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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第八章
190/192

19話

 

「おーいっ! みんな生きてるーっ!」


 どうにかこうにかイアの捕縛に成功した五分後くらいに空を飛んでレイカとレティシアがやってきた。


「おう、なんとかな。というか重役出勤過ぎやしないか? マジで死ぬかと思ったぞ」

「ごめんってば。レティシア探すの時間かかっちゃってさ」

「はっ? 店にいたんじゃないのか?」

「違う違う。買い出しに出かけた上にその辺の喫茶店でサボってたんだよ。おかげですごく時間かかっちゃったよ。見つけてもまだ紅茶が残ってるとか言って動いてくれないしさ」

「おい」

「んふ」


 俺が恨みがましい視線をレティシアに向けると、悪気のない笑顔だけを返してきた。いつもの俺ならその笑顔だけで満足だと笑顔になるが、さすがに今回の件はそうは問屋が卸さない。


「今日は色っぽく笑っても許さないぞ」

「じゃ~あ~。今夜はボウヤにいい夢を見せてあげる。それでどうかしら?」

「……それはリアルの話か? それとも本当に夢の中での話か?」

「うふふ。ご想像にお任せするわ」

「……わかった。許そう」

「ダメだよ」

「ダメに決まってるでしょ」

「ダメですよ」


 良い夢を見られるならと屈服しようとすると、三人のパーティーメンバーに総出で止められた。


「レティシアもレティシアだよ。ユウマは実際にそうなったらヘタレるけど、提案までなら簡単に引っかかるんだからやめてよ」

「そうよそうよ。ユウマはエロで変態なのよ。もし夢を目の当たりにして現実の私たちに被害が出たらどうするつもりなのよ」

「え、えっちなのはいけないと思います……」

「あらあら~。ボウヤはモテモテねえ」

「これをモテてると思えるお前の感性はどうなってんだよ……」


 三人に責められたレティシアは相変わらず悪気のない笑顔で答えていた。

 ただ俺がモテてるというのはやっぱりどう考えても間違いだと思う。仮にモテ期なるものが本当にあるんだとしたら、俺は赤ちゃんの時に既に迎えてしまったんだろう。


「まあ本当のこと言うとね、ボウヤたちなら少し遅れても大丈夫かなって思ってねえ。ほら、せっかくの紅茶ももったいなかったし」

「俺たちの命は紅茶よりも安いのか……」


 さすがにあんまりなレティシアの言い分に肩を落とす。

 俺たちの命が千ギル以下とかさすがにひどすぎる。


「だからごめんなさいってばぁ」


 さすがに罪悪感が湧いてきたのか、レティシアが軽い謝罪の言葉を口にする。

 本来なら命かけてたやつにそんな簡単な謝罪しかないのかよ。なんて言い返しているところだが、今日はもう疲れた。三日間まともに寝てないニートには十分すぎる労働をこなした。

