5話
「はい。確かにスモールゴーレム二体討伐を確認しました。それではこれが報酬の二十万ギルです」
俺とミカは現在スモールゴーレム二体討伐というクエストを達成し、ギルドでその報酬を受け取っていた。
「ありがとうございまーす。はい、これユウマの分!」
ミカが受付のお姉さんからもらった、報酬の半分が入った袋を渡してくる。
「い、いや、俺はもらえないから。スモールゴーレム二体とも倒したのミカだし……」
流石に俺もそこまで図々しくはなれなかった。だって俺がやったことなんて岩石地帯までの『敵感知』くらいだ。あるのとないのでは雲泥の差だが、さすがに『敵感知』だけで十万ギルももらうのは気が引ける。
異世界に来て最初のこともあるしな。
「何言ってるのユウマ? 私たち二人で受けて、二人で達成したクエストなんだからきっちり報酬も二等分しないと」
そう言って強引に俺の手に十万ギルの入った袋を握らせるミカ。
「まあ、ミカがそう言うなら……」
俺はこれ以上何を言っても無駄なことを悟り、おとなしく報酬の入った袋を受け取る。
「うんうん! それでよし!」
なにやらミカも満足そうだ。
「そう言えばミカ。お前さっきどうやってスモールゴーレムを倒したんだ? 普通の物理攻撃なんて全然効かないはずだし、一体目に至ってはただ転んでただけだろ? それにスモールゴーレムの攻撃をモロに食らってもぴんぴんしてるし、お前何があったの? この世界に来て化け物にでもなったの?」
もっともな質問をミカに投げかけた。
俺の質問にミカは少し怒った様子で答える。
「こんなかわいい女の子に向かって化け物とは何よ、化け物とは! まあ、どうやって倒したのかって話はチートのおかげだよ。私のもらったチートは『金剛力』だから」
「『金剛力』だと……」
『金剛力』
それは圧倒的な力と人並みならぬ防御力を誇るスキルだ。
簡単に言ってしまえば、防御力の高いナイトが圧倒的な力まで手に入れちゃいました。みたいな感じである。
『剛力』の強みは先ほども言ったように圧倒的な攻撃力と人並みならぬ防御力だ。ゲームなんかでは力のステ―タスが普通の剣士の二倍以上あったり、防御力がナイトなどの防御を得意とする職業と同等の数値だったりする。物理方面ではかなりのチートスキルだ。
「なるほど、だからスモールゴーレムを相手にあんなに無警戒で突っ込んで行ったり、スモールゴーレム討伐なんて簡単とか言ってたのか。確かにそれならスモールゴーレムがミカの拳一発で沈んだのも、ミカがまともにスモールゴーレム攻撃を食らって平気そうにしてたのも頷けるわ」
これがさっきミカが俺を驚かせたことの種か。
転んだだけでスモールゴーレムを倒したように見えたのは、きっと遠くから見えにくかっただけで拳自体は当たっていたのだろう。そう考えればすべての辻褄が合う。
「そうそう。私ドジだからこのスキル気に入ってるの! 転んでも怪我しないし、さっきみたいに魔物に攻撃されてもあんまり痛くないし、いいことづくめだよ!」
嬉しそうにミカは笑った。
そうか、そう言えば俺以外の日本から来た人間はみんな女神さまからチートもらってるんだったな。俺は何ももらえなかったからすっかり忘れてたけど……
「それはいいスキルを貰ったな。羨ましい……というか妬ましい」
嫉妬の眼差しでミカを見つめる。
ミカは俺のその眼を見ても怯むことなくすぐに口を開いた。
「ユウマだって女神さまから何かチートもらってるんでしょ? さっきは私が一人でつっぱしっちゃったから使わなかっただけでさ。ねえ、ユウマは女神さまからどんなチートをもらったの?」
悪気はないのだろう。
ミカは俺がチートを貰ってないだなんて知らないだろうし、女神さまが最初のチュートリアルでここにいる皆様にチートを宿らせる。とか言ってたから、俺を含めたみんなに宿っていると思っているのだろう。俺だって自分の冒険者カードを見るまではそう思っていたさ。
だがな、ミカ。ここに例外がいるんだよ。女神さまから何ももらえなかったヤツがな。
ミカ。まずはその幻想をぶち殺す!
