20話
というわけで今回のオチ!
「つまりイアは魔王軍で私が冒険者たちに捕まったって聞いて、わざわざ助けに来てくれようとしたのね?」
「うん。そう」
「ちなみに誰に聞いたの? 魔王本人? それで倒して来いって言われたの?」
「違う。誰からとかじゃない。魔王軍の中でいろんな人が話してた」
イアを捕獲し、レティシアの説得あと、とりあえず今回の件についてまとめようということで、俺たちの屋敷にみんなで集まっていた。
そして今はレティシアを中心にイアに事情聴取をしている最中である。
「なあ、俺からもちょっといいか?」
「……お前はレティシアの友達?」
「襲われてる時にそう言ったはずなんだが、覚えてないか?」
「覚えてない。敵の話は聞く必要がない」
「ならイア、ボウヤは大丈夫よ。敵じゃないわ。むしろ私たちにとっていいことをしてくれてる仲間よ。だから殺したりしちゃダメ」
「レティシアが言うなら」
レティシアのおかげで大人しくなったイアだが、決して俺たちと友好的に接してくれるようになったわけじゃない。
質問をすればある程度は答えてくれるし、話しかけても無視されるような事はないが、なんというか借りてきた猫の様に常に警戒心は丸出しである。
「それじゃあ俺からも質問させてもらうな。魔王軍でレティシアが冒険者に捕まったって聞いたって言ってたけど、具体的な名前は上がってたのか? 俺の名前とか」
「お前の名前を聞いたわけじゃない。名前は誰も知らない」
「そうなのか? じゃあどうやって俺たちがレティシアを倒したって判断したんだ?」
問題はそこだ。
今の質問で俺たちのことが魔王軍にバレているって線はなくなったが、まだ安心できるわけじゃない。なにかしらでも俺たちにつながる情報が魔王軍に出回っているんだとしたら、いつ狙われるかわかったものじゃないからだ。
魔王軍幹部を倒したやつがいる。危ないからとっとと殺してしまおう。なんてことになりかねない。
ゲームの魔王みたいに「そんな雑魚は放っておけ。時間の無駄だ」みたいなことを言って将来的に自分を倒す勇者を殺すチャンスをみすみす見逃すとは思えない。
ここは異世界なだけであって、ちゃんとした現実だ。ゲームじゃない。剣と魔法があってもここはリアルなのだ。
「とりあえずここまで来て、この街に魔王軍幹部を倒した人がいるか聞いて回った」
「意外と地味な作業で特定されてた!?」
以外過ぎる回答だった。
さすがに強者特有のオーラのようなものを感じたとか、実力のありそうな出で立ちだったとか言われるとは思ってなかったが、まさかここまで地味な探査をしているとは思ってなかった。
「この子はいい意味でも悪い意味でも単純なのよ。考え方は常にシンプルかつ真っすぐ。素直なのよ」
レティシアがそう補足してくれる。
魔王軍幹部なのに純粋で素直ってそれでいいのか。なんて思ってしまった。
「はあ~。でも残念ね。どうせならもっと名前が知られてた方がよかったわ」
「え? なんで、リリーナ?」
「だってそうじゃない。相手に名前が知られてるってことは、私たちが実力のある冒険者だって思われてるってことよ? そうすれば強いやつらを私たちのところによこすじゃない? そしたら強敵と戦えるってことよ」
「あー、そう言うことね。納得納得」
俺が懸念していたことを待ち望みにしていたリリーナに、ようやくその言い分を理解したというミカ。
まあこの話を聞いてもミカはリリーナらしいな。くらいにしか思わないだろう。ミカは別に戦闘狂じゃない。基本的には俺と同じで平和が一番なのだ。
クエストに行きたがるのだってただ暇なのか、運動がしたいだけ。ただそれだけだ。
「私は安心しました。そんな強い人がたくさん来たら怖いですし……」
リリーナとは反対にアイリスはほっと胸をなでおろしている。
「まったくもって同感だな。命のやり取りなんてないに限る。平和が一番だ」
「ですよね。私も平和な日常が好きです。みなさんでクエストに出かけたり、ご飯を食べたり、一緒にお話ししたり、一緒にいるだけで私は幸せです」
「良い子すぎる!!」
「ユウマにアイリスちゃんの爪の垢を煎じて飲ませてあげたいよ」
