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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第八章
189/192

18話

「させないよっ!!」

「……じゃま」


 第二ラウンドが開始されて早々にイアは他四人を無視して俺めがけて突っ込んできた。

 腕力に自信があったのか、俺を庇う様に立ち塞がったミカに突撃するも、『金剛力』のスキルによって物理面に関してはチートのミカが余裕で受け止める。


「ユウマ、私は街に影響が出ない範囲の魔法を詠唱するわよ。文句はないわよね?」

「ああ、あと殺すなよ。レティシアの知り合いらしいし、殺しちゃったとは言いたくないぞ」

「ふんっ。どうせあの子が美少女だからでしょ。変にとりつくろわなくてもいいわよ」

「それも半分は理由の内だけど半分はマジだ。だから頼むぞ」

「約束はできないわよ」

「それで十分だ」


 少し長いやり取りを交わした後にリリーナが胸の前に杖を持ってきて詠唱を始める。


「ユウマさん、私はミカさんとリリーナさんのサポートでいいんですよね?」

「おう、いつも通り頼むな。ミカのサポートは主に氷魔法で相手の動きを封じる感じで頼む。ステータス上昇系はあいつにはいらないからな」

「わかりました。精一杯頑張らせてもらいます!!」


 小さな両手を胸の前で合わせて意気込むアイリスに癒されつつも、目の前で頑張ってくれている幼馴染の勇姿を目にする。


「相変わらずドジというか笑いの神様に愛されてるな。わが幼馴染様は」


 イアと対峙しているミカはいつもどおり途中で扱けたり、動いてもいない相手に盛大に空振りを決めたりしているが、十分に足止めとしての役目を務めてくれている。

 むしろ始まりの街の冒険者一人であそこまでやれるのは『金剛力』を持っているミカくらいだ。


「ね、ねえキミ。どうしてみんなが助けに来てくれるってわかってたの?」


 一人指示をもらってないまま呆けているレイカが不思議そうに尋ねてくる。

 俺は視線は目の前のイアとミカの戦闘に目を向けながら事の詳細を説明する。


「さっき一緒に逃げてた時に俺は牽制として銃弾を撃ってたろ?」

「うん。そうしないとあっという間に追いつかれちゃってたろうしね」

「あれには二つの意味があったんだよ」

「二つの意味? 牽制が目的だったんじゃないの?」

「もちろんそれも理由の一つだ。だけどもう一つ理由がある」

「その理由って?」

「レイカが俺を助けに来てくれたのと同じ理由だよ」

「私と同じ理由って……ああ! そういうことなの!?」


 ようやく合点が言ったらしいレイカが左手のパーに右手のグーを落とすという古典的なひらめきを見せた。


「なるほどね。わざと大きな音を立てて自分の居場所を知らせてたわけだ」

「まあな。ただ逃げてるだけじゃジリ貧だし、途中から逃げ切るのは絶望的だってわかってたからな。なら自分から行くんじゃなくて向こうから来てもらった方が早いし確実だ」


 この街で、というかこの世界で銃を持っているのはたぶん俺一人だ。

 俺の持っている実弾用の黒い拳銃と、魔力弾用の白い拳銃はそれぞれ鍛冶屋のドワーフのおっちゃんに相談しつつ自分で作ったものだし、異世界に来てもうそろそろ一年近くなるが、今まで拳銃を持ってる奴を見たこともないし、知ってる奴にも出会ったことがない。

 だからあの音をよく知っているのは主に俺のパーティーメンバーたちで、持っているのは俺一人。居場所を知らせる方法としては結構有能だったりする。


「それでキミ、私は何したらいいの? 積極的には戦闘できないけどポルターガイストであの子の補助くらいはできるよ?」


 聞きたいことを聞き終えたレイカがミカとイアの戦闘に目を向けながら訪ねてくる。

 確かにレイカの提案は魅力的だ。レイカのポルターガイストがあれば物理の遠距離攻撃ができるし、ポルターガイストで遠距離からミカのドジをカバーできる。転びそうになったミカをポルターガイストで補助することだっておそらく可能だ。

