22話
「おい、あれ俺らのクラスの引きニートくんじゃね? なんだアイツも来てたんだ」
「それになんか可愛い女の子二人も侍らせてるぜ。おい、ちょっとからかってやろうぜ」
俺とリリーナがいがみ合っていると、少し離れたところからそんな声が聞こえてくる。
そう。アイツらは俺と同じくこの異世界に飛ばされてきた、俺のクラスメイト。
そして、俺が高校に行かなくなった理由の張本人たちである。
無意識で奴らとは反対側を向き、逃げるように去ろうとした俺の前にわざわざ走ってきたのか、そいつら二人はやってきた。
「ひさしぶりー。えーっと、ニートくんだっけ?」
「おいおい、ちげーよ。オタク・引きニートくんだよ。フルネームで呼んでやらないと可哀相だろ」
目の前にやってきたと思ったらいきなり俺を笑いものにし始める二人。
大丈夫、こんなの慣れてる。今更気にするようなことじゃない。
俺はこんな奴らと話すことは何もないので再び反対側を向き、二人に声をかけて歩を進めようとした。
「おいおいなんで逃げるんだよー。同じ日本から無理やり連れて来られた被害者仲間だろ。仲良くしようぜ」
さっきまであんなふざけたことを言ってたくせに、よくもそんな口が利けるもんだ。
「ユウマさん。お知り合いですか?」
俺がコイツらに苛立ち始めていると、小声でアイリスが話しかけてきた。耳に当たるアイリスの吐息が……じゃなくて!
「……いや、そんなんじゃないよ。こんな奴ら知らないし、知りたくもない」
俺は本当のことを口にした。
こんな奴ら俺にとってなんでもない。ただクラスが同じなだけの同い年の人間だ。
「ひでー! オナクラじゃん俺たち。心配してたんだよー。入学式以来来ないからさー」
「そうそう。俺たちチョー心配でさ。勉強捗んなくてー」
イライラする。コイツラの口、『フリーズ』で固めてやろうか。
「そうだ引きニートくん。レベル今どんくらい? 俺たちはとりあえず十五なんだけどさ。いやー、この辺りの魔物が弱くて最近つまんないんだよねー」
「あー! それわかるわー! やりがいがないって言うか、やり足りないのな!」
「それで本当に引きニートくんってなんレべ? やっぱりゲームとか詳しいからこの世界では強い感じ? 寝ないでレべあげしてもう二十とか?」
「なにそれマジやべー。笑い止まらねえわ!」
早くコイツラから解放されたかった俺は仕方なく情けないレベルを口にした。
「……一だよ」
「え? 今なんつった?」
「だから、レベル一だよ。最低レベル……」
「……。ぎゃはははははっ! なにそれマジウける! なんでチートもらっておいてレベル一なの? 笑いとまんねー!」
「や、やめてやれよ。に、ニートくんだってきっと頑張ってるんだよ……ププッ」
俺のレベルを知ったとたんに周りの目も気にせず笑い出すリア充二人。
あれ? なんで俺こんなみじめな気分になってるの? こんなのもう慣れてるじゃん。今までだって散々バカにされて生きてきたじゃん。
何をやっても上手くできなくて、どんなに努力しても報われなくて、だから全部諦めて、バカにされ続けてたじゃん。
なんで今更傷ついてんのさ俺……
「『ファイヤーボール』!」
俺がなぜか凹んだ気分になっていると、目の前に大きな火の玉が現れた。正確に言えば、俺とこの二人のリア充の間に、だが。
「『スプラッシュ』!」
それを追撃するように巨大な水の塊が二人の前で爆散する。
「なによ。さっきからユウマに嫌がらせしちゃって。正直言ってやってることが三下なのよ。にいと? とか、おたく? がなんなのか知らないけど、ユウマをバカにするんなら私が許さないわよ」
「わ、私もです。ユウマさんを傷つけるんなら私も許しません。私たちはあなたたちにお話はありません。早くどこかに行ってください!」
「……リリーナ。……アイリス」
俺は前に立っている二人の女の子を見た。
一人は気が弱くて、臆病で、弱っている魔物にまで回復魔法を掛けてしまうような優しい女の子。
一人は気が強くて、無鉄砲で、誰よりも真面目に最強の魔法使いを目指している女の子。
そんな女の子二人が俺を庇うように目の前に立っている。
なんだが、心が少し暖かくなるのを感じた。
「……プッ。なんだよ女の子に庇われてやんの。だっさ」
「ないわー。女の子に庇われるとかマジないわー」
「……お前らいい加減に……」
