3話
あの後、完全に気落ちした俺は、特にクエストを受けるでもなく、ギルドを後にし適当に街の中を歩いていた。
まあ、装備品もないのにクエストを受けるバカもいまい。
それに俺の場合、日本に帰る気はさらさらないので、別に魔王を討伐なんかしなくてもいい。平和に暮らせる程度に魔王軍をどうにか出来ればそれでいいのだ。
それもきっと俺と同じく飛ばされた奴がどうにかしてくれることだろう。ならば俺はこの世界で少しでも快適に暮らせるよう努力するまでだ。
そんなことを考えながら自分の冒険者カードを見る。
なんて残念なカードなんだ……。
あの後一応受付のお姉さんい詳しいことを聞いたところ、俺のステ―タスは知力と魔力がやや高く(といっても平均以下)、敏捷性がギリギリ平均に届かないくらいらしい。その上、幸運は最悪のようだった。
異世界に来れたことが事態が幸運なことだと思うんだが、違うのだろうか?
「それにしても、なんというか中途半端なステータスだな」
何もかもが中途半端で、突出したものが何もない、言ってしまえば主人公の劣化キャラ。最初こそ人数の足りなさから手数を増やすのにパーティーに入れてもらえるが、中盤からどんどん色々な分野の突出した奴が出てきて、なにもかもが中途半端で使い勝手の悪いことから自然と外れていくポジションだ。
そんな理由から、誰々しか使わないでクリア、とか。誰々を絶対パーティーに入れてクリア、みたいな縛りプレイなんかに使われてしまう悲しい役どころ。そんなキャラのステータスが俺だ。
「なるほど、他の連中はチート持ちで最初から中級者みたいなもんだから、最弱職で初級者の俺は最初からクラスメートっていうパーティーから外れてるのか。無駄に理にかなってやがる」
とか、小さくボヤキながら街中を練り歩く。
それにしても、日本からの知識のおかげで知力が高くなるってお約束は、どこに逃避行をしてしまったんだろう。それに、魔力と敏捷はなんで少し高いんだろうか?
……魔力は妄想力から、敏捷は現実逃避の速さから、とかじゃないよな? だとしたら魔力はもっと高いはずだ。
「はあー……」
我ながら自分のスペックの低さに絶望する。
こんなんで俺、この先やっていけるのだろうか。
正直、チート級の何かを持っていれば、ソロプレイでも何とでもなるだろうと高をくくっていたのだが、それは甘い考えだったようだ。
チートどころか、それに準ずる何かすらも持っていない。本当にこの先が思いやられる。
そんな現実を突き付けられながら、俺は大きくため息を吐き、歩き続ける。
「……まあ、この残念ステータスのことは今更考えても仕方がない。それよりも、まずは資金稼ぎ……っと」
そう、まずは資金稼ぎだ。装備品を買わなくてはせっかくの冒険者も名折れ。まともに戦えないただの一般人だ。こういうのは最初から最低限の所持金を持っていたり、その国の王様から「魔王を倒してくれるという勇敢な者に旅の支度金を渡すのだ」みたいな感じで冒険のための最低限の支度金がもらえるはずなのだが、この世界はどこまでも俺に冷たいようだ。
ちなみに、まともに戦えないという資金ではなく戦闘方面の方は、魔法使いに魔法を教えてもらって、スキルを取って、遠距離から魔法で安全に戦ってもよかったが、俺の初期スキルポイントは30。受付のお姉さん曰く、職業冒険者の最初にしては高いらしいが、この世界ではスキルポイントの振り直しがあるかわからない。決して無駄に使えないのだ。
それにやっぱり男として魔法よりも剣に憧れがある。それでも魔法もやっぱり使ってみたいので、取ってみたい、というところが本心だが、今はぐっと我慢だ。
そんなことを思いながら俺はあるところで立ち止まる。
「さてと、……やるか」
