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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第八章
182/192

11話

「なるほど……キリングラビットですか……」

「はい。……ついこの間ジャイアントスパイダーの討伐をしてもらったばかりで申し訳ないのですがお願いできないでしょうか?」


 ゆったりとした朝の時間を終え、今日も元気に借金返済とばかりにギルドに四人で来て、本日もクエストボードとにらめっこしていると、リリーナとミカにクエスト用紙を持って話しかけようとしているお姉さんがいた。

 それを引き目止めるとお姉さんは、あちゃー……。という顔をしながらもそのクエスト用紙の内容を話してくれた。


「いいですよ。私たちでよろしければお引き受けします」

「そうですよね……そう毎回ユウマさん達にばかりに頼るわけにもいきま―――え? 今なんとおっしゃいました?」

「喜んでそのクエストを受けさせていただきますと言ったのですが?」

「い、いいんですか!? ジャイアントスパイダーのクエストから一週間も経っていませんよ?」

「ええ、この街の平和のためですし、いつもお世話になっているお姉さんの頼みでもありますし、悲しいことに借金も多いですからね。少しでも頑張らないといけない身の上ですからがんばらせていただきます」

「……」


 ギルドのお姉さんが呆気を取られたようにぽかーんと大口を開けて固まっている。

 うん。理由はわかってる。自分でちゃんとわかってる。

 いつもなら逃げたり適当な言い訳を並べ立てたりして面倒ごとを避けようとする俺が文句の一つもなしに一つ返事でクエストを受けると言ったらそりゃあ変に思うだろう。

 事実目の前のお姉さん以外のギルドのお姉さんたちも仕事の手を一旦止めてこっちを見て固まっている。


「それでいつものように事前情報があると助かるのですが……」


 お姉さんたちが奇妙なものでも見るような目で俺を見てきたり、窓から外の天気を確認してたりしているが、そんなことは気にしないで話を進める。

 いつも通りの質問を投げかけると、目の前のお姉さんは慌てたように事前情報を書いてるらしいメモを取り出した。


「えーっとですね……。キリングラビットは見た目は黒い毛のコットンラビットです。ただコットンラビットと違ってキリングラビットは攻撃的で積極的に人を襲います。攻撃方法も鋭い前歯だけでなく刃物を手に持っていたリ口にくわえたりしているらしいです。あと基本的に集団行動をしているみたいで三匹前後は一緒に居るみたいです。今回は五匹目撃されてますので五匹お願いします」

「それは厄介ですね。場所もすぐそこの草原ではなくて森なんですよね? それだと不意打ちによる奇襲も警戒しないといけませんね。こっちは前衛職が一人しかいませんし不意を突かれてリリーナ様かアイリス様が攻撃を受けたら最悪です」

「そ、そうですね……。実際最初にお願いしていたパーティーの方たちも不意打ちを受けていきなり魔法使いと僧侶の方が負傷されてしまったらしく、その後はジリ貧になって逃げてきたとおっしゃってました」

「やっぱりですか……。情報ありがとうございます。おかげでどうにかなりそうです」

「どうにかなりそうなんですか……?」

「はい、おかげでいい作戦が思いつきましたよ」


 口調が違うだけでいつも通りの内容のはずなのに、お姉さんが変なものでも見るような目で俺を見ている。言葉も途中で何度か詰まっていた。極めつけが最後の心配だ。

 いつもなら説明と質問を受けたら仕事がありますので、とか言ってさっさと戻ってしまうお姉さんがこっちの心配をしてくれている。


「あ、あの、つかぬことをお聞きしますが。ユウマさん。なにか変なものでも拾い食いしました?」


 なにかありましたか? とは聞かれるだろうと思ってたけど、まさかいきなり拾い食いを心配されるとは。


「いえ、そんなことはしてないですよ。むしろしてるように見えますか?」


 思うことはあったが笑顔で返答する。ここで素に戻ったらすべてが台無しだ。

 なにしろ朝からずっと俺を疑っているリリーナがじっとこちらを見ているから。


「……正直、お金に困ったらするんじゃないかと」

「……」


 さすがにひどくない? ねえ、さすがにひどくない?