俺が口を開こうとすると、それを遮るように二人の内の一人が口を開いた。
「でもー。君たち二人とも可愛いよね? どう? 俺たちのパーティーに入らない? 俺たちすごいステータスの持ち主ばかりが集まってるんだけど、君たちなら可愛いから歓迎するよ。そんな屑より俺らと来た方が絶対に楽しいって」
「そうそう。そいつさ、毎日家に引きこもって親を泣かすような人間のクズだぜ。君たちも何か弱みを握られて無理矢理パーティー組まされてるんでしょ? それならさ、俺たちがコイツのことぶちのめしてあげるよ。大丈夫、俺たち強いから負けないよ」
そんな好き勝手なことを言ってくれるリア充二人。
でも、さすがにこれは何も言い返せない。
俺は恥の多い人生を送ってきた。学校で少し嫌なことがあったからって家の自室に引きこもって、母さんを散々泣かせ、親父に散々迷惑をかけた。美香にだって俺は数えきれない迷惑をかけた。
この世界に来てからだって、アイリスとリリーナがいなかったらきっと俺は今ここにいない。街の外でのたれ死んでいる事だろう。よくてホームレスだ。
アイリスやリリーナだって少し問題があるだけで、最初の街にいるにしてはかなり優秀なのだ。それこそ俺なんかとなんでパーティーを組んでいるのかと疑われるくらいに。
アイリスやリリーナだって、この二人とその仲間と一緒に冒険した方が今よりかなり楽になるだろう。
俺みたいに二人に火力を任せたりすることなんてないだろうし、周りのチート持ちが大抵のことは何とかしてくれる。
そんな考えようによっては超最高のモテナシが何の代償もなしで手に入る。そんな状況だ。きっと二人ともあっちに行くことを望んでいる。俺なんかと毎日苦労して冒険するよりも遥かに楽な生活ができるって理解してるはずだ。
アイリスなんかは優しいから俺に同情して我慢しようとするかもしれないが、そんなこと俺がさせるわけにはいかない。
この世界で俺に優しくしてくれた女の子にそんなことはさせられない。
……はあ、こっちに来てから約一週間。楽しかったなー。
諦めモードに入り、せめて涙なんて情けないものは出すまいと上を見上げる。
これが今の俺にできるせめてもの抵抗だった。
「誰があんた達みたいなパーティーに入るもんですか! 確かにユウマは私が魔物に囲まれてても放置したりするし、風魔法でローブをめくるような変態だけど。なんだかんだで私たちを助けてくれてるのよ! そんなユウマがクズ? 笑わせないでほしいわね。クズって言うのはあんた達みたいな礼儀を知らないで他人をバカにすることしか出来ないバカのことを言うのよ」
俺が一人絶望している中、リリーナがいつものように強気で言った。
「んだとこのアマ! ちょっとかわいい顔してるからって付け上がりやがって!」
そんなリリーナの言葉が気に食わなかったのだろう。二人の内一人がリリーナに掴みかかろうと近づく。
「『スプラッシュ』!」
リリーナに掴みかかろうとした奴にアイリスが魔法を放った。
あの、魔物にすら魔法を撃つことにためらいを覚えるアイリスが人に向かって魔法を撃った。
「リリーナさん、大丈夫ですか!?」
「ええ、助かったわアイリス」
リリーナの無事を確認したアイリスが再びリア充二人に向き直る。
「女の子にいきなり掴みかかろうとするなんて最低です! それにさっきからユウマさんをバカにして……。あなたたちがユウマさんの何を知ってるって言うんですか! ユウマさんは優しい人です! 弱ってる魔物に回復魔法を掛けてしまう私を、優しい女の子だって言ってくれた唯一の人です! ……確かに少しエッチな所もありますが、本当に誰かが嫌がることはしません! 貴方たちとは違うんです!!」
本当はこんなこと言うのは怖いはずのアイリスが俺のために五つは年上の男に食って掛かる。
「くそ! 頭キタ! おい、コイツラちょっと痛めつけてやろうぜ!」
「ああ! 悪い子には少し痛い目を見てもらわないとな! お仕置きってやつだ!」
リア充二人がアイリスとリリーナに飛びかかろうとする。
二人は臨戦態勢を取っているがアイツラはチート持ち、勝てるとは思えない。
おい、ユウマ! お前はこんな情けない男でいいのか。自分のことをこんなに一生懸命庇ってくれている女の子たちに何も報いないで終わるのか。
……そんなの……男じゃねえだろ!
