19話
というわけで今回のオチ。
「っつー……。ここは、俺の部屋か?」
目が覚めると俺は自室のベッドの上にいた。やや頭に痛みがある中、俺はここまでの経緯を確認するべく頭を働かせる。
「えっと、確か四人でダンジョンにいる魔王幹部を倒しに行って、レティシアが出てきて、リリーナとアイリスが操られて、俺とミカは平気で、最後にはどうにかレティシアを倒したはず……だよな?」
最後の方だけはなぜか記憶が曖昧けど、概ねこんな感じだったと思う。
「あらあら、坊や。ようやく起きたのね」
頭の整理が終わると、後ろの方から声が聞こえてきた。
その声と、特徴的な俺の呼び方に相手を一瞬で判断した俺はベッドを飛び出る。
「な、なんでレティシアがここにいるんだ!?」
声の主、魔王幹部である魅惑のレティシアが俺のベッドで横になっていた。
しかも、ほとんど全裸で。……眼福です。
「なんでって、サキュバスが男の隣に寝るのなんて理由は一つしかないじゃない」
「……え? それってもしかして……」
嫌な予感……いや、ある意味いい予感か? とにかく俺にとって重要なものが奪われた予感がする。
「も、もしかして俺の初めて……終わった? 寝てる間に? 知らないうちに?」
恐る恐るレティシアに尋ねると、レティシアは悪戯っぽく笑って告げてくる。
「楽しい夜だったわね」
「嘘だろーーーーーーーーーーーーーっ!! なんてことしてくれたんだ! 奪うならせめてちゃんと意識があるときにしろよ! でも、ありがとうございます!!」
「いいのよ別に。だって―――」
「だ、だって?」
「何もなかったもの」
「……は?」
レティシアがおかしそうに笑う中、俺はただ呆然と立ち尽くす。
「だからね、坊や。私は今ここで裸で寝てるけど、なにもなかったわよ。なんなら坊やが気絶してからまだ三時間くらいしか経ってないわ。その証拠に、ほら、外がまだ暗いでしょ?」
窓の方を指さすレティシア。俺はその綺麗な指の指す先へと目を向ける。
そこには夜の帳が下りたままの外の景色が広がっていた。
「だ、騙したな! 男の純情を弄んだな!!」
「だって~坊やの反応って全部新鮮で面白んですもの」
怒っているはずなのに、妙に大人っぽく笑うレティシアが色っぽくてつい視線を逸らしてしまう。
それがバレたのか、レティシアが新しい玩具を見つけた子供のような笑みを浮かべる。
「坊や、確かに私は何もなかったって言ったけど~。これから先も何もないとは言ってないわよ?」
「えっ!? そ、それってまさか!!」
「そこは、ほら、坊やの想像にお任せするわ」
そんなことを言われたら、純情男子高校生の考える妄想を爆発させてしまう俺。
そうだな。レティシアはかなり大人っぽいし、スタイルも抜群だからやっぱりバニーガールか? でも待てよ? それじゃあ今着てるのと大して変わらなくないか? だったら逆に布地を増やしてセーターとかどうだ? ほら、縦セタとか。でも、ここまで来たらやっぱり少し前に流行った童貞を殺すセーターってのも……。
そこまで考えたところで俺の部屋のドアが勢いよく開け放たれる。
「あっ。ユウマ、起きたんだね。って、やっぱりここにいた!!」
俺への言葉を早々に打ち切り、未だ俺のベッドの上で全裸でいるレティシアを指さし、睨み付けるミカ。
「まったく! なんで勝手に屋敷を動き回るかな。あんたがどうしてもって言うからユウマが起きるまでここに匿ってあげたのに。やっぱりすぐに憲兵さんに突き出すべきだったよ!」
「もーう。そんなに怒らないでお嬢さん。でも~、男と女がベッドにいる時にノックもなしに入ってくるのはお姉さんよくないと思うわ」
「部屋の外からじゃベッドの上にいるかわからないじゃん。それにたとえベッドの上にいたとして、私はユウマの無実を信じるよ」
「あら、そうなの? 私はてっきり大怒りするものだと思ってたんだけど」
「怒りはするよ。ただ無実を信じるだけ」
