17話
魔王幹部レティシア。
四階層から落ちた先でいきなり目の前に現れた妖艶な女性。今まで見てきたリリーナやファナなんかを軽く凌駕する抜群のプロポーションに、最低限の部分しか隠せていない、もはや着ているというより付けているという方がしっくりくるエロすぎる魅惑の衣装。腰の辺りからは小さな悪魔の羽が生えている。髪は長くピンク色。身長は俺より頭一つ分くらい大きく、女性にしては長身。
そんな、ザ・エロスを醸し出す大人の女性を目の前にした俺は、その場を動けずにいた。
「に、逃げようユウマ!」
動けずにいる俺に、少し前まで俺と同じように動けずにいたミカが言ってくる。
その行動自体は正しい。元の作戦でも俺とミカがどうにか魔王幹部をダンジョン内から連れ出し、外で待機しているアイリスとリリーナも含め、四人で全力戦闘するつもりだったからだ。
そうすれば今回のダンジョン内で一番の役立たずのリリーナも仕事ができ、ダンジョン内の暗闇や狭さなどをなくして戦える。圧倒的に不利な状況をいっぺんに解決できる。そういう作戦だ。
「ちょっとユウマ! なにしてんのさ! もしかして腰でも抜けちゃった!?」
逃げようと立ち上がるミカに、座ったままの俺。
ミカが慌てた様子で話しかけてくる中、俺はミカの方へは視線をやらず、レティシアの方を見ていた。
「すまん、ミカ……。俺、ここから動けそうにない……」
「だからなんでさ! 腰でもやった!? 足でもくじいた!?」
「ちがう……。違うんだ……」
「違うって、じゃあなに―――」
慌てた様子と声で俺を責め立ててくるミカに、俺はどうしてこの場を動けそうにないのか教えてやる。
「あんな別嬪さんを目の前にしたら、この男ユウマ! そう簡単に目が離せるはずがない!」
「思ったよりどうでもいい理由だった!! すっごいしょうもない理由だった!! 想像以上にくだらない理由だった!! 返して! 私の心配返して!!」
なぜか激しく怒り出すミカに俺も激しく言い返す!
「バカ! お前も見てみろ! あんな美人さんそうそうお目にかかれないぞ!! しかもあの衣装! あれは絶対に俺のような男に見られることを望んでる! じゃなきゃあんな格好するはずがない! だとすれば、男である俺はその望みを叶えてやらなくちゃいけない! それが男である俺の使命だ!!」
「見たよ! 女の私でも恥ずかしくて見辛いけどちゃんと見たよ! あと、それでこの前ギルドのお姉さんにセクハラ扱いされたのもう忘れたの!? 驚きの速さだよ!! 最後にそんなくだらない使命は忘れて! 今すぐ刹那のうちに!!」
「確かにこの前は失敗した! でも今回のこれは絶対そうだろ! こんなに露出高いんだぞ! 見ないでどうする! だから使命を全うする!」
「それ典型的なダメ男の発想だよ! 痴漢とかストーカーのヤバい発想だよ! その使命を全うしたら警察まっしぐらだよ!」
「あのー……ちょっといいかしら?」
「「なんですかっ!!」」
大切な話を邪魔されて苛立ちながら返す俺とミカ。
しかし、俺たちに今話しかけてこれる人物は一人しかいない。そのことを失念していた。その失念が大きな失敗に、つまりはレティシアを怒らせたことによる不条理な死に繋がらないことを祈りながらも、喧嘩を一旦中断した俺とミカはレティシアに向き直る。
「あー、やっとこっちを向いてくれたわね~。いきなり仲良く喧嘩始めちゃうんだからお姉さん困っちゃったわよ~」
「そいつは悪かったな。でもこれがお約束なんだ。許してくれや」
「別に怒ってるわけじゃないし、そのことは別にいいのよ。でも、さすがに置いてけぼりは困っちゃうから勘弁してね」
「わかったよ。それで、魔王幹部の一人であり、サキュバスの魅惑のレティシアさんはなんでもこんな始まりの街近くのダンジョンなんかに来たんだ?」
少しは冷静になってきた俺は、今すぐ逃げ出したい気持ちをぐっとこらえ、どうにか隙を伺うべく、当たり障りのない、けれど気になっていた質問を繰り出した。
背中を向けた瞬間にズドンとか洒落にならないからな。
「あら、あなたは私がサキュバスだってちゃんとわかるのね。今まで来た人たちはみんな悪魔だって言ってたのに」
少し驚いた様子を見せながらも、攻撃してきそうな感じはない。
とりあえずは一安心といったところか。
「そりゃあ俺は他の連中より知識が豊富だからな。ちなみにこっちのミカもちゃんとわかってるはずだぞ」
「あら、そうなの?」
いきなり俺に話を振られ、「え?」という表情を見せたものの、ミカが答える。
「サキュバスってあれだよね? なんかエッチな感じで、男の人を魅了して操ったりする悪魔の一種だよね?」
「そうね。概ね正解よ、かわいいお嬢さん。少しだけ違うけどね」
「うそ? ほんとに? 結構自信あったんだけどな~」
「大方、男だけじゃなくて女の魅了できるってところだろ」
「せーいかーい。すごいわね、かわいいボウヤ。本当にいろいろ知っていそうね」
賢いアピールに成功した俺は鼻を高くすることなく、どうにかこの場から安全に逃げられないか、そして決して魅了されるわけにはいかない、ということで頭をいっぱいにする。
あと、レティシアが「概ね」って言ったときに「大胸」って大きい胸みたいに聞こえた俺はまずいだろうか?
