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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第八章
187/192

16話

「まったく、レティシアってばひどいよね。言うことだけ言って帰っちゃうんだもん。この件が片付くまで一緒にいてくれればいいのに」

「それはそれで厄介なんじゃないかしら? 隙あらばユウマの精力を狙ってくるわよ、あの変態女は」

「確かにそれは困りますね。さっきもユウマさんに色々としてましたし、いたずらばっかりするかもしれません」


 魔王軍幹部の一人であるイアに対する会議が終了してから約一時間。

 とりあえずできることなんてないということで落ち着いた俺たちは屋敷の中でくつろいでいた。


「……ちょいトイレ」

「わかった」

「……あのー、一人で行けるんだけど? そういう趣味はないんだけど?」

「いいからいいから。さすがにトイレは他の二人に任せられないし、幼馴染のよしみで私が行ってあげるよ。ほら、小さい頃はよく一緒にお風呂とか入ったじゃん。平気平気!」

「俺が平気じゃないんだよ! わかれよ! 何が悲しくて幼馴染の女の子にトイレ付いて来てもらわなきゃ行けないんだよ! はずいわ!!」


 はい。くつろげてなんていませんでした。


「なあ、心配してくれるのはうれしいんだけどさ。さすがに限度ってもんがあるだろ。トイレまで付いてこなくていいから」

「大丈夫だよユウマ。さすがに中にまでは入らないよ」

「わかってるわ! むしろ入ってくる気だった方が驚くわ!!」


 トイレに行こうとする俺に付いて来ようとしたミカの説得を試みるべく少しだけ我慢する。

 本当のところは別にそこまでトイレに行きたいわけじゃない。ただ少しでいいから一人になれる時間が欲しかったのだ。

 会議が終わってからの一時間の間、俺は絶対に誰かの視界の中にいた。別にやましいことをしているわけじゃないし、さっき言ったように心配してくれるのはわかるのだが、さすがにトイレにまで付いてこられると心の落ち着く暇がない。


「とにかくトイレくらい一人でいいから。ひとりで行けるから」

「えー、ホントに大丈夫? 昔オムツ変えてあげたこともあるし私平気だよ?」

「お前何歳だよ……。同い年だろうが」

「ユウマ。女の子に年齢の話はダメだって前に言ったよね?」

「少なくとも今はその暗黙の了解は必要ないだろうが!!」


 こいつ、心配してるように意外と普通じゃないか? ただふざけたいだけじゃないか?


「ユウマさん。恥ずかしいのはわかるんですけど、ここはミカさんの優しさに甘えておいた方がいいと思います。私も心配ですし」

「そうよ。ユウマは女の子に優しくしてもらえる機会なんてないんだから今くらい楽しんだらどうなの?」

「お前何なの? 中途半端にデレるなよ、デレるならちゃんとデレろよ」

「知らないわよ。それに心配なんてしてないわ。ユウマが死んだらアイリスとかミカが悲しむのよ。そうなると私に迷惑がかかるの。だからしかたなくよ、しかたなく」


 ようやくツンデレのデレの部分を理解し始めたリリーナがちょいデレを披露する。

 ただこいつも少し心配のしすぎだ。いつもならもっと冷たく返されてる。


「この調子で行ったらどこまでもついてくるだろ? それに風呂とか寝る時とかどうすんだよ。まさかその時も一緒にいる気か?」

「私大丈夫だよ? お風呂は服着たまま入ればいいし、何なら水着あるし。一緒に寝るのだって私平気だよ?」

「幼馴染が強い!」


 さすがは幼馴染。大抵のことは小さい頃にこなしてしまっている分ほか二人よりも抵抗感が薄い。

 でもちょっと待ってほしい。俺らだってもう高校生だ。羞恥心だって覚え、色々と気にし出す思春期真っただ中だ。そんな男女が同じ部屋で寝るのはさすがにまずいのではないだろうか?