 俺だって最低限の人間らしい生活は求めてるよ? お風呂だって三日くらいは入らなくていいけどそれ以上は体が痒くていやだよ? ボトラーでもあったけど基本はちゃんとトイレ行ってたよ? 食っていいものと悪いものくらいはちゃんと区別できるよ?

 そう思って周りを見回すと、その場にいた人間全員が首を縦に振っていた。そして俺と視線が合うとサッと視線を逸らした。

 こいつら後で覚えてろよ。ぜってー泣かすからな!


「……準備してすぐに出ます」

「は、はい……。お気を付けを」


 こんなにも精神を削られてクエストに出かけるのは今日が初めてだった。




「ここからがキリングラビットの目撃情報のある森です。皆さま細心の注意をお願いします」


 あれから三十分ほど街で下準備をしてから俺たちパーティーは草原を超えた森の入り口まで足を運んでいた。


「言われなくてもわかってるわよ。それよりあんたの方こそちゃんと『敵感知』しときなさいよ。そのスキルが一番頼りになりそうなんだから」

「もちろんです。リリーナ様。私は恥ずかしながら戦闘面では活躍できそうにないので皆様のサポートを精一杯頑張らせていただきます」

「やっぱりやりにくわ……。こんなことならいつもみたいにセクハラ発言とかクズ発言してるニートユウマの方がマシよ」

「まあまあリリーナ。どうせ長くは持たないよ。今日一日が精一杯ってところじゃないかな? たぶんそれ以上はユウマの方が限界のはずだし」


 言葉通りやり辛そうにしているリリーナにミカが笑ってフォローを入れる。

 しかもさすが幼馴染。俺の限界点をしっかりと把握していらっしゃる。


「ユウマさん。ちょっと聞いてもいいですか?」

「なんですか? アイリス様」


 今日の俺とは距離を置くことにしたらしいリリーナが少し前をミカと一緒に歩く中、アイリスは俺の隣を歩いている。

 黙って歩いているのもなんだし何か話そうかと、アイリスと話したい話ベスト百を頭の中から引っ張り出そうとしていたところにアイリスの方から声が掛けられる。


「街で買ってたあれって何に使うんですか? クエストで使う予定だって言ってましたけどどうやって使うんでしょうか?」


 アイリスの言う通り俺は街でちょっとした買い物をした。

 といっても別に冒険に便利なアイテムとかファナの店で売っているような魔道具ではない。その辺のお店でごく普通に売っているありふれたものを買った。


「ふふふ。それは後でのお楽しみです。その方がサプライズになって楽しみでしょう?」

「そうなんですけど、知っておいた方が咄嗟のことに対応できるかと思いまして」

「なるほど、そういうことでしたか。さすがはアイリス様ですね、とても聡明でいらっしゃる」

「そ、そんな! 私はただユウマさんのお手伝いができたらいいなって、ただそれだけで」


 顔を赤くして必死になにかを取り繕うアイリス。そんなかわいらしい姿にいつもなら騒ぎ散らしただろう。アイリスたんマジ天使! とか、アイリスたんマジ女神! とか言い出していたことだろう。

 それをグッと堪えて優しい笑みをアイリスに返す。


「ううっ……」

「どうかなさいましたかアイリス様? お疲れでしたら少し休憩を挟みましょう。もしもの時に疲れていてはどうしようもありません」


 しょんぼりと俯いてしまったアイリスに心配の声をかけると、アイリスはすぐに顔を上げて違います! と、言葉を繋げた。


「あの、えっと、その、少し物足りないなって、わがままを思っちゃいまして……」

「物足りない? なにがでしょう?」

「いつもだったらその……ここで頭を撫でてくれたりするのに今日は何もないので……ううっ、恥ずかしい……」


 本当に恥ずかしそうにさっきより顔を真っ赤にしながら俯いてしまうアイリス。

 そんなアイリスに俺は手を伸ばし、優しく長い銀色の髪を撫でた。


「すいません。気が付きませんでした。ですがアイリス様、たまには自分からもわがままを言ってください。アイリス様はまだまだ甘えたい盛りです。無理はしないでいいんですよ」

