表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第二章
33/192

9話

 

「ふう……。なんだかんだで今日は楽しかったよ。ありがとうアイリス」

「いえいえ、私も久しぶりにユウマさんとゆっくり話せて楽しかったです」


 俺とアイリスは宿に戻って来ると、お互いにお礼を言って夕食まで自分の部屋に戻ろうとした。

 後ろから誰かに両肩を掴まれるまでは……


「おわっ!?」


 突然後ろから両肩に手を置かれ、ビビッて素っ頓狂な声をあげる俺。アイリスも突然俺が大声を上げるから驚いてしまい、軽くその場で飛び上がった。


「だだだ、大丈夫ですかユウマさん!?」


 アイリスが素っ頓狂な声をあげる俺に驚きながらも声を掛けてくれた。それで少し冷静さを取り戻した俺は、両肩に置いてある手の片方をゆっくりと見てみる。

 それはすらっとした女性の手。しかしその手は少し血が付いていて、心なしか少し冷たい。

 怖い怖い怖い!

 悲鳴を上げそうになったがどうにか耐え、もう一方の手を見ようとして肩の痛みを感じた。それはもう一方の俺の肩に置かれている手が力を込めているからだ。

 痛い怖い痛い怖い痛い怖い!


 半分涙目になり始める俺。

 そんな中、俺が信じられるのは目の前の天使アイリスだけだ。俺は自分の肩にやっていた目を、目の前にいる天使アイリスに向ける。

 すると、アイリスは俺の後ろを覗き込むようにして、何を見たのかホッと胸を撫で下ろした。

 ちょ!? ちょっとアイリスさん!? なんでホッとしてるの? 自分じゃなくてよかったとか思ってるの!? お願い助けて! 助けてくださいお願いします!

 俺のそんな思いが届いたのか、アイリスが安心しきった表情で俺に言った。


「ユウマさん。後ろからユウマさんの肩に手を置いてるの……リリーナさんとミカさんですよ」

「……」


 ……は?


 アイリスは俺を騙すような子ではない。安心したので、むしろ俺をビビらせたバカ二人を怒鳴りつけてやろうと口を開きながら後ろを振り返る。


「おいこらバカ二人! よくも俺を脅かして……うわーっ!!」


 後ろを振り返ると、そこには全身傷だらけでローブも三角帽子もボロボロになり、かすり傷から血が出ているリリーナと、そんなリリーナを片手でおんぶしている、こっちも全身ボロボロなミカ。

 ……何があったんだよ。

 でも、聞きたくないような気もする。


「ユウマーァ!」


 ミカが俺に縋りついてくる。


「ユウマ! ちょっと聞いてよ!」


 リリーナがさっきまでの大人しい感じはなんだったのかと言いたいくらいに元気よく言ってくる。

 俺はどうせロクでもないことだろうと思い、自室に戻ることにした。


「それじゃあアイリス、俺部屋戻るから」


 笑顔でアイリスにそう言って、後ろを振り返ることなく自室へと足を進めようとした。


「おいミカ。そんなに肩に力を入れられてたら動くに動けないんだが。というかめっちゃ痛いんだが」


 ミカは女神さまからもらったチートを行使して、俺の肩を砕く気なんじゃないかというくらい、思いっきり肩を掴んでいる。

 リリーナもミカほどじゃないにしろ、かなりの力で俺の肩を掴んでいる。動こうにも動けそうにもない。

 くそ、脳筋コンビめ!