 いや、絶対に変な事なんてしないよ? 相手はミカだし、俺の方だって女としてみてないよ? でも、でもさ、なんかあるじゃん? 一夜の間違いとかひと夏の思い出とかそういうの。

 それに男として見られなさ過ぎて辛い。


「わ、私もご一緒できます! ユウマさんを守るためなら頑張れます!!」

「はあ~。二人だけに任せるってのも申し訳ないわよね。私も手伝うわ」


 しかも驚くことにアイリスとリリーナまで参戦が決まってしまった。

 いつもなら調子に乗って「いいのか? 俺のリビドーが爆発しても知らないぞ? そっちから誘ってきたんだからな?」とか自分の保身もしっかりとしたことをアイリス以外に返してやるもんだが、今回ばかりは結構マジな感じなので言い出しづらい。


「……好きにしてください」


 こうなってしまうと圧倒的に俺が不利だ。

 三対一という民主的な多数決によって少数派の意見は打破される。だからここまで話が進んでしまった時点で俺は詰みなのだ。諦めるほかない。


「じゃあとりあえずトイレに付いていくね」

「だから好きにしろって」


 大きなため息を零しながらトイレへの同伴を許す。

 するとなぜか他の二人まで立ち上がった。


「なんで二人まで立ち上がってるんだ? ……まさか」


 嫌な予感に冷や汗が頬を伝う。


「はい、私もついていきます!」

「仲間はずれは趣味じゃないの。だから仕方なくついて行ってあげるわ」

「マジか……」


 冗談に聞こえる言葉だったが本当に三人一緒についてきた。三人で俺の後ろを着いて来て、三人で俺がトイレに入るのを見守って、三人で俺がトイレから出てくるのを待っていた。

 そのせいだろうか、いつもよりも小さい方が出るのに時間がかかってしまった。

 心配してもらえるのは嬉しいが、こんな生活がしばらく続くと思うと命を狙われているよりも緊張感がすごいかもしれない。

 そんなことをトイレの中で用を足しながら思う俺だった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 それから三日が経った。

 本当にあの日から毎日、俺はミカ、アイリス、リリーナの内の最低でも誰か一人と一緒に居る。お風呂でも、トイレでも、寝る時でも、常に誰かしらは一緒だ。

 ここまで聞いてきっとみんな思うことがあるはずだ。

 美少女三人といつも一緒とか羨ましい。服を着てるとはいえ一緒にお風呂とか、寝る時も一緒とか男の夢だろ! トイレだって僕らの業界ではご褒美です! とかきっと思っていることだろう。

 だが待て、まずは俺の話を聞いてほしい。

 確かに俺は美少女三人と今まで以上に一緒の時間を過ごしている。その分会話の時間も増えたし、楽しいと思える時間だって確かにある。でもその分一人の時間が完全にないのだ。

 むこうは一人になりたくなったら他のメンバーに任せてしまえばいい。でも護衛対象のこっちはそうはいかない。一人になりたくてもなれないし、一人でしたいこともできない。何もできないし、ナニもできない。

 それどころか基本的には二人以上が一緒に居る都合上、誰かといい雰囲気になったりもしない。

 これがミカと二人きりとかリリーナと二人きりとかだったら微粒子レベルでなにかが起きたかもしれないが、常に二人以上の女子がいる以上そんなことが起きるはずもない。最近たまに起きるミカとの桃色の雰囲気も出てきやしない。これじゃあただの生殺しだ。

 え? アイリスはどうしたのかって? ばか、アイリスはさすがにまずいだろ。あっても言わねえよ。……なかったけど。

 とにかく俺はこの三日で結構なストレスを抱えていた。


「一人になりたい……。ボッチだった頃が懐かしい……」


 望んでボッチになったわけじゃないが、まさか今になって望んでボッチになりたいと思うとは考えてもみなかった。


「……」


 今俺は自室にいる。自室のベッドの上にいる。

 右を見ればミカの寝顔があり、左を見ればアイリスの寝顔がある。ミカの奥には綺麗な顔をしてリリーナが寝息を立てている。ここ最近はずっとこの調子だ。

 三日前に寝るときどうやって寝るかという話し合いになって、リリーナが「一緒に寝るとは言ったけどユウマの隣は嫌」とか、「床は嫌」とか言い出し、ミカはミカで「私はユウマの隣でいいよ」とか言い出し、アイリスも「わ、私もできればユウマさんの隣がいい……です」とか萌え萌えなことを言い出し、最終的にミカの『金剛力』でベッドをもう一つ持ってきて簡易ダブルベッドに四人で寝ることになった。それが今の状況である。

 つまり生殺しだ。


「勘弁してくれよ。もう三日寝れてねぇよ。寝れるわけないだろこんなの。両隣に美少女だぞ。なんなら一つ先にも美少女だぞ。なんか柔らかかったりいい匂いだったりで寝れるわけねぇ」


