13話
「ただいまー」
「ただいまです」
「たでーまー」
三者三様の挨拶をもってして屋敷の中に入る。リリーナだけ挨拶がないのは意識を失ったままだからだ。
「それではここからはミカ様、お願いします」
気絶したメンバーを運ぶのはなぜかいつも俺の役目だったりするのだが、今回も例に漏れずにリリーナを背負うのは俺の役目となった。
本来なら『金剛力』なんてチートスキルを持っているミカが担当すればいいはずなのだが、なぜか押し切られた。
アイリスまで「ユウマさん。こう言ってはなんですけど、そういうのはやっぱり男の人の役目だと思います」とか言っちゃうほどだ。
「ダメだよユウマ。ちゃんとベッドまで運んであげなきゃ」
「さ、さすがにそれはまずいのではないでしょうか? ほら、プライベートというものもありますし、親しき中にも礼儀あり。ですよ」
「いいのいいの。見られて困るようなものは目に見えるところに置いてないって。それにベッドまで運ぶのが男の子の役目で務めだよ。マンガでよく見るでしょ」
確かにミカの言う通りマンガやアニメではよくそういうシーンがある。戦闘で気絶してしまった女の子や、何かの不祥事で倒れてしまった女の子を男の子が運んでベッドに寝かせるという展開はよくある。俺だって大好きだ。
でもあれはあくまでアニメやマンガだからであって、リアルでそれはまずい気がする。
しかもあれは基本的に男の子にある一定の好意があってこその話だ。なかったとしてもそこから始まる恋の話だ。しかし俺とリリーナには悲しいことにそれほどの信頼はないように思う。
俺嫌われてるっぽいし……。やばい、涙出そう。
「いいからいいから! がんばれ男の子!」
「そうですよユウマさん。女の子は誰だってお姫様に憧れてて、王子様を待ってるんですよ」
「は、はあ~。そういうものですか?」
よく聞くフレーズだが、実際どうなのだろうか。というのは置いておくとして、リリーナがお姫様というのは認めよう。性格はともかく見た目は最高だ。ただ俺が王子さまってのはないだろう。自分で言ってて悲しいが、エイトとかの方がよっぽど似合ってる。
俺なんかその辺のモブ兵士がいいところだ。
とは思っていても、ここまで言われてしまうと引くに引けない。引かせてもらえない。アイリスですら許してくれそうにないくらいだ。
「……わかりました。最後まで運びます」
こうなると結局こちらが折れるしかない。
あとでリリーナに知られないように祈り、知られたとしても嫌がられないように願うしかない。
「……あの、なんでついてくるんですか?」
仕方なくリリーナを背負ったままリリーナの部屋まで向かっていると、なぜかミカとアイリスが後ろを着いて来ている。
「そ、その、最後まで見たいんです……。私にはそういう経験がないので」
そういやアイリスを背負うことってあんまりないな。
今までに数回あったかな? くらいだ。ミカは結構ドジって転んで気絶するから背負うけど。
にしても見たいって何がだ?
「ミカ様は?」
「私はほら、監視役だよ」
「監視? なんのです?」
「ユウマがリリーナが意識ないことをいいことに変なことしないか見張るの。パンツ見たり、匂い嗅いだり、部屋の中を物色しないか見てるの」
ひどい言い分である。
確かにしょっちゅうスカート捲ってるし、いい匂いだとも思うし、トレジャーハントしたい気持ちもある。だがさすがに今はしない。俺だって時と場所くらいは弁えられる。
それともう一つ思うことがある。それは。
「意外と信頼されてるんですね、私。どうせエッチなことをすると思われてるのかとばかり思ってましたよ」
そう、そうなのだ。
胸を揉んだり、お尻を触るとか言われると思ってたのだ。
「だってそこはほら、ユウマだし。ヘタレだし」
「うぐっ……!」
そうだけど! たしかにそうだけどさ! いざってなったら絶対にヘタレるけどさ!!
いいじゃん別に! むしろ紳士じゃん! 寝てる女の子に無理やり迫らない時点でまともじゃん俺! 理性ある男の子じゃん!!
