プロローグ
本当にお久しぶりです。
また時間があるときに書いていきます。
「いらっしゃいませーっ!! 本日新装開店の喫茶店、憩いの夢へようこそ!!」
「いらっしゃいませーっ! お客様、お席に案内しまーす!!」
イアの襲撃から早二週間。
ようやくレティシアとレイカのお店が開けるようになった。そして今日が開店初日である。
俺とレイカが考えた服に身を包んだ、様々なお姉さんや少女たちが愛想を振りまきながら客を捌いている。その客の半数以上が男性客だ。
といってもそれは仕方ないことだろう。今日開店したばかりのお店では味や接客での勝負はできない。女の子の可愛さや、お店の外観的雰囲気でしか客が店を判断する材料がない。
とくにこのお店の名物商品―――いや、商品と言えるのかは疑問があるところだが、好きな夢を見させるサービスはまだ公になっていない。今日を皮切りに徐々に人から人へと話が伝わり何よりの宣伝になることだろう。
「あっ! いらっしゃーい。お店の様子見に来てくれたの?」
店に姿をのぞかせた俺にレイカが笑顔で近寄ってくる。
そんなレイカに片手を上げて挨拶を返しつつ、話を広げにかかる。
「ああ、一応俺もかかわってるしな。様子を見に来るくらいはするよ」
「とか言ってぇ、本当は夢サービスを利用しに来たんでしょ? キミたちは体験してるもんね? 本当に売れるかどうか」
「まあな、せっかく来たからには頼んでくつもりだ。レティシアももうタダじゃやってくれそうにないしな」
「商売だからね!」
ニカッと活発な笑みをこぼしつつ、レイカはポルターガイストで水の入ったコップを手繰り寄せる。
「それさ、驚かれたりしないの? というか幽霊だってこととか大丈夫か?」
忘れがちだがレイカは幽霊である。
足こそちゃんとあるものの宙に浮いているし、ポルターガイスト、壁などのすり抜けといった幽霊ならできそうなことの大半はこなせてしまう。
姿だって若干だけど透けているほどだ。
「うん。なんか大丈夫みたい。なんかそういう魔法使ってるんでしょ? みたいに思われてる。何回かどういう魔法使ってるの? って聞かれたし」
「あー、確かに幽霊だって信じるより何かの魔法だって信じる方が普通か」
「そうそう。それでキミ。今日は一人なの?」
「一応アイリスたちも誘ったんだけどな。みんなまだちょっとレイカが怖いみたいでな」
ここに来る前に一応は誘ってみたのだ。だけど三人とも最初の驚かされた第一印象が強すぎるらしく、レイカのこと自体は嫌いではないけれど苦手意識がぬぐい切れないといったなんとも中途半端な心境にいるらしい。
俺の方もなんとかしたいとは思っているんだが、こう言ったことは一朝一夕でどうにかなるとは思えない。
「う~ん。やっぱり最初に驚かせすぎちゃったかな?」
「だな。アイリスはともかくミカとリリーナは元からお化けだとか幽霊だとかが苦手だったみたいだし、それに拍車が掛かったってところだろう」
「うわ~、自業自得とはいえショックだな~」
「そう気落ちするなよ。俺も何とかしたいとは思ってるし、レイカのことを嫌ってるってわけじゃなさそうだから、何度かあってるうちに普通に話せるようになるだろ」
あの三人は別にレイカという一個人を嫌っているわけじゃない。
ただお化けだとか幽霊だとか言う種族? を嫌っている。というか苦手としているだけなのだ。
実際にイアの件でみんなで話し合いをした際には問題が問題だったのもあるんだろうが、レイカは近くにいても嫌そうではなかったし、無理をしている感じもなかった。
だからレイカを幽霊とかお化けと認識しないで一人の人間と意識できるようになればこの話はすんなり片が付くだろう。
「そっか! キミには期待してるからね!」
「おお! 大きな泥船に乗った気持ちでいてくれ!」
「すごい! 何も任せられる気がしない!!」
最初から思っていたことだが、レイカはなんだか話しやすい。
俺は日本で引きこもっていたことからも想像がしやすいように、コミュ障だ。話さざる負えない状況でもない限り知らない人とは会話もしたくない。
異世界に来てからはなにかといろんな人と関わりを持っているから少しは改善されているんだろうが、やっぱり女の子と話すのは苦手だったりする。美少女相手ならさらにだ。
なのにレイカ相手にはなんだか気軽に話すことができている。さて、これはなぜだろうか?
