8話
俺たち三人は街の外に出て、早速その魔道具とやらを付けてみる。ファナの話だと普通の眼鏡と同じで、ただ掛けるだけでいいらしい。俺は早速ファナから眼鏡を受け取り、掛けてみる。
その状態で周囲を軽く見回してみるが特に変化はない。本当にただ伊達眼鏡をかけている時と同じ感覚だ。
それが確認できたので、いったん眼鏡を額のあたりまで上げ近くに魔物がいないか確認する。
そんな時運よく近くにコットンラビットを見つけた。あんまり凶暴な魔物じゃないし、こっちにはアイリスと前は冒険者をやっていたというファナもいる。そうそう危険なことにはならないはずだ。
それでも俺は慎重な性格なので一応『潜伏』スキルを発動させておく。『潜伏』スキルの効果は見つかっていない相手からは姿を消すことができ、視認されている相手からは視認されにくくなるという効果だ。これと『逃走』スキルが併用できれば隠れながらにして早く移動できるのだが、『潜伏』スキルと『逃走』スキルの発動条件がかみ合わないため、同時に使用できない。
あと『潜伏』スキルを使ってるのは慎重な性格だからだぞ。決してビビりなんかじゃない!
改めて眼鏡を掛けなおし、早速そのコットンラビットを見る。
……。
「……」
心も体も黙ってしまった。
だって―――やっぱり何も見えないんだもん。
俺は無言でファナにただのメガネを返す。
その俺の態度にファナとアイリスが驚いたように、そして慌てたように、自分でも眼鏡を掛けだす。そして俺が見たコットンラビットと同じ個体を見つめ、まずはアイリスが―――
「……何も見えません」
次にファナが―――
「そ、そんなはずは! ……なにも見えません」
二人とも悟ったのだろう。
この魔道具が、ただのメガネだったことを……。
俺はここまで来たらもう自棄だと、ファナに怖い質問を投げかける。
「……なあ、ファナ。これをいくらでどのくらい買ったんだ?」
「……」
その言葉にファナが絶望したような顔でただ俯いた。
……これは大金叩いて、たくさん買っちまったな……。
俺が店で見ただけでも棚に二十はあったはずだ。在庫のことを考えると、その二、三倍は硬いだろう。
……ご愁傷様。
今回の件は簡単に言えば、ファナはいわゆる詐欺にあったのだ。
日本で俺はこんな話を聞いたことがあった。高価な商品と一緒に本当は価値のないもの紹介し、価値の低い物をいかにも価値のあるように見せかけ、高値で売りつける詐欺があると。
俺はさっきそれを思い出し聞いてみたのだが、案の定だった。
「……ううっ。……今月の食費代を投げ打ってまで買いましたのに……これじゃあ今月も赤字に……というか、ロクな食べ物すら……」
その場でうずくまり、とても悲しいことを言い出すファナ。
この言葉を聞いて月に一回、いや、週に一回は何かファナの店に買いに行ってやろうと心に誓う俺だった。
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未だに落ち込むファナと、それを甲斐甲斐しく慰めるアイリスと共に、俺は始まりの街、イニティに帰ってきた。街に着いたころには空も茜色に変わり始めており、今日の冒険はここまでだと言わんばかりに外から冒険者達が街へと帰ってくる。
「……そ、それじゃあ私の店はあっちですので……」
ファナがまるでアンデッドのような動きで俺たちから離れていく。
「お、おう。またな。今度何か買いに行くから」
「ほ、ほんとうですか! ユウマさんのご来店を心よりお待ちしております!」
どうやら少しは元気を取り戻したようだ。
俺の買い物なんて店の収入で考えれば雀の涙程度だが、それほどまでにファナは追い詰められているという事だろう。
そのまま何もなくファナと別れたので、また俺とアイリスの二人だけになる。
「ファナさん……。可哀相でしたね……」
アイリスが少し元気になって去っていくファナの背中を見守りながら、そんなことを呟いた。
「ああ、さすがにちょっとな。……でも、あれはきっとまたやるぞ」
ファナと今日話してわかったことだが、ファナはアイリス同様、人を疑うということを知らない。それはもう、神様が悪感情を入れ忘れたんじゃないかと疑いたくなるくらいに。
あの後だって俺が、その商人見つけ出して訴えてやればいい。と言ったのに、見つけるのは難しいとか、もうこの街にはいませんよ。ではなく、あの人だってきっと悪気はなかったんだと思います。とか言うくらいだ。
これはもうどうしようもない。
「ユウマさん。私、ファナさんにはすごくお世話になっているんです。それに個人的にもファナさんはお姉さんみたいで好きですし、ファナさんのお店をどうにかできないものでしょうか?」
アイリスがそんなことを言い出した。
正直アイリスの性格を考えればそう言われるだろうなとは思っていたけど。
「まあ俺もあんな美人でエロい……あんな優しい人を放っておくのはちょっと心が痛むな」
「ゆ、ユウマさん!? 今、エロい人を放っておけないって言おうとしてませんでしたか!?」
「いや、言おうとしてない」
言おうとしてます。
むしろ言いましたよ。
「ともかくだ。アイリスがファナを助けたい気持ちはわかるが、俺たちにはどうしようもできない。まず俺達にそこまでたくさんのものを買う金がない。お店にはまともな売れ筋商品がない、しかも資金がほぼゼロ。積みだ」
「……そうですよね。さすがにユウマさんでも難しいですよね……」
しょんぼりと落ちこむアイリス。
こんな顔をされると意地でもどうにかしてやりたくなるが、出来ないものはできないのだ。できないことを意地を張ってできると言って、希望を与えてからやっぱり無理でしたと絶望を与えるようなことを俺はファナにもアイリスにもしたくない。
「でも少し貢献することくらいはできるぞ。アイリスだって最近は少しお金に余裕が出てきただろ? それで何かを買ってやればいい」
「そ、そうですよね! 助けてあげられないなら、自分たちに出来ることをすればいいんですよね! やっぱりユウマさんは優しいです!」
止めてくださいアイリスさん。あなたがそんな純粋な目で褒めている元クソニートは、自分が鍛冶スキルとか創作系のスキルをもし覚えたら、お金稼ぎにファナの店で何か売ってもらおうとか考えているクズです。止めてください。
「それじゃあ明日からもクエスト頑張らなきゃですね。ユウマさん!」
だからやめてー!