 さっきの追加情報としてミカは俺の腕に抱き着いている。なにやら抱き枕か何かと勘違いしているらしい。しかもぴったりくっついてくるもんだからそれなりの大きさのお胸様の感触がダイレクトに腕に伝わってくる。なんなら足まで絡めてくる時がある。

 アイリスの方は俺の横で大人しく寝てくれてはいるが、すうすうという寝息が可愛かったり、ミルクのようなほんのり甘いにおいを俺の鼻腔に終始届け続けている。

 唯一隣にいないリリーナもたまに妙に色っぽい呻き声のようなものを漏らし、俺の耳をくすぐってくる。

 やっぱり生殺しだ。


「夢にまで見たハーレム状態なのに何だこの状況は。あれか、なにかの嫌がらせか? つーか来るなら早く来いよイア。来てくんないとお前にやられる前に俺の精神がやられるぞ。ヤンデレになってるぞ」


 天井を見つめがら小声でイアとかいう魔王幹部に聞こえてもいない愚痴を飛ばす。


「ん……? あれ?」


 カーテン越しに太陽の光が少しだけ差し込んでくる時間になるまで一人黙々と恨み辛みを並べ立てていると、いつもは痛いくらいにぎゅっとされている右腕が自由なことに気が付いた。


「もしかして……今なら一人になれる?」


 いつもはミカに腕をロックされているので逃げられない。

『金剛力』がなくてもそれなりの力が込められているため、いくら一旦寝たらなかなか起きないミカでも起きてしまう可能性があるし、ミカが起きなくても周りが起きる可能性があったため下手な手は打てなかった。それこそリリーナ辺りはその辺り敏感そうだったからな。

 でも今はそうじゃない。今の俺は完全に全身がフリーな存在だ。


「……みんなには悪いがちょっと散歩にでも出かけよう。このままこうしてても生殺しというか、理性の訓練というか、我慢耐久みたいで体に悪いしな。うん、十分な大義名分だな」


 ちゃんとそれっぽい言い訳も用意して俺は上半身をゆっくりと起こす。

 その時にアイリスが軽く呻いたが起きることはなかった。ほっと一安心。

 それからも慎重に体を動かしてミカ側にはリリーナがいるし、その向こうは壁なのでアイリスの居る方からベッドを抜け出す。


「よし! まずは抜け出せた!」


 謎の達成感から小さくガッツポーズ。

 しかし油断するわけにはいかない。ここでのんびりしているとリリーナ辺りに感づかれる可能性がある。早急にこの場から退散する必要があるだろう。


「悪く思うなよ。俺だって色々と限界だったんだからな」


 寝ているんだから返事がないどころか聞こえてすらない言葉を残し俺は部屋を後にした。

 そのままの勢いで屋敷すら飛び出し、久しぶりに一人の時間を過ごす。


「俺は……自由だ!!」


 久々に訪れた一人の自由な時間に大きな感慨がやってくる。

 たかだか三日一人の時間がなかったくらいで、とか思われるかもしれないが、なら逆に言いたい。三日間常に監視されてみろと。


「やっぱり自由っていいな! 誰に指図されるわけでもないし、命令されるわけでもないし、自分で何でも決められる。運命対自由でも自由が勝ってたもんな! 自由とは保護が無くなること、とかって聞くけど異世界(ここ)じゃあってないようなもんだし一緒一緒!」


 自由になったことでテンションが爆上がりしている。ついでに言うと三日間寝ていない深夜テンションにも似た何かでもテンションが上がっている。今の俺を表す言葉はスーパーハイテンションしかないだろう。髪だって逆立っているに違いない。寝癖で!