「『フリーズ』!!」
俺は魔法を唱える。
リア充二人は俺の『フリーズ』によって足を取られてその場に無様に転ぶ。
「プププー。……だっさ。こんな何もないところで転んじゃって恥ずかしくないのー?」
俺は唯一最初から自動的に所持しているスキル『挑発』を発動させていた。もちろんセルフだけど。
さっきまで俺のことを散々バカにしてくれたんだ、これくらいは許されるだろう。
「てめぇ! クソニート!」
リア中の内の一人がそんな三下よろしくな発言をしながら俺に殴りかかろうとする。
しかし、足元はまだ俺の『フリーズ』で凍ったままだ。
つまり―――
「くがっ!」
殴りかかろうとしても足が動かなくてその場で転ぶだけ。
「うっわー……。学習能力ないのかよ……。これで高校生とか親が泣いちゃうわー。ねえー、奥さん」
奥さんなんてどこにもいないし、お前が親が泣いちゃうとか言うなって言うツッコミはなしの方向でオナシャス。
というわけで、二度目のセルフ『挑発』
その効果は絶大のようで、リア充二人がこめかみに皺を寄せて怒りを露わにしている。
騒いでいたからだろうか。いくらここが大通りとはいえ俺たちの周りには人だかりができていた。冒険者や買い物途中のおばちゃん。その辺で遊んでいただろう子供たち。いろいろな人が俺たちを囲むように集まっている。
……目立つのヤダなー
そんなことを考えながら、俺はリア充二人に向き直る。
「おいおい、そんな怖い顔すんなよ。俺怖くて足がガクブルの腰が引け引けでションベンちびっちゃうよー」
俺はそんな挑発にしかならないセリフを凝りもせず吐く。
いい加減我慢の限界を迎えたのか、リア充二人のうちの一人が固まったままの足をイライラしながらどうにかしようとする。
「くそが! おい、マサト。お前の弓で氷だけ壊せよ」
「ああ。任せとけ!」
そう言うとマサトと呼ばれた弓使いは弓を弾いて見事にもう一人の足元の氷だけを器用に壊した。
たぶん弓関係のチートか、命中率のチートだろう。
そうでなければさすがにこんなことができるはずがない。
「よし、ナイスマサト。アイツをボコスのは俺に任せとけ」
「ああ、頼んだぜハルキ」
ハルキと呼ばれた足元の自由になった方のリア充が俺の方にゆっくり歩いてくる。その手には何も持ってないし、腰にも剣や杖はなさそうなので素手で戦うスタイルなのだろう。
アイリスとリリーナが俺の隣に並んで一緒に戦おうとしてくれたが、俺はそれを手で制した。
仮にも相手はチート持ち。なんの力を貰ったのか知らないが、そんな危ない奴と二人を戦わせるわけにはいかない。
それに二人は既にヒロインっぽいことをしてくれたのだ、なら次は俺が主人公っぽいことしないとダメだろ。
「なんだ、お前一人で俺の相手をしてくれるのか引きニート。調子乗りやがって。チートを与えられたところで雑魚は雑魚なんだよ!」
そう言うと目の前にいたはずのハルキが消えた。
「!?」
流石になにが起きたのかわからなかった俺に更なる驚きが襲う。
「くあっ!」
「ユウマさん!」
「ユウマ!」
なんと眼前にいきなりハルキが現れ、俺の鳩尾を殴ったのだ。あまりの激痛に俺はその場にしゃがみ込んだ。
そんな俺を見てアイリスとリリーナが悲鳴にもひた声をあげる。
「おいおいニートくん。もう倒れちゃうの? なっさけないなー。さっきはカッコつけてたのに。……まあ、お前が倒れたら次はそっちの二人に行くんだけどな……」
そう言ってハルキとかいうリア充はアイリスとリリーナの方を向く。アイリスとリリーナはさっきの意味の分からない動きに驚き、怯えている。リリーナがアイリスを庇う様に少し前に出て、アイリスを少し後ろに下がらせる。
しかし、意味のわからない状況への恐怖がリリーナの手を少し震わせる。
「させるかよ! 『スプラッシュ』!」