「ゆ、ユウマさん! え、エッチなのはだめですよ! メッ! です!」
しまいには恥ずかしそうに顔を真っ赤にしたアイリスに指を差されながらきつく言われてしまった。かわいい。
「しませんよ。だいたいそういうのは私の主義に反します」
「そうだよねー。ユウマ普段は鬼畜だったり素直じゃないくせに恋愛関係は中学生みたいに純粋だもんね。純愛大好きだもんね」
「そうですね。でもいいことじゃないですか? 少なくとも悪くはないでしょう?」
世の中には無理矢理だとか、お酒でだとかいろいろあるのだ。お互いが好き合っていればそれでもいいが、大抵の場合は違う。
そんなことに手を染めない俺ってばマジ聖人。
「すいませんけどドアを開けてください」
「はい、今開けますね」
リリーナの部屋の前まで来て、アイリスにドアを開けてもらって中に入る。
そしてそのままリリーナをベッドに寝かしつけ、ついでにちゃんと布団も掛けてやる。ちなみに服装は既に『ゲート』で取り寄せた俺のTシャツに着替え済みだ。前がはだけているなんてことはない。
「……以外に紳士だ」
「以外って何ですか、以外って」
さっきからミカのやつ言いたい放題だな。
「それよりいつまでその喋り方続けるの?」
このまま部屋にいるとリリーナを起こしてしまうかもしれないと三人で部屋を出て、居間で暖かい飲み物で体を温めながら話していると、ミカが突然聞いてきた。
「ん~……もういいか。目的は達成できたし」
そう。既に俺の目的は達成されている。クエストクリアだ。
「そうなの? てか目的って何だったの? 今回のことって別にユウマにいいことなさそうだったんだけど」
「私も気になってました。目的って何だったんですか?」
アイリスとミカが気になって仕方がないという顔でこちらを見てくる。
「別に大した理由じゃないぞ? すげーくだらない理由だぞ」
「良いよ別に。そんな大層な理由期待してないし」
「ミカ、お前今日ちょっと当たり強いぞ。豆腐メンタルの俺を気遣えよ」
「絹? 木綿?」
「どっちでもいいわ!!」
突然のボケにもしっかりと対応するツッコミの鏡。
……俺ボケのはずなんだけどなー。
「それで結局どういった理由だったんですか?」
「あー、そうだったな。いやな、最近リリーナがちょっと調子に乗ってると思ったわけよ。さっきのミカじゃないけど俺に対する態度がひどいってかさ」
「え? そうでしょうか? 私は特に気にならなかったですけど」
アイリスがこれまでのリリーナの言動を思い出しながらそう返してくる。
「あー、確かに最近は少し言葉がきつかったりすることあったね。でも別にそこまで気にするほどでもなくない?」
「いや気にする。美少女にバカにされると傷つく。ツンデレならともかくデレがないからただただ辛い。言葉の暴力だぞアレ」
そう、デレがあればいいのだ。アイドルだってデレがなければマスなのだ。……違うか。違うな。
話を戻すと、テスト前に「あんたバカじゃないの?」とか言われても、テスト後に「あんたにしては頑張った方なんじゃない?」とか言われるとそれだけで嬉しいのだ。
それがリリーナの場合、テスト前が「あんたバカなんじゃないの?」で、後が「やっぱりバカだったわね。証明されたわ。それにくらべて見て見なさいよ私の点数を」とか言って高点数を見せてくるのだ。嫌がらせでしかない。
「ユウマもまだまだだね。女心をわかってないよ。ねー、アイリスちゃん?」
「はい、ミカさんの言う通りですね。ユウマさんは女の子の気持ちがわかってません」
「だよねー。もっと頑張ってほしいよ」
「え? ちょっと待って。俺ってば結構女心わかってる自負があるんだけど。伊達にギャルゲーやってなかったんだけど」
俺は数々の女の子を攻略してきた。中には男の子だって攻略したことがある。
それほどの逸材になにを言うのだろうかこの二人は。
「いやいやユウマ。あれはあくまでゲームだよ? リアルじゃないんだよ? 心の機微までは表現できないよ。事実ユウマが乙女心わかってないし」
「まず乙女じゃねー」
「そうだ! 乙女になろう!」
「京都に行こうみたいに言うな! ならねえから! TSならいいけど女装は嫌だ!!」
「TSならいいんだ……」
呆れたように言ってくるミカに当然とばかりのドヤ顔を返す。
当たり前だよな?
