう。
そしてミカは顔を真っ青にして、今にも吐きそうな様子で近くの家の残骸に背中を預けている。
ゲロを吐いていないのでゲロインにはなっていない。
全く、二人とも俺のヒロインポジなんだからもっとかわいく女の子女の子してほしいもんだ。
「ユウマさーん。オークさんたちの装備まとめ終わりました」
そんなことを考えながらオークたちをまとめ終え二人の様子を眺めていると、アイリスの方も作業が終わったのかこっちにトコトコ走ってきた。
可愛い。癒される。
俺はもうロリコンでいいかもしれない。
「おー。サンキューなアイリス。それじゃあ、あの二人が回復したらすぐに街に帰ろう。もうそろそろ夕方になりそうだしな」
「そうですね。夜までには帰りたいです」
仲良く二人で会話をしながら、俺とアイリスもささやかな休憩をとった。
「ドワーフのおっちゃん。これ全部売ったらいくらくらいになる?」
オークの集落を見事に破壊した次の日。
昨日オークたちから剥いだ装備一式をまとめた袋を背負って、俺は一人でドワーフのおっちゃんの経営する鍛冶屋までやってきていた。
最初に十円玉を銅として買ってくれたおっちゃんの鍛冶屋だ。
俺の装備一式もこの店で買わせてもらったし、あれからなんだかんだと厄介になっている。
ドワーフのおっちゃんは俺の持ってきたオークたちの装備品を一つずつ眺めていき、しばらくして口を開いた。
「ほとんどが安もんだが、中にはそこそこなものもあるな。これなら総額三万ギルくらいだな。どうする? 売ってくれるってならうちで買い取るけどよ」
「おー。マジか。三万もいくのか。正直一万いけばいいと思ってた。それじゃあ三万ギルで頼むよ」
「おー。わかった。それじゃあこれが三万ギルだ。確かめな」
ドワーフのおっちゃんが一枚一万ギルの価値のある金色の硬貨を手渡して来る。
この世界の硬貨は、銅、銀、金の三つで分けられているのかと思っていたのだが、それよりも先に少し模様の変わった金の硬貨があった。それが今もらった一枚一万ギルの価値のある硬貨だ。
俺は早速おっちゃんからもらった金の硬貨を三枚を財布代わりの袋の中に入れる。後でみんなで山分けにでもしよう。
「おっちゃんありがとな。また何かあったら買い取り頼むわ」
「おー。こっちこそまた頼むぜ兄ちゃん!」
ドワーフのおっちゃんとの挨拶を簡単に済ませ、今度は昨日のクエスト報告をするためにギルドへと行こうと店に背中を向けようとしたとき、おっちゃんがなにやらすごいことをし始めた。
「『ゲート』」
ドワーフのおっちゃんが恐らく魔法を唱えると、おっちゃんの目の前に大きな黒い丸形の影のようなものが出てきた。
俺は興味本位でそのままおっちゃんの行動を見てみることにした。
おっちゃんは自分で作り出した黒い影のようなものに躊躇なく俺の売ったオーク達の装備品を放り込んでいく。
「おっちゃん。それなんだ?」
結局気になってドワーフのおっちゃんにその黒い影のことについて尋ねる。おっちゃんはまだいたのか、と言いたげな顔をしてから、こんなガサツそうな顔をしているのに丁寧に説明し始めた。
「これは『ゲート』って魔法だ。場所を登録しておくと、『ゲート』の魔法を唱えるだけでその場所との物の出し入れが可能になる商売人の必須スキルだ。商売人はまず『ゲート』の魔法を覚えることから始まる。って言葉もあるくらい出しな」
「へえーそうなのか。そりゃあ便利そうだ」
この魔法があればクエストの途中で手に入れたものをわざわざ手に持って帰ることなく、その登録した場所とやらに放り込める。クエストに行く際にも最低限の物だけ持って行って、足りなくなったら新しいものを取り出せばいい。