「そこまでわかってるならぁ。お兄さんたちに逃げ場がないっていうのもわかってるわよね~」
真面目な思考の中に小さな欲望が入り混じった考えをしていると、レティシアが妖艶に嗤った。
そして、その嗤いの理由は、放たれた言葉の中にあることくらいすぐにわかった。
「まずいっ! ミカ! 全力で逃げるぞ! 俺のことを引っ張りながら多少強引にでもダンジョンから脱出しろ!」
「よくわかんないけど、わかった!」
幼馴染特有の阿吽の呼吸ですぐに恥ずかしげもなく手をつないだ俺とミカ。
少しくらい邪魔することができたはずのレティシアは全く動かない。つまり、それだけ余裕ということだ。
「逃がさないわよ~。行きなさい、私の下僕たち!」
俺とミカが背を向け、なりふり構わずこの場からの逃げを試みようとしたその瞬間、俺たちの方を指さしレティシアが指示を飛ばす。
すると、奥の方からぞろぞろと大量の人影が姿を現した。
「ね、ねぇ、ユウマ……。あの人たちって……」
「あぁ、見た顔が何人もいる。全員ギルドから依頼されたイニティの冒険者たちだな」
「ど、どうするの?」
「今は無視するしかない。邪魔するなら強引にでも突破する」
「そうだよね。それしかないよね……」
俺と違って誰かを見捨てることや犠牲にすることが苦手なミカが、操られているであろうイニティの冒険者たちを見て悲しそうに顔をゆがませる。
「今は何も考えるな。逃げることだけに集中しろ。その方が少しはマシだと思う」
「うん。ありがとね、ユウマ」
それだけ言ってミカは顔をあげて大きな一歩を踏み出す。
『金剛力』を持ったミカの脚力なら大きく一歩を踏み出せば数メートルを一瞬で移動できる。いくら相手が大群といえども身体的な能力はそのままか、少し低下しているはず。逃げられないはずがない。
そう逃げ切れるシミュレーションをしていると、いきなり目の前に壁が現れた。
「メッサーラ!」
「むにゃ!」
そして見事に壁にぶつかった。
なんならそれは壁ではなく地面で、単純にミカがいつものドジで転んだだけだった。手を引っ張っていた俺も巻き添えにして。
「なんでこの一大事にお前はドジをするんだ!」
「しょうがないじゃん! そんなの神様に聞いてよ!」
「そんなのラティファに聞いても困らせるわ!!」
言い合いをしながらも、各自起き上がり再び手をつなぎ直す俺とミカ。
「今度こそ頼むぞ」
「任された!!」
そう言ってミカが力強い一歩を踏み出す。それだけでぐだぐだしている間に距離を詰めてきていた、レティシアに操られた冒険者たちとの距離を一気に引き離す。
「この階層のことは全くわかんないから適当に進め! 四階層からは俺が指示を出す!」
「了解! ユウマこそ、手離さないようにね!」
「ああ。一生離さない」
「え!? ゆ、ユウマ、それってプロポ―――」
「トイレでもお風呂でも一緒に行ってやる!!」
「私のトキメキを返して!!」
冷めた返事をしながらも全力疾走を続けるミカ。それに振りほどかれないようにしがみつく俺。なんとも情けない状態ではあるものの、最悪の可能性だけは免れたようで、どうにか四階層への階段を見つけ出す。
「ユウマ、敵がまったく追って来ないのってなんか変じゃない?」
俺の脳内マッピングによるナビゲートを受けながら、途中何回かずっこけそうになりながらも一階層まで戻ってきたところで、そう言ってくるミカ。
「そうだな。俺たちは結構五階層で迷ってたし、階段を塞ぐには充分な時間があったはずだ。それなのにいないってことは―――」
「ゴールにいるってことだよね……」
これだけは幼馴染特有のあれなんかではなくともわかったらしいミカか珍しく神妙な感じで言ってくる。