「ユウマさん。少しくらい、ミカさんとリリーナさんの話を聞いてあげましょうよ。私からもお願いします」


 いつものように頭を下げるアイリス。

 自分のことじゃないのにここまでできるのはアイリスの一番の長所だ。


「わかった。アイリスに免じて話だけは聞いてやる。言ってみろ」


 溜息を吐きつつ俺がそう言うと、まずリリーナが口を開いた。


「聞きなさいユウマ! 私とミカは朝から二人で話して、簡単なクエストに行こうって話になったの。それでワイルドボア討伐クエストに出かけたわけ」


 少し怒ったような口調で話し始めるリリーナ。ここまで特に何か言いたいことはない。


「それですぐにワイルドボアの群れを見つけたのよ。五匹くらいだったかしらね。もちろん私はそいつら相手に正々堂々戦いを挑みに行ったわ」


 ……ああ。もう全部分かった。


「まずは自分を殺す相手の名前くらい知っておきたいでしょうから自己紹介をしてやったの。そしたらアイツら話も聞かないで私をボールみたいに扱って弄んだのよ! こっちがまだ話の途中だって言うのに、失礼だわアイツら! 卑怯者よ!」


 ……。

 ……予想通り過ぎて笑えない。


「お前が百パーセント悪い。どこからどう見ても魔法使いの癖に敵の集団の中に入っていく方が悪い。もっと言えば頭が悪い」

「なんでよ!? ユウマ! アンタ頭おかしいんじゃないの!? 確かにユウマは変態だし、少し馬鹿だと思ってたけど、そこまでじゃないと思って……」

「『サンド』」


 ぎゃあぎゃあ喚くリリーナを黙らせるため、最近開発した目つぶしをすることにした俺は、魔法で手のひらにサラサラの砂を作りだし、それを軽くリリーナの方に放った。


「キャーッ! 目がっ! 目に砂がっ! ユウマ! なにするのよ!」


 未だにうるさいリリーナを放置して、次にミカの話を聞こうと向き直る。


「それでミカは?」

「あー、うん。えっとね……」


 ミカはリリーナの方を少し見て、軽く息をのんでから話し始めた。

 この惨状を見てバカな話はしてきまい。


「とりあえず最初はリリーナと同じで、私はそのワイルドボアに襲われてるリリーナを助けに行こうとしたの」

「あー。それで?」


 俺が次を促すと、ミカは何かをはぐらかすように俺からスッと目を逸らした。逸らした今も目があっちこっちに泳いでいいる。

 なんとなくこっちも予想がついてしまった。


「そ、それでね。急いで助けようと走って行ったら、すぐにリリーナと魔物のところまで着いてー……。……転んじゃった」


 そう言ってミカは片手をグーにして軽く自分の頭を叩く。しかもちろっと舌まで出して可愛さアピールまでして。

 なんとなくわかってはいたが、ちょっと本気で殴ってやりたい。


「しかも運悪くそれがリリーナに当たっちゃって……リリーナが気絶。その後ワイルドボアは私を標的にしだして、リリーナちゃんを放っておくこともできないし、その場でずっと耐えてたら……」

「そんなにボロボロになったと……」

「う、うん……」


 なんというアホな話だろう。

 普通に戦えばミカがワイルドボアに突っ込んで行くだけでクエストが終わるのに。または、リリーナが遠くから魔法をぶっ放すだけで簡単に終わるのに、なぜこの二人は自分からクエストの難易度を上げていくんだろう。


「……お前ら、もう二人だけでクエスト行くな……」

「……はい」


 ミカは今回の件ですべてを察したのか、反省した様に頷いた。


「お前もだよ脳筋魔法使い!」


 俺は未だに目に入った砂を必死に涙目になりながら取り出すリリーナに向かって怒鳴る。


「ふ、ふん! そんなの知らないわよ! 私がいつ誰とクエストに行こうが勝手でしょ! ユウマにとやかく言われる筋合いはないわ!」


 ようやく目の中の砂が取れたのか強気に言ってくるリリーナ。

 確かにリリーナの言っていることは正論だ。俺にリリーナの行動をすべて制限するような権利なんてないし、そんなつもりもない。そんなことが出来たらもう色々とやってる。

 ……ただ、それは普通ならの話だ。


「それに今回は少し油断もあったのよ。アイツらがちゃんと正々堂々としていればこんなことにはならなかったわ! 私は最弱職のユウマとは違うのよ!」


 そんな紳士的な魔物がどこにいるんだと言ってやりたいが、どうせ言っても無駄だろう。

 それに最後の言葉に少しカチンときた。


「そうか。それならそんな有能な魔法使いは俺たちなんかとパーティーを組まなくてもやってけるよな? よーし! 明日から俺たちのパーティーにあった魔法使いを募集しよう。アイリス、ミカ。どんな魔法使いがいいと思う? 俺は美少女なら実力はどうでもいいんだけど」