俺はそう言うと、元から考えていた資金稼ぎの方法を取るべく近くの家に入り、中でいきなりの俺の侵入になぜか驚いている二人の男女を無視して、近くの袋の中身を漁った。
そう、俺のやろうとしていること、それは勇者行為。
某大作RPGで世間に知られた、世界を救う勇者は窃盗すらも許されるという、あれだ。
今の俺は仮にも一応女神様に頼まれて、この世界で魔王軍の侵攻を防ぐための勇者みたいなものだ。今の俺にはこの勇者行為が許されるはずである。
「……ロクな物ねえな」
人様のものを盗もうとしておいてなんだが、本当にロクなものがない。
「なあ、なんかいいもんないのか? ……って、あれ?」
「憲兵さんコイツですっ! コイツがいきなり家に入ってきて家の物を盗もうとっ!」
さっきまで俺の侵入に驚いていた二人が、いつの間に呼んできたのか憲兵を呼んできていた。
「ま、まてっ! お、俺は女神様に頼まれてこの世界に来た勇者ユウマ。これは立派な勇者行為であって、俺がなにか大役を果たした時にはあの時困っていた俺を助けたと自慢でき……」
そんな咄嗟の言い訳染みたことを口走る俺を憲兵さんが睨んで来る。
憲兵さん。マジ怖いっす。
「うるさいっ! 黙ってお縄に付けっ。この泥棒っ!」
「だ、だから違うってっ! これは勇者にとって当たり前の行動で……。お、おい、マジなんで怖い顔でこっちくんの? そそそ、そうだ、話しあおうっ。話せばわか……。ぎゃあー」
この後俺は憲兵さんに捕まって三時間ほどお説教を受けました。
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「……はあー。……疲れた」
勇者行為をした俺は憲兵さんに捕まり、今の今までお説教を受けていた。
精神力をありったけ持っていかれた俺は一人ぶらぶらと街を歩く。
「とりあえず資金を稼がないとな。勇者行為は禁止されちまったし、あとやれることは……」
街を探索しながらそんなことを考える。しかし、いつまで経ってもいい案はやってこない。
この世界にもバイトというものはあるそうだが、こんな剣と魔法の世界で売り子とかのバイトなんてしてられない。というか、こっちで迷わずその選択肢を選べるのなら、俺は現実世界で苦労していない。
「……考えろ、考えろ俺、ゲームでどうやって序盤の金稼ぎをした……。どうやって序盤の金銭面をクリアした……?」
そうやって考えているうちにあっという間に日は沈んでしまった。
「……どうしよう」
結局、お金は一銭も持っていない。これでは宿どころか、馬小屋のような場所も借りられない。
どうすんのこれ?
そんな絶望的状況の中、俺は何かないかとポケットを弄る。
「おっ……?」
ポケットの中に何か小さいものの感触、それを掴み、表に出してみると……。
「じゅ、十円……」
十円玉だった。たった一枚の十円玉、これでいったいどうしろというんだ。
「……ん? でも、十円って確か……。そうだ!」
その時だった、俺の頭に雷が落ちたような衝撃が奔る。
俺は十円玉を握りしめ、近くのドワーフの経営する鍛冶屋に向かう。
「な、なあ、おっちゃん。こ、これいくらで売れる?」
大事に握りしめていた十円玉をドワーフのおっちゃんに手渡す。
ドワーフは少しの間、十円玉を舐めるように見ると、口を開いた。
「少し汚れちゃいるが、これは銅だ。この大きさなら三千ギルってとこだな。なんだ兄ちゃん。これ売ってくれんのか? 売ってくれんならうちで買い取るぜ」
『ギル』とはたぶんこの世界のお金の単位のことだろう。日本で言うところの『円』ってやつだ。
そんなことよりも十円が三千円で売れるって言うのか、この世界は。こんなことならもっと日本の金を持ってくるんだった。
そんな後悔をしながらも俺は言った。
「た、たのんます!」
俺は迷わずに十円玉を売った。