いきなり女の戦いが始まって困惑する俺を他所に言い合いを始めたミカとレティシア。
こいつら、こんなに相性悪いのか……。
「ふんだ! 私とユウマの関係をなめないでよね! 私とユウマは小さいころからの付き合いなんだから」
「あー、あなたたち幼馴染だったの。通りで異常に仲がいいはずよね」
なにか納得のいったような顔をするレティシア。
その反応がどうしてか嬉しかったのか、ミカが上機嫌に喋りだす。
「そうなの。だから私くらいになれば、ユウマがたとえ女の子と二人ベッドの上で全裸の上にいたとしても、そのことに対して怒っても、何かがあったとは思わない!」
「どうしてなのか聞いてもいいかしら?」
「それはもちろん。ユウマはエッチだけど、肝心なところでヘタれるヘタれ主人公だからだよ!」
「おうこら、そこの幼馴染! なに勝手なこと言ってくれてんだ! ヘタれじゃないから! 俺は全然ヘタれじゃないから! 据え膳食わねば男の恥という言葉がモットーの男だから!」
「じゃあ私の胸触ってみなよ。触っても怒らないから」
「え? ま、マジ……?」
「マジマジ。やれるものならやってみなよ」
こちらを挑発するように適度にある胸を突き出すようにするミカ。
決して大きいというわけじゃない。大きさだけで言えばリリーナや、すぐそこにいるレティシアの方が圧倒的に大きなパイオツをしてる。
でも悲しいかな。男はそこにおっぱいがあれば大きさなんてどうでもいいのだ。
というわけで、ミカ本人からお触りの許可が出ていることだし、さっそく、ほどよく出ているパイオツを揉ませてもらおう。
「さ、触るぞ?」
「うん。いつでもどうぞ」
「い、いいんだな?」
「いいって言ってるじゃん」
「本当に後でお怒るなよ? 『金剛力』も禁止な」
「怒んないよ。『金剛力』も使わない」
念には念のをの精神で再三ミカに最後の確認を行う俺。
そのすべてにミカは表情一つ変えずに淡々と答えてくる。まるで俺が絶対に胸を触れないことがわかりきっているとでもいうように。
はあ、まったく。なめられたもんだぜ。この俺が本人公認でおっぱいを触っていいって言われてるのに触らないわけないだろ。
この際だからと揉みに揉んで、触って撫でて撫でまわすに決まってるだろうが。
そう心の中で嘆息しつつ、俺は自分の両手をゆっくりとミカの胸へと近づけていく。
そして、あと数センチというところで俺の手は止まった。
「すいません! 私はヘタレでした!!」
「ふむ。素直で大変よろしい」
え? さっきまでの威勢はどうしたって?
バカ、あんなの見栄に決まってんじゃん! 無理だよ。いくら本人に触っていいって言われてても、とっさにそんなこと言われたって触れないよ! だって俺童貞だもん! 触ったことないもん! 二次元以外に恋愛すらしたことないもん! そんな俺が一足飛びどころか二足三足飛びなんてできるわけないじゃん!
ただ、負けっぱなしというのも少し気に食わない。
だから俺は最後に捨て台詞の一つでも吐いておくことにした。
「ま、まあ、別に触れないわけじゃないんだぞ? ただな、お前の胸が小さすぎて触るにたらないというか、触るところがないというかな」
そこまで言ったところで視界が突然ブラックアウトした。さらには頭の横が痛くなってきた。
……あっ。これ、ミカにアイアンクローされてる……。
「ユウマ……。それ以上言ったら、わかるよね?」
「は、はい……。ほんとすいませんでした」
ユウマはレベルが上がった。
童貞力が2上がった。コミュ症力が1上がった。謝罪までのスピードが10上がった。
「ねーえ、もうそろそろお姉さんの話を聞いてもらってもいいかしら?」
今まで黙ってことの成り行きを見守っていたレティシアが口を挟んでくるまで、俺はミカにアイアンクローされたままだった。
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今回の落ちパート2!