 俺が真面目な顔で二人も意見を聞き出すと、少し慌てだしたリリーナが。


「そ、そんなことはしなくてもいいと思うわよ。ほ、ほら、だってここに有能な魔法使いがいるじゃない? 確かにユウマみたいな最弱職にはもったいないくらい美人で有能だけど、私がここにいてあげるって言ってるんだから、それでいいと思うわよ?」


 さっきまでの強気な態度は旅行にでも行ってしまったらしいリリーナ。

 そんなリリーナに俺は。


「いやいや、そんな有能な魔法使いの足手まといになるのは心がいたいよ。だから有能な魔法使いさんは、他のもっと有能な力に合ったパーティーに入るべきだ。……アイリス、ミカ。リリーナのことは悲しいけど諦めよう……」


 俺は泣いているフリと声の演技で、アイリスとミカの肩を掴んで三人で立ち去ろうとした。


「ま、待って! お願いだから待ちなさい! ユウマに見捨てられたらもう私に行くところはないのよー!」


 結局今日も俺の勝利で終わった。

 リリーナはいい加減少しは学んでほしい。

 ただ最後のセリフは、別れ話を切る出す彼氏を必死に止める彼女みたいで少し気分が良かった。


 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


「ミカっ! 悪いけどアイツラの相手を頼む! 俺は少ない方をやる! リリーナ、お前はミカの援護をしてやれ! アイリスは俺の援護を頼む!」


 俺とアイリスとリリーナとミカは、初めて四人でクエストを受けていた。

 今日のクエストはオーク討伐一体千ギル。という倒せば倒すだけ稼げるクエストだ。

 俺がこのクエストを受けようと言ったとき、アイリスやリリーナが嫌そうな顔をしてやたらとこのクエストを受けたがらなかったが、俺が大丈夫だと説得して最終的に受けることにした。


 オークと言えばゲームなんかではコボルトなとど一緒に序盤に出てくる雑魚モンスター。豚とイノシシを混ぜたような顔をし、槍なんかをよく持っている有名な魔物だ。

 そんな雑魚相手に俺たちがてこずるはずがない。

 だって俺のパーティーには……。


 優秀なヒーラー。ただし、優しすぎて弱っている魔物に回復魔法を掛けてしまう。

 優秀な魔法使い。ただし、脳筋ですぐに魔法も使わずに魔物の集団に突っ込む。

 優秀な格闘家。ただし、極度のドジですぐに転んだりする。


 こんな優秀なパーティーが揃ってるんだ。俺たちが負けるはずがない。


 ……ホントに優秀か? このパーティー?


 俺はそんなことを考えながら、アイリスと二人でオーク三体に向かっていく。うちのパーティーのメイン火力であるミカとリリーナには数の多い方を相手してもらっている。さすがに今日は俺がいるし、この前聞いたようなことにはそうそうなるまい。

