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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第七章
163/192

12話

 

「マジでどうしよう……」


 次の日の朝。

 本当に俺だけを置いて朝から三人で出かけてしまった女子三人組。ミカとリリーナは意気揚々と、アイリスだけは少しだけ申し訳なさそうに屋敷を出て行った。

 そして残された俺はと言えば、ただ一人屋敷に残されたボッチとしてベッドの上でごろごろしている。


「日本ならこの状況も喜んでられるけど、異世界だと暇すぎてあれだなー」


 こっちに来てから一人でいることなんてほとんどなかった。

 異世界に来てすぐにアイリスとパーティーを組んだし、リリーナもその後すぐに加入した。ミカだけは少しだけ時間をおいてしまったものの、一か月ほどで一緒になった。

 それからはなんだかんだいいつつも、誰かと一緒にいることが普通だった。そりゃあ風呂や寝るときなんかは別だけど、それ以外は誰かしらと一緒にいた。

 それが今日は誰もいない。


「一人には慣れてるつもりだったんだけどな……」


 ボッチと言えばニートに必要な必須スキルと言ってもいい。ボッチの中でもボッチでなれ、ニートの中でも割と末期だった方の俺が、今は一人になることに少しの寂しさを覚えている。


「とりあえず外に出よう……。なんかこのままでいると鬱になりそうだ」


 自分の精神状態に危険を感じ始めた俺は、ベッドから起き上がり屋敷を出ることにした。


「さて、どこに行くかなー」


 屋敷をとりあえず出てみたものの、行く場所を決めてなどいなかった俺は早速行先に困った。


「時間的にはどこも開いてるよな」


 異世界に来てから奇跡的に出会ったスマホで時間を確認する。朝の十時。どこの店も仕事を始めている時間だ。


「ん? そういえば、もうそろそろあの時期だな……」


 なんとなくそのまま、待ち受け画面の眠そうに目を擦っているアイリスという隠し撮りの写真を眺めていると、とあることに気が付いた。


「行先は決まったな。ファナの店だ」


 意図せず行く場所の決まった俺は、意気揚々と歩き出す。

 もう半年以上も異世界(こっち)に来てから時間が過ぎたので道に迷うようなこともなく、俺は特にイベントもなくファナの店までたどり着いた。


「おっすー、ファナー。ちょっと探し物があるんだけどさ」


 いつもの様に来店と同時に姿の見えないