14話
結局今年も残念なクリスマスを過ごすことになってから約一週間後、クリスマスの次にやってくるイベントごとはと言えば、お正月だ。
アイリスやリリーナによれば、こちらにはお正月もないらしく、ただ年が変わるくらいの認識しかないらしい。日本みたいに神さまにお参りに行ったり、はご板やら福笑いやらで遊んだりすることもなく、ただ普通の一日として過ごすらしい。
「つっても、こっちの人は年中神に祈ってる人もいるわけだしな」
はご板やら福笑いはともかく、神さまにお祈りということに関しては、もとから神さまを信仰している人の多い異世界ではなんの不思議もないことだった。
しかも日本の様に八百万の神、なんていう浮気し放題なほど神はいなく、俺が今まで聞いたことがある神の名前は女神ラティファだけだった。
「なんか今更感がすごいけど、やっぱり俺ってとんでもない人と普通に話してんだな。いや、神だから人じゃないのか? でも見た目は人だし美少女だしな……」
考えてもまともな回答が得られるはずもない問題に頭を悩ませていると、一緒に炬燵に入っているミカがチャチャを入れてくる。
「さっきからなに変な独り言言ってるのユウマー。ますます頭おかしくなっちゃったの?」
「あー、別に気にすんな。ちょっと考え事……って、お前今ますますって言ったか? とうとうとか、やっぱりですらなく、ますますって元から頭がおかしいみたいな言い方したか?」
「ええ~。そんなことないよ~。たぶん」
「たぶんってなんだよたぶんって! てか言ってたよ! 俺は自分への悪口はぜってーに聞き逃さないからな!」
「いや~。でもあながち間違いでもないでしょ」
「……炬燵から出てけ。二度と俺の炬燵に入るな」
「ああん! 冗談じゃんかー。許してよユウマ~。かわいいかわいい幼馴染の愛らしい冗談じゃんか~」
「はっ! 確かにお前はかわいいかもしれないが、アイリスの方がかわいいんだよ! 悔しかったらアイリスよりかわいくなってから出直すんだな!!」
「えっ!? ちょっとさすがにひどくない!? 確かにアイリスちゃんはかわいいけどさ、私だって学校では結構モテたんだよ」
「知ってるわ! 俺が他人から話しかけられる場合の八割は「あの、倉木君って、水野さんと付き合ってるのかな?」だったよ! あんなの聞いたら確実にお前に好意あるって丸わかりだったわ! お前にわかるか? えっ? 珍しく話しかけてもらえた。もしかしたら友達に、と思ったら、ミカとの関係が知りたいだけで、俺には点で興味がなくて、それ以降一回も話しかけられないということを何度も繰り返した俺の気持ちが!!」
今の話は嘘偽りの一切ない実話である。
クラス内でボッチだった俺は基本的に休み時間は寝ている振りか本を読むか、スマホをいじっているかの三択だったが、稀に話しかけられることがあった。
そのほとんどが今言ったミカと付き合ってるのかどうかで、残りの二割はノートやプリント回収の時だ。
それ以外の時には一切の会話がない。
ほとんど毎日がミカとの会話以外、口を開かないで過ごす学校生活だった。
あっ、ちなみに倉木は俺の名字で、水野はミカの苗字な。もう使わないだろうけど。
「……ごめんね、ユウマ」
「マジな感じで謝るな! 余計凹むわ! せめて笑えよ! 笑ってくれよ!」
「あはははははっ!! 無様ねユウマ! でも、ユウマにお似合いの対応じゃないかしら」
「お前は笑うな脳筋魔法使い! お前だってな、俺と同じところに通ってたらぜってーその性格のせいでボッチ確定だぞ! いつも一人で、話しかけるとなんか迷惑そうにされんだぞ!」
まあ、リリーナの場合は俺と違って、気高そうだからとか、高貴なるオーラがあって話しかけにくいから。なんて理由の可能性も大いにあるわけだが。
「はっ。それがなによ。別にいいじゃない一人だって。むしろ一人じゃなにもできない方が問題なのよ。誰にも頼らずに一人で戦えてこそ、本物の天才の大魔法使いだわ」
「ほーう。なら今度からはお前は一人で戦えよ? なにがあっても絶対に助けないからな? 俺とアイリスとミカでセットで戦うから、お前は一人で上手く立ち回れよ? 何があっても見捨ててやるから」
「そ、それとこれとは話が別でしょ! それに、冒険者は助け合ってこそだと私は思うわ!」
「さっきと言ってることがまるで逆じゃねえか。一人で戦えてこそ、天才大魔法使いじゃなかったのかよ」
「ふんっ。なんとでもいいなさい。いずれ私の本当の実力に気が付いて後悔するがいいわ」
「あーはいはい。そんな日が来たらな」
「し、信じてないわね! 見てなさいよ! 絶対の絶対にユウマが泣いて謝って、どうかこの馬鹿で間抜けでスケベで変態で救いようのない男のパーティーに残ってくださいって土下座させてやるわ!」
「……いや、ないわ。仮にそうなっても俺はお前は笑顔で送り出すわ」
「キィィィ!!」
俺の言葉に心底悔しそうに甲高い声を上げるリリーナ。しかし、炬燵の中で下手に暴れたらまずいことがわかっているのか、足だけバタつかせない。
くそっ。足をバタつかせたらすぐに炬燵をめくってパンツを確認するのに!!
