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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第二章
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10話

 恐怖のオーク討伐を早々に切り上げ、俺たち四人は街まで帰ってきていた。

 帰り道、この世界のことに疎い俺はアイリスとリリーナにオークのことについて聞いてみた。

 するとまあ、驚くような答えが返ってきた。


 まず俺が考えていた、オークは性欲が強い。このことには間違いないようだ。

 しかし、それが間違いなさ過ぎた。

 アイリスやリリーナの話だと、オークはオスだろうとメスだろうと性欲が強いらしく、オスは女の冒険者を、メスは男の冒険者を執拗に狙う傾向があったようだ。


 そして運悪く俺が相手にしていた方のオークは全員メス。というか、あの場に居たオーク全部がメスだったようだ。

 オスとメスの見分け方は人間と同じようで、アレ付いているか、いないか。オークは原始人が着ているような服を着ていたので少しわかりにくかったが、ちゃんとみればわかるらしい。その証拠にアイリスもリリーナも性別がわかっていたという。

 リリーナに至っては、むしろオスだったら全力で逃げてたとまで言っていた。

 無駄にいつも強気なリリーナがこうまで言うのだからよっぽどなのだろう。もしかしたら俺と似たような経験があるのかもしれない。そう思って尋ねてみたところ、「バッカじゃないの! そんなこと女の子に聞くんじゃないわよ! ただね、私の身の潔白を証明するために言っておくけど、私の体は汚れ知らずよ!」と、怒鳴られてしまった。

 ちなみにその会話を聞いていたアイリスが意味がわからずに首をこてん、と傾けていたのはかわいかったです。


 それにしても俺は日本の薄い本の知識から、オークはみんな性欲が強く、性別はオスしかいないもんだと思っていたが、そんなことはなかったらしい。オークにもちゃんとオスとメスはいたようだ。

 今思えばちゃんとオスとメスがいなきゃ子供のオークが生まれるはずもないんだから、そのことを考えればすぐにわかったはずなのだが、俺は完全にオークを序盤の雑魚魔物だと侮っていたらしい。

 今後一切、オーク関係のクエストは受けない様にしよう。

 そう、ひそかに心に誓った俺だった。


「……ねえユウマ。もうそろそろ離れてくれないかな? 嫌ってことはないんだけど、さすがに街中でこれは恥ずかしいんだけど……」


 そう言ってミカは少し照れたように笑った。

 そんなミカに俺は。


「お構いなく」


 拒絶の意を示した。

 俺はオークとの一件があってからミカの傍を片時も離れていない。ずっとミカの左腕を独占している。


「いや構うから! いい加減離れよ。ほら、アイリスちゃんも見てるよ、恥ずかしいよー」


 街中に入って、周りに人がいるようになったからか、ミカは俺に離れるように言ってくる。

 でも俺は是が非でもミカから離れない。絶対にだ!

 今日は下心とか関係なく、風呂やトイレまで付いていく所存だ。


「……はあー、しょうがない。少し実力行使で……っと」

「おわっ!? なにするんだミカ! ひどいぞ!」


 ミカは『金剛力』の力を使って、問答無用で俺を引きはがす。


「ほら、一人で歩く。怖かったのはわかるけど、もうここにオークはいないから大丈夫だよ」


 ミカから離れた瞬間、さっきまでの恐怖が俺を包み込む。ガクガクと全身が震え出し、周りの人の視線がなんだか怖いものに思えて仕方がない。

 さっきのオークが本当にトラウマになっているようだ。


「なーにーユウマー。さっきからミカミカ言っちゃって。そんなにオークが怖かったの? 私に今までやってきたひどいことすべてについて膝をついて謝るのなら、このリリーナさまの腕を貸してあげてもいいわよ」


 リリーナが俺をバカにするように言いながら、自分の左腕を差し出してくる。

 いつもの俺なら、ふざけんな! とか言って、目つぶしやスカートめくりをしていたことだろう。


「リリーナさま。今までの数々のご無礼、申し訳ございませんでした。私ことユウマ、これからはリリーナさまのことを心から尊敬したいと思います」


 しかし今の俺はそんなことはどうでもいい。誰かのぬくもりが欲しかった。

 恥も外聞も捨て、俺はその場で膝を着き、土下座をする。

 見ろ! これが本当の土下座だ!