「とりあえず街をぶらぶらしよう。屋敷からも離れとくかな。すぐに見つかったら意味ないし」


 眠いはずなのに逆に眠くないとかいう頭のおかしい状態の俺は、屋敷からさっさと離れるべく行先すら決めないまま街へと足を繰り出した。


「ボッチってやっぱ最高だわ。ボッチisゴッド!」


 久々のボッチに心を躍らせながらまだ薄暗い街中を歩く。

 その間になんとなく吸血鬼についての思考を巡らせてみる。


「吸血鬼って太陽の光に弱いはずだよな? だったら昼間は好きにしてても問題なかったんじゃ……? やめよう……今日までの三日間がむなしく思える」


 いろいろとあり過ぎて忘れていた吸血鬼の特性についてを今更になって思い出す。我ながら何を考えて三日間を過ごしていたんだろう。


「せっかく思い出したんなら弱点をつけそうなものでも探しておくか。異世界だし聖水とか銀の弾丸とかいろいろあるだろ。最悪ちょっと太い木を削って杭でも作っておくか」


 吸血鬼の弱点として有名なものは結構ある。

 今あげた三つのほかにもニンニクがだめとか、火に弱いだとか、十字架がダメとか、恐れられている割には意外と弱点が多いのが吸血鬼という存在だ。


「集めようと思えば意外と簡単に集まりそうなものが多いな。十字架とか教会に行けばもらえそうだし、ニンニクはその辺の店で買える。火は燃えやすい何かを携帯しておけば俺の弱小魔法でも火はつけられる。意外と楽勝か?」


 思いのほかどうにかなりそうな雰囲気に少し気も楽になってきた。

 今までの魔王軍幹部は突然現れてほとんど事前情報なしか、あったとしても対策を考えるのに苦労したものだが、今回の敵は吸血鬼という俺でも知っている存在であるのも手伝って対策も立てやすい。


「よーし! そうと決まれば早速用意するか!! 善は急げってな!」

「何を早速用意するの?」

「そりゃあ吸血鬼に効きそうなものだよ。今は日が出てるし襲われる心配がないからな」

「そうなんだ」

「おうよ。常識だよ、常識……ん?」


 あれ? 俺は今だれと会話してるんだ?

 ミカたちは上手く出し抜いてきたからまだ屋敷のはずだ。だとしたら色々と限界の来ていた俺のイマジナリーフレンド? いやいや、思考ははっきりしてるし、そこまでやばいところまでは堕ちてない。

 じゃあ俺は一体誰と話してた?

 そう思って声の方向へ振り返る。すると目の前に中学生くらいの金髪美少女の顔があった。


「うおわっ!?」


 あまりに端正な女の子の顔があって驚いた俺はマヌケな声をあげながら数歩下がる。転ばなかったのはほんと偶然だ。


「えっと、アイ キャント スピーク ジャパニーズ?」

「……? 何言ってるの?」


 しまいにはあまりにも日本人離れした顔立ちだったために英語で返してしまう。しかも英訳も私は日本語を喋れませんという間違い。

 テンパリすぎだろ俺。


「ごほん。……悪い、今までのは忘れてくれ」

「うん」

「それは助かる。それでおたくはどちら様?」

「……イアさま?」

「……」


 イア……さま?

 あれれ? 最近すごくどこかで聞いたことがあるような名前だぞ。おかしいな~。どこできいたんだっけな~。思い出せないな~。思い出したくないな~。

 そうやって自分の考えとは逆に本能が危険信号を発し始める中、俺は目の前にいる金髪美少女に問いかける。


「つかにことをお聞きしますが……ご職業は?」


 わかってる。わかってるんだけどね! もうほんとはなんて返ってくるかなんとなくわかってるんだけどね!

 でもさ、ほら! たまたま同じ名前なのかもしれないじゃん!? 奇遇ですねってナンパの上等文句につながるかもしれないじゃん!


「魔王軍……幹部?」

「……」


 ですよねーっ! そうに決まってますよねーっ!! 知ってた!! ユウマ知ってた!!


「そうですか……それじゃあ俺はこれで」


 どうにか動揺しているのを隠しつつ、さりげない振りを装ってその場を立ち去ろうとする。


「ちょっとまって」


 しかしユウマは回り込まれてしまった。

 冷や汗がダラダラと頬を伝う。


「な、なんだ? 俺ってばちょっと忙しいんだけど……」

「大丈夫。死んじゃえば全部関係ない」


 そう言ったイアは小さな口を大きく開いて可愛らしい八重歯を見せつけながら俺の首元をめがけて飛びついてきた。

 いつもの俺ならひゃっはーっ! なんだよご褒美かよ! などと喜んで自分から首を差し出す場面だが今回ばかりはそうはいかない。

 相手は吸血鬼、しかも魔王軍の幹部、そんなの相手に血を吸われたらあっという間にユウマの干物の完成だ。


「あっぶね!」


 口を開いた時点で次の行動と狙っている場所がわかった俺は的確な回避行動でどうにか噛みつき攻撃を回避する。

 そしてそのままの勢いで回れ右をして全力でダッシュした。

 こうして俺と魔王軍幹部のイアの鬼ごっこが始まった。

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