「えっと、つまりレティシアはもう魔王幹部なんかではなく、ただの魔物で、こっちの方に来てたのはサキュバスが生きるために必須の欲を満たすのに楽そうな場所だから来ただけと。あの冒険者たちもそこそこの時間が経ったら無傷で解放するつもりだったと。そういうことでいいのか?」
レティシアから大方の話を聞き終えた俺は、話の内容をまとめるようにレティシアに確認をとる。
その確認にレティシアはつまらなそうに笑いながら肯定した。
「そうよー。じゃなきゃわざわざ『魅了』したまま生かしておく必要ないじゃない?」
「確かにそうだな。話の筋は通ってる」
レティシアの言い分に納得する俺。
しかし、そこでなにかと反論せずにはいられない俺のパーティーメンバー、リリーナが割って入ってきた。
そう、今現在俺たちは俺の部屋に五人で集まり、炬燵にぬくぬくしながらレティシアの話を聞いていた。
「ちょっとユウマ! こんな変態露出女の言うことを素直に信じるわけ!? おかしいんじゃないの!?」
「大丈夫だ。お前よりはおかしくない。それに、話の筋は通ってるだろ?」
「だからってこいつは魔王幹部よ! あと、私よりおかしくないってどういうことよ!」
「元よ、も・と」
「だとさ。だったら別に信用してもいいんじゃね」
さも当然の様に告げる俺に、大いに反対してくるリリーナ。今のこの場の状況は俺とアイリスが許してもいいんじゃね? 派で、リリーナとミカが絶対に許さない派だ。
アイリスは基本的に温厚で優しい性格な上、魔物にすら回復魔法をかけてしまうような優しい子なので、レティシアの身の上話を聞いた段階で堕ちた。
それとは逆に、最初からなぜかレティシアと相性の悪いミカは反対派になり、リリーナは操られたことが気に食わなかったらしくミカと同じ反対派に着いた。
つまり、完全に二対二の構図が出来上がっており、膠着状態の泥沼状態である。
「ユウマ! ユウマはどうせお姉さんキャラ目的でしょ? だったら既にファナさんっていうお姉さんがいるじゃん。ユウマ前に言ってたよね? 俺はお姉さんはどっちかって言うと優しくてゆるふわな甘々お姉ちゃんが良いなって。ファナさんドンピシャじゃん」
俺を味方に引き込もうとしたのか、ミカが話を持ち出してくる。
「いや、そりゃあファナは魅力的だし、俺はゆるふわ系の女の子が基本好きだぞ。でも、だからってゆるふわ以外許すまじ! ってわけじゃないしな」
「なっ! ユウマの浮気者! 女好き! ラノベ主人公!」
「おっ? 最後のだけすげー嬉しい」
なにやら罵倒をしたかった様子のミカだが、最後の最後で言葉のチョイスを間違ったな。
それに、俺は並大抵の罵倒じゃ心折れないぜ。伊達に陰口、悪口、嫌味、を言われてきてないからな。
……。ちっ、身体から出る水はしょっぱくていけねー。
「ともかく、レティシアも反省してるみたいだし、今回は見逃そうぜ。それに、レティシアの能力はお前らにとっても割と魅力的なんじゃないか?」
「「うっ……それは……」」
俺の反論で一気にたじろぐ二人。
意思弱すぎだろ……。
「でも、すごいですよね。レティシアさんが魔法を掛けるだけで好きな夢を見れるなんて。私、お菓子の家とか、動物さんが喋る世界の夢が見たいです。それで、お菓子を食べながら動物さんと楽しくお話しするんです」
今まで黙っていたアイリスが幸せそうに想像を膨らませる。
想像の内容すらかわいいとか何なの? 俺萌え死んじゃうよ?エッチなことばかり想像してた俺とは大違いだよ、ほんと。
「そりゃあ、私だって見たい夢はあるよ……? 女の子だし……」
「だろだろ、夢の中なら何でもありだ。エイトに愛を囁いてもらったりもできるぞ。リリーナだって、いつもとは違う天才的な魔法使いになる夢が見られる。その代償として俺たちは少しのお金と精力を渡す。あとはレティシアを見逃すだけ。手に入るものに比べて出費は安いだろうが」
「くっ! 嫌味はともかく、夢の内容の方は魅力的ね……」
「だ、だね……」
もうそろそろ心が折れそう、というよりは欲望に負けそうな、欲望に忠実な二人の美少女へ最後の追い打ちをかける。
「レティシアは生きてくために仕方なくやってただけなんだぞ? 被害っていう被害はあったけど、大したことないんだし笑って許してやれよ」
レティシアは別に人間と争う気は全くないらしく、むしろ人間がいないとサキュバスが生きていく上で必須の精力が得られないので困るらしい。魔王軍を抜けたのも魔王が人間を滅ぼすとか言い始めたからだとか。
そして、その結果が今回の騒動の原因だったというわけで、レティシア自身はむしろ人間との共存が望ましいとか。
そう言ったレティシアの身の上話を聞いた上で、俺はレティシアにある提案をした。
「だったら、その能力を使って店でも作っちゃえばいいんでね?」
と。
