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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第七章
167/192

16話

「こっからは完全初見だな。まずは道を確認しつつ、ゆっくり進むぞ」


 完全初見、なんて言っては見たものの、少し歩いた感想は道の変わっただけの一階層のようなものだった。

 出てくる魔物に変わりはなく、道幅も特に変化なければ明かりもない。問題点を挙げるとすれば地図がないから頭でマッピングをしながら進まないといけないという点ぐらいだろうか。


「そういえばさ、こんな風にユウマと手を繋ぐのなんていつ振りなんだろうね」

「なんだよいきなり。『潜伏』のときとかに繋いだりしてるだろ。でも、そういうのを抜きにしたら……そうさなぁ。小学校の低学年くらいまでは結構繋いでた気がするな」


 面倒くさそうな態度こそとったものの、会話がないのもあれなので会話自体には乗っかる。


「そうだね。それこそ一緒にお風呂とかも入ってたしね」

「そうだったな。……はあ~」

「なにさ、そのため息は。あっ。もしかして小さいころの私の裸でも想像しちゃったとか?」

「んなわけないだろ。てか、もしそうだとしたらため息なんて吐かないわ」

「え? もしかしてもっとエッチな感じの声とか言葉を出すとか言わないよね? さすがに幼馴染でもそれはちょっと……」


 明らかに少し引いているトーンで話してくるミカにふざけるな。と返しつつ、俺は正解を告げる。


「静かに賢者モードに入るに決まってるだろ」

「いやいや! それはそれでアウトだよ! それを今、本人である私に言っちゃうのも含めて死刑だよ!」

「はっはっはっ。ミカ、日本には思想の自由というのがあってだな」

「残念だけどユウマ。ここは日本じゃないよ」

「―――しまった!!」

「もう、そういう妄想は頭の中だけでやってよねー。なんて返したらいいかわかんないし……」

「お、おう。すまん」


 馬鹿な会話を続けるうちもしっかりと足だけは進めていると、あっという間に四階層まで来てしまっていた。それまでに敵を見つけることはあっても、相手から見つかることは一切なく、頭の中でしているマッピングの方も予想よりもサクサクと進めたおかげでどうにかなっていて、これなら迷うことなくダンジョンから帰れそうである。


「なんかサクサクとここまで来れちゃったな」

「そだねー」

「ミカのドジもほとんどなかったし」

「致命的なのがなかっただけで、地味なのはたくさんあったけどねー」


 そんな気の抜けた会話をしていると、少し開けた場所に出た。周囲を確認すると、ここは大きな十字路のようだった。四方向にそれぞれ続く道があり、どの道からも『敵感知』に反応はない。


「少し休憩するか。イニティからここまで歩きっぱなしで疲れたし」

「そだねー。でも、大丈夫なの? 私周り見えないし『敵感知』もないからわかんないけど、安全なの?」

「ああ。結構開けた場所だし、今のところ『敵感知』にも反応なし。もしもの時も四方向に逃げ道があるからよっぽどのことがない限りは大丈夫だ」

「私たち的にそのよっぽどを引きそうな気がするんだけど……」

「やめろ。俺も言ってて思ったから。でも、言ったら本当になっちゃうだろ。ほら、言葉にも力があるってやつ」


 なんだかんだ言いつつも二人で壁際まで歩いてそっと腰を下ろす。

 もちろん『敵感知』は継続中だ。


「休憩の時くらい明かりつけるか?」

「え!? いいの!?」

「別にいいぞ。そりゃあ危険度は上がるけどここ結構広いし、逃げ道も多いからいざとなったらどうとでもなるだろ」

「わーい! さすがユウマだね! 愛してるー!」

「安っぽい愛だなー。コンビニとかで売ってそう」


 安っぽい愛を受け取りつつランタンに火を灯す。

 途端に周囲が明るくなった。といってもせいぜい二、三メートルくらいのものだが。

 しかしミカにとってそれは久しぶりの光であるのも事実で実に大はしゃぎだった。


「あっかるーい!」

「おいおい。あんまり騒ぐなよ。敵が寄ってきちゃうだろうが」

「そっか。ごめんユウマ」

「いや、謝んなくてもいいけどさ」


 ミカと会話をしつつ、マッピングのための紙とペンを取り出す。

 今は明かりがあるのでしっかりと記録を残しておける。


「えーっと、まずはここら辺から降りてきて。それでこっちからこんな感じで移動して―――」


 自分たちの行動を一から思い出し、なるべく正確に地図を書き上げていく。素人にしては割と上手い方だと自分では思う。

 そんなことをしていると、マッピングに意識を割きすぎて生返事になってしまったことに怒ったミカが飛びかかってきた。

 ふいにそんなことをされればマッピング作業で両手が塞がっていた俺に抵抗の手段も、己の体を支える手段もなく、ミカが飛び込んできた勢いのまま倒れこむ。


「ちょっ! おまっ! 危ないだろうが! てか、女子がいきなり男子に飛びつくんじゃありません! そういう女子にとっては軽いスキンシップでも、男子にとっては「え? もしかしてこの子、俺の事好きなんじゃ……」って思わせちゃうんです!」