商売人でなくとも重宝しそうなスキルだ。
これはぜひとも覚えておきたい。
ということで、俺は早速ドワーフのおっちゃんに交渉してみることにした。
「おっちゃん。よかったらそのスキル俺に教えてくれないか? 俺、職業冒険者だから覚えられるんだけど」
「あ? なんだ兄ちゃん。冒険者やめて商売人にでもなるつもりか? 確かに兄ちゃんは値切りの交渉とか上手いもんだけどよ」
おっちゃんの言っている値切りの交渉というのはおそらく俺が最初にここで装備一式を買った時の話だろう。
ここに来たばかりで大したお金もなく、収入源の確保もできていなかった俺は念には念を、ということで値切れるところまで値切った。その際、四分の三くらい値下げしてもらったのを覚えている。
おっちゃんはおそらくその時のことを言っているのだろう。
「ははは、あん時はサンキューおっちゃん。でも俺は今のところ商売人になるつもりはないよ。このまま気ままに冒険者を続けるつもりだ」
「そうなのか? ならなんで『ゲート』なんてスキルを取るんだ? 正直こんなんにポイント割くんなら魔法とか冒険に役立つスキルを取るだろ普通」
俺的には持ち物の整理がどこでもできるスキルなんてすごい便利なものだと思うのだが、この世界でそうでもないのだろうか。
ゲームなんかでアイテムの所持数制限があるものなんかだとかなり重宝するし、この世界は異世界なだけであって基本は現実。ゲームみたいに数だけで持てる持てないが決まるのではなく、本当に人間の持てる数、重さがちゃんとある。そのことを考えたら、この『ゲート』というスキルはかなりお得なスキルな気がする。
「普通はそうなのかもしれないけど、俺田舎もんだからさ。便利そうならとりあえず教わっとく。それに将来冒険者やめて商売人に転職もあり得るからな」
俺は別に冒険者という職業にこだわっていない。この世界に来てすぐの頃は憧れの冒険者になれる! 俺はこの世界で冒険者として生きていくんだ! とか、夢見がちなことを考えていたものだが、ここ最近クエスト中に命の危険を感じたり、貞操の危険を感じたりと、何かと散々な目にあっている。
本当に最悪は冒険者をやめて、商売人に転職するのもいいかもしれない。
ニート転生! 異世界で商売人始めました! みたいな。
「まあ、兄ちゃんがそう言うなら教えるけどよ。ポイントは結構使うと思うぜ」
「それは大丈夫、俺まだ結構スキルポイント残ってるし」
というわけで、ドワーフのおっちゃんに『ゲート』のスキルを教わった。
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「ねえユウマーっ! そろそろ冒険行こうよー! クエスト受けよ」
「そうよユウマ! もう私も魔法が撃ちたくて仕方がないの! 私の中の魔力が漲ってあふれ出してるわ!」
オークの集落を破壊してから三日、俺はその次の日の報酬を受け取りに行って以来、一歩も宿の外に出ていない。もっと言えば、ご飯の時以外は宿の自室すら出ていない。
絶賛ニート中である。
そんな俺を責めるようにさっきからミカとリリーナがドアの前で騒いでいる。
そろそろクエストを受けたいらしい。しかし、俺にはそんな気は毛頭ない。この前のオークの集落破壊クエストで五十万ギルという大金を手にした俺に死角はない。
四人で分けたにしても十万ギルと少しあったのだ。貯金を入れれば二十万少しまで行く。
これだけあれば、ちゃんと節約して生きれば一、二か月はクエストを受けないで済む。それが分かっているから外に出る必要はない。
ニート最高!