 それに少しぐらいのミスならミカのチートがどうにかしてくれるはずだ。

 だからチートのない俺は自分の方の戦いに集中にしなくてはいけない。

 頭のスイッチを切り替えた俺は目の前のオーク三体に向き直りショートソードを構える。


 オークたちにアイリスを触れさせるわけにはいかない。

 オークと言えば、薄い本でよくエルフなどとあれな展開になる典型的な魔物だ。そんな性欲魔人みたいな魔物にアイリスのような神聖な心を持つ人を触れさせちゃいけない。

 ミカはチートがあるし、たぶん大丈夫だろう。

 リリーナは……まあ、ガンバレ。


 というわけで、俺はオークたちをアイリスに触れさせないためにやる気を滾らせている。

 この調子なら楽にオーク三体ぐらいなら狩れそうだ。



 数分後。



「あ、アイリスーっ! お願いします! 支援魔法をお願いします! 筋力アップお願いします! 早く! 俺死にたくなーいっ!」


 俺は見るも空しくオークたち三体に囲まれていた。

 オークたちは何故かアイリスの方には目もくれず、俺だけをやたら執拗に狙って来ていた。おかしいな、と思ったときには既に時遅く、俺は三体のオークに囲まれていた。

 あの後アイリスには後方支援を任せて、俺はやる気に満ち溢れさせてオークたちに突っ込んで行った。『逃走』スキルを行使してオークたちを翻弄しながら、いつものように少しずつ、確実にダメージを与えていくはずだった。

 それなのに……。

 それなのに俺は悲しくもオークなんて雑魚魔物に囲まれている。

 それに気のせいだろうか? さっきからこのオークたち、息が荒いような……。

 豚のような大きな鼻の穴から、ふすーっ、ふすーっ。と大きな鼻音を鳴らしている。しかも三体とも。

 え? なにこれ怖い! なんか本能的に怖い! オークって女しか狙わないんじゃないの!?


「あ、アイリスー! アイリス様ーっ! お願いです、後生です! 早く助けてくださーい! このままだと俺が十六年間大事に守ってきた大切な何かが奪われそうなそんな気がする! 俺の失っちゃいけない大切なものが持ってかれちゃうーっ!」


 俺がそんなことを叫んだ時だった。

 三体の内の一体が俺に飛びかかってきた。回避は間に合いそうになく、殺られるのか、それともヤラレルのか、そんな恐怖が俺を震わせる。

 為す術なく押し倒された俺は、逃げようにもオークが重くて動けないし、魔法を放とうにも両手を他の二体のオークに拘束されている。

 絶望に怯えた反応の俺をオークは楽しむようにねっとりと腹の辺りを撫でる。


「ひーっ!! あ、アイリス! お願いだから恥ずかしそうに顔を覆っているその手で俺を助けてー! 本当にヤラレル、または殺られるからーっ!」


 しかしアイリスは顔を真っ赤にしたまま両手で顔を覆ったままだ。しかもたまにその指を開いて、こちらを興味深そうに覗いている。

 可愛いけど今はそんな場合じゃないんだよアイリス!

 そうこうしている間に俺の服に手をかけ始めるオークたち。なんならズボンに手を伸ばしているやつもいた。

 ……俺、終わったな。

 二重の意味で終わったわ……

 せめて早く終わってほしい。よく天井のシミの数を数えていれば終わるなんて言うけど、空の雲の数でも代用できるだろうか? いや、これ立場逆だった気がする。ダメじゃん。

 そう思ってすべてを諦めて目を閉じた時だった。


 俺に掛かっていた重さがなくなる。それはつまり、俺に飛びかかってきたオークが俺の上から退いたということだ。

 俺は恐る恐る目を開ける。

 そこには……


「何やってるのユウマ? 大丈夫だった? 危ないなら危ないって言ってくれればいいのに」


 ミカが立っていた。


「み、ミガァー」


 俺はもう恥も外聞も捨てて、涙を流しながらミカの足に縋りついた。


「あー。よしよし、怖かったねえー。もう大丈夫だよー」


 ミカは俺をバカにすることなく、むしろしゃがんで俺を胸に抱き、子供をあやすように頭をなでてくれた。

 普段なら子ども扱いすんな!と振り払っているところだが、今はそんなことすらどうでもいい。

 本当に怖かった。本当に怖かったんだ。一生のトラウマになることは免れそうにない。


「今日はもう帰ろうか」

「う、うん……」


 というわけで、今日のクエストは終了した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