「えー、それはさすがにないでしょ。それに私だって誰彼構わずに飛びかかるほど尻軽じゃなくてよ」

「それがあるんだよ。男子っていうのは女の子を前にするととたんに馬鹿になるんだよ。あと、なんだその変な言葉遣いは。そして最後に……悪かったな」

「え? なにが? あー、ダンジョンの中を真っ暗で歩いてること?」


 ミカに押し倒された状況のまま、俺は投げかけられた質問に首を横に振る。

 ミカは「あれ? はずれだったか」なんて言いながらも、今の態勢を変えるつもりがないらしく、俺の上からどいてはくれない。


 目の前に幼馴染の―――ミカの顔がある。

 肩まで伸びた黒の髪に、少しあどけなさを残したままの顔立ち、普段は気にもしないのに、こういうときだけ妙に視界に入る長い睫毛、しっとりとした桜色の唇。

 そんな幼馴染の女の子な所を至近距離で見せられている俺は期せずして心臓の動きを激しくする。


 ま、まずい。まただ。

 最近ときどきあるミカとの妙に桃色な雰囲気のやつだ。

 そう頭では自覚はしていても、心はちゃんと自覚してくれない。どうしたって美少女と暗闇の中、二人きりでこんな状況になったら童貞引きニートはこうなってしまうのだ。

 唯一の救いは今回は俺の方が一方的にこうなっているだけで、ミカの方はまともそうなことだ。これで両方とも桃色に染まったら止める人間がいない以上十八禁展開になってしまう。

 役得だ。じゃなくて、最高だ。って、それも違うだろうユウマ!


 このままじゃ本当にまずい。なにがって言われるとわからないけど、とにかくまずい。そのことだけはわかっているのに、体は動いてくれない。まるで金縛りにでもあってるみたいに動いちゃくれない。


「ユウマ?」


 ミカが俺の名前を呼びながら小首を傾げた。

 ただそれだけの行動が、今の俺には抜群にかわいく見える。

 なんで!? ミカってこんなにかわいかったっけ!?


「ユウマってば」


 混乱する頭にもう一度ミカの声が届き、どうにか現実に戻ってくる。


「それで、さっき謝った理由ってなんなのさ」


 まだ若干桃色な雰囲気にのまれてしまっている俺だが、理性はだいぶ戻ってきていたので、さっき言おうと考えていた答えを口にする。


「確かにミカは尻軽じゃないな」

「ユウマ……。ふ、ふふん! そうだよ! 私は尻軽でもビッチでもなく、ちゃんと一人の人を思い続けられる魅力的な女の子―――」

「ミカの尻は重かったもんな」


 ドゴン!!


 言葉を最後まで紡いだ瞬間。俺の顔の横にはミカの拳が落ちていた。それも結構ド派手で鈍い音を立てた拳が、だ。

 顔を冷や汗でびしょびしょにしつつ、ゆっくりとミかの拳の落ちた位置を確認すると、軽く地面が凹んでいた。

 その事実を見てしまった俺はSANチェック3Dダイス6で振ってください。

 あっ……。一時的狂気はいりました!


「ユウマ。前にも言ったことあるよね? 女の子には言っていいことと悪いことがあるって」


 いつもの明るいものじゃない低い声のミカがこちらを見て言ってくる。

 すでに恐怖で全身ガクブルの俺は首を地面を削る勢いで縦に振ることしかできない。


「じゃあ、何か言うことあるよね?」

「は、はい。ミカさん。私ことユウマはミカさんに対して大変失礼なことを申し上げてしまいました。これからは気を付けていく所存ですのでどうかご慈悲を……」


 あまりの恐怖に妙に丁寧な言葉遣いになりながらもどうにか謝罪をする。

 するとミカはさっきまでの表情が嘘のようにパッと笑った。


「あははっ! なにそんなにビビってんのさユウマ! そんなに怯えないでよ。もしかして私が本気で怒ってるとでも思ってるの? そりゃあ確かに怒りはしたけど、そこまでじゃないって」