「まあ、そうなるな。四階層からも道には迷ってないながらも俺の『ライト』でささやかな明かりの中を全力疾走だから、だいぶペースは遅い。このダンジョンの完全に把握してるとしたら十二分に時間はあるはずだ」
「だよねー。はーあー……いやになっちゃうな」
「気持ちはわかるが諦めろ。殺さない程度に強引に突破してやればいい」
「え? ユウマにこの気持ちがわかるの?」
「お前ほんといい加減にしろよ! まるで俺を人の心がない悪人みたいに言いやがって! あるよ! 俺にだってちゃんと良心あるよ! ……欠片くらい」
「そこで弱気にならないでよ……」
こんな状況だっていうのに軽口を言い合いながらも問題なくダンジョン出口までもう少しのところまで戻ってきた。
そこには案の定というかなんというか、予想通りにたくさんのイニティ冒険者たちとレティシアが陣取っていた。
「思ったより早かったわね。でも、ここまでよ。外になんか出させないわよ。あなたたちも私の下僕になるの」
「うっ……なんて魅力的な提案。でも、構うもんか! ツッコめミカロボ! これが俺たちの全力全開! ウルトラダッシュアタックだ!」
「待って! ツッこむのはともかくツッこませて! 私ロボットじゃないし、ユウマはなにもしてないし、なんかいろいろ危ないし、でツッコミどころが多すぎる!」
そんなツッコミを律儀にしながらも覚悟はしっかりと決めたらしいミカが『金剛力』を全力で行使した突進をする。
何十もいた冒険者たちを強引に押しのけ、ド真ん中を正面突破する。
『金剛力』のことを知らないレティシアがミカのパワーに驚く中、俺とミカはしたり顔を浮かべつつ、イニティの冒険者たちを突破した。
「なんてパワーなのかしら。 ちょっと侮り過ぎたかしらね。でも、逃さないわよ」
「リリーナーっ! 敵がたくさん来てる!! 魔法を撃つ準備をしろーっ!!」
ダンジョンの階段を全力で駆け上がりながらリリーナに聞こえるように大声を出す。
その最中も後ろからはレティシアの声と操られた冒険者たちの呻き声のようなものと、足音が近づいてきている。
なにこれ、超怖いんですけど。ゾンビものとかで追われる主人公たちってこんな心境なの? 俺だったら自殺してるかもしれん。
「ぷっはぁ~っ!! どうにか逃げ切った!」
「よしっ! リリーナ、準備はできてるな! 人を殺さない程度に加減して全力でいけ!」
「なによその矛盾した注文は! それに私に加減を求めるなんて間違いよユウマ。私に加減の二文字はないわ!」
「なら手加減してくれ! これで三文字だ!」
「ならそれもないわ!!」
なぜか無駄に胸を張っているリリーナと、これまたこんな状況で軽口を叩きあいながら最善の手を打つ。
「どんな相手なのか知らないし興味もないけど食らいなさい! 『エレクトリックフルバーズト』!!」
大層な名前の魔法がリリーナの口から発せられると、リリーナの持った杖先に黄色い光が集中する。それらが爆発するように杖先から放たれた。
圧倒的な火力の電撃が、まるで超電磁砲を髣髴とする形をもってダンジョンの入り口から中へと侵入していく。
たくさんの呻き声がダンジョン内から響く中、俺とミカは少しばかり顔を青ざめさせる。
だって、だって―――中にいるの、操られてるイニティの冒険者よ? さすがに殺したらあかんでしょ。
そんな俺とミカの心配をよそに、魔法を撃ち終えて満足したらしいリリーナがやってやった感を出しながら額の汗をぬぐっていた。
「お前マジで何やってくれてんの!? 人を殺さないように手加減しろって言ったじゃん! さんざん忠告したじゃん! それなのにお前は本当に何やってくれてんだ!」