 だがそれ以上にやってもらいたいことがある。


「いや、レイカには他にやってもらいたいことがある」

「他に? 私大したことできないよ?」

「んなことはない。むしろレイカがこの中で一番適任だ」


 そう。この仕事はレイカが一番適任だ。

 他のメンバーがここを離れると戦線が崩壊するというのはもちろんだが、今言った通りやってほしいことの適正でもレイカはぐんを抜いている。


「それでキミは私に何をしてほしいの?」

「付き合ってほしい」

「わかっ……ん? ごめん、もう一回言ってくれる? ちょっと聞き間違いしちゃったみたいでさ」

「付き合ってほしい」

「……ごめん、今度いいお医者さんを探しておくよ。精神面の」

「必要ないぞ。俺は至って真面目だ」

「だとしたらなお性質が悪いよ!? なんでこんなときに真面目な顔して告白なんかしてるのさ!!」


 顔を真っ赤にしながら怒鳴ってくるレイカ。意外と乙女な反応で男心がくすぐられる。

 ただ俺に怒られるいわれはない。


「だってレイカが何してほしいって聞くから。そう言われたらそう言うしかないだろ。エロイことをお願いしなかっただけ紳士だと思ってもらいたいね」

「だからなんでそこで威張るのさ! 全然褒められたことじゃないからね!!」


 おかしい。なんでレイカはこんなに怒っているんだ?

 だって何してほしいか聞かれたら自分の欲望を忠実にお願いするのは普通のことだよな?


「もういいや……。キミと本気で話そうとしても無駄だってことは嫌って程わかったよ。それで私はなにをすればいいの?」

「ああ、悪いけど超特急でレティシアを呼んできてほしいんだ」

「ああ、こうやって聞けば普通に答えてくれるんだね……。わかった。確かにレティシアを連れてきたらそれで解決だもんね」

「わかってくれて助かる。それじゃあ頼むわ」

「わかってる。キミこそ戻ってきたらお仲間になってるとかやめてよ? 私的にはうれしいけど他の子が泣いちゃうだろうからさ」

「そうだな。幽霊生活も楽しそうだが、まだ当分は先でいいわ」

「ふふっ。それじゃあ行ってくるよ」


 最後に小さく笑ったレイカが大きく空に浮かび上がって自分のお屋敷の方へ飛んでいく。

 特別早いわけじゃないが、障害物を一切気にしないでいいレイカがこの役には一番適任だ。それにレティシアに説明するのも上手そうだしな。


「さーて、俺もいっちょ頑張りますか」


 レイカを見送ってから改めて戦況を見定める。


「どいて」

「そうはいかないよ。幼馴染の命がかかってるからね!」

「んん~……。本当に邪魔」

「そう言われても困っちゃうな~」


 ミカは相変わらずイアをこちらに行かすまいと、反復横跳びとかをしながら懸命にイアの行く手を阻み続けている。

 普通ならもっと苦戦しているだろうが、ミカの『金剛力』という名のチートと、俺以外と一切戦闘をする気がないイアの考えのおかげでどうにかこの状況を保っている。


「ミカの方は大丈夫だな。アイリスの方は……」


 次に隣でリリーナの護衛をしつつミカの援護をしているアイリスに目を向ける。

 胸の前で杖を構えて、俺の指示通りに攻撃的なサポートではなく『フリーズ』などの相手の足止めを目的とした魔法でイアの行動をことごとく防いでいる。ドジなミカが今までイアを抜かせていないのはアイリスの的確なサポートのおかげだ。

 ミカが転んで横を抜けようとしたところを『フリーズ』で足止めしたり、ミカの攻撃を避けようとした方向に水の壁を作り出して避けるのを妨害したりと、ミカのドジという名の特性?を完璧に理解した立ち回りだ。