「い、いや。今のは本気でマジっぽかったぞ……。今のが演技だってんならお前は女優にでもなればいい」

「えっ!? ほんと!? あー、でも女優って演技でキスとか本当にしないといけないこともあるんだよね。なら私はいいかな。キスはやっぱり好きな人とだけしたいし」


 妙にピュアな女の子らしい理由を述べながら女優への道をあっさりと切り捨てたミカは、よいしょ、なんておっさんくさいことを言いながら、俺を押し倒すのを止めて普通に座りなおした。

 それに倣って俺も体を起こし、股間を確認する。

 うん。大丈夫だ。大きくなってないし、濡れてない。


「でもユウマ。デリカシーないのはしょうがないにしても、なさすぎるのはダメだよ。さすがの幼馴染の私でも怒っちゃいますって」

「それに関してはマジで悪かった。いや、ほんとマジで」


 これからは絶対にミカをからかっていいラインの間違いは犯さないようにしよう。そう密かに誓っていた俺の耳に妙な音が届く。


「なあ、ミカ。今なんか変な音聞こえなかったか?」

「え? ……あ、なんか聞こえるかも」

「だよな。でも、魔物の足音って感じじゃないな『敵感知』に反応もないし」

「そうなんだ。ん~……何かがひび割れてるようなじゃない?」

「ひび割れてる?」


 そこまで口にして俺たちは同時にハッとして互いの顔を見る。そしてそのままゆっくりと視線を少し下げた。そこには先ほどミカが拳を落とした痕跡がある。

 そして同時に、そこには罅があって、それがだんだんと大きくなっている。

 ゆっくりと顔をあげて再び顔を合わせる俺とミカ。先ほどとは違って今回の俺たちはなんとも気持ちの悪い笑みを浮かべていた。


「ユウマ……。これって……」

「ああ、いつものだな……」

「だよね。いつものだよね……」


 次の瞬間、床の罅が一気に広がっていき、地面が揺れ始める。

 まずいと思って立ち上がるも遅く、俺とミカのいる場所が抜けた。


「おわっ!」

「うわっ!」


 いつしか感じたものと似たような浮遊感が全身を包み込む中、俺とミカの心は一つだった。


「「俺(私)たち的にやっぱりこうなっちゃうよねーっ!!」」


 そんな叫び声をあげつつも、二人一緒に落ちていく。

 そして長い時間に感じられる一瞬を体験した俺とミカは五階層と思われる地面へとその身体を打ち付けた。


「バーザム!」

「ぐへっ!」


 謎のうめき声と、女の子にしては可愛げのないうめき声を二人であげつつ、運よく骨なんかが折れていなかったものの、全身が痛くてしょうがない体をどうにか起こし、腰をさする。

 目を開けば、五階層は壁中に青白く光る苔のようなものが張り詰めていて、視界も良好そうだ。


「ねぇ、あなたたち。大丈夫?」

「あぁ、全身ちょっと痛いけど、どうにか大丈夫だ」

「そう。それはよかったわね」

「そうだな。まったく、運がいいんだか悪いんだか。いや、この場合は運は悪いけど悪運は強いってことになるのか?」


 一人で何かを納得した俺の服の裾が思いっきり引っ張られる。

 こんなことをする奴は、というか今この場には一人しかいない。ミカだ。

 でも、さっきの声とか喋り方とかミカっぽくなかったよな? でも、ここにはミカしかいないはずだし、気のせいか。それか頭でも打ったんだろ。はい、QED、QED。


「おい、ミカ。服引っ張んなよ。伸びちゃうだろーが。これ結構お気に入りなんだぞ……って、どうしたんだ? そんなハトが豆鉄砲食らったようなアホ面して」

「ゆ、ゆゆゆ、ユウマ! 後ろ、後ろ!!」

「あ? 後ろ? 後ろになんかあるのか?」


 俺の後ろを頻りに指さすミカに促され、背後を振り返る。

 そこには―――やたら布地が少ない、それこそもうそれどこ隠してんの? と、聞きたくなるような衣装を、破壊力抜群なプロポーションの身に着け、腰の当たりから小さな羽を生やした、妙に大人っぽいお姉さんがいた。


「こんにちは~。って、今お昼なのかしら? まぁ、朝でも昼でも夜でもいいわよね~」


 軽いに挨拶をしながら俺たちに笑いかけてくる妖艶な女。

 あまりに突然の出来事に体を強張らせている俺とミカに、その妖艶な女は自己紹介をしてきた。


「とりあえず初めましてよね、かわいいボウヤにかわいいお嬢さん。私はレティシア。魔王幹部の一人、魅惑のレティシアよ」


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