2話
「……暇になってしまった」
リリーナとの激闘に勝利した次の日、俺は宿で一人横になっていた。
今日はアイリスとリリーナと三人でクエストを受けようと思っていたのだが、昨日の勝負の負けが相当ショックだったのかリリーナが「……今日は絶不調だわ。魔力がみなぎって来ないの……」などと言い出し、今日のクエストは中止になった。
アイリスは特に何もないが、二人で冒険に行くのも少し危険を伴うし、俺、アイリス、リリーナの三人でパーティーだというのに、リリーナ抜きで冒険に出るのもなんか嫌だった。
ちなみにアイリスは自室で引きこもっているリリーナの看病中だ。アイリスはその場にいるだけで癒し効果があるので回復も時間の問題だろう。
かくいう俺も昨日のことはやり過ぎたと少しは反省していたので、一言詫びを入れに行ったのだが拒否された。
仕方ないのであとでおいしい物でも買って来てやろう。
「……一つくらい悪戯で辛いやつを混ぜておくか」
というわけで絶賛暇中の俺である。
新しいスキルでも覚えようかと情けない冒険者カードを取り出すも、スキルは今のところ満足しているでに下手にスキルポイントを消費したくない。
今の俺のスキルポイントはレベルが一すら上がっていないので初期スキルポイントの30から、17ポイント減った13ポイントだ。
この世界にどんな便利スキルがあるのかわからない今、下手にスキルポイントを使うのは得策でなはい。
かといってこのまま宿で一日を過ごすのもなんかもったいない気もする。
まだ異世界に来てから二週間くらいしか経っていないのだ。俺の興奮は未だに収まっていない。とにかく何かしたい。
命の危険がない程度で……
というわけで、俺は武器も何も持たずに一人で散歩をしに外に出ることにした。
宿の外に出てみるといい天気だった。青く澄みきった空、プカプカといろんな形で空に浮かぶ雲、「鬼畜兄ちゃんだ!」と俺を指さす子供たち。
―――ん? 最後のなんか違くね?
おかしいと思って声の方を向くと、そこには小さな男の子たちが三人立っていた。
背の大きさから推測するとたぶん幼稚園児くらい。言葉遣いがはっきりしてるからもしかしたら小学校低学年くらいかもしれない。まあそんなことはどうでもいい。
俺はさっきの声の主である男の子三人に声を掛けた。
「なあ、今俺のことを指さしてたか?」
「うん、そうだよ。鬼畜の兄ちゃん」
三人のうちのリーダーっぽい男の子が答えた。
それにしても鬼畜の兄ちゃんって……。
「なんで俺をそう呼ぶのかな?」
一番の疑問はここだ。
事と次第によっては俺をそんな呼び方をした最初の奴に痛い目に合ってもらおう。
「えーっとねー。この前兄ちゃんが街で悪さしてた兄ちゃんたちをやっつけた時から、みんな兄ちゃんのことそう言ってるよ」
なるほど、俺が見ず知らずの子供たちから鬼畜の兄ちゃんと呼ばれる原因はあの……確か、春巻きとマザコンだっけか? のせいか。
アイツらただでさえ迷惑を掛けてきたのに、後になってまで俺に迷惑を掛けてくるとは。本当に面倒な奴らだ、リア充って奴は。
今度会ったら覚えとけよ! 会いたくないけど!
「他に俺なにか言われてるか?」
ないとは思うが一応念のためだ。
「えーっとねー。他にはー」
……あるのか。
「確か、外道のユウマとか、スカートめくりのユウマとか、トレジャーハンターユウマとか言ってるよ」
……なんなのこの街の人たち。
あの時俺にあんなにお礼言ってたじゃん。なのになんで一週間と経たないうちに俺がそんな呼ばれ方してるの?
……確かに後半の二つは何も言えないけどさ。確かに俺にも非はあるけどさ、むしろ非しかないけどさ!
男の子たちの言葉と街の人からの認識を聞き、なんだかいきなり気分が落ちてきた俺に、三人のうちの一人が話しかけてきた。
「なあ鬼畜の兄ちゃん! 俺たちにもスカートめくりのコツ教えてくれよ! 俺たちずっと兄ちゃんが出てくるの待ってたんだぜ!」
しかも話しかけてきた内容はただの追撃だった。
なんなのこの子たち? 俺なんかより口撃力高いんですけど。お兄ちゃん、もうライフはゼロなんですけど。
ていうか、なんで俺はスカートめくりのプロみたいになってるの? おかしくない?
「な! いいだろ兄ちゃん!」
俺がさらに凹み始めると、三人の男の子達は俺を囲んであちこち服を引っ張り出した。
「あー! もう仕方ねえな! ちょっとだけだぞ!」
俺はもう周りの評価のことは忘れることにした。
それに暇をしてるよりは子供たちと遊んでいる方が有意義だしな。
……でも、心の底にはダメージがまだ残ってるので、この世界に記憶を消す魔法とか記憶を操る魔法があったらぜひ教えていただきたい。
それか街の人たちの記憶をどうにかしてください! ホントマジで!