「もらってないよ」
「……え?」
俺の言葉に一瞬言葉を失うミカ。
「ごめんユウマ。もう一回言ってくれる? ちょっと聞き間違いしちゃったみたいで」
聞き間違いじゃないんだけどな。
「だからないよ。俺は女神さまにチートを貰ってない。ミカみたいなステータスチートも、チート能力も、チートと呼ばれるようなものは何ももらってない」
「……え?」
ミカの驚いた顔。久しぶりに見たが結構面白い。
でもなんでだろう。笑いが出てこない。
それどころか面白いはずなのに目になんか水滴がたまってる気がする。しかもしょっぱい。
「ユウマ、女神さまにチートもらえなかったの?」
「ああ、もらえなかった。なぜか俺だけな」
「う、嘘だあー。ちょっと冒険者カード見せてよ」
「いいぞ。でも、ミカのも見せてくれ」
俺は自分の冒険者カードをミカに渡し、俺はミカの冒険者カードを受け取る。
んーと。なになに。
職業は格闘家。レベルは……十五!? 俺の十五倍だと!? アイリスやリリーナよりも少し高いじゃないか。それにステータスもぶっ飛んでる。筋力が異常に高い。俺の十倍以上ある。やっぱチートだわ。
スキルは……『足払い』、『正拳突き』、おっ! 囮系のスキルまで取ってる。この世界に来てまだ少ししか経ってないのによくこんなん取ったな。チートがあるにしたって俺なら絶対に取らない。だってみんなの代わりに狙われるとか怖いし。
スキルポイントもなんか結構残ってるし、優秀過ぎんだろ。
「……ほ、ほんとだ。……ユウマにチートっぽいスキルがない……」
ミカの冒険者カードを見て俺が驚いているのと同様、ミカも俺の冒険者カードを見て驚いている。まあ、驚いている意味合いは真逆なのだが。
ミカはあまりに低い俺のステ―タスや、本当にもらっていないチート能力について驚いているのだろうが、俺はミカのあまりに高すぎる能力と、チートの性能がヤバいことに驚いている。
そんなミカに俺はミカの冒険者カード返しながら言う。
「だから言ったろ? 俺は女神さまに嫌われたのか、チートと呼ばれるようなものは一切もらってないんだよ」
ミカに差し出された自分の冒険者カードをしまいながら皮肉を返す。
ミカは俺の冒険者カードを見たというのに、まだ信用できないと言いたげな顔をしている。
「でもチートを貰ってないならユウマは今までどうやって生活してたの!? お金だってなかったよね!? それなのにどうやって!? ちゃんと食事とか取ってた!?」
ミカがすごい剣幕で俺に話しかけてくる。
俺はそんなミカを両手を前に出して制しながら返事をする。
「どうやってって、ミカたちと同じだろ。クエストを受けて、依頼を達成して、お金をもらって生活してたよ。運よくすぐに仲間もできたしな」
俺が異世界に飛ばされてきて、ある程度安定した生活を送れているのは間違いなくアイリスとリリーナのおかげだ。俺一人でも生きていくこと自体は可能だっただろうが、そのためには毎日簡単で稼ぎのいいクエストをギルドで探し、一人で根を詰めてクエストをこなさないといけなかったはずだ。
アイリスとリリーナのおかげで俺は多少難しいクエストも受けられるし、少し問題があるとはいえ、大きな問題はなく毎日を面白おかしく過ごせている。
日本に居た頃では考えられないほど今の生活が楽しい。
「ねえユウマ! やっぱり私とパーティー組も! ユウマのことやっぱり心配だし……。私はちゃんとチートもらってるし、まだちゃんと他の人とパーティー組んでないからフリーだよ! ……それに私もこの世界で一人はやっぱり不安だし、他の人もなんか変な感じで一緒に居たくないしで、一緒にパーティー組む人がいないの。お願いユウマ!」
両手を合わせて軽く頭を下げるミカ。
確かに俺らのパーティーには前衛の火力が足りていない。中距離と遠距離はアイリスとリリーナの魔法があるが、近距離は攻撃が足りていない。唯一前衛職ができる俺の攻撃なんてほんとなけなしの攻撃だし、正直ミカがパーティーに入ってくれればパーティーバランスもよくなり助かる。
しかし、本当にそれでいいのだろうか?