「そ、そうします……」


 照れくさそうにしながらも、どこか安心したような顔でアイリスが表情を緩ませる。

 その可愛い顔にホッとした俺はすっと手を差し伸べた。その意図を悟ったアイリスがまたまた照れくさそうに俺の手のひらに自分の手をそっと重ねる。

 それから少しの間アイリスの小さな手と自分の手を繋いで歩いた。



「みなさん。ちょっと止まってください」


 森に入ってから三十分ほど真っすぐに歩き続け、少し開けた場所に出た。そこでみんなの足を止める。


「どしたのユウマ? ちょっと休憩する?」

「半分正解で半分はずれですね」

「どゆこと? 休憩しながらキリングラビット探すの? どうやって?」


 足を止めて質問ラッシュを繰り出してくるミカに笑顔を返してから街を出る前に買ってきたものを取り出す。さっきアイリスが使い方を気にしていたものだ。


「探しはしませんが、キリングラビットは見つけ出します。これを使って」

「あー、そういえば買ってたね。で? 帽子なんて何に使うの?」


 俺が手にしてるのはいたって普通の帽子だ。現にこの帽子はその辺のお店で格安で買ったものだ。何の効果もない。歩いてもMPは回復しないし、炎や氷のダメージを軽減してもくれない。ましてや空なんて飛べやしない。


「こちらも使いますよ」


 そう言いながら俺は『ゲート』を使って冒険中にボロボロになってしまったTシャツとズボンを取り出す。


「あっ。それ私のじゃん。ちゃんと捨てておいたのに何で持ってるの?」

「ユウマ……まさかあんたミカの服の匂いを嗅いだりしてたんじゃないでしょうね? 本当だったら引くわよ?」


 すぐその発想に至ったお前も対外だよ。というツッコミを押しとどめ、ちゃんとした用意しておいた理由を口にする。

 ……別にリリーナが言ってたみたいなことはしてないよ? ほんとだよ? ユウマ紳士だもん。変態という名の紳士だもん。


「違います。リリーナ様の言うようなことはしておりません。これは衣装を作るのに使えないかと思って回収させてもらったものです。ミカ様の服を直すのに使ったりもしてるんですよ」


 実際にミカの服を直すのに活躍していることが多々ある。

 ちょっとしたやぶれ程度なら店に持って行って金を払わずとも俺の『裁縫』スキルで直せるのでしょっちゅう直してやっているのだが、その当て布としてこいつらは活躍している。