 だからもうレティシアを責めるのは止めにしよう。


「それでさあ、結局イアちゃんだっけ? は、どうしたの? 見たところいないみたいなんだけど? キミたちが倒したんだよね?」


 宙に浮かびながら、わざわざ手を額に当てて周囲を確認するレイカ。

 まあ何も知らない奴がここにイアがいますって言われてもわからないだろう。あるのは目の前にある大きな氷の塊だけだ。しかもその中にはパッと見では何もない。


「あの中よね、ボウヤ?」

「さすがは元お仲間さんだな。あいつの能力もしっかり把握済みか」

「そりゃあね。魔王軍で仲良くしてたのはサキュバス仲間とあの子くらいだったもの」


 そう言って笑うと、レティシアは笑顔のまま大きな氷の塊にゆっくり近づいていく。


「ねえねえキミ。レティシアの言ってることってホントなの? 私には何も見えないんだけど?」

「ああ、ほんとだぞ。一見なにもないように見えるけどしっかりいる……はずだ」

「キミも自信ないんじゃん……」

「しょうがないだろ。俺だってはっきりと見えてるわけじゃないんだから」


 少し呆れたような顔で見てくるレイカに俺はちょっと拗ねた顔で返す。

 だってしょうがないじゃん。ほんとにただの氷の塊にしか見えないんだもん。理論的にはいるはずだけど、実際に確認できたわけじゃないんだからしょうがないじゃん。


「あのー……ユウマさん」

「ん? なんだアイリス?」

「今更のようで申し訳ないんですけど、どうしてあそこにイアさんがいると思ったんですか? さっきから考えてたんですけど全然わからなくて」

「あー、私も知りたーい。リリーナも知りたいよね?」

「ま、まあ、どうしてもって言うなら聞いてやらないこともないわ」

「そういや説明してなかったな。じゃあ教えるからリリーナ以外は耳貸してくれ」

「ちょっと!! なんで私だけ仲間はずれにするのよ!!」

「えー……。だってどうしても教えたいわけじゃないし」

「いいから教えなさいよ!!」


 アイリスの質問から始まった今回の種明かしに事の次第がわかっていないレティシア以外のメンバーがこちらに顔を向ける。


「……照れるな」

「照れてないで教えてよ」

「ちょっとは夢見させろよ。こんなに美少女に囲まれて見つめられるなんてこと普通はないんだぞ」

「そんな~っ。美少女だなんて~。でもありがと」

「美少女ってところだけ反応しやがった」


 あまりにシリアスな感じだったのでボケをかましたら普通に幼馴染にぶった切られた。他のメンバーも漫才はいいから早く教えろという顔で俺を見ている。アイリスだけがちょっと笑って返してくれた。人はそれを苦笑と呼ぶ。


「ごほん。話を戻すぞ」

「脱線させたのユウマじゃないのよ」

「戻すぞ!!」

「はいはい。好きになさいよ」


 リリーナに要らない相槌を打たれながらも強引に話を元のレールに戻して説明を始める。


「とりあえずイアが見えなくなった理由なんだがな。あれはあいつが霧化してたから見えなかったんだ」

「霧化……ですか?」

「そう。霧化」


 アイリスが俺の言葉に小さく首を傾げる。

 そんなアイリスもいとかわいい。なんて思いながらも説明は続ける。


「ミカ辺りは知ってるんじゃないか? ほら、吸血鬼物でよくあるだろ」

「うーん……私は知らないかな。蝙蝠になるのは知ってるけど霧になるのは知らないよ」

「そうだっけか? まあ、今言った通りだ。吸血鬼には蝙蝠以外にも霧になれるって特性があるんだ。イアはリリーナの魔法を避けるために急降下したけど間に合わなかった。蝙蝠になっても避けられそうになかった。だから霧になったんだ。そのままリリーナの魔力切れを狙ってな」

「なるほどね。確かに恥ずかしいことに魔力切れを起こしちゃったものね」


 リリーナが納得はしたけど悔しいという顔で大きな氷の塊に目を向ける。

 そこには笑顔で氷の塊に触れるレティシアの姿もあった。


「でもさユウマ。あの時リリーナが見えてなくても前に炎を向けてたら意味なくない? 霧だって炎は効くよね? 効いたはずだよね?」

「たぶんだけど効くな。だけどイアからすればそうならないと思ってんだろうよ」

「何でですか?」

「イアは霧になってほぼ完全に姿を消した。目を凝らしてみれば変に見える場所があるって程度に周りの景色と同化した。そんなイアからすれば自分の居場所がバレるなんて想定外だったんだろうよ」


 そう。イアの計算外だったのは俺の『敵感知』スキルだ。

『敵感知』のスキルはたとえ視界の中に居なくても、ある程度の範囲内で自分に敵意のある奴に反応する。魔物に至っては敵意がなくても反応する。

 だから俺にバリバリの殺意という名の敵意を向けていたイアに反応を示した。

 けれどイアにはそれがわからない。初めて対峙した相手のスキルまでは把握してなかったのだろう。


「そういうことね。ユウマの『敵感知』のスキルを知らなかったから、自分の居場所がバレることはないと思い込んでて、なら私の魔力切れを狙うと同時に上手く霧のままユウマに近づいて、不意打ちで終わり。っていう流れを狙ってたわけね」