話を聞く限り、レティシアに着いて来て一緒に魔王軍を抜けたサキュバスは多いらしい。その子たちも今は他の場所でレティシアと同じ方法でどうにか生活を送っているらしい。
でも、それだと今のレティシアと同じ運命を辿ることは必至なわけで。
それならみんなをここに集めて店でも開いて、贅沢にとはいかないまでも、それなりの生活をしながらのんびり暮らすのもいいのではないか? という俺の提案をレティシアは飲んだのだ。
「まあ、坊やには色々とお店の方を手伝ってもらうけどね」
という条件付きではあるが。
その条件の対価だって、店の売上の一部はくれるという話だし、お店の利用も融通を聞かせてくれるらしいし、かわいいサキュバスとも知り合いになれるという俺得でしかないものだっだ。
「それに、俺としては魔族との共存とか最高でしかないしな」
「そうなんですか? いつも私が魔物さんを回復させるとユウマさんは怒るので、てっきりユウマさんは魔物がお嫌いなんだと思ってたんですけど」
不思議そうに尋ねてくるアイリスに、俺は「いやいや」と、手を全力で横に振りながら応じる。
「全然そんなことないぞ。俺は天使だろうが悪魔だろうが獣だろうが美少女なら何でもオッケーだ。それに、面倒なことになるくらいなら敵味方とか関係なしに仲良くなれる方がいいに決まってるだろ? アイリスだってそうなんじゃないか?」
「そうですね。私だって魔物さんと戦わなくて済むのならその方がいいかもです
「だろ? ドワーフとかエルフはオッケーで、その種族以外はだめ、みたいな差別は俺はだめだと思うね。いじめ反対!」
「確かにユウマさんの言う通りです! レティシアさんはサキュバスで悪魔ですけど悪い人ではないみたいですし、仲良くなれるかもしれません!」
そう言うとアイリスは何やら決意に満ちた目でレティシアの方を向く。
「れ、レティシアさん! わ、私と仲良くしてくれますか……?」
あまりにも拙く、幼く、けれどだからこそ直球なアイリスの言葉にレティシアは母性に満ちた顔でほほ笑むと、アイリスに返した。
「もちろんよ。私としても坊やが言ってるみたいに人間と共存できる方が助かるもの。むしろこちらからお願いしたいわ。そっちの二人もね」
アイリスへ優しく微笑みながら、自分に対して良い感情を持っていないミカとリリーナへも微笑みかける。
そのあまりに大人な対応にたじろぐ二人。自分がどれだけ子供じみたことしていたのか実感したのだろう。
「こ、こっちこそ……。さっきはごめんなさい」
「そ、そうね……。悪かったわ」
負けを認め、素直に謝る二人。
今度からなにか二人と揉めたらアイリスとレティシアを味方につけよう。
「それじゃあレティシアもとい、その仲間たちとの共存に異論はもうないな?」
「はい!」
「ないよ」
「ないわね」
パーティーメンバー全員から異論が無くなったところで、俺は改めてレティシアに向き直り、手を差し出す。
「というわけだ。これからよろしくな。レティシア」
「ええ、こちらこそよろしくお願いするわね。お店のことや、他の仲間たちのことや、ギルドへの対応の方も」
「それは任せてくれ。口先だけなら自信がある」
「無駄なスキルだなー」
俺とレティシアが熱い握手を交わす中、ミカが呆れたようにに俺を最後の自信におツッコム。
これでようやくすべてが丸く収まったってもんだ。
「……あれ? なんか急に力が……」
「ど、どうしたんですかユウマさん! なんか、顔が青ざめてきてますよ!?」
アイリスが俺に慌てて駆け寄る中、こんなことができるのは一人しかないないと俺達全員視線がレティシアに集まる。
「あら、ごめんなさい。サキュバスって、触ってるだけで相手の精力を吸い取っちゃうのよね。いつもなら力を抑えとくんだけど、ついつい忘れちゃってたわ」
「うそだ! 絶対確信犯じゃん!」
「そうよ! やっぱりこんな奴は追い出すべきよ!」
「ああ~っ!! ユウマさんがどんどんしおしおにっ!? レティシアさん! 早くユウマさんの手を放しいてください! このままじゃユウマさんが死んじゃいます!!」
「え~? もう少しだけダメかしら? 最近まともにありつけてなかったらから坊やみたいな純粋かつ質の良い精力をたくさん吸っときたいんだけど。それに、量もすごいしね。だから、もう少しだけ……」
「「「ダメっ(です)!!」」」
「あら残念……」
三人に勢いよく迫られ、残念そうに俺から手を離すレティシア。
でも、その頃には俺は既に干からびた感じになっていて……。
「ああ、ユウマさんが! え、えっと……とりあえず回復魔法掛けてみますね!!」
混乱したアイリスがしばらくの間、回復魔法を掛け続けてくれたおかげで癒される俺。でも、体はロクに動いてくれない。
「や、やっぱり助けるんじゃなかったかな……」
レティシアを見逃して、あまつさえ生活の手助けまですると言ったことを少しばかり後悔した俺だった。