「なによ! せっかく助けてあげたのにその言いぐさはないじゃない! ミカだって助かったわよね? ね?」
いつもの様にミカと二人、二対一で俺との口喧嘩を有利に運ぼうとするリリーナ。いつもならミカもロクに話の内容がわかってなくてもリリーナの味方をするものだが、今回は事情が事情なだけにひきつらせた笑顔をリリーナに向けて謝罪した。
「ごめんリリーナ。今回は私もユウマの味方かな……」
「ええっ!? ちょっとどうしちゃったのよミカ! もしかしてダンジョンの中でユウマに変なことされて弱みでも握られたの? なら大丈夫よ。私がどうにかしてあげるわ。たとえミカがどんなにひどい目に遭わされてたって、私たちは、その……友達、じゃない。だから気にしたりなんかしないわ」
「おうおうおう。なんか俺を悪者にしようとしてるけどそうは問屋が卸さねえぞ! それになんだよ今の理由は! 俺クズすぎんだろ!」
「だってクズじゃない!」
「んだとーっ!!」
「まあまあ、落ち着いてくださいお二人とも。それよりユウマさん、慌てていたようですが何があったんですか?」
「あ、あぁ、実はな―――」
いつものごとくリリーナと時と場も弁えずに喧嘩へと発展しかける中、これまたお約束ということでアイリスにたしなめられて、さらにはダンジョン内で何があったのか冷静に訊ねてさえくれるアイリスに感服しつつ、事情を話そうとする。
しかし、そんな必要はないとばかりにダンジョンの方から声が聞こえてきた。
「いったたぁ~。ちょっと~、あんなのまともに食らったらあなたたちの仲間たちごと全員お陀仏だったわよ。咄嗟に私が魔力障壁を張ったから命に別状はないけど、感謝してほしいわね」
ダンジョンの中から、こちらに抗議をしつつ、服や体についた砂埃を払いながら何事もなかったかのように姿を現すレティシア。
俺とミカはすぐに戦闘態勢に入り、事情は呑み込めてないまでも俺とミカの行動を見ておおよその理解はできたらしいリリーナとアイリスも少し遅れて戦闘態勢に入る。
「そいつはサンキューな。正直人助けに来て人殺しになるとかマジ勘弁だったからホント助かった。助かったついでに降伏でもしてくれるとさらに助かるんだが、どうだ?」
「それは無理な相談ねぇ。あなたたちにはあなたたちの理由があるように、私たちには私たちの理由があるもの。そうでもなかったらこんな面倒なことはしないわ」
臨戦態勢を取りつつ、この後の行動についてを軽くまとめていると、少し後ろで杖を構えているアイリスが話しかけてきた。
「あ、あの、ユウマさん……」
「あぁ、アイリス。予想通りだよ。あれがギルドのお姉さんが言ってた魔王幹部の一人、魅惑のレティシアだ」
「は、はい……。でもですね、私が聞きたいのはそういう話ではなく……」
「作戦については少し待ってくれ。正直逃げるのに必死でまだ考えがまとまってないんだ。俺の知ってるサキュバスよりなんか強そうだしな」
ここまで逃げていただけとはいえ、ある程度の戦闘能力は測れる。あまり戦闘面において強そうなイメージのなかったサキュバスだが、この世界ではその認識を改める必要がありそうだ。
全体的な戦闘能力に関してはまだまだ未知数だが、少なくともリリーナの魔法を真正面から防ぐことができる程度には魔法に長けているらしい。
それにサキュバスの能力の中で一番厄介そうなのが―――
「『魅了』……」
『魅了』スキル。
詳しいことはわからないが、現段階でわかっているのは、男女問わず意識を失わせ自分の命令通りに動かせる操り人形として使役することができる。という一点だ。