「たぶんな。まあ正直『敵感知』に反応がなかったら適当に杖を振り回させてたから最悪の展開にはならなかったろうけどな」


 わけがわからなくなったらとりあえず全体的に攻撃を仕掛けようとは思っていた。

 だからリリーナの言ったような最悪な展開にはおそらくならなかっただろう。たぶんだけど。


「キミって意外と賢いんだね……。お姉さんちょっと尊敬しちゃったよ」

「惚れてくれてもいいぞ? 俺は美少女ならケモ耳でもエルフでもドワーフでも魔物でも幽霊でもオッケーだ」

「やけにストライクゾーンが広いんだね」

「ユウマはどこに投げてもストライクだからね」

「美少女ならな」


 ちょっと脱線したものの、これでみんなへの説明は済んだ。

 なので先に氷の方へ行ったレティシアに目を戻すと、レティシアは困ったような顔でこちらに戻ってくる。


「ボウヤ、あの氷どうにかしてちょうだい。このままじゃ話すに話せないわ」

「ああ、そういう……。アイリス、どうにかできるか?」

「が、頑張ってみます……」


 頼られたことが嬉しいのかアイリスが疲れた顔をしながらも氷をどうにかしようと魔法を詠唱する。


「ユウマ、疲れてるアイリスちゃんに頼るより私がパーンって割っちゃった方が早くない? アイリスちゃんにこれ以上負担かけるのはかわいそうだよ」

「言いたいことはわかるけど、それでイアが死んじゃったらどうするんだよ。霧化してるからって無敵とは限らないんだぞ」

「あっ、そっか」

「そうだ。少しは考えてからものを言えよ」


 ミカなりにアイリスを気遣ったんだろうが、さすがに命にかかわるような賭けはするつもりがない。


「それじゃあなんで私は頼らないのよ。私の火属性魔法なら一発じゃない」

「リリーナの場合はもう魔力切れだろうが。仮に魔力が残ってても氷諸ともイアを燃やしそうなお前には頼まない」

「そう……まあ仕方ないわね。私が優秀すぎるが故の事だものね」

「あー、そうだな。お前の中では」


 なにやら都合のいいように解釈したらしいご機嫌のリリーナは放っておいてアイリスに目をやる。

 ちょっと息が荒い。さすがに無理をさせ過ぎたか?


「アイリス。無理しなくてもいいんだぞ? 無理そうならファナ辺りを呼んでくるから」

「だ、大丈夫です……。せっかくユウマさんが私を頼ってくれたなら頑張りたいです」


 え? なにこの子? 健気過ぎて辛い。可愛い。尊い。ぎゅっとしたい。

 そんな数々の思いを胸に押しとどめてアイリスを見やる。


「できました。いきます」


 どうにか魔法の詠唱を終えたらしいアイリスが大きな氷の塊目がけて杖を伸ばす。


「『ホットウォーター』!」


 アイリスが魔法を唱えると杖先から勢いよく熱湯が噴き出す。

 見た感じは『スプラッシュ』と同じだ。たぶん違いは冷水か熱湯かだけなのだろう。わざわざ詠唱したのはあれだけの氷を解かすのにはそれなりの火力がいると思ったからだろう。


「ちょっとずつ溶けてきたね」


 徐々に小さくなっていく氷を見てミカが言う。

 確かにこの調子だと二三分ほどで氷は溶け切りそうだ。


「お、終わりましたぁ~」


 三分ほど熱湯をかけ続けた氷が完全に溶けきる。

 霧化していたイアも元の人間の姿に戻っていた。もしかしたら襲いに来るかもと身構えていたが、レティシアがいるからか視線はこっちにやって来たものの、襲ってくるようなことはなかった。

 そしてさすがに限界を迎えたらしいアイリスがへたり込みそうになったので、優しく受け止めてやる。


「あ、ありがとうございます。ユウマさん」

「いいんだよ。アイリスは十分に頑張ってくれたからな」

「……私にもその十分の一でも優しくしてほしいものね」

「おっ? 嫉妬か? 嫉妬なのか?」

「そんなんじゃないわよ。贔屓は良くないって言ってるのよ」


 素直じゃないリリーナに悪戯な笑みを返す。

 なにやら恥ずかしかったらしいリリーナは「失言だったわ」なんて言ってそっぽを向いた。

 意外とかわいいやつである。


「そんじゃあレティシア。後は頼むわ」

「はいはーい。あとはお姉さんにおまかせよ」


 元の姿に戻ったイアにレティシアが話しかける。


「久しぶりね、イア」

「久しぶり、レティシア」

「いろいろ言いたいことはあるけど、とりあえずあなたは私の店で働きなさい。ただし人間は襲わないこと。いいわね?」

「わかった。レティシアが言うならしない」

「そう、いいこね」

「うん。イアは良い子」


 どうにか短い話し合いは終わったらしい。


「想像以上に簡単に終わったな」

「なんか呆気なかったね。さっきまでのは何だったのって感じ」

「ほんとですね……」

「私たちの苦労は何だったのよ……」

「あはははは、まあ無事に済んでよかったじゃない」


 俺たち四人があまりに呆気ない終わりに嘆息する中、特に苦労したわけでもないレイカだけは苦笑を零していた。


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