背中を向けていたハルキに魔法を放つ。
「おおっと危ない。後ろからとかニートくんは卑怯だなー」
渾身の不意打ちも見事に躱されてしまった。
「まあ、ニートくんの攻撃は俺には当たらないよ。だって俺のチートの能力敏捷性の急激な上昇だから。さっきのもそれだよ。お前じゃ俺を捕えることも出来なきゃ、まともに見ることもできない」
何となく察していたが、やっぱり敏捷関係のチート持ちだったか。流石にあのスピードじゃ俺の『逃走』スキルでも相手にならない。
相手はもはや瞬間移動みたいに動くチートだ。テレポートをMPなしで使い放題みたいな相手に『逃走』スキルなんて焼け石に水だ。
それにスピードとは一番のチートステータスだ。動きが早ければ攻撃が当たらない。つまり完璧な防御だ。そして素早い攻撃は防ぎにくく回避もしにくい。そして早い拳はダメージも大きい。
ゲームなんかでは行動の順番くらいにしか考えられないステータスだが、実際の戦闘のことを考えれば早さとは攻撃と防御を兼ね備えた。最強のステ―タスだ。
俺はそれを何度も脳内異世界シミレーションで経験した。
そんなチート中のチートを相手に、元からなんの素質もなく、何の才能もない。挙句の果てに女神様からチートすらもらえなかった俺にコイツを倒せるのだろうか。
勝手に気持ちがネガティブになる。
「ほらほらほらっ! そっちも女神からもらったチート使わないと勝てないよ。それともなに? 出し惜しみ? そんなんで勝てると思ってんの?」
ハルキとかいうやつが俺を殴りながらそんなことを言ってきた。
俺はその痛みに耐えながら、言う。
「……ねえよ」
「え、なに? 聞こえなーい」
「だから! 俺にチートなんてねえって言ってんだ! 『スプラッシュ』!」
俺は言葉を言い切ると同時に魔法を詠唱する。
しかし、それも簡単に躱されてしまった。
「え? それマジ? ニートくんチートもらえなかったの? フッ、ウケる。そんなんで俺に勝とうってんの? 流石に舐めすぎだわ」
そう言ってハルキはまた姿を消す。正確には俺には見えないような素早い動きで消えているように見せている。
俺に確認できるのはアイツが少し前に蹴ったと思われるところの砂煙くらいだ。それすらまともに追うことができない。
流石に早すぎる。
アニメなんかでは目を瞑って気配で相手の場所を探る。みたいな高等技術でこのような場合対処するが、生憎俺にはそんなシックスセンスみたいなものはない。
そんな絶望的状況の中、とりあえずショートソードを構えてみるも攻撃を受けることもできない。攻撃をすることもできない。適当に剣を振っても当たりやしない。
そんな自分の攻撃が攻撃にならず、防御が防御にすらならない状況で俺は一方的に攻撃を貰っている。右から来たと思えば左から、下から蹴られたと思ったら上から踵が落ちてくる。そんな一方的な蹂躙を受けていた。
……いたい。倒れてしまえば、どんなに楽になれるだろう。
何度もそう思った。でも、倒れたら、俺の大切な仲間がやられる。それだけはあってはならない。
だから俺は倒れない。
倒れなければ負けじゃない。
そんな気合いだけでなんとか立っているだけの状況の中、俺は隙を見ては少しでも牽制になればと『スプラッシュ』を放っている。
まあ、どれも掠りもしないわけだが……。
「『スプラッシュ』! 『スプラッシュ』! 『スプラッシュ』!」
それでも俺はバカの一つ覚えの様に『スプラッシュ』だけをひたすら、そこら中に撃ちまくる。
下手な鉄砲数うち当たる作戦だ。最早作戦ともいえない作戦だが、今の俺にこんな圧倒的なチート持ちに出来ることはこれぐらいしかない。
そんな俺の反抗も相手からしたら楽に避けられる部類なのだろう。息を吸うかのように俺の放った魔法を回避していく。
一発くらい当たれってんだ!