それだけでも十分に厄介すぎる。
相手が知り合いで攻撃がしにくくなることはもちろんのこと、相手の戦闘能力自体もさして下がっている様子がないのがさらにまずい。
こちとら特化型二人や基本的にスペックの高いアイリスのおかげでどうにかやってきたものの、その三人の性格がアレすぎて一周回って最弱のパーティーだ。
さらにはミカあたりは手加減をドジでミスって殺しかねない。リリーナなんて操られる方が悪いのよ。とか、言いそうだ。
アイリスだって相手が操られた冒険者とわかれば攻撃の手が緩むだろう。
まずいな……。
レティシアが砂埃を払うのにやたらと時間をかけてくれているおかげでここまで思考をまとめることには成功したものの、正直まとまったことといえば、絶望的状況だというひどく最悪な結論だけだった。
「あの、ユウマさん……すいません」
「悪いアイリス。もう少しだけ待っててくれ。今どうにか作戦を……」
そこまで言ったところで背中に、こてん、と何かがもたれかかってきた。
あれ? と、思って後ろを振り返ると、そこには顔を真っ赤にして頭から湯気を出したアイリスがいた。
「ど、どうしたアイリス! まさかレティシアに何かされたのか!?」
「失礼ねー。私はまだ何もしてないわよ~」
こちらの会話が聞こえていたのかレティシアが侵害そうに意義を申し立ててくる。
しかし、この状況でアイリスに精神的に何かをできた奴なんかレティシアしかいない。俺は最愛の妹をこんな目にあわされた怒りでレティシアを睨み付けた。
「絶対に許さねえ……。美人でもやっていいことと悪いことがあるんだぞ!」
「美人ってのは素直にほめ言葉として受け取っておくとして、本当に私は何もしてないわよ」
「ならアイリスがどうしてこんなことになってる! ことと次第によってはエロイ目を見てもらうぞ!!」
「そこで痛い目を見せられないところがユウマだよね……」
「まったくね……。こんなのが仲間なんて嫌になるわ……」
味方であるアイリスのために怒りを露わにしているはずの俺に、なぜか他二名の味方から冷めた視線と言葉をいただいた気がするが気にしないことにした。
「エロい目に合わせてもらえるのは大歓迎なんだけどー、とりあえずその子に事情を聴いてみたら? それまでは私も手を出さないし、私も変な言いがかりをかけられるのも嫌なのよね~」
なんか大変魅力的な発言が聞こえた気がするが、ここはロリコンの伝道師たる男ユウマ。アイリスの優先度を何事より優先してアイリスを支えながら声をかける。
その間、隙だらけの俺とアイリスを庇うようにミカとリリーナがレティシアとの間に立ってくれていた。
「アイリス。どうしたんだ? レティシアに何かされたのか? 大丈夫だからお兄ちゃんに言ってごらん?」
優しく声をかけてやると、アイリスが小さな声で返事をしてくる。
「ゆ、ユウマさん……。なんで、あの人は、あんなにえ、ええええ、えっちな、格好をしているのですか……」
顔を真っ赤にし、両手で自分の顔を隠して、えっち、というところだけ声を萎ませ、本当に恥ずかしそうにそう語ったアイリス。
やばい。何かに目覚めそう。
前で俺たちを庇うように立っていた二人にもアイリスの声が聞こえたらしく、二人して「あぁ、そりゃあアイリス(ちゃん)には刺激が強い(わ)よね」なんて言っていた。
しかし、ここで新たな問題が生じてしまった。
レティシアが布面積が少ない服を着ていたらアイリスは戦闘に参加できない。でもレティシアにそれを説明して、仮に布地の多い服に着替えられたら、そしたら―――
俺のこの滾った気持ちはどうしたらいい!!