「よろこんで!! さあもってこい! 今すぐ刹那の内に!!」
「逆によろんだ!? さすがにその反応はまずいよユウマ! 変態の域を超えてるよ!!」
自分から言い出したくせにわざとらしく驚いているミカに、どうしたらいいのかわからずに、あわあわと混乱しているアイリス。他四名はなんかやってるなー、くらいにしか思ってなさそうだ。
「話を戻すな。イア、もう一度だけ聞くけど、魔王軍は幹部が倒されてることは把握していても、誰が倒したのかは把握してないんだな?」
「そのはず。魔王に聞いても知らないって言われた」
「魔王様本人に聞いたのかよ……」
まさか魔王本人に聞いたのまでは想定外だったが、トップが知らないと言ってるんだったらそうなのだろう。
まあ―――
「仮にも魔族の王ってこともあるから嘘を言ってる可能性も捨てきれないが、嘘を言う必要性もないからたぶん大丈夫だろ」
いくら仲間とはいえ絶対に嘘を言わないという確信はない。
でも今回の件で言えば、俺らの名前を伏せたところで魔王自身になんの得もないので嘘を言った可能性は結構低いはずだ。
「その点はユウマの言う通りでしょうね。私たちの名前を隠したところで意味なんてないわ。むしろこの子が行く気になってるんだったら素直に情報を出して殺させようとしたでしょうね」
「私もその意見に賛同ねー。イアの実力は魔王軍の中でもトップクラスだし、裏切られる可能性もほとんどないに等しいと魔王は思ってるだろうから嘘を吐く意味がないわー」
「み、みんなすごいね……。私なんてそんなところまで考えがいかないよ」
「それは単純にミカの頭が足りな―――」
いだけ。と続けようとしたところで、顔のすぐ横を拳が通り過ぎた。
風の音が耳をくすぐったと思ったら、ミカの拳は俺の顔を通り過ぎていた。
なにこれ怖すぎ……。
「ごめんねユウマ。ちょっとそこに蚊がいたからさ。何か言おうとしてたよね? なに言おうとしてたの?」
ニコニコ笑顔で聞いてきてはいるが、決して心は笑ってないだろう。俺には鬼の形相で怒っている幼馴染様しか見せない。というか後ろに鬼がいる様な錯覚まで見える。
「い、いえ……なんでもございません」
「あははっ! どうしたのユウマ。急に敬語なんて使っちゃってさ」
「めめめ、滅相もございません!!」
こうなったミカにはひたすら下手に出るしかない。
これ以上の怒りを買ったらせっかく助かった命が一瞬のうちに塵と化す。そしてラティファとご対面だ。
「み、ミカちゃんって怒ると怖いんだね……」
この中でミカのこの様子を知っているのはうちのパーティーメンバーだけだ。
だからリリーナはいつものことだと言うようにすまし顔をしている。アイリスもちょっと困惑しているものの、最初のころみたいに大慌てはしない。
レティシアとイアは初めて見るはずだが、レティシアは「あららー、こんな一面もあったのねー」とか他人事で、イアに至っては無関心だった。
レイカだけがこの場で一番ふさわしい反応をしていた。
「はあ……。私からもちょっといいかしら?」
ミカの攻撃に度肝を抜かれてまともに頭を働かせるのが困難になった俺に代わって今度はリリーナが質問飛ばした。
「これはこの子だけじゃなくてレティシアにも聞きたいことなんだけど」
そう前置きした上でリリーナは魔王軍幹部の二人を鋭くにらみつけた。
その手の人には堪らない目つきだろう。だってそっちの気がない俺ですらちょっとぞくっとしたもの。
「私にも? どんなこと?」
「……なに?」
リリーナの鋭い視線にびくともせずに笑顔と無表情で二人は返した。
そんな二人にリリーナも怯むことなく質問をぶつける。
「あなたたちは魔王軍を抜けたってことでいいわけ? それとも、今はそうだけどいざとなったら―――」
言いたいことはわかるでしょ? と言うようにリリーナは口を閉じた。
リリーナの質問の意味はわかる。この二人はまだ魔王軍のつもりなのか、それとも魔王軍は抜けて人間との共存を望むただの魔族なのか。そう聞きたいのだ。
これは俺も聞こうと思っていたことなので正直助かった。レティシアの方はともかくイアの方は友好的なわけじゃない。どうするのかは未知数だ。
