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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第八章
179/192

8話

「んん~……。もう朝か……」


 ジャイアントスパイダーをどうにか討伐した次の日。目が覚めると、窓から太陽の光が差し込んできていた。灰になって消えてしまう前にカーテンを閉じる。


「よし」


 カーテンを閉めたことにより太陽の光のほとんどが遮断された。

 これで俺を邪魔する者は誰もいない。


「さてと、もうひと眠りに洒落込みますか」


 布団を深くかぶり、窓側に背を向けて光を極力受けないようにする。そうこうしていると、少しずつ眠気が舞い戻ってきた。これは寝るのに五分もかかりそうにない。


「さあ、行くわよ、ユウマ!」


 が、しかし。

 魔王の襲来によって俺の安眠は見事なまでに妨害されてしまった。


「いつまで寝てるつもりなのユウマ! もう朝よ!」


 狸寝入りを決めこもうと動かないようにしていると、布団が勢いよく剥ぎ取られる。

 だがそんなことで俺は諦めたりしない。諦めたらそこで試合終了だって誰かが言ってた。


「ん~……」


 起きてることを気取られないように適当な呻き声を漏らしつつ寝返りを打つ。

 このまま狸寝入りを決め込んでいれば短気なリリーナのことだから愛想つかして出ていくはずだ。


「はあ~……。これだからニートは困るのよね。少しは未来の天才大魔法使いの役に立とうとは思わないのかしら」


 呆れた様子で大きなため息を零すリリーナ。

 でも待ってほしい。俺は悪くない。あと天才じゃなくて天災の間違いだろ。


「仕方ないわね。ここは―――」


 色々といいたいことはあったがリリーナはようやく帰る姿勢を見せ始めた。

 よし、あともう少しこのままで居よう。俺の今日の平和のために。


「それっ!!」

「キュベレイ!!」


 完全に気を抜いていた俺の腹に何かが叩き下ろされた。あまりの衝撃と痛みについ声が漏れる。


「なにしやがんだリリーナ!!」


 あんまりな起こし方に文句を言ってやろうととび起きたら、杖を持って仏頂面で腕を組んでいるリリーナがいた。


「やっぱり起きてたんじゃない。アイリスは騙せても私は騙せないわよ」

「わかってたんならもう少しやり方があるだろ! 「……寝てるわよね? 今なら変に意地を張らないで自分の気持ちに素直になれる」って言いながらチューしたり、「ちょっと! いつまで寝てんのよ!」って強引に起こそうとして縞パンを見せてくれたりがあんだろうが! お前はもうそろそろ少しはデレろよ! ツンデレからデレが無くなったらただの酷いやつなんだよ!」

「いやよ。なにが悲しくてユウマにそんなことしてあげないといけないのよ。そういうのはミカ担当でしょ。ミカならやってくれるわよ。たぶんね」

「いや、それはない」


 呆れながらのリリーナの物言いに俺は待ったをかける。


「ミカはそんなことしない。起こそうとして無理だったから一緒に寝るか、強引に起こそうとしてドジって肘鉄食らわせてくるか、呆れて帰るかの三択だ。主に前半の二つだけどな」

「……ごめん、ミカ。反論したいのに簡単にその様子が想像できちゃった私がいるわ……」


 いつも仲良しのリリーナでも俺の言葉に反論はできなかったらしい。

 今ここにいないミカに手を顔に当てながら謝っている。


「それじゃあ話は済んだな。俺はもう少し朝のゆったりとした時間を楽しむことにするから出てってくれ」

「適当に話を終わらせようとしないでよね。本題にすら入ってないじゃない」


 ちっ。適当な話だけして有耶無耶にする作戦が失敗したか。


「なあ、なんでお前はその頭の良さを戦闘面で発揮できないんだ? 基本的に頭良いし、察しもいいし、スタイルいいしでいいとこだらけなのになんで戦闘面だけポンコツなの?」

