2話
「さてと、見た感じはなんか予想通りというかなんというかって感じだな」
「そうだね。ホラーゲームでよく見る感じの、いかにも出ますよ。みたいな洋館だね」
「また出たわね、ユウマ語。しかもミカの口から。はあ~……。でもまあ、なんか嫌な感じよね」
「そうですね。なんというか、怖いというかよりは気味が悪いといいますか……」
ようやく目的地である洋館の前までやってきた俺たちパーティーは率直な感想を口にした。
各々の感想から大まかなことは理解してもらえたと思うが念のために説明しておくと、俺たちの目的地であるこの場所に建っているのは気味の悪い、いかにもな洋館。というよりはお化け屋敷。
庭は好き放題伸びたであろう雑草が生い茂り、割れた陶器の破片が散乱し、枯れた花々が怪しさを増している。
そして今日の本題である洋館の方はといえば、ほとんど割れてしまっている窓、罅の入った壁、大きな茨が洋館に巻き付いているといった、これまたホラーゲームの洋館のテンプレートを見事に抑えた仕様となっており、数々のホラーゲームを攻略してきた俺でさえもすぐに回れ右をして帰りたいくらいには不気味な雰囲気をこれでもかと纏っている。
「そういや、ミカ。お前こういうの平気だったっけ? 確かダメだったような気がするんだけど……」
「ななな、何言ってるのさユウマ!! み、見てよ! こここ、この堂々とした私のいでたちを!!」
「あぁ、ものすっごく震えてるな。上半身も足も声も全部震え上がっちまってるな。何お前、バイブ機能でも付いてんの? サイレントモードにできない?」
「は、ははは。おかしなこと言うねユウマ! これは武者震いって言うんだよ!」
「あー、そーですか。ほんっと、なんでこんなクエスト引き受けたんだお前……」
さっきまでアイリスの眠気のことばかり心配していたのですっかり忘れていたが、ミカは結構な怖がりだ。
ただ、怖がりといってもこいつは少し変わってて、ゲームや映画のようなホラーは一般人レベルで、という前置きさえすれば平気なのだ。
ただ、遊園地や文化祭などでよくあるお化け屋敷は見ての通り極度に怖がる。
個人的にはどちらも変わらないような気がするんだが、本人談によると「神様視点で見るのと実際に自分が体験するのは違うの! ユウマと一般人くらい違うの!」とのことだった。
お分かりだとは思うが、この後俺がいかに素晴らしい人間かということを長い時間をかけてお説教をしてやった。
全然納得してもらえなかったけど。
「大丈夫よミカ。あんな話しょせんは嘘っぱちなのよ。怖いと思ってるから怖いと感じるし、いると思ってるからそこにいるように感じるの。だから堂々と平常心でいれば問題ないのよ」
ガクブルしているミカにもっともらしい意見をしたリリーナに、珍しく俺も同意見だったので便乗しようと思い、リリーナの方を振り向く。
そこには――――
「だから、なんでお前まで震えてんだよ……」
なぜかこちらもガクブルしているリリーナ・ラブ・フルハート様がいらっしゃった。
「お前ら何なの? 勝手に面倒なクエスト受けてきて、ここに来るまでさんざん俺のこといいように言ってたくせに実際に現場に来たとたんなんなの? こういうの苦手なくせになんでこんなクエスト受けたの? ねえなんで? ユウマ本当にわかんない」
ここぞとばかりにバカにした発言と事実を突きつけてやる。
しかし二人とも本当に怖いようでいつもなら「はあっ!? なにふざけたこと言ってるのかしらユウマ!」とか「いや、いつものユウマよりは面倒かけてるつもりはないんだけど」とか、挑発に乗った反応か昔のことを持ち出され無言になるかの二択なのだが、何も言い返してこなかった。
「自信満々だった二人はこんな感じだけど、アイリスは平気なのか? 我慢しなくてもいいんだぞ?」
正直、今回のクエストで一番問題だと思っていたのはアイリスだ。