「なんだ、そう言うこと。前にも言わなかったかしら? 私は魔王軍が嫌になって抜けてきたって。それに私はもう死んだことになってるみたいだし、魔王軍になんて未練はないわ」
「でもいざとなったらどうするの? ほら、魔王軍が街に攻めてくるようなことあるかもしれないよ? その時は味方してくれるの?」
ミカにしては珍しく良い意見を口にした。でも俺自身はそれを口にしない。
したらやばい。
「人間の味方はしないかもだけど、あなたたちの味方はするわ。お友達だもの」
「その言葉を信用していいわけ?」
「もちろんよ。そりゃあボウヤ達にとっては不安かもしれないけど、私にはこうしか言えないもの」
その言葉を聞いたリリーナがこちらに意見を求めるように視線を向けて来る。
すぐにその意図を察した俺は顎に指を添えてカッコいいポーズを取りながら、とりあえずみんなの意見を聞いてみることにした。
「アイリスはどう思う?」
「わ、私ですか!? ……えーっと、私は信用してもいいのかな? って思います。ユウマさんに変なことをしようとはしますけど、それ以外には悪いことしてないですし」
「そっか。ミカは?」
「私もアイリスちゃんと同じかなー。悪い人には見えないもん」
「レイカは?」
「私も? 私は信用してもいいと思うよ? 最近はお店関係のことで一緒にいること多いけど、普通に街の人と会話してるし、悪いことしてないよ。私が保証する」
三人の意見を聞き終えた俺は、改めてリリーナの方に向き直る。
「だそうだ。ちなみに俺も基本的にはみんなの意見と同意見だ。おまえはどうなんだ、リリーナ?」
「わたしはどっちもでいいわ。何かするようならまた倒せばいいもの」
「だろうな。じゃあレティシアの方は問題なし」
絶対にリリーナならそう言うと思っていた。
それにさっきの質問だってリリーナとしては意味がないのだ。あるとしたら、自分以外の誰かが最悪の展開を想像しているのかを確認したかった。というくらいだろう。
そして俺の言葉、主に「基本的には」、の部分を聞いて、すべて理解したのだろう。
ほんとこういう時だけ頭の回転が速いやつだ。
「イアちゃんはどうなの? さっきはレティシアの店を手伝うって言ってたけど」
レイカの言葉に全員の視線がイアに集中する。
みんなの視線を小さな体に浴びる中、イアは返事をするでもなく俯いた。そしてお腹に手を当てる。
「どうしたのよ」
なかなか口を開かないイアにリリーナが軽い警戒心を持って言葉を投げかける。
他のみんなもはてな顔だ。唯一レティシアだけがくすくすともの知り顔で笑っているが、それがなんなのかを教えてくれる気配はない。
「ど、どうしたんでしょうか?」
ちょっとした沈黙に耐えかねたのか、隣にいたアイリスがこっそり耳打ちしてくる。
美少女の耳打ちってやばい。それを今日俺は知った。
「んー。悩んでる……って感じではないよな? だとしたら―――」
アイリスの質問に何かしらの答えを求めてイアの様子を観察する。
数秒間イアをじっくりと観察して、俺はある答えにたどり着いた。
「ほれ、腕でいいか?」
長い沈黙が続いて、もうそろそろ短気なリリーナ辺りが沸点を突破するだろう時に、俺はイアに近づいて右腕を差し出す。
「……なんのつもり?」
訝しんだ表情でイアがこちらを見上げてくる。
美少女の上目遣いってやっぱり最高です。とか、半分想いながら、あれ? 間違ったか? と半分は不安な思いで俺は訊ねた。
「腹減ってたんじゃないのか? もしくは喉が渇いてたとか」
「ユウマ、さすがにそんなわけ……」
「……そう」
「そうなの!?」
あまりに突拍子もない俺の行動にミカが静止の声をかけてくるが、答えはまさかの大正解。
レティシアと俺以外の全員が驚き顔だった。あのリリーナですら、これはわからなかったらしい。
「腕じゃダメか? 首か? それとも俺なんかの血は吸いたくないか? なら普通の料理で我慢してくれ。レティシアと同じである程度は普通の食い物でもごまかしがきくんだろ?」
「……いいの?」
「いいよ。吸血鬼に血を吸われるなんて経験普通はできないし。でも加減はしてくれよ? 死ぬから。あと味の保証はしないぞ。最後になるべく痛くない感じで頼む」