「そんなの知らないよ!」
「だから人の心を読むなよ!」
幼馴染特有のなぜか考えていることが言わずともバレてしまう現象のせいでミカにツッコまれると、俺は改めてレティシアに向かい直る。
うん。やっぱりエロくて最高の衣装だ。
「あの、レティシアさん。私たちの仲間にはあなたの服は刺激が強すぎるんで、もう少し大人しめな服を着てくれませんか?」
場違いにもミカがそんな提案をレティシアに投げかける。
「そうよ。それにそんな格好してたらこの変態に変態なことされるわよ」
なぜか追い打ちにもならない追い打ちを仕掛けるリリーナ。
後で覚えてろよ。
「さっきも言ったけど、そこの坊やとエッチなことをするのは私としても万々歳よ。だってサキュバスだし。それに坊やはエッチなことに素直で性欲も強そうだしね」
「その通りだ! 俺はエロスを否定しない!」
「変なところで胸張んないでよ!! それにそんなこと私が許さないから!」
褒められたから胸を張っただけなのにミカに怒られた。
もうユウマ、なにが正しいのかわかんない。
「とにかく少しでいいから布地の多い服を着てください!」
魔王幹部に対して謎の怒りをぶつけるミカ。しかしレティシアからしたら相手の数が減ることは良いことなんだからその要求を呑むはずがない。
そう思っていたのだが……
「はあ~。しょうがないわね~」
「え……?」
呆れたようにため息ついたレティシアは、ダンジョンの中に引き返したかと思うとすぐにマントを一枚羽織って出てきた。
「その辺の坊やのマントを借りてきたわ。これでいいわよね?」
「全然よくないわよ! あんたの無駄にでかい胸が全然隠れてないじゃない!!」
「無駄になんてひどいわ~。ねぇ、坊やもそう思うわよね?」
「えぇ! 無駄だなんてとんでもない!」
「「ユウマはもう黙ってて!!」」
マジでなんで怒られてんの俺?
おっぱいが嫌いな男子なんているわけないじゃん。
ちゃんとミカやリリーナのおっぱいにだって関心があるのに、全くどうして怒られているんだ俺は。
「あははははははっ。あなたたち本当に面白いわね~。仲間だったら仲良くやれたと思うわ~」
「だったら仲間になってくれてもいいんだが。むしろ俺は万々ざ……」
い。と続けようとしてミカとリリーナ、さらには腕の中にいるアイリスにまで凄まれたので言葉を飲み込んだ。
「坊やは本当に素直でいい子ね~。だから~もうそろそろお姉さんも頑張っちゃうぞ。……坊やとお嬢ちゃんたちを全員虜にするためにね」
先ほどまでのただ明るいだけの笑いと違い、どこか怪しげに嗤うレティシアを見て咄嗟に口を開いた。
「まずい! おい! 絶対にレティシアの目を見るな! 目を見たら催淫、というか魅了されるぞ!!」
言いながらもしっかり俺も視線をレティシアから外す。
「あらら~? なんで坊やはそんなこと知ってるの? もしかしてサキュバスに会うの、初めてじゃないのかしら?」
「いんや、正真正銘初めてだ。でも、さっき言ったろ? 俺は知識だけは持ってるんだよ」
魅了だの催眠だのといった、相手の意識を乗っ取り操るタイプの敵は、目を使って相手の意識を乗っ取る事が多い。逆に言えば目さえ合わせなければ操られることはない。
「でも残念。坊や以外の三人は少し目を逸らすのが遅かったわね~」
「なにっ!?」
レティシアの言葉に危機感を覚えた俺はまず目の前で俺に抱かれているアイリスに視線をやる。
そこには目を虚ろにし、力なさげに俺の腕へともたれかかるアイリスがいて。
「……『スプラッシュ』」
突然魔法を放ってきた。
「なっ!?」
アイリスを放り投げるのに抵抗があった俺は、魔法を首を動かすことでどうにか回避した後、なるべく衝撃を殺すようにアイリスをその場に下ろしてから一気に距離を取る。
「ちくしょう! しくじった! つーか、俺以外全員がレティシアに操られた時点で詰んでんぞこれ!」
悪態を吐きながらもとりあえずレティシアと、操られているらしい仲間三人から距離を取る。
「ふふふ。これで形成逆転ね、坊や。降参したらどう? そしたら痛い目に遭わないで済むし、私とえっちでエロエロな生活を送れるわよ?」
「くっ! すげー魅力的な提案だ。さすがは魅惑のレティシアだな。名前に恥じない魅惑っぷりだ」
「あら、嬉しい。そんな褒め言葉を言われたのは初めてだわ」
「でも、でもな……そうはいかないんだわ。そいつらはそんなんでも俺のヒロインたちなんだわ。それで、俺はヒロインのNTRとか好きじゃない。創作物ならともかく、現実となればなおさらな」
最悪の状況の中、どうにか三人の意識を取り戻すべく、時間を稼ぎながらも方法を考える俺。この際もしっかりレティシアとは視線を合わせない。レティシアの素晴らしいおみ足を眺めている。
「だから、返してもらうぜ。俺のヒロインたちを!」