「……え? ちょ、ユウマ? いつもならここでバカにすんな! とか言って反撃してくるじゃない? なんで今日はそんなに素直なのかしら? ちょっと逆に怖いんだけど。……ねえ、なんでもう私の腕を取ってるのかしら? なんでそんな小動物みたいにすり寄って来るのかしら!?」


 リリーナが自分から言っておいて、今の状況にやたらと混乱しているようだがそんなのどうでもいい。

 長年の付き合いのミカほどではないが、知り合いで同じパーティーということもあり、リリーナの近くもとても落ち着く。

 なんだかいい匂いもするし、肌も柔らかくて気持ちいい。女の子ってこんなに柔らかくていい匂いなのか。


「……ねえ、ミカ。ホント今日のユウマどうしたのかしら? さっきのクエストで頭でも打ったんじゃないかしら? こんな素直なユウマ怖いんですけど」


 リリーナが失礼なことをミカに聞く。ミカはリリーナに適当な愛想笑いを返して、「今日は本当に怖かったんだよ。よかったらユウマに腕貸したげて、街中はさすがにまだ恥ずかしくて無理」と、言った。

 ……まだ? まだってなんだ?


「……ま、まあいいわ。今日のところはこの私の腕を貸してあげるわ。光栄に思いなさい」

「ありがとうリリーナ」


 なんだかんだで腕を貸してくれるリリーナに俺は素直に礼を言った。


「……やっぱりこんなユウマ怖いわ。……今日の夜は嵐かしら」


 コイツ、このトラウマが落ち着いたら一度ちゃんとしめておこう。



 ギルドで少ない報酬を受け取り、俺たちは宿へと戻ってきて各自部屋に戻った。

 時刻は夕方を過ぎて、夜。みんなが寝静まる時間だ。


 ソワソワ……ソワソワ……


 オークとの戦闘から随分と時間が経つのに、俺は未だにあのトラウマから解放されていない。誰もいないはずなのに誰かに見られているような感じがするし、襲われそうで怖い。

 街中を歩いている時も、毛深い大柄の男を見るとオークみたいで怖かった。

 トラウマなんてものが本当にあるんだと実感させられた。

 そんなことを考えながら、早く眠ってしまおうと部屋の明かりを消し、真っ暗にしてから布団を深くかぶる。

 そしてそのまま目を瞑り、眠気が来るのを待つ。


 ……。

 ……。

 ……。


 眠気がやってこない。

 くそ! なんで俺には最初から所持しているニートスキル『徹夜』なんてものがあるんだ!

 もう夜も更けているというのに、全然眠気がやってこない。これじゃあ、寝て忘れることができないじゃないか!


 それからも眠ろうと無心になってみたり、日本のことを思い出してみたり、アイリスの可愛い顔を思い出してみたり、今まで見たリリーナのパンツを思い出してみたりしたのだが、全然安心もしないし、眠気もやってこない。むしろ眼が冴えた気さえする。

 俺が自分の持つ特性に打ちひしがれていると、ドアがトントンとノックされた。


「誰だか知らんが入っていいぞ」


 こんな夜遅くに来客とは珍しい。

 もう俺みたいなニート以外寝ているはずの時間なのだが。


「おじゃまー。やっぱりまだ起きてたんだねー」


 部屋に入ってきたのはミカだった。

 いつもの宿でのプライベート時間だからだろうが、パジャマを着ている。髪も風呂に入った後に適当にしか処理していなかったのか、少し濡れてしっとりとしている。

 そんなミカを一瞬魅力的だとか思ってしまったが、すぐに首を振って気分を入れ替える。

 だってミカは幼馴染だ。一緒にいて当たり前だったし、小さいころなんかは一緒によく風呂も入った。そんなことに比べれば、こんなことどうってこともない。


「やっぱりってなんだよ。やっぱりって」

「いやー、だってユウマ、本当にオークに怯えてたじゃん。あんなユウマ見たの初めてだったしさ、街に戻って来てからも怖がってたから、怖くて眠れないんじゃないかなーって、思って」