「でも本当に少しだけだぞ。あと鬼畜の兄ちゃんはやめろ。ユウマって呼んでくれ」
「わかったぜユウマの兄ちゃん!」
俺からスカートめくりを教えてもらうのがそんなに嬉しいのか男の子たちははしゃぎ始めた。
そんな子供たちに俺は言う。
「それじゃあ行くぞ、小僧どもーっ! この世界のお宝を絶対に見るんだーっ!」
「「「おーうっ!!」」」
こうしてなぜか俺が子供たちにスカートめくりを教えることになった。
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「まず最初にあの女の人を狙ってみよう」
俺は男の子たち三人とちょっとした大通りまで来ると、綺麗で優しそうな女の人を探し、それらしい人を見つけ出した。
茶髪のロングで、すれ違いざまに少し顔を見ただけだが結構な美人さんだ。
なんだかほんわかしてそうな人だし、もしバレても「もー! 次からはこんなことしちゃダメだぞ! メッ!」とか、逆にこっちが嬉しくなりそうなをことを言ってくれそうだ。
まさに一石二鳥! 一挙両得!
「よしっ! まずは俺がお手本を見せる。見てろよ!」
三人の男の子にそう告げ、俺は何気なくその女の人の近づきタイミングをうかがう。
慌てるなユウマ。まだ慌てるような時間じゃない。
冷静に深呼吸を繰り返しながら絶好のタイミングを計る。俺の後ろではトレジャーハンターを志す弟子たちが見ているのだ。カッコ悪い姿は見せられない。
少しの間着かず離れずの距離を維持しながら何気ない様子を装う。そしてついに絶好のタイミングがやってきた。行くしかない!
「ウワーッ! スベッター!」
我ながら演技力の欠片もない棒読みをしながら、俺は転んだふりをしつつターゲットの女の人のスカートをめくる。
そしてスカートめくりは見事に成功した。お姉さんのスカートがヒラヒラと宙を舞う。
弟子たちよ。これがプロのスカートめくりだ!
俺はやや危険な体勢になりながらもどうにかお姉さんのスカートの中を覗くことができた。
……黒! お姉さん見かけによらずすごいっすね!
そんな感想を心に抱きつつ、転んだ時に付いた砂を払いながら謝罪をしつつ起き上がる。
「いやー、すいません。つい転んだ拍子に手が当たってしまって。あははははは」
大丈夫。この人は温厚そうな人だった。こんな感じで気さくに謝れば許してくれるはずである。
そう信じて俺は笑顔を作るために閉じていた目を開ける。そこには俺がスカートをめくった茶髪の女性……ではなく。
一人の強面の男が立っていた。
あっれ~。おっかしいぞ~。
どこかの少年探偵のようなことを言いながら、ヤバい雰囲気を感じて冷や汗をダラダラと流す。
まずい、まずい、まずい。流石にこれはまずい!
なんで目を開けたら強面の男が目の前にいるの! なんでスカートをめくられたお姉さんはスカートを抑えながら俺をにらんでるの!
……お姉さんは俺のせいか。
「よお兄ちゃん、よくも俺の連れにスカート捲りなんてしてくれたな。どう始末付けてくれんねん」
強面の男が俺を睨みつけながら言った。
怖い怖い怖い! 声にドス利いてるし超怖い! なんならマジモンのドス持ってそうだし。
「……あはは。そんなご冗談を。ぼ、僕はたまたまそこで転んだだけですよ? そんなスカートめくりだなんて子供じゃあるまいし……」
冷や汗だらだら、足はガクガク、声は震えた状態でどうにか言葉を返す。
「ほー。お前さんはそんななにもないところで転んで、俺の連れのスカートに、た・ま・た・ま、手が行って、た・ま・た・ま、めくってしまったと……?」
「は、はい~」
我ながらなんて情けない姿だろう。
お父さん、お母さん。あなたの息子はスカートめくりをした挙句、その連れの人にゴマをすっています。
それでもあなた方は僕を息子だと呼んでくれますか?
「……まあ、それなら仕方ないわ。事故だったなら仕方ない」
「で、ですよねー。事故ですもんねー。それは仕方ないですよねー」
俺は安心してホッと息を吐く。
正直この数分生きた心地がしなかった。下手なクエストよりよっぽど命の危険を感じたくらいだ。
でもこれでどうにかたすか……
「流石だぜ兄ちゃん!」
「これがプロのスカートめくりかよ!」
「すげーぜ兄ちゃん!」
……。
アイツらーっ!!
「……おい兄ちゃん、ちょっと面貸せや」
「……すいません。僕の顔は一つしかないんでこれは貸せませーんっ!」
「おいこらっ! 逃げんなっ!」
謝っている途中で相手に背を向け、『逃走』スキルまで使って半泣きになりながら強面の男から逃げた。