「アイリスもだいぶミカの動きがわかってきたな。サポートのタイミングが完璧だ」

「もうみなさんとは一年近くもパーティーを一緒に組んでますからね。いろいろわかっちゃいます」

「頼もしいな。ほんとナイスサポートだぞ、アイリス」

「ありがとうございます! 私はミカさんやリリーナさんみたいに戦えませんけど、精一杯みなさんをサポートして見せます!!」


 意気込むアイリスの頭についつい手が伸びそうになってしまうが、状況が状況なので手を引っ込める。撫でてやるのはこの一件が片付いてからでも遅くはない。


「リリーナ、詠唱はまだか!」


 最後に魔法を詠唱しているリリーナに目を向ける。

 そういったことに素養のない俺にはわからないが、おそらく相当の魔力を既に杖に注ぎ込んでいる。素人目にもそれがはっきりとわかってしまう程度には今のリリーナの姿は様になっていた。

 本当にこの姿を見ている時だけは脳筋魔法だということを忘れてしまう。魔法が得意などこかの国のお嬢様の様に見える。


「うるさいわね! もう少しよ!」


 俺の言葉にリリーナがやや怒り気味に返事をしてくる。

 まあ集中している最中に話しかけられればこうもなるか。


「終わったわ! 早くミカは引かせなさい!」

「よしキタ! ミカ! 一旦引け!」

「了解!!」


 本当に少しの間で詠唱を終えたリリーナが杖をイアに向けながら叫ぶ。

 俺は言われた通りにミカに指示を飛ばし、指示を受けたミカはこちらを振り返ることなく大きく後ろに飛びのいた。


「お疲れ。俺の為にサンキュな」


 飛びのいてきたミカに労いの言葉をかける。魔王軍幹部なんていうヤバイやつと戦ってきたのだからさすがの俺だって礼くらいは口にする。しかも元魔王軍幹部のレティシアが私と違って完全戦闘タイプなんて言ってた相手だからなおさらだ。


「気にしなくていいよ。でも帰ったらおいしいものが食べたいな」

「はいはい。おまかせあれってんだ」


 あまりにも安いお礼だな。と思いながらも、それが幼馴染価格だということをしっかりと理解している俺は笑顔を返しておいた。ミカも額に軽く汗を掻きながらも少し疲れた顔で笑顔を返してくれる。

 そうやって俺たち二人が幼馴染としてまた一歩進んだような雰囲気になっている中、リリーナが声を張り上げた。


「行くわよ!! 『エレクトリックフルバースト』!!」


 ミカが退避したのを確認したリリーナの杖先から広範囲に展開する電撃が放たれる。

 バチバチと音立てている電撃が蜘蛛の巣のように広がっていき、徐々にイアの逃げ道を塞いでいく。

 俺の掛け声やミカが退避したのを見て警戒を強めていたイアも、さすがにこの威力は想定していなかったのか、目を見張りどうにか回避しようと試みていた。


「逃がさないわよ!!」


 どうにか回避しようとしているイアを逃がすまいと、リリーナがさらに魔力を膨らませて電撃の範囲を広める。最終的に学校の校庭ほどはあると思われるこの大広場全体を包み込むほどに電撃を広げた。