俺は元々、ミカが他の日本から来たチート連中とパーティーを組んだ方がこの世界で生きていくのが楽だ。俺と組むよりは確実に楽に生きていけると判断したから、最初に置いてきてしまったミカを探さなかったのだ。日本で散々迷惑を掛けてきたから、これ以上は迷惑は掛けまいと思っていたのだ。
それなのに本当にこの提案を受け入れていいのだろうか?
「ねえお願いユウマ! 私たち幼馴染じゃない! さっきも言ったけど、私ならユウマも気を使う必要ないでしょ? スモールゴーレム戦で私のチートもよくわかってるだろし、絶対に役に立つからさ!」
確かにミカの言うことはごもっともだ。
今まで迷惑を掛けてきたからこれ以上迷惑を掛けたくない。という点を除けば、ミカとは長い付き合いだし、俺という人間をよく知っているミカには変な遠慮はいらないしで、正直言って気が楽だ。
戦闘力もミカの言うとおりスモールゴーレム戦で確認済み。ドジな所はあるが、それは俺がサポートしてやればいいし、ミカのもらったチート『金剛力』の力で大抵のことではロクに怪我もしないだろう。
でもやっぱり少し抵抗があるのだ。俺はこっちの世界でもまたミカに迷惑を掛けてしまうんじゃないだろうかという不安が俺を苛むのだ。
確かに俺はミカのドジのフォローをしてきた。でもミカはそれ以上にこんなクズダメ引きニートの相手を笑顔でかってくれていたのだ。自分の時間を削って俺みたいなクズの相手をしてくれていたのだ。
容姿だって、黒髪のセミロング(ミカ曰く世間でいうところのボブカットというやつらしい)。胸もそれなりにあって、顔立ちだってお世辞抜きでかなりいい。幼馴染でもなかったら一生話すこともなかっただろう。
クラスでも一番というほどではないにしろ、いつも上位をキープするくらいに人気があり、男女問わず好かれていた。
そんな俺には勿体ないほど優れた幼馴染。
そんなミカに、俺はまたよろしくなんて言っていいのだろうか?
……いや、それはやっぱりよくないのだろう。
「……なあ、ミカ。やっぱりお前は他の日本から来たチート連中とパーティーを組んだ方がいい。今言った通り俺はチートがない。クエストも毎回命がけだ。それよりは日本から来た他のチート持ちとパーティーを組んだ方が絶対にいい。……それに俺はこれ以上お前に迷惑を掛けたくない……」
これで正解のはずだ。
正しいはずだ。
間違っていないはずだ。
なのになぜ、目の前の女の子は泣いているのだろう。
どうして目から涙を流しているのだろう。
「……ひっく……な、なんで、そんなこと言うの……私は……ユウマのこと……迷惑なんて思ったことない……」
ミカは泣きながらそんなことを言う。
ただ俺は知っている。これはミカが優しいだけなんだと。優しすぎるだけで、それ以上を期待してはいけないのだと。
「……ううっ……私……こっちに来てから一人で不安だった……今日ユウマに会えて……本当にうれしかった。心から安心した」
俺はミカの言葉を何も言わずにただ聞く。
「なのに……ひっく……なんでそんなこと言うの……ユウマ」
ミカは涙を流しながら俺を見る。
そんなミカを見てしまった俺に言えることは一つしかなかった。
「……悪かった。なあ、ミカ。俺は女神さまからチートをもらえなかった。それに既にパーティーが二人いる。もちろんこっちの世界の人でチートなんてない。クエストでもお前に迷惑をかけるだろう。それでも、俺とパーティーを組んでくれるか?」
俺のそんな問いにミカは。
「も、もちろんだよユウマ! ま、まったく。ユウマはやっぱり私がいないとダメだね! 仕方ないから私が守ってあげるよ!」
泣きながらそんな強がりを言うミカ。
まったく、女の子ってやつはずるい。泣くだけで男にこれだけ守りたいと思わせるんだから卑怯だ。
これは女の子が最初から持つチートなのかもしれない。
「それはそれとしてミカ」
俺は未だに涙の止まらないミカに話しかける。
「ん? なにユウマ?」
「お前って結構かわいいパンツ穿いてんのな」
俺は三人組がミカのスカートをめくった時のパンツを思い出し言った。
「ゆ、ユウマのバカァァァァァァァ! ヘンターイ!!」
「ぐはっ!!」
俺はミカの『金剛力』により強化されているパンチを食らってギルドの壁まで吹っ飛んだ。