「あまりにも綺麗な私の姿を褒めたくなるのはわかるけど、褒めても何も出ないわよ?」

「スルースキルすげーな。自分の悪口は綺麗にスルーしやがった。あと胸と尻は出てるぞ?」

「ユウマ、私はミカやアイリスほど甘くないわよ? 冗談じゃなくて本気でセクハラで憲兵に突き出したっていいのよ?」


 本当に冗談じゃないらしく、目が笑っていない。

 このまま調子に乗ってセクハラ発言を続ければ本当に俺は檻の向こうに入れられてしまうだろう。


「いや、それで借金から解放されて三食寝床付きならワンチャンありか……?」

「何バカ言ってるのよ。そんなことしたらアイリスやミカが泣くわよ。私は泣かないけどね」

「そこはせめて少しは泣けよ」

「無理ね。アイリスやミカだったらともかくユウマにそこまでの情はないもの」

「ぐぐぐっ。言わせておけば……」


 調子に乗りまくっているリリーナに『リスント』でも吹っかけてやろうかと右手を伸ばしたが思いとどまった。

 こういう奴は相手にしないか、とっとと事を済ませるに限る。相手の土俵に上がってはいけないのだ。


「それで、お前は何しに来たんだ?」

「そーよ! 忘れるところだったわ!!」

「忘れてくれたままでいいぞ。俺も助かるし。てかさっきまでの賢さはどこに行ったの?」

「バカ言わないで。私はいつでも賢いでしょ?」

「……まあいいや。それでマジ何なの? デートお誘い? そうなら大歓迎だぞ」


 変に賢いリリーナに塩を送ってしまったことを後悔しつつも、仕方なく話を聞くだけ聞いてやることにする。

 俺ってばマジで大人。紳士で真摯な対応。


「ユウマとデートなんて死んでも嫌よ」

「そうか。ならデートはしないでいいから一緒にお出かけしよう」

「意味は一緒じゃないのよ!」


 ううん。やっぱりダメだ。リリーナを前にするとどうしてもイジリたくなってしまう。


「まあいいわ。外に一緒に行くっていう意味では間違ってないし」

「え? なに? やっぱりデートなの? ツンデレ特有の素直になれないアレなの?」

「違うわよ。デートじゃなくてただのお出かけ。ユウマの望むような感情は一切ないわ」


 うーん。これは面倒ごとの予感がする。


「なあ、結局なにしに外に行くんだ?」


 俺がそう聞くと、急にいきいきとした顔になったリリーナが形も大きさもよい胸を張って言う。


「魔法を撃ちに行くわよ!!」


「……は?」


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……バカなこと言うんじゃなかった」


 最終的に無理矢理引っ張り出された俺は、リリーナに結局お前はなにがしたいのか尋ねた。

 そこで返ってきた言葉が「なに? 自分で言ったことも忘れたわけ? ユウマが昨日言ったんでしょ。明日、つまりは今日好き放題魔法を撃たせてやるって」だった。

 確かに言った。言いました。けどそれは昨日大人しく帰ったらって話だったわけで。でも俺はそんなこと一言も言ってなかったわけで。


「昨日の自分を一発ぶん殴ってやりたい……」


 そんな愚痴をこぼしながらリリーナと並んでギルドを目指す。

 しょんぼりとした俺と、やたらと元気なリリーナというまるで正反対の状態の二人で街中を歩くこと十分。昨日ぶりのギルド、この世界のハローワークの前までやってくる。


「なるべく簡単なのにしてくれよ。今日はミカもアイリスも一緒じゃないんだからな。俺一人のフォローにも限界があるぞ」


 昨日あれだけの戦闘をしたこともあり、アイリスは杖の整備をファナの店ですると申し訳なさそうに断ってきた。

 ミカは昨日の帰りにドジをして破けた服を直すのに仕立て屋に行くと断ってきた。

 これなら俺と二人きりになりたくないとかで、リリーナが今日は止めると言い出すと思ったのだが、とんだ的外れで「仕方ないから二人で行きましょ」と、上機嫌のままだった。


「おい。どこ行くんだよ。ギルドはここだぞ。目ん玉ついてんの?」


 ちょっとばかり不貞腐れている俺は言葉の端に棘が乗ってしまう。

 そんな俺の言葉を聞いてギルドを通り過ぎようとしていたリリーナは振り返る。


「ユウマこそ何言ってるのよ。別にクエストなんて受けないわよ?」

「は? お前何言ってんの?」


 意味の分からない返事に困惑で返すと、リリーナは大きな夢と希望でも詰まってそうな胸を張って言う。


「私気づいちゃったのよ。別に私はもう魔法さえ撃てればそれでいいって。相手なんていてもいなくてもいいってね! どうせ撃った後には同じ結果しかないんだから一緒だもの」

「そりゃあお前の魔法をまともに食らったらこの辺りの魔物じゃ蒸発したみたいに消えちまうだろうよ」


 リリーナの魔力は始まりの街にいるのがおかしいくらいにぶっ飛んでいる。

 それどころか王都の連中と並び立つどころか、王都の中でも上位の冒険者連中じゃないとリリーナと対等の魔力を持っていない。

 しかもその連中とはレベルが違う。相手は四十以上が当たり前の世界なのに対し、こちらはまだ二十代。条件はこっちが不利だ。

 それなのに対等の魔力を持っているリリーナはやっぱり天才と呼ばれる部類なのだろう。未来の天才大魔法使いなんて自称しているが、それも夢ではないのかもしれない。

 なんかくやしいから絶対に言ってやらないけどな。


「それじゃあなに? 今日はその辺の草原で適当に魔法ぶっ放して帰るって言うことでオッケー?」

「えぇ、それでいいわ。ユウマは魔力を使い切って動けなくなった私を運ぶ係りと護衛役ね。……セクハラしたら容赦しないわよ」

「へいへい。魔力が切れるまでは我慢しますよ」

「魔力が切れてからも我慢しないさよ!」

「嫌だよ。それじゃあ俺にご褒美がなさすぎる!」

「私に触れるだけでもいいでしょ! それに今日という日を私と一緒できるのよ!? 光栄に思いなさい!!」

「なんでお前はそんなに自己評価が高いの? やっぱりお嬢様気質が抜けてないの?」


 こんなこと言ったが、正直リリーナは十分にお嬢様気質が抜けている方だろう。

 そうじゃなきゃ俺やアイリスたちとメンバーなんて組まないし、宿屋暮らしなんて許容できるはずもない。


「とにかく変なことはしないこと! それだけは守りなさい!」

「はいはい、善処します。お嬢様」

「そのお嬢様ってのもやめなさい」

「注文が多いな」

「あんたの問題発言が多いからでしょ!!」


 おっと、これ以上は本気でキレて魔法をぶっぱなしかねない。

 こんな街中でそんなことをされたらまた返済額が増えてしまう。それだけは避けねば。

 それにしても俺また成長したわ。リリーナの沸点がわかるようになってきたもん。


「はあ~……これ以上は不毛ね。下手にテンションややる気が下がる前に魔法を撃ちに行きましょ。その方が気が晴れるわ」


 なにやらお疲れの様子のリリーナ様。

 はて、いったい何があったのやら。



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