 流石は幼馴染だ。俺のことを嫌ってほどよくわかっていらっしゃる。まあ、あれだけ怯えていたら誰が見てもどれだけ俺が怖い思いをしたのかなんてわかるはずだが。


「ちげーし。ただ日本に居た頃の癖で眠れないだけだし、ゲームとかあったら今すぐプレイしちゃうくらいだし!」


 さすがに少しは精神も安定してきていたので、問答無用でミカに甘えたりはしない。

 強がってしまった手前本当のことを言うのはさすがに恥ずかしいので、俺は適当な照れ隠しをする。そんな俺をミカは全部わかってますよ的な目をしながらニコニコと見つめ、ベッドの俺の隣に座って話しかけてきた。


「ねえユウマ。ユウマは日本に帰りたい?」

「なんだよ急に」

「いいじゃんいいじゃん。ただの世間話だよ」

「……まあ、正直言って帰りたくない。というか絶対に帰りたくない。確かにこっちの世界にはアニメもマンガもパソコンもないし、日本に比べたら生活も大変な世界だけど日本よりはいい。俺はこのままこっちでアイリスやリリーナ達と面白おかしく暮らすんだ」


 俺はこの世界に来てから日本に帰りたいと思ったことが本気でない。

 異世界物によくある、どうにかして帰るんだ! とか、帰るための目的に突っ走ろう! とか言う主人公の気持ちを理解できたためしがない。俺からしたらただのバカだ。

 せっかくこんな楽しい現実離れした世界に来て、美少女達に囲まれて、しかもみんな少なからず自分のことを思ってくれているのに、なぜそんな理想的な場所から帰りたいと思うのか俺には不思議でしょうがない。

 後半になるにつれ、みんなと別れたくないとか考え始めるが、俺からしたらそんなの残る以外の選択肢あんの? という感じだ。


「やっぱりかー。ユウマはやっぱりそうだよね」

「ああ、こっちの世界の方が生きやすい。せっかく剣と魔法の世界に来たのに、簡単に帰ってやるかって話だ」

「……そうだよね。ユウマならそう言うと思ったよ」


 そう言って笑顔を向けてくるミカ。


「なら、私もなにがあってもユウマと一緒にこっちに残るよ」


 ミカが突然そんなことを言い出した。


「は!? 何言ってんだよ! お前はあっちの世界の方が生きやすいだろ? 俺なんかと違って日本で上手くやっていけてたじゃないか! そんなミカがこっちの世界でいつまでも命をかけて戦う理由なんてないだろ!」

「……あるよ。私にも残る理由。……ユウマがいる。それだけで、私がここに残る理由は十分だよ」

「は? 本当にさっきから何言って……」

「さーて、もうお話は終わり。もうそろそろユウマを寝かせてあげなくちゃ。また明日もみんなでクエストだからね」

「お、おい! まだ話は終わっちゃ……。……あの、ミカさん? その振りかぶった拳はなんですか? なんで笑顔で俺を見てるんですか? あの、ちょっと話しあいましょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 俺は理不尽に落とされたミカの拳で意識を失った。


 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 朝、窓から太陽のささやかな光が差し込んだ。

 お腹の辺りが少し痛い。昨日ミカにやられた奴が原因だろう。


「ん~。……もう朝かよ。まだお仕事は早いっすよ太陽さん」


 そんなことを呟きながら、太陽の光が当たらない様に寝返りを打つ。

 むにゅ


「ん?」


 寝返りを打つと、なにやら柔らかいものに触れた。

 はて? これはなんだろう。

 目を開ければすべて解決なのだが、目を開けたら起きたことになってしまうとか、バカなことを考えた俺は目をつぶったまま、触った感覚だけで俺のベットにある何かを探ろうとする。