 こんな魔法を始まりの街の冒険者が使えるなどと誰が思うだろうか。


「思ったよりやる」

「上手いこと避けてるくせに何言ってくれてんのよ!!」


 リリーナの放つ電撃を浴びながらも致命傷だけは避けるように背中の小さな蝙蝠の羽で飛び回るイア。その様子を見てリリーナが悔しそうに歯を食いしばる。


「美少女ってどうしてどんな顔しても美少女なんだろうな」

「美少女だからじゃないかな。あとこんな時に何考えてんのさユウマ。命狙われてるんだよ?」

「何度も言うけどあんまり実感がわかないんだよ。実際に命を狙われても俺ってそんな大層な人間じゃないのにな~って気持ちの方が強い」

「言いたいことはわかるよ? ユウマは性格を除けば普通の高校生だし、性格を除けば普通の年頃の男子だし、性格を除けば―――」

「そんなに性格を除くなよ!! 俺ってそんなに性格おかしいですかね!? 確かに自分でもちょっとアレかな? って、思うことあるけどそこまでですかね!?」

「お、お二人とも、少しはリリーナさんを応援してあげましょうよ……」


 俺とミカが状況がまるで見えていない話をしていると、困ったようにアイリスが注意してくれる。バツの悪くなった俺たちは互いに顔を背けて反省するほかない。


「反省してないでアイリスの言うとおり少しは応援しないさいよ!!」


 しまいにはリリーナに怒鳴られてしまった。

 でもちょっと待ってほしい。俺は別に悪態を吐いたわけじゃない。素直にリリーナを美少女だと評しただけだ。それなのに怒られるだけというの納得いかな―――いくな。うん。


「くうぅ……もう限界だわ……」


 とうとうリリーナの魔法が途切れてしまった。

 それでもリリーナの働きは十分すぎるほどの働きだった。一分以上の間、広範囲に高火力の魔法を撃ち続けていたのだから疲れてしまったって全然おかしくない。


「ふう……」


 そして最悪なことにイアはダメージは負っているものの無事だ。

 リリーナの魔法を上手く掻い潜ったイアはゆっくりと地上に降りたって背中の羽をしまい込む。


「おわり?」

「キイィ!! 小さいくせに生意気なのよあいつ!!」

「いやいや、小さいから生意気なのかもしれないぞ?」

「どっちでもいいわよ!!」


 本当にどっちでもいい毒にも薬にもならない相槌を打ったらリリーナがさらにご立腹になった。

 どうしてミカ相手には素直に労いの言葉をかけられたのに、リリーナを相手にするとどうやってからかうかに思考がシフトしてしまうんだろう。


「で、どうするユウマ? もう一回私が足止めに行く?」

「いや、その前にもう一発でかいの行くぞ。なっ? アイリス!」

「はい! 準備万端です!!」


 ミカがもう一度時間稼ぎに出るか聞いてきたが、俺はそれを止めて隣のアイリスに目を向ける。

 そこには既に魔法の詠唱を終えているアイリスが杖をイアに向けていた。


「あれ? アイリスちゃんいつの間に詠唱してたの?」

「リリーナさんが魔法を撃った時からです。ヤマタニオロチさんの時に思ったんです。リリーナさんの魔法の後で私も魔法を使ったらもっと確実にお相手さんを倒せると思って詠唱しておきました」

「すごい! すごいよアイリスちゃん! 賢い!!」

「そんな……私はただ少しでもみなさんのお手伝いができたらって……それだけで」


 そう言いながら不安そうに俺の顔を見てくるアイリス。

 そんなアイリスに俺は親指を立てながら笑顔を返した。するとアイリスは安心したように顔を破顔させ、かと思えばすぐにキリッとした顔になってイアをにらみつける。


「ユウマさんを殺させたりなんか絶対にさせません!! 『スプラッシュウェーブ』!!」


 アイリスが魔法を唱えると、目の前に大きな津波が発生する。

 さっきのリリーナの魔法に比べれば範囲は少し落ちるがそれでも十分な火力だ。

 それに―――


「アイリスが作り出した水ならそれは聖水に違いない。アイリスの聖水……」

「ユウマ、それ以上イケナイ。犯罪だよ」

「思想の自由が」

「ねえ知ってる? セクハラってされてる側がセクハラだと思ったらもうセクハラなんだって」

「……」


 まったく笑えない知識をミカに披露されて黙るしかなくなった俺は、素直にこの後の展開に備える。

 この攻撃で倒れてくれたら万々歳だが、今までの経験上倒れてくれるかは五分五分といったところだろう。リリーナの魔法でもダメージは入ってるし、可能性はそんなに悪くはない。