「レイカって美少女だよな? 黒髪ロングの中肉中背、胸だって大きいとは言えないがしっかりと存在を示しているし、今の給仕姿も抜群に似合ってる。幽霊だからなのか元からなのか肌も色白だし、目元もぱっちりしてて俺好み。……なんで俺普通に話せてるの?」
「キミこそなにを人のこと品定めしてるのかな。さすがにそこまで口にされると恥ずかしいんだけど……」
「えっ!? 口に出てたか!?」
「出てたよ! それはもうたっぷりと最後まで出切ってたよ!!」
まさか口に出していたとは。
俺も無自覚系主人公に一歩近づけたな。次は難聴系主人公を目指してみるか。
「はあ~……。まったく、キミはなにを思ってあんなことを言ったのさ」
レイカが呆れたようにため息をこぼしながら俺に聞いてきた。
だから素直に答えることにする。
「いやな、俺は基本的にコミュ障なんだよ。特にかわいい女の子と話すのはすごい苦手なんだ。なのにレイカとは普通に話せてるからさ」
「ああ、それは私とキミが似てるからじゃないかな?」
「は? 俺とレイカが似てる? 俺別に美少女じゃないぞ?」
「うん。さらっと本人を目の前に美少女って言えるキミの精神性については今はおいておくよ。そうじゃなくてお互いにコミュ障だってこと」
「……ますます意味がわからないんだが」
俺はともかくとしてレイカがコミュ障というのはさすがに無理があるだろう。
むしろ気さくで誰とでも仲良くなれそうなタイプに俺は見える。
「……あっ、そうか。ミカと雰囲気が似てるから話しやすいのか」
ここにきて俺はようやくレイカと話しやすい理由にたどり着いた。
俺の中でレイカは気さくで話しやすく、誰とでも仲良くなれるようなタイプに見えている。そしてそれは俺がミカに感じているイメージととても似ていた。
「そりゃあ私の憧れているタイプがミカちゃんみたいなタイプだからね」
「つまりドジッ娘メイドを目指すと?」
「うん、違うね。全くと言っていいほど違うね。そうじゃなくて、目立ちすぎず、だけどみんなと仲良くなれて、誰からも嫌われない。そんな感じかな」
レイカの言っていることは俺の中のミカ像ととても似通っていた。
ミカは美少女ではあるが、絶世の美少女とか100年に一度の美少女というほどではない。本人の目の前で言ったら怒られるかもしれないが、もしかしたらこんな俺でも手が届くかも? とか、そんな風にギリギリ思えるくらいの美少女。それがミカだと俺は思っている。
中学の時にまだ学校へ行ったいた頃の付き合いたい女子ランキングでは常に上位3位まではキープ。ただし1位にはなったことはない。
休憩時間中の男子の会話でたまたま聞こえてきたものでは「水野さんって話しやすいよな。こんな俺にも笑顔で話しかけてきてくれるし」と、日陰者からも親しまれていた。
そして誰からもミカの悪口を聞いたことがない。
「確かにミカはそんな感じだけど、俺からしたらレイカだってそんな風に見えるんだが?」
「そんなことないよ。今みたいな性格になったのは死んでからだもん。生きている頃の私はもっと暗かったよ? 今よりも死んでるといっても過言じゃないね!!」
「それは想像もつかないな」
「まあ、今の私がここまで明るいのはキミのおかげっていうのもあるんだよ?」
「なんと!?」
「だって今までは私と会話してくれようとした人なんていなかったもん。私の姿が見えないか、見えたとしても怖がって逃げ出すかで話す余裕なんてまるでなかった。だからキミと話すまで私はずっと誰とも話せなかったんだよ? いくらコミュ障でもそれは心にきちゃうよ」
レイカの生前について俺はまるで何も知らない。だからそこについては何も言えない。
だけど、死んでからのことは容易に想像できた。確かに俺も他人と関わるのが苦手といっても全く関わらないというのはそれはそれで辛いと思う。
「あれ? でもじゃあなんで悪戯なんかしてたんだ? あれがなければもう少し取っ掛かりがあったかもしれないよな?」
「いや~、それはもういろいろ諦めちゃってたからせめて自分だけは楽しくなろうって思って」
「割とひどい理由だった!」
思ってたよりくだらなくて、結果も自業自得な言い分だった。まあ美少女だから許すけどね。
「それよりキミ、注文はどうするの? 夢サービスを受けに来たんだよね?」
「ああ、とりあえずドリンクはコーヒー」
「はいはい。夢サービスの方は? キミには説明はいらないよね?」
ここの夢サービスはいろいろなオプションをつけることができる。
なにも注文がない場合は担当のサキュバスが特異なジャンルやシチュエーションの夢を見させてくれるが、別途料金を払えば自分でいろいろと決められる。
場所、相手、関係性、その他にも細かなことが決められる。
「ああ、今日は―――」
俺はここに来る前に決めていた。今日はどんな夢を頼むのかを。
だから俺はレイカに言う。自分の中で一番の決め顔を作り、親指を立て、最高にさわやかな声で―――
「レイカにごろごろにゃんにゃんできる感じの夢で頼む」
「本人を前によくそんなことが言えたねキミ!?」
さて、今日は楽しく寝られそうだ。