そんなことをしているうちにまた顔面を殴られた。口元からは血が出てきていて、袖で拭うと血がべっとりと袖に媚びりついた。口の中も鉄の味がする。体は全身に痛いし立っているのさえ辛い。視界もぼんやりしてきてなんだか視界が揺れている。
それでも俺は悪あがきの様に『スプラッシュ』を放ち続ける。
剣を振り回すよりは当たる可能性が高いと判断したのだが、やっぱり無謀だっただろうか。
いや、そんなこと言ったらチートをもらえなかった俺が、こいつらチート持ち二人に喧嘩を売っていること自体が無謀なのだ。
確かに今まで無謀なことも少しはやってきた、スモールゴーレムなんかがいい例だ。後で受付のお姉さんに聞いてみたところ、スモールゴーレムは中級レベルの冒険者が四人集まってやっと倒せるか倒せないかというくらいこの辺りでは強い魔物だったらしい。
でも、そんな無謀とも思われる相手に俺たちは勝った。俺とアイリスとリリーナは勝った。確かに一人一人は弱いかもしれない、でも、力を合わせて勝った。
諦めなければいつかは勝てる。
どこかでこんな言葉を聞いた。諦めたらそこで戦闘終了だ。と。
「……うぐっ……ぐはっ」
しばらくハルキとかいうやつに弄ばれ、俺の体もとうとう限界が近づいてきていた。さっきまで感じていた全身の痛みも感じられなくなってきたし、心なしかさっきより視界が狭い。
たまに視界が暗転して、そのまま転びそうになる。
「もう止めてください! ユウマさんが死んじゃう!」
そんなアイリスの声すら、うっすらとしか聞こえない。
流石にもうまずいか……
「ユウマ! もう倒れちゃいなさい! アンタはもう十分頑張ったわよ。誰もユウマを笑ったりしないわ。それにこれだけの人がいるもの、アイツらも私たちに変なことはできないはずよ」
リリーナも珍しく俺を心配してくれているようだ。
……ハハハ。ホント……主人公っぽくねえな俺。夢にまで見た異世界に来てまでいじめに合うとか散々すぎる。
普通こういう異世界もののストーリだと俺TUEEEしたり無双したり、誰かのために必死こいて事件に全力でぶち当たっていくもんなんじゃないの? それがカッコイイ主人公ってやつなんじゃないの?
「……でもまあ、そんなカッコいい主人公は俺には似合わねえよな」
そうだ。俺にはそんな格好いい主人公は似合わない。
俺は最弱で、最底辺で、誰よりも弱くて、それなのに諦めが悪くて、足掻いて、もがいて、必死にしがみ付いて、みっともなく生きていく。
そんな主人公っぽさの欠片もない奴でいいのだ。
モブだって構わない。みんなを守るようなカッコイイ主人公なんて俺には似合わない。
俺は主人公になりたいんじゃない―――
「もうそろそろ飽きてきちゃったよニートくん。もう終わりにしよっか」
「そうだな、もう終わりにしよう」
俺がなりたいのは―――
「……もちろん勝つのは俺だけどな」
守りたい人を守れるやつだ。
「は? 何言ってんの? この状態でまだ勝てると思ってるわけ? 頭イッテんじゃないの?」
「どうだろうな。でも、少なくともお前なんかよりはまともな頭をしてるつもりだよ」
「っ!! てめえ! 半殺しくらいにしてやろうかと思ってたけどやっぱやめるわ。……ぶち殺す!」
明らかな怒りを露にしたハルキが再び俺を一方的に攻撃しようとチートを使って動き出そうとする。
俺はあいつが動き出す前にとっておきの魔法を唱えた。
「『フリーズ』!!」
「はっ! 今更そんな初級魔法なんざ当たらねえよ。さっきは油断してたから当たっただけだ。自惚れんな最弱!」
アイツは完全に俺と俺の使う初級魔法を舐めている。
でも、それはそうだろう。だって俺の魔法は普通に撃ったところでアイツに掠りもしない。簡単に見切られて息を吸う様に避けられる。
それはさっきの『スプラッシュ』の嵐で証明済みだ。
さっきの『フリーズ』だってアイツの言うとおり油断していたから当たっただけで、今のような戦闘を意識している状態で当てるのは絶対に無理ということはないが、非常に困難だ。
じゃあ、俺が適当に『フリーズ』を放ったのかというとそれは違う。俺にはちゃんと作戦があって氷属性の初級魔法『フリーズ』を放っている。
『フリーズ』の特性、それは対象のものを凍らせる、または小さな氷の生成だ。なぜか氷魔法だけは初級魔法の『フリーズ』が魔力を習得属性のものに変えられる呪文を併用している。
そして俺はちゃんとこの『フリーズ』性能をわかった上で使っている。
俺は決してアイツを狙って魔法を放っていない。
きっとアイツらは自分の得意なことや、威力のぶっ飛んだスキルだけにポイントを割いているのだろう。それは決して間違いではない。ゲームの中でならむしろ正しい判断とも言える。得意なものだけを伸ばす。これはゲームの中では当たり前の判断である。
威力が高いものだけをたくさん取ると言うのは間違いだが、こいつらの持つチートによってはそれも正解へと形を変える。
でも、それはゲームの中での話だ。それが現実になった場合少し話は違う。今の様にゲームが現実になった場合、大事なのは一点集中の火力よりも様々な時に対応できる柔軟さだ。
それを今、アイツに見せつけてやる。
「どうしたよ。ほら、俺をまた殴るんだろ? チートを使わなきゃまともに戦えない、女神様のチートのおかげで強くなっただけなのに自分が強いとか思っちゃってる勘違い野郎」
俺は早くアイツに動いてほしいので中指を立てて再び挑発を飛ばす。
といっても俺の紛れもない本心なわけだが……。
アイツラは女神様からそれぞれ何かしらのチートを授かって、最初から十どころかそれ以上を持ってこの世界を生きてきたのだろうが、俺は違う。
何の気まぐれなのか、女神様は俺にはチートを与えてくれなかった。それどころかステータスは平凡より少し低い、職業も冒険者、一どころかマイナスのスタートだ。
そんな俺がなんで最初からすべてを持ってた奴らにバカにされなきゃならない。
俺が味わってきた苦労を何一つ経験していないコイツラになんでこんなに言われなきゃいけない。
ふざけんじゃねえよ!