 適当に弄っていてわかったことは、やたらと柔らかいということ、そしていい匂いがするということ、そして大きさは抱き枕ぐらいあるということ。

 このことをすべて計算に入れて考えると、俺の隣にあるのは―――いや、いるのはという方が正しいのだろう。

 だって俺の隣にいるのはきっとミカに違いない。俺を強制的に眠らせた後自分も眠くなって、部屋に帰るのも怠くてこのままここで寝た。とかいう落ちだろう。


「なんだよミカ。まさか一緒に寝てくれてたのか。俺だってそこまで子供じゃないぞ。まあ、朝から少しばかり良い思いはできたが……な……」


 俺が答え合わせをしようと目を開くと、そこには顔を真っ赤にして涙を堪えながら、声を必死に押し殺し恥ずかしそうに自分のパジャマの裾を抑える―――アイリスがいた。


 アイリスがいた。


 全身から汗が滝の様にあふれ出る。

 なになになに!? なんなのこの状況!?

 だって俺、昨日ミカと話してて。その後眠れるようにってお腹を殴られて気絶したはずじゃ……

 ……はっ! もしかして俺は無意識のうちに可愛らしいアイリスの癒しを求めてアイリスを自分の部屋につれてきてしまったのか!?

 これじゃあ俺がロリコンみたいじゃないか!


 俺は全身からあふれ出る汗を感じながら、この状況の説明を求めようと勇気を振り絞ってアイリスに話かける。


「……責任は取ります」


 何言ってんだ俺は! なにが責任は取りますだよ! このままだと取る前に捕まっちゃうよ! 人生おしまいだよ!


「ご、ごめん。間違えた。で、アイリスはなんでここに……?」


 俺のまともな質問にさっきまで顔を真っ赤にして恥ずかしがっていたアイリスが口を開いた。


「あ、あの……。昨日のクエストで私がユウマさんを助けられなかったから、ユウマさんに怖い思いをさせてしまったな、と思いまして。昨日の夜遅く謝ろうとここに来ました……」


 アイリスが油断したら聞き逃してしまいそうなほど、か細い声で話し始めた。


「ノックしても返事がなくて帰ろうと思っていたら、部屋のドアが少し空いているのに気が付いて、中をのぞいてみたらユウマさんが寝ていたので、怖い夢を見ちゃうんじゃないかと思った私は勇気を振り絞ってユウマさんの隣に横になって、そのまま一緒に寝てあげようと思っていたら、……その……ユウマさんがいきなり抱き着いてきまして……」


 ……。

 ヤバい……。

 俺……今日で刑務所行きだわ。


「そ、そのことは私も悪かったので気にしてないです。本当に気にしないでください」


 アイリスの言葉に少し俺は安心する。

 アイリスは優しいからこのことを誰かに言ったりすることはないだろう。それならこのことが世間に知れることはない。

 俺の国にはこんな名言があったではないか。


 バレなきゃ犯罪じゃない。


「でも……その……今私のいろいろな所を触ったのは、ちょっと恥ずかしいのでやめてほしかったです」


 ……。

 どうしよう。俺すげー罪犯しちゃったよ。

 アイリスは優しいから誰にも言わない。つまり俺を裁く人は誰もいない。でも、俺は裁かれるべきだ。では誰が俺を裁く?


 俺だろ!


 俺はベットから起き上がり、窓を開けて外の様子をうかがう。

 よし、誰もいない。これなら誰にも迷惑は掛からない。

 この宿は三階建て。ここから落ちればタダでは済むまい。上手くいけばこの世で最高の罰、死という名の天罰を下される。

 状況確認の終わった俺は窓に片足をかけ、そのまま外に向かって身を乗りだそうとした。


「ゆ、ユウマさん!? ちょ、ちょっと何してるんですか!?」

「いや、誰にも裁かれない悪を裁こうかと……」

「止めてくださーい!!」


 俺の人生初自殺はアイリスという名の天使によって止められた。


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