夜遅くのクエストという事ももちろんだが、アイリスは基本的にひかえめな性格だ。なので、怖い話とかそういうのも苦手なんじゃないかと思っている。
ここまで来る間は平気そうな顔をしていたが、アイリスはこいつら二人と違って周りの空気が読める良い子だ。つまり我慢している可能性も高い。
「ちょっと怖いですけど、大丈夫そうです!」
「あれ? おばけとか幽霊とか苦手じゃないんだな。ちょっと意外だったよ」
「えへへ……。でも、別に得意とかじゃないんですよ? ただ、リリーナさんとミカさんがあんなに怖がってるなら私がその分頑張らなくちゃって思いまして。ユウマさんだけにお任せするわけにはいきません!」
え? 何この天使。
自分だって幽霊やお化けが苦手なのに、勝手なバカをやらかした年上二人に気を遣った上に、俺の為にこんなことを言ってくれるなんて……。
おいおい、涙が出ちまうよ。
「あ、あの……ユウマさん? この手は……」
「アイリスが良い子過ぎるのが悪い」
「それはとても嬉しいですし、ユウマさんに頭を撫でられるのはとても気持ちがよいのですが、そろそろクエストをこなした方がいいんじゃないでしょうか?」
「そうだな。でもアイリス。世の中にはクエストなんかよりも大切なことなんていくらでもあるんだぞ」
「いやでも……えへへ」
なんだかんだ言いながらも頭を撫でられて気持ちよさそうに顔を緩めるアイリスに、頭を撫でている俺の方までほっこりしてくる。
もう、今日はこのままクエストしないでいいんじゃないだろうか?
「ねえ、リリーナ。この近くに憲兵所ってあったっけ?」
「そうねぇ~。私あまりこっちの方へ来たことないからわからないけど、少し歩けばあるんじゃないかしら?」
「そっか。じゃあ目の前で犯罪が起きる前に私たちで犯罪者を退治して、憲兵さんに引き渡しちゃおうよ!」
「そうね! そうすればまた私の株が上がっちゃうわよ!」
「おいお前ら! さっきから好き放題言いやがって! ただかわいいアイリスの頭を撫でてるだけだろうが! それにさっきまでビビッてたくせに何普通にしてんだよ! 演技か!? 演技だったのか!?」
ちょっとアイリスとイチャイチャしていただけなのに他の二人が嫉妬して変なことをしようとしていたので慌てて止めに入る。
まったく、モテる男はつらいぜ。
「それよりもお前ら、結局どうなの? 中に入れるの? 入れないの?」
「「うっ……」」
俺の言葉に少し前まで調子に乗っていた二人が呻く。
「無理なら俺と、悪いけどアイリスの二人で様子見をしてくる。お前らはここで待機。行けるなら四人で中に入って、迷ったふりをしてお前ら二人を中に置いてくる。どっちだ? 選んでいいぞ」
「ちょっと選択肢がおかしいんじゃないかな!?」
「そうよそうよ! ミカの言うとおりだわ! こんなの横暴よ!」
「ユウマさん、さすがに今のはちょっと……」
おっと、このままではアイリスの好感度が下がってしまう。
軌道修正しないと。
「冗談だよ、さすがに本気でおいてこようなんて思ってるわけないだろ?」
うん。これで軌道修正ができたはず。
「「いや、ユウマならやりかねない(わ)」」
「お前らマジふざけんなよ! 人がせっかく優しさを見せてやってんのになんだその態度!!」
無理だわ。軌道修正とかこいつらがさせてくれないわ。
まずこいつらに軌道修正できるレールがなかったわ。
「とにかくそんなに余裕なら四人で入るぞ! 置いてかれたくないならちゃんとついてこいよ!」
「うん。わかったよ」
「仕方ないわよね」
ようやく大人しくなった二人にため息を零しながら、洋館の方へ向き直る。
すると、後ろからこんな言葉が聞こえてきた。
「「ユウマとアイリス(ちゃん)二人にしたら何するかわからないし」」
「お前らマジでふざけんなっ!!」
絶対こいつらをこの洋館に置き去りにすることを固く心に誓った俺だった。