俺やアイリスやリリーナはそれこそ本当に命を掛けて戦ってたんだ。コイツラみたいに約束された勝利なんて何一つなかった。コイツラが簡単に倒してしまうような相手にも全力で戦ってきた。
そんな苦労しかしてこなかった俺たちが、なんでこんな何一つ苦労もしてこなかった奴らにバカにされなきゃならないだ。
俺はそう思って、ここ最近俺と一緒に戦ってくれているアイリスとリリーナの方を見る。
二人はボロボロの俺を心配そうに見ている。心配かけまいと全身の感覚がマヒしてきている中、それっぽい笑顔を作り、アイリスとリリーナに向ける。その上痛い体に鞭を打って、親指を立ててグー! までしてやった。
すると、アイリスが声を掛けてきた。
「が、頑張ってくださいユウマさん! ユウマさんならきっと勝てます!」
続いてリリーナが。
「そうよユウマ! さっきは倒れちゃいなさいとか言ったけど、ここまで来たらそのバカやっちゃいなさい! 負けたら承知しないわよ!」
……はあ、なんだよ。こんな応援されたら、もう負けられないじゃん。
……負ける気なんかさらさらないけど。
「おーう。まかせとけー!」
俺は二人の声援に精いっぱいの声で答えた。
体が痛い? 全身がマヒしてきてる? そんなの今のアイリスとリリーナを見て全部癒えちまったっての!
やっぱ美少女ってスゲーは。見てるだけで癒されるんだもん。
そして見たくもない野郎の方を向く。
「なにが任せとけだよ引きニート。それに俺が勘違い野郎……だと? クソニートの癖になに調子こいてんだよ雑魚!」
そう言ってアイツは動き出した。
―――動き出してしまった。
「死にさりゃーっ!!」
アイツはさっきのようにチートを使って突然近くのお店にすごいスピードで突っ込んだ。
運悪くアイツによる被害を受けたのは果物などをたくさん置いている店だった。
アイツが店に突っ込んだせいで木箱に入っていたリンゴやら知らない果物らしきものが辺りに散らばった。
店自体も木でできている簡易的なものだったのでもうボロボロだ。直すこともできないだろう。
ご愁傷様です。
そして俺はそのお店に突っ込んでいったアイツに話しかける。
「おいおい、何やってんだよ。俺はここだぜ。なに人様の店を荒らしてんだよ」
俺がそう言うと、アイツがリンゴやら木箱の中からはい出てきた。眉間に皺を寄せすごい怒ってる。
おー、こわっ!