もうこの俺を主人公とするラノベのタイトルは『異世界転生! 異世界行ってもニートする』でいいんじゃないだろうか。
「ユウマさーん。今日はクエスト行きませんかー?」
ドアの向こうから今度はアイリスの声がする。ミカやリリーナの言葉と違って少し心が動かされる。
しかし、俺のニート魂はそんなことで揺るぎはしない。
「アイリス。……俺、実は今……病気なんだ……」
俺は少し沈んだ声でドアの外にいるアイリスに話しかける。もちろん、アイリスと同じくドアのすぐ向こうにいるリリーナやミカも聞いているだろう。
「そうだったんですか!? ならなおさらここを開けてください! 確かに魔法で病は治せませんが、ユウマさんの看病をすることはできます!」
「そ、そうよユウマ。病気なら病気って言いなさいよ。それなら私だって今日くらいは魔法を撃つの我慢するわよ」
「ユウマ、大丈夫なの?、ねえ、ユウマ」
俺の言葉を聞いて、三人は態度を急に変える。
うん、これなら上手く行けそうだ。
「あ、鍵空いてる。ユウマさん。入りますね」
アイリスがドアの鍵が開いているのに気づいたのか、俺の返事も待たずにドアを開けて、三人で俺の部屋に入ってくる。
そして、ベッドで寝ている俺を見て、三人がとたんに心配そうな顔をした。
「ユウマ! どうしたの? 風邪?」
入ってくるなり早々ミカが俺のもとまでやってきて、心配そうな声を出す。
「いや、風邪じゃないんだミカ。これはもっと性質の悪い病気だ……」
俺の風邪ではないという言葉を聞いて、三人がますます顔を曇らせる。
「ユウマさん。私たちに何かできることはないですか? 私にできることなら何でもしますよ!」
アイリスが張り切りながらそんなことを言い出した。
ん? 今、なんでもするって言ったよね?
なんてさすがにアイリスには言えない。
純粋無垢なアイリスを汚したくない。
「そうよユウマ。私だってできることならやってあげるわよ。こんな時ぐらい私たちを頼りなさい」
ん? 今、なんでもするって言ったよね?
声には出さなかったものの、心ではついリリーナならいいや、と思ってしまった。
そんなリリーナに俺は……
「そうか。ありがとうなリリーナ。それじゃあ悪いんだけど早速頼んでいいか」
「ええ、私にできることがあるならなんでも言いなさい」
「そこでジャンプしてくれないか?」
「じゃ、ジャンプ? そんなことでいいの?」
「ああ、ジャンプがいい」
「……なんかよくわからないけど、そのくらいならいいわよ」
そう言うとリリーナがその場でジャンプを始める。
リリーナ、アイリス、ミカの三人は俺のお願いの意図がわからず戸惑っている。
俺はそんな三人の視線を浴びながら、リリーナのことを見ている。
もっと正確に言えば、リリーナのある一部を一心に見ている。
その部分とは、ジャンプする度にその存在感を激しく主張している二つの双丘。
すなわちおっぱいだ。
あそこには男のロマンがすべて詰まっている。
女の子っていうのはすごい。上には果実を、下にはお宝を持っているのだからすごい。
男のロマンが全身にあふれている。
「ねえ……ユウマ……そろそろ疲れてきたんだけど……そろそろやめちゃダメかしら」
「ダメだ。俺は今精神を統一している」
「仕方ないわね。もう少しだけよ」
なんだかんだ文句を言いながらも、俺が病人だからかリリーナは特に俺を咎めることなく、ジャンプを続ける。
「そういえばユウマ」
俺が再び精神統一に勤しむ中、ミカが声を掛けてきた。
「なんだよミカ。俺は今精神統一で忙しいんだ」
「何が精神統一よ。ただエッチなこと考えてるだけじゃん」
さすがは幼馴染。俺の考えはお見通しらしい。
「それよりユウマ、結局ユウマって何の病気なの?」
「あ、それ私も気になります」
「私も!」
三人が俺を見る。
俺は三人の視線を一身に浴びながら、俺が現在かかっている難病を口にする。
「五月病」
「「「……」」」
世界が凍り付いた。