「倒れて下さい!!」


 アイリスがそう言って杖を前に倒すと津波がイアを飲み込もうと前進する。

 大抵のやつならこの時点で積みだ。予測可能、回避不可能といったところのはずだ。だが相手は魔王軍幹部。しかも完全戦闘タイプ。油断はしない。


「いってぇーーーっ!!」


 滅多に聞くことのないアイリスの大声を耳にしながらイアの動向を窺う。

 目の前の水が前進するにしたがって徐々に見えてくるイアの姿はやはり背中に羽をはやした姿だった。


「やっぱりな。でもわかってるなら対策だってできる! 『リスント』!!」

「っ!?」


 アイリスの魔法を避ける方法を大きく分けて二つ。単純に大きく距離を取って範囲外に逃げるか、空に逃げてしまうかの二つだ。もう一つの策としてどうにかして防ぐというものもあるが、さっきのリリーナの魔法を防がずに逃げた時点でそこまですごい防御方法がないのは予想できた。

 そして地上で逃げ回るか空に逃げるかだったら羽のあるイアは空へ逃げる。そう思って俺は予め位置を予測してゴム状の紐を飛ばした。


「なっ!?」

「よしっ! 上手くいったぜ!!」


 しかも思いのほか上手くいって見事にイアをゲット。

 かと思ったのだが―――


「あまい」

「あちゃー……やっぱり蝙蝠化できたか」


 マンガやアニメを吸血鬼キャラの特徴の一つとして蝙蝠に化けられるというものがある。

 残念なことにイアもそれを有していたようで、蝙蝠化して小さくなることで俺の拘束魔法『リスント』から逃れた。


「甘いのはそっちよ! 『ブラストバーン』!!」


 さて次はどうしたものかと頭を働かせようとしたところ、やや後ろかリリーナの掛け声とともに広範囲に炎が広がっていく。一瞬にして青い空は赤い炎に覆われた。


「ちょっとリリーナ! 大丈夫なの!? 魔力もうないんじゃ……」

「私をあんまり舐めないでちょうだいミカ……。私は未来の天才大魔法使いよ。あの程度の魔法を一回撃っただけで魔力切れなんて起こすわけないじゃない……」


 強がってはいるものの明らかにリリーナは無理をしている。

 額にかなりの量の汗を掻いているし、前に見た時よりも明らかに火力は落ちている。それでも空を目一杯覆うほどの範囲に炎を広げているんだからリリーナはやはり魔法に長けているのだろう。

 勘違いしてほしくないのは、リリーナが魔法一回で魔力のほとんどを使い切ってしまう場面が多いからといって魔力が少ないと思われる点だ。

 それは大きな勘違いだ。リリーナの場合は一回の魔法に他の連中よりも圧倒的に多くの魔力を注いでいる。

 わかりやすく言えば、普通の魔法使いが『ファイヤーボール』を使うとサッカーボールくらいの大きさになる。それがリリーナの場合は運動会なんかで使う大玉クラスの『ファイヤーボール』になる。

 さっきの『エレクトリックフルバースト』だって、おそらくはあんなに広範囲、なおかつ高火力なんかではないのだ。リリーナがそうなる様に魔力を注ぎ込んで、それを制御しているからのあの威力である。


「燃え尽きなさい!!」


 最後の力を振り絞る様に炎の威力が一段階上昇する。

 これなら決まるか? そう願いながらイアの様子を窺うと、やっぱり予想通り行動を取った。

 地上目がけて急降下だ。

 直角に急降下をして炎を範囲外から逃れる。逃げの一手。

 決して間違った行動じゃない。イアから見たら脅威なのは広範囲に高火力攻撃が出来るアイリスとリリーナだ。その二人が魔力切れを起こしてしまえばミカ一人くらいなら上手く出し抜けるとでも思っているのだろう。実際に正解だ。