「お顔の皺と皺を合わせて、なーむー」
怒りで眉間がピクピク動いているあいつにさらに挑発をしようと懐かしいCMの真似をする。手を合わせてあいつに対して下げたくもない頭を軽く下げる。
「ってめえ! クソニート!」
学習能力がないのか、それともイラつきすぎて冷静な判断もできなくなっているのか、再びアイツが俺に向かって突っ込んで来ようとする。
もし、後者だったなら完全に俺の思惑にはまっている。
怒りに身を任せた行動をしようとしたあいつが今回は動くことすらできずその場で派手に転んだ。
おー、痛そー。
「おー、痛そー。おいおい、本当に何やってんの? チート持ってるくせに負けちゃうの? クソニートとか馬鹿にしてた奴に負けちゃう? それって君はくそニート以下ってことなんじゃないの?」
再びセルフ挑発。もう正直、さっきまでの仕返しという意味しか込めていない。
「……バカ抜かしてんじゃねえよ」
こんなことを言っているが、もうコイツが俺に勝てる可能性はない。
コイツの動きは既に制限が掛かっている。それはチート能力の代償なんかではない。俺の作戦によって動きに制限が掛かっている。
これで俺はアイツの攻撃を少しの動きで躱す事ができる。
というか、アイツはまともに俺に攻撃すらできないだろう。
「バカはお前だよ。足元をよく見てみろ」
俺はそう言って自分の足元を見るよう地面に向かって指を指す。
「……な、なんだよこれ! いつの間に!」
アイツが地面を見て驚いた。
まあそれも仕方のないの事なのかもしれない。俺だって自分のいるところの地面がいきなり土から氷に変わってれば飛んで驚くだろう。
そう―――
―――地面が土から氷に変わっていれば―――
今俺達のいる周辺の地面は一面氷だ。それはもう小さなスケート場みたいに。
そしてそんなところで高速で移動したらどうなるだろう。そんなところで地面を足で思いっきり蹴ったらどうなるだろう。
簡単だ。動きが止まらなくなるか、コケる。
途中で方向転換なんてできないし、アイツも自分のチートを使いこなせなくなる。
それはつまりアイツの自慢の敏捷が意味をなくすということだ。
「お前、俺がただバカみたいに『スプラッシュ』を撃ってたと思ってんだろ?」
俺は状況がまだ呑み込めていなそうなアイツのために説明をしてやる。
「俺はちゃんと目的があって水魔法の『スプラッシュ』ばかりを使ってたんだよ。もちろん、その目的は地面を水浸しにすること」
そう、俺はただ闇雲に当たる可能性に掛けて『スプラッシュ』を撃ってたんじゃない。そりゃあ当たればラッキーくらいには思ってたが、本来の目的はそんなところになかった。
「お前の動きは確かに早い。だから俺はその足を止めることにしたんだ。でも、さっきみたいに『フリーズ』で足を固めようとしても、お前は簡単に避けるだろ? だから俺は違う作戦を考えた。地面を水浸しにして、『フリーズ』で凍らせた」
俺の本来の目的、それはアイツの最大の武器であるスピードを奪うこと。それさえ奪えばアイツはもうただの一般人と同じだ。
だから俺はワイルドボア戦と同じように床を一面水浸しにして『フリーズ』によって凍らせ、氷の地面を作り出した。
そうすればさっきみたいにコイツのチートは意味をなくす。
さっきみたいに関係のないところに突っ込むか、その場で派手に転ぶ。例え運よくこっちに来れたとしても、俺はアイツが動くと思ったら少し横に避けるだけでいい。だって、今のアイツは直線的な動きしかできない。
ワイルドボアの動きが超早い版だ。
そんな奴の攻撃が俺に当たるはずもない。
もしあいつが自分から動かなかったらこっちには初級魔法がある。遠距離にだってこの場で攻撃できる。
あいつはもう俺に対する有利性が一切ないのだ。
「さーて、よくも今まで好き勝手言ったり、やったりしてくれたな。それどころか俺の仲間に乱暴しようとまでしやがって」
「糞がっ!」
本当に学習能力がないのか、アイツは再び高速で移動した。
―――近くの壁に向かって
超スピードで壁に激突したものだからあいつが鼻から血を流して倒れた。
きっとさっきまでみたいに俺を横から攻撃しようとでもしたのだろう。そんなことしたら絶対にこっちには来られないのにバカな奴だ。
それからもアイツはバカの一つ覚えみたいに高速で移動しようとした。しかし、どれも全部失敗。
壁にぶつかるか 近くの店に突っ込むか、周りのギャラリーに突っ込んで真ん中に戻されるか、その三択だ。俺は一歩も動いていない。
「ちくしょー! なんで俺がこんなチートも持ってない引きニートに劣ってんだ!」
「悪かったなチートも持ってない引きニートで……。……お前に一つ良いことを教えてやるよ。俺の日本にいた頃のネットでの二つ名的なやつ」