「……どうして敵の私にそこまでするの?」
「別にもう敵ってわけじゃないしな。こっちの生活を邪魔しないってんなら構わない。それにお前美少女だしな。美少女には優しくってのが俺のモットーだ」
うん。後ろを見ないでもわかる。
たぶんみんな「あー、こいつまたやってるよ。美少女なら誰でもいいんだな。呆れた。」みたいなことを思ってるんだろうが、俺はわかっているからこそ後ろを振り向かないで、見て見ぬふりをする。
「ほれ、かぶっといけ、かぶっと」
そう言って俺が腕を口元に近づけてやると、イアは不思議そうに俺の顔を見つめた。
その顔が年相応の女の子の顔で、可愛らしい。
「……。お前、実はいい人?」
「ああ、俺はいい人だ。稀に見る善人だな」
「嘘だ!!」
「ミカ! お前は黙っとけ! 変な症候群にかかるな!!」
せっかくいい雰囲気だったのにミカがネタを挟んでせいで台無しである。
「お前、名前は?」
「ユウマだ。さっきから何度も聞いてるはずだぞ」
「ユウマ……覚えた」
そう言うとイアは俺の腕にかぶりとかみついた。
チクリとした痛みが腕に走り、注射の時みたいに血が抜かれていくのがわかる。
「……あれ? ねえユウマ。それって大丈夫なの? 吸血鬼に血を吸われた人って確か吸血鬼になるんじゃなかったっけ? ほら、眷属とかさ」
「えっ!? ユウマさん吸血鬼になっちゃうんですか!?」
「ユウマなら問題ないでしょ? どうせ朝はまともに行動しないんだもの」
「リリーナ、それはつまり日が出てるときに行動できない俺を一生養ってくれるというプロポーズととっていいのか?」
「言い訳ないでしょ。ユウマとそんな仲になるくらいなら舌を噛んで死ぬわ」
「あれって意外と死なないらしいけどな」
「い、痛そうです……」
「そんなことよりどうなのさユウマ!!」
ミカの言葉にアイリスとレイカ、それにあんなことを言ってはいたもののリリーナも若干の焦り顔で俺を見る。相変わらずレティシアだけが微笑を浮かべていた。
「大丈夫のはずだ。吸血鬼が血を吸うのには二種類あって、今みたいにご飯を食べる感じの吸血行動と、さっきミカが言ったような契約っぽい吸血行動がある。……はずだ」
「はずって……。キミはバカなの?」
「そう言うなって、それにレティシアが止めなかったってことは俺の言った通りってことだろ? な?」
「あらー、ずいぶんと私を買ってくれるのね。まあ正解よ」
「ほれみろ」
「ほれみろって、結果論じゃん」
「そうですよ。本気で心配しました……」
イアとレティシア以外の全員がほっと胸をなでおろす。
俺だって若干は不安だったのだ。基本的に俺はビビりなのだ。臆病なくらいがちょうどいいって誰かが言ってたしな。
「ところでイアさん? もうそろそろ勘弁ねがいないですかね? ちょっと腕の感覚が怪しくなってきたんだけど」
「むむむ。もうちょっと」
「……あの、完全に腕の感覚がなくなって動かないんですけど……」
「ちゅうちゅう。まだ」
「まって!! なんか体中痺れてきた!! もう限界!! 限界だからぁ!!」
「まだまだ足りない」
どうにか身体を振って腕から離そうと試みるが、イアのかみつき力は高くなかなか離れない。
「ああ! ユウマさんがしおしおになっちゃってますぅ~!!」
「だ、ダイエットに使える……かも」
「自分から言い出したんだから自分でどうにかしなさい」
「キミは勇者だね。ある意味だけど」
「あらあら、イアに気に入られちゃったみたいね。さすがボウヤだわ」
五者それぞれの感想を述べた頃には完全に俺の体は動かなくなっていた。
まずい……。マジで死ぬ。
「ぷはっ。……ありがとう。おいしかった。また食べさせてほしい」
「い、いいけど……今度こそは……手加減してな……頼むから」
なんだかんだとあったが、イアは俺たちと仲良くやっていってくれるらしい。
レティシアが抜けるならあそこにいる意味はないと、魔王軍を抜けると宣言もしてくれた。
問題があるとすれば、定期的に俺の血を吸わせてほしいという点だ。
これからは鉄分を適宜補給しなくてはと、心から思う俺だった。