「それにしてもアイリスちゃん遅いね」
「そういやそうだな。みんなの分の飲み物を作るくらいなら五分もあればお釣りが来そうなもんなのに、もう十分近く経ってないか?」
「きっとユウマの分を用意するのが億劫になったのよ。だから時間がかかってるのね。アイリスは優しいから」
「おい、さらっと俺を理由にしてんじゃねえよ。それに、アイリスは優しいからそんなことは思わないし、しないんだよ。どっかの魔法しか頭にないバカと違ってな」
「バカって誰のことよ!」
「お前以外に誰がいるんだよ!!」
いつものごとくにらみ合いに発展した俺とリリーナ。
いつもはここでアイリスが俺たちを宥め、しぶしぶアイリスが言うなら仕方ないという流れになるお約束なのだが、今ここにアイリスはいない。そのためこの状況をどうにかできるのはミカしかいないのだが。
「私、心配だからアイリスちゃんの様子見てくるね」
この場から逃げるようにミカはそう言ってアイリスの元へ行ってしまった。
その様子を見た俺とリリーナは、これ以上の言い争いは無用だとばかりに大きくため息を零すにとどめる。それとほぼ同時にミカとアイリスが部屋に戻ってきた。
「おお、戻ってきたのか。やけに早かったなミカ」
「うん。アイリスちゃんもこっちに来る途中だったみたいだから。それでさ、ユウマ。なんかアイリスちゃんがギルドの人から伝言を頼まれたらしいよ」
「そうなんです。なんでも―――」
「いや、待てアイリス! その話はしなくていい! なんか嫌な予感がする。聞いたら最後な気がする! だから聞きたくない!」
アイリスが話を始めた途端、いつもならアイリスの可愛らしい声に耳を傾けて幸せ気分になる俺なのだが、今回ばかりはなぜか背中が凍るような寒気を感じた。
これは、俺の本能的な何かが危険信号を発しているからに違いない。
だから俺はアイリスのかわいらしい声は惜しいが、耳を塞いで意地でもギルドからの伝言を聞かない様子にする。
「で、ですがユウマさん。ちょっとだけ話を聞いたんですけど、結構大変なことになってるみたいなんです」
「だから嫌なんだよアイリス。いつもは俺たちのことを最弱パーティーとか迷惑パーティーみたいに扱ってるギルドの人たちが、いきなり俺たちに頼み事なんて面倒な予感しかない! 絶対ヴォルカノとかヤマタニオロチ並みの面倒ごとが待ち受けてる! もうあんなに危ない目に遭うのは御免だ」
「で、でも……」
アイリスが困ったような、悲しそうなような顔をする。
アイリスにそんな顔をさせるのは大変嫌なことではあるが、危険に巻き込まれたくはない。
むしろ今まで俺はよく頑張った方なのだ。
他の奴らと違ってまともなチートを与えられておらず、ステータスだって平均以下、職業だって最弱冒険者、レベルだって一時は上がったものの最終的には一のまま。
そんな俺が、チート持ち二人を退け、金持ち貴族をぎゃふんと言わせ、オークの大軍を撃退すべく街の冒険者たちをまとめあげ、魔王幹部の一人を倒し、知り合いのお店の借金地獄をどうにかし、王都に呼ばれたかと思ったら、そこでもなんかヤマタニオロチなんていう化け物を倒すことになり、もう十分なのだ。
異世界に来てから半年と少しでこれだけの出来事、それも大事に巻き込まれている。
一か月と少しで大事の巻き込まれるとか、どこのラノベ主人公だよと言いたいレベルだ。
仮にそうなんだとしたら、もっと俺にライクでラブな女の子の一人でも用意するべきである。
「どうせあれだろ! 最近できたあのダンジョン絡みだろ! あのダンジョンの奥にヤバいやつがいるとか、そんなところだろどうせ!」
大抵の場合、ラノベとかだと最近できたことが原因なのだ。
物語の真ん中辺りに出てきたようなちょっとした出来事や、それなりに関わってきたものや場所が、大抵の場合大事の原因なのだ。
「す、すごいですユウマさん! 大当たりです! なにやらあのダンジョン奥に魔王幹部を名乗る人物がいるらしいんです!」
「ほら! やっぱりそうじゃないか! あーあーあー、聞こえないー、聞いてないー、聞きたくないー、知らなーい、知りたくもなーい!!」
「ユウマ……」
「どっちか子供だかわからないわね……。いや、ユウマの方が子供ね」
ミカとリリーナに呆れられながらも、子供のように駄々をこねる俺。
今は恥も外聞も知ったことか! というか、なんで俺がそんな命を捨てるようなことしなくちゃなんないんだよ!