「あのー、それで結局どういった理由であんなことをしたんですか? リリーナさんのユウマさんに対する態度がいやだったのまでわかったんですけど、どうしてあんな話方だったのかわからないんですけど」
「確かに。アイリスちゃん賢い」
いや、別に今のは賢くないだろ。
アイリスは賢いけど、今のは普通だろ。
「よくさ、リリーナとかミカとか俺に言うだろ? もっと紳士的に振る舞ってとか、優しくしてとか」
「うん、言うね」
「でもさ、いざこっちが下出にでたり優しくするとお前ら言うよな、気持ち悪いとか明日の天気は崩れるわね。とか」
「はい、よく仰ってますね」
「そこで俺は考えたんだよ。嫌がらせに使えそうって」
「「ん……?」」
さっきまでわかるわかるといった反応だった二人が同時に小さく首を傾げる。まるで言っている意味がわからないとでも言うように。
「つまりな、俺は最近のリリーナの態度が気に食わなかった」
「はい、それはわかります」
「だからちょっとした嫌がらせをして憂さ晴らしをしようとしたわけだ」
「うん。最低だけど言いたいことはわかるよ」
「それであの作戦を実行したわけだ」
「「ここからがわからない(ません)」」
同時にわからないと言ってくる二人に俺は補足説明をする。
「まあ嫌がらせだったら何でもよかったんだよ。でも一番嫌がることをしたかったわけだ。しかもこれなら何言われてもお前らが紳士的に振る舞えって言ったんだろうが! って逆切れもできる。逃げ道まである。最高でしかない」
「うわー……確かにユウマっぽい。逃げ道まで考えてある辺りが」
「だろ?」
「いや、褒めてないから」
またまた呆れた様子でこちらを見てくるミカを無視してアイリスに向き直る。
するとアイリスはどう反応するべきかわからないと言ったような苦笑を浮かべた。そんな顔も可愛いよ、アイリス。
「それよかさっき言ってた俺が乙女心わかってないってどういうことよ?」
「え? あー、リリーナの気持ちわかってないってやつね」
「そうそう。なにがわかってないっての? 普通に俺嫌われてるでしょ」
最低限の好意はあると思うが、恋愛的な好感度という話になれば間違いなくゼロだろう。むすろマイナスまである。
「それがわかってないって言うんだよユウマ」
「だからなにが?」
「えっと、ユウマさん。ユウマさんは嫌いな人と一緒に居たいと思いますか?」
「ないな。ひたすら距離を取るな」
「さすがユウマ……」
「褒めるなよ」
「褒めてないよ」
なんか今日はやたらとミカとの漫才が多い気がする。さっきまでの紳士タイムの反動だろうか。
「ユウマさん。話を戻すんですけど、ユウマさんは嫌いな人と一緒に居たくないんですよね?」
「そうだな。でもだれだってそうだろ?」
「そうかもしれませんね。でも、そうだったとしたらおかしいと思いませんか?」
アイリスに言われて考えてみる。
嫌いな人と一緒に居たくない。……そこからどう乙女心に結び付けろと?
「あのさユウマ。リリーナが本当にユウマのこと嫌ってたら一緒のパーティーにいないよ?」
「アイツの場合は我慢しないと他に行く当てがないからだろ? それにミカとアイリスとは仲いいし」
「これは重症だね、アイリスちゃん」
「はい、すぐに治すのは難しそうです」
「は? ちょいまって、諦めないで、見捨てないで先生!」
結局乙女心とやらは教えてもらえなかった。
しかしリリーナへの嫌がらせは成功した。なぜならここまで帰ってくる途中リリーナが俺の背中でうなされていて、ベッドに寝かせたからも「このユウマなんなの……キモすぎるわ……」と、うなされていたからだ。今日はさぞ悪い夢を見るだろう。
……悲しくなんてない。ないんだからな!!




