16話
「これで俺の覚えているスキル全部だよ。これでいいのか?」
「ああー。十分すぎるよ、ありがとうなザック。あとこれ、少ないけど授業料な」
そう言って俺は財布中から三千ギルを取り出し、それをザックに見えるようにしながら小さな袋に入れて放る。ザックはそれをおっかなびっくり受け取り、驚いた顔をしながら俺の顔と放った三千ギルの入った袋を交互に見た。
現在の俺の財布の中身は昨日のスモールゴーレム討伐のおかげでホクホクだ。それに予想以上の収穫だったし、これくらいなら全然問題ない。
……それにコイツ、金に困ってるみたいだしな。
そして俺は念願の盗賊系スキルを一通り教えてもらった。後は家にでも帰ってからゆっくりそのスキルを、どのタイミングで取るか、取る必要性は? などを検討するまでだ。
ちなみにザックとはこの盗賊の男の子のことだ。さっきまではフードを深くかぶって顔を見られない様にしていたのだが、俺にスキルを教えてくれているうちに、フードを取った。
そしてこれがまた美少年。金髪でツンツン頭、生意気そうな目つき、整った顔立ち、その線が好きな方からしたら、大のご褒美に違いない。
俺も、こんなカッコいい顔に生まれたかったと正直僻んだくらいである。
「……い、いいのか?」
ザックが恐る恐る聞いてきた。本当にコイツがさっき盗みを働いていたのかと疑いたくなるくらいにおどおどしている。
そんなザックに俺は
「別に気にすんな。ホントにただの授業料だ。俺もタダでスキルを教えてもらっておいて何もなしってのはおかしい気がするしな」
「……でも、兄ちゃんは俺が盗みをしたのを知ってる。その口止め料だったんじゃないのか?」
これだけ言ってもザックはまだ少し不安なようだ。警戒しているというよりは臆病で、心配しているように見える。
まあ、犯罪を犯してるんだから精神的に落ち着かなくても当然かもしれない。
「確かに最初はそうだった。でも、俺はザックからスキルを教えてもらった。しかも想像以上に使えそうなスキルをな。だから俺は口止め料だけでは足りないと判断した。……これで理由にならないか?」
「……」
ザックが無言で俺を見ている。
どことなくその瞳には何か憧れを含んでいるように見えた。
気のせいだろうか? それとも俺の願望の生んだ幻?
……後者だなきっと……
「……兄ちゃんは俺を怒らないのか?」
「……怒ってほしいのか?」
俺がそう聞き返すと、ザックは何とも言えない様子で俯いた。
「きっと言いたくない事情があるんだろ? だから俺は何も言わない。……でも、やっぱり盗みはいけないことだ、それだけは言える」
そんな俺の一言にザックはまた、何か憧れを含んだ瞳を俺に向ける。
止めろっ! 元ニートの俺にそんな綺麗な目を向けるな!