「それに、俺たちより強い冒険者なんて腐るほどいんだろ! いつもは俺たちのことバカにしてるんだから、こういう時もそっちに頼めばいいじゃねえか!」
「実は、私たちのところにこの話が来る前にほかの冒険者さんたちにもお願いしたらしいんですけど、誰も帰って来ないらしいんです……。さっきの魔王幹部のお話も、何組も送り込んだ冒険者パーティーの中から一人だけボロボロになりながらも帰ってきた人の話で」
「なら、ますます俺たちの手におえるはずないだろ。やっぱりこの話はちゃんと断るべきだ」
「でもユウマ、さすがにほっとけないんじゃないの? 私たちだって関係ない話じゃないかもしれないじゃん。いつかダンジョンから出てくるかもよ?」
「そん時はこの街も屋敷も捨てて逃げる。俺をことあるごとに犯罪者扱いする奴らなどしらん!」
つい最近だけでも何度犯罪者扱いされたことか。
「ミカの言う通りよ。それに、魔王幹部倒したら今度こそ借金も返し終えるんじゃない。それどころかプラスになるわよたぶん」
「お前はただ大物相手に魔法が撃ちたいだけだろ!」
「そうよ! 悪い!」
「開き直った!?」
悪気一切なく堂々としているリリーナに軽く驚くと、俺は最後の説得にかかる。
「とにかく、今までの話でアイリスもわかったろ? 魔王幹部なんて元から俺たち始まりの街の冒険者でどうにかできる相手じゃないんだ。ヴォルカノの時はたまたま上手くいったけど、今回もそうとは限らない。だからこういうのはちゃんと実力のある……そうだな、エイトとセツコさんとか、王都の方の冒険者たちに頼るべきだ。王都でエイトたちに聞いた話だと、大物相手に大人数で戦うのが初めてで勝手がわからなかっただけで、普通のパーティー戦なら普通に強いらしいしな」
俺の必死の説得に困ったような顔をしながらも、しぶしぶ頷くアイリス。
ミカとリリーナも呆れてはいるものの、俺の言っていることが間違いでないことはわかってるらしく、強く言い返しては来なかった。
「そ、そうですよね。ユウマさんでも、無理なものは無理ですよね……」
「うぐっ……」
アイリスの悲しそうな顔に罪悪感がマッハで襲ってくる。
どうにかしてやりたい。笑っていてほしい。そうは思うものの、「しょうがねーな! いっちょやってやるか!」なんて勢いで言ってみろ。
何回ラティファと話すことになるか、わかったもんじゃねえぞ。
「はあ~……。ギルドのお姉さんにも、さっきのお姉さんにも申し訳ないです」
どうにかアイリスの悲しみの顔に耐えている俺に、まるで狙ってるんじゃないかってタイミングでアイリスが意味深なことを言い出した。
「えっと、アイリス。その、お姉さんって?」
「はい。えっと、さっきお話ししたボロボロになりながらもどうにか帰ってきた冒険者のお姉さんです。ギルドの人と一緒に来てて、どうかユウマさんに仲間の救出を頼めないかって言われました」
「あ、アイリス。その人ってどんな人だった?」
「え? そうですね……。すごく綺麗な人でしたよ。今までで見た人だと、見た目がセツコさん、性格はファナさんみたいでした」
なるほど、つまり見た目はキリッとした感じの大人なお姉さんで、中身はおっとりぽわぽわお姉さんか。
……好みだな。
「よしっ! いっちょやってみっか!」
さっきまでの考えを改め、どこかのヤサイ人のようなセリフで一気にやる気を漲らせる俺。
「ゆ、ユウマさん! やる気になってくれたんですね!」
「ああ! 当たり前だろアイリス! 困ってる人がそこにいる! その人が助けを求めてる! そしたら助けるしかないじゃないか!」
「そ、そうですよね! 困ってる人は助けないとですよね! 笑ってほしいですもんね!」
「もちろんだ! 俺たちでそのきれいなお姉さんを笑顔にしてやろうぜアイリス! そしてあわよくばそのお姉さんと―――」
「ん? お姉さんとなんです? ユウマさん?」
「い、いやっ。、何でもない! 何でもないぞアイリス!」
「そ、そうですか? でも、よかったです! ユウマさんがやる気になってくれて!」
「ふふん! こうなった俺は最強だぞ。全部俺に任せとけ!」
ドンと胸を叩き、自信を表す俺。
もちろん全力で叩いた胸は痛く、せき込みそうだ。
なんて情けない体なんだ俺は。まあ、鍛えるつもりなんて毛頭ないけど。
「うん、やっぱりユウマはユウマだね、リリーナ」
「そうね。バカでアホで扱いやすいわ」
「だよね。言いたいことはいろいろあるけど、でもまあ、ユウマらしいや」
「私は別にユウマがなんて言っても魔王幹部のところに行くつもりだったけどね。せっかくの大物をわざわざ見逃すなんてもったいないもの」
「あはは、リリーナもリリーナでたいがいだよね……」
俺とアイリスがやる気を出す中、向こうは向こうでやる気になってくれたみたいだ。
「それじゃあ、一狩り行こうぜ!!」