俺は日本にいたときにネットゲームの中で二つのよく似た二つ名で呼ばれていた。
「『課金殺しのユウマ』、『チートブレイカーユウマ』」
それが俺のネット界での二つ名。数多の課金プレイヤーを無課金で倒し、数多のチート使いをチートなしで屠ってきた。俺の二つ名。
本当はめっちゃ課金したかった。チートは使いたくなかったが公式でチートみたいなことはしたかった。そんな俺が両親を泣かすに泣かせ手に入れたものの一つ。
それがこの二つの二つ名だ。
「俺にチートなんて通用しないから覚えとけよ。通用するのは最初の一回だけだ。そこんとこも覚えとけ」
俺がネット界での二つ名を教えてやると、ハルキとかいうやつとその仲間のマサトとかいうやつが怯えた風に少し震えた。
俺はそんなハルキの方にスケートの要領で滑って近づき言ってやる。
「それじゃあ今度はこっちから『スプラッシュ』!」
まず、威力を極限まで抑えた魔法で全身を濡らしてやった。
ここまでは前座だ。お楽しみはここから―――
「『ボルト』!」
『ボルト』それは雷属性の初級魔法。手から電気を放つことのできる魔法だ。威力は使ったことがないから不明だが、他の魔力の属性変換の威力を鑑みるに、弱いスタンガンくらいの威力な出そうな気がする。
それが水浸しになったハルキとかいうやつに直撃する。
そうするとどうなるだろう。ただでさえ人は身体に電気が流れれば痛い。電力によっては激痛だし死に至ることもある。
それに加えてアイツは全身俺の魔法でずぶ濡れだ。電気の通しもよくなっている。
それはもう結構な痛みになっていることだろう。
まあ、さすがに俺も人を殺すつもりはないし、威力は限界まで抑えてある。少し痛いぐらいだろう。濡らしたのだってちょっとした嫌がらせだ。
「あががががががっ!」
「ありゃー、やり過ぎたかこれ? お? でもちょうどいい感じに痺れてる?」
俺の予定通り、ハルキとかいうやつは少し煙を上げてはいるがうまいこと体が痺れたようだ。気絶もしていない。
俺の勝利が確定した瞬間、周りのギャラリーからすごい声援が送られる。
「アイツラに勝ったぞこの兄ちゃん!」とか「良くやってくれたぜ! にーちゃん!」とか、「ありがとうねお兄ちゃん! 今度うちの店に来てくれよ!」とか、なぜか俺を褒め称える声が多く聞こえる。
どうせなら美少女に「結婚してー!」とか言われたい。
そんな声援を無視して俺はもう一人リア充にも同じことをしようと近づく。
もう一人の方は足がまだ『フリーズ』によって動きを封じられているから簡単だ。
アイツは俺が向ってくるのが怖いのか泣きそうな顔で弓を構える。俺は弓を構えたのを確認すると、弓の弦を『フリーズ』で凍らせた。これでもう弓は使えない。
「ひ、ひいーっ! わ、悪かった! 俺たちが悪かったからゆるしてくれー!」
みっともなく命乞いを始めるリア充一名。
そんな時天使の声が響く。
「ゆ、ユウマさん。もういいじゃないですか。ユウマさんは勝ったんですよ? 確かに散々バカにされて怒っているのはわかりますが、もうこの人たちは反省してます。許してあげましょう? お願いしますユウマさん」
そんな天使アイリスの言葉に俺の決意が若干揺らぐ。
「わかったよアイリス。俺の仕返しはやめる。……でも、アイリスとリリーナを傷つけた罰は受けてもらう。大丈夫、そんなひどいことはしないから」
そう言って俺は少し痛む体を動かしてアイリスの頭をなでる。
そんなことをしているとリリーナも俺のところにやってきた。
「ユウマ! あんたすごいじゃない! こんなわけのわからない連中に勝っちゃうなんて!」
リリーナが少し興奮気味に言ってくる。
「たまたまだよ、たまたま。こんなのにまともに戦って勝てるわけがないだろ? 俺の弱さは二人が一番よく知ってるだろうが」
「そんなことないわよ。なんだかんだでユウマはすごいもの。……あと、私たちのために戦ってくれてありがとね」
「……リリーナがそんなに素直にお礼を言うとなんだか怖いんだが……」
「なによーっ! こっちがちょっと素直にお礼を言ったら調子に乗っちゃってー! 絶対に許さないわ!!」
「……あはは。いつものことですけど仲良くしましょう? ユウマさん、リリーナさん」
アイリスの仲介によって、落ち着きを取り戻す俺たち。
「……さてと。……それじゃあ罰は受けてもらおうか。安心しろよ、天使アイリスがなるべく痛くないようにって言うから痛くはしない」
俺がそう言ってアイツラ二人に近づく。
「「ひいーっ!!」」
すると、二人は怯えたほうに体を震わせた。
「フッフッフ……」
俺はそんなのお構いなしに、不敵な笑みで二人の前に立つ。
とにもかくにも、なんだかんだで俺の勝利ということでこの話は幕を閉じた。