「あー、どおりで裏みたら見たことあるような生地で直してるなと思うわけだ」


 ミカも思うところがあったらしく、リリーナの証拠もない疑いはすぐになりを潜めた。


「それでユウマさん。ミカさんの服と帽子とをなにに使うんですか?」


 ここに来るまでもずっと気にしていたアイリスが問いかけてくる。よっぽど気になっていたのだろう。ちょっとだけどワクワクしたように瞳を輝かせている。


「リリーナ様、私と同じくらいの土の塊を作ってはもらえないですか?」

「嫌よ。前に言ったでしょ、私は攻撃魔法にしかスキルポイントも魔力も使わないわ」


 なんとなく予想はしていたが、やっぱりリリーナは拒否してきた。まあここまでは計算通りである。


「それではミカさん。そうですね……あの丸太をそこの木に立てかけてくれませんか?」

「はいはーい」


 リリーナを説得するのも面倒なのであらかじめ用意しておいたもう一つの案で代行する。リリーナと違って変なプライドもないミカは理由も聞かずに俺の指示に従ってくれた。

 俺より少し大きめの丸太が大きな木にもたれ掛かる様に立てかけられる。


「こんな感じでいい?」

「はい、大丈夫です。ありがとうございますミカ様」

「じゃあ後でなにかお菓子作って。プリンがいいな!」

「了解です。今度作らせていただきます」


 ちゃっかりとプリンの要求までしてきたミカに今の自分の状況上仕方なくお菓子作りを受け入れる。意外と作るの時間かかるんだよな~。


「それでどうするのよ。まさかこれでキリングラビットをおびき寄せるとか言わないわよね?」

「言うつもりですが?」

「はっ!? ユウマ、あんたギルドのお姉さんの話聞いてたわけ? キリングラビットが襲うのは人間よ。こんな大きいだけの丸太なんて襲わないわよ」


 呆れたように言ってくるリリーナにまあ待てと手を突き出す。


「確かにリリーナ様の言う通りこのままではキリングラビットをおびき寄せるのは無理でしょう。ですがこうしたら―――どうですか?」

「あっ! 確かにこれなら人と間違えるかもしれません。さっきの帽子とミカさんの古着はこのためのものだったんですね!!」


 俺の取った行動にアイリスが感嘆の声を上げる。

 俺がやったことは至ってシンプルだ。アイリスが言った通り少し大きめの丸太にミカの古着を着せて、頭の部分に帽子を乗っけただけ。

 ズボンの分かれ目の部分にはその辺の木の枝を適当に入れて厚みを持たせた。これで木を背に寝ている人間。っぽい見た目の丸太が完成する。


「ぐっ! 確かにこれなら人と間違えるかもしれないわね。ミカが着てたものだから人の匂いもついてるはずだし怪しまれもしなさそうね」

「ちょっ!? リリーナ! 私の匂いとかいうのやめてよ! なんか恥ずかしい……」

「え? 別に普通のことじゃない。魔物は人の匂いに敏感だったりするものよ? 私たちだって魔物の獣臭さとかに敏感でしょ?」

「いや違くてね! なんか乙女の部分がね! ほら、なんか自分の匂いって恥ずかしいじゃん! 変なにおいだったらいやじゃん!!」

「大丈夫ですよミカ様。ミカ様はとてもいい匂いだと私は思います」

「ユウマ、それ全然フォローになってないから!! しかもそれセクハラだから!!」


 なんで? 俺せっかくフォロー入れたのに何でこんなこと言われなきゃあかんの?

 だってマンガとかのヒロインってめっちゃ良い匂いしそうじゃん。ミカだってそれなりの美少女だしいい匂いしそうじゃん。てかするじゃん。

 あっ、でもマンガだと嗅いでる方は羨ましいけど嗅がれてる方はだいたい恥ずかしそうにしてるな。うーん、わからん。


「とりあえずこれでキリングラビットをおびき寄せます。下手に歩き回るよりはいいでしょう」

「しつもーん! その間私たちはどうするの? その辺に隠れてるの?」

「でもそれだと先に私たちが見つかっちゃう場合がありますよね?」

「それもそっか。どうするのユウマ」


 アイリスとミカがどうするの? という目でこちらを見ている。

 リリーナはといえば変に察しの良い頭が働いたのか、嫌そうな顔をしている。でもそんな顔しなくてもいいだろ。もし正解だったら少し傷つくんだけど。


「スキルで潜伏します」


 変に心の傷を負う前に二人に答えを伝える。

 二人は納得したような顔で頷き、リリーナはやっぱり正解だったというような顔でこちらを嫌そうに見ていた。だから何で嫌そうなんだよ。なんだあれか? 俺に触るのが嫌ってか? それとも変なにおいでもするってか? しまいにゃ泣くぞ。


 それから俺たちはキリングラビットをおびき寄せながら休憩を取ることにした。

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