でも、そんな表情は一瞬だけだった。すぐにザックの顔色が暗くなる。
「……なあ、兄ちゃん。俺が助けってって言ったら……。……助けてくれるか?」
俺はその質問に対し、なんだよそれ? と一瞬思い。そして言葉を口にした。
「……ああ、スキルを教えてもらったしな。それに俺はザックみたいなやつが嫌いじゃない。……それにこっちでの初めての男の知り合いだからな」
まあ、年は結構離れてるんですけどね。ザックはアイリスと同じくらいの身長だし。
「……そっか。あんがと兄ちゃん。俺、頑張ってみるっ!」
さっきまでの曇っていた表情が、何かを決意した男の顔に変わった。
「ああ、頑張れよ。俺も頑張るから。でも、なにか困ったなら頼れよ。ギルドにいればいつかは会えるからさ。ただあんまり期待はするなよ」
「うんっ! サンキューな、ユウマの兄ちゃんっ!」
それだけ言ってザックは去っていった。
「……ユウマの兄ちゃん、か。なんだか弟ができたみたいだ」
そんな少しほっこりとした気持ちで、俺は家へと帰った。
ちなみに帰ってから俺は今日のことを少しアイリスとリリーナに話した。
そして驚くことを聞く。
この世界でも窃盗は立派に犯罪であり、俺の想像していたような荒くれた冒険者など存在しない。
そんな知りたくもなかったことを、アイリスとリリーナに教わった。
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「さて、今日はリリーナが俺にスキルを教えてくれるんだろ?早くしてくれ、俺は昨日からわくわくして夜しか眠れていない」
今日も昨日に引き続き俺たちはクエストを受けないことにした。クエストボードを見てもロクなクエストがなかったのが主な原因だが、この前リリーナが今度使えそうな魔法を教えてくれると言っていたので、今日はたぶんよほどいいクエストがない限り、クエストを受けてはいなかっただろう。
「普通にちゃんと寝てるじゃない……。まあいいわ、今日は私の華麗なる魔法の数々を見せてあげる! あまり驚いたりしないでね。みっともないから」
「アイリス、今日はやっぱりクエストを受けよう、さっきクエストボードにコボルト十体討伐、一万ギル。てやつがあったんだけど、それにしないか?」
俺はリリーナの言動に少しイラッと来たので、このパーティーの良心アイリスに話しかける。
その瞬間、リリーナの顔を思いっきり引きつる。綺麗な顔が台無しだ。
アイリスはリリーナがコボルトを苦手としているのを知っているので、困ったような表情を浮かべて笑うのみだった。
こんな脳筋魔法使いのことを心配するなんてやっぱりアイリスは天使なのかもしれない。いつか白くてきれいな羽とか生えてきそう。
それに比べてリリーナは悪魔の羽が生えてきそうだ。
……それもありかもしれない。
「……ゆ、ユウマ、今日はクエストは受けなくてもいいと思うわ。私のスキルをいくつか教えてあげるから、今日はやめにしましょ。ね?」
リリーナがさすがに俺の思考パターンがわかってきたのか、これ以上下手な真似はしない様である。
まあ、端からそんな面倒なクエストを受けるつもりなど毛頭ないのだが。
「そうか。なら教えてくれ。アイリスも何か使えそうな魔法があったら教えてくれ。もちろん、各種ステータスアップと回復魔法以外で」
俺は同じ間違いを繰り返さない男だ。
前の様に、俺にスキルを教えて、俺がそのスキルを全部覚えたらアイリスがいらなくなっちゃう。的な会話には持っていかない。
その行動が功をなしたのか、アイリスは笑って元気よく了承してくれた。
「それじゃあ行きましょ。今日はなんだか、調子がいいの! ホントにあまりにもすごすぎてユウマなんか一瞬で腰を抜かしちゃうかもね。もう一度だけ言っておいてあげるけどみっともないマネはしないでね。一緒にいる私が恥ずかしいんだから」
そう言ってリリーナが席を立ち、ギルドの入口へと向かう。
そんな中、俺はクエストボードへと足を向けた。
「ゆ、ユウマさんっ! お気持ちは少しわかりますが、ここは落ち着きましょう! リリーナさんもきっと悪気はないんです!」
そこをアイリスに止められる。
アイリスからのお願いとあれば無視はできない。仕方なくリリーナを許してやることにした。
「わかったよ。アイリスがそう言うなら我慢する。それじゃあ俺たちも行くか」
「はい、ユウマさん。今日でいっぱい魔法を覚えられるといいですね」
アイリスが笑顔で言った。
「うっ! ……ぐはっ!」
俺はその場に倒れこんだ。
「ゆ、ユウマさん! どうしたんですか!? なにがあったんですか!?」
アイリスが急いで俺のところに来て『ヒール』を掛けてくれる。
でも、アイリス。これ……『ヒール』じゃ治らないんだ。
だって……。
俺がただアイリスに萌え殺されそうになっているだけだから。
結局、ギルドを出たのはお昼すぎになった。