 ミカが一回でもドジったら一瞬で距離を詰められる。今までのはアイリスのサポートがあってこそのことだったのだ。それがなくなれば結果は自明の理だ。


「……少し間に合わない」


 しかしさすがはリリーナといったところか。炎がギリギリ急降下をしようとしているイアの下半身を捉えかける。


「でもやっぱりあまい」


 そういうと、イアの姿が突然消えた。

 さっきのように蝙蝠になった様子もない。まず姿が見えないのだ。


「ちょっ!? どこ行ったのよ!?」


 リリーナが焦ったように視線を巡らせるがイアの姿はどこにも見えない。

 ミカとアイリスも同じようにしているが、イアの姿が見当たらないようだ。


「となれば俺の出番だ」


 俺は『敵感知』のスキルを持っている。

 このスキルを使えばイアの居場所なんて一発である。なにしろこんな街中で俺に明確な敵意を持っているのなんて今はイアくらいしかいるはずもない。


「どうですか、ユウマさん?」

「……んん~?」

「どうしたのユウマ。イアの居場所わかんないの? 逃げたの?」


 アイリスとミカがこちらを見てくるが、俺は明確な答えを返せそうになかった。


「違う。確かに目の前にイアの反応はある。だけど反応のある場所にイアがいない」


 そう。確かに『敵感知』は反応しているのだ。目の前にイアがいるのだと反応を示している。なのにイアの姿が見当たらない。地面に穴もないし、蝙蝠の姿もない。かといって吸血鬼が姿を消せるなんて言う話も聞いたことがない。


「ゆ、ユウマ! 早くしなさいよ! もう魔力も限界よ! 今のを止めたら二度目はないわ!!」


 どうにか魔力を切らさずに炎を出し続けて急かしてくるリリーナ。

 俺だってリリーナの苦労はわかってるつもりだし、早くあいつの居場所を把握してリリーナに的確な指示を飛ばしたい。が、肝心の明確な居場所がわからない。


「とにかく目の前に反応はあるわけだし目の前に……」


 目には見えていないが反応は確かに目の前にある。ならとりあえず目の前に向けて魔法を撃ってもらおうかと視線を前に向けて気が付いた。


「ん? なんか視界が少しおかしいような……」


 わかり辛いが目の前の景色が少しだけ変に見える……様な気がする。


「リリーナの炎で蜃気楼みたいなのができてるのか? いや、そんな感じじゃない。だとしたら周り全体がそう見えるはずだ。なのに横は別にそんな感じはしない。となると、あの辺りだけぼやけて見えることになる」


 なにか突破口はないかと思考を巡らせるが、いまいちピンと来ない。

 あと一歩何かが足りない。


「ねえユウマ。なんかあの辺おかしくない?」

「ああ、それはわかってる。たぶんあのあたりにいるとは思う。だけど―――」


 確証はない。そう言おうとしてら、ミカが次の言葉を紡いだ。


「なんか霧っぽいよね」

「それだ!!」


 ようやくわかった! 謎はすべて解けた! じっちゃんの真実は一つ!!


「リリーナ! 目の前に魔法を!!」

「も、もう無理よ……」

「リリーナ大丈夫!?」


 ようやくイアのしたことを理解してリリーナに指示を飛ばそうとしたところリリーナがガス欠を起こした。魔力切れだ。

 へたり込むリリーナをミカが咄嗟に抱きとめ介抱を始める。


「くそっ! 間に合わなかったか! アイリス! もう一発くらいいけるか!?」

「か、簡単な魔法くらいなら……」

「『フリーズ』ならいけるか!? あのあたり全体を凍らせてほしいんだ!」

「たぶんいけます。頑張ってみます」


 アイリスだってもう十分に魔力を使っている。ミカのサポートで魔法を連発した後に、リリーナの援護として大魔法を放っている。残りの魔力だってそう多くはないだろう。


「大した手伝いはできないが俺もがんばるからアイリスも頼む!!」

「わかりました」


 どうにか踏ん張ってくれそうなアイリスとともに目の前おかしなところ目がけて魔法を放つ。


「「『フリーズ』!!」」


 アイリスと二人で初級の氷魔法を放つ。

 対象を凍らせるだけの初級中の初級魔法。それをちょっと広範囲に放つ。

 普通なら目の前に大きな氷の塊ができるだけ。だけど今回は―――。


「美少女が中にいる氷の塊の完成だ」


 こうしてどうにかギリギリのところでイアの捕獲に成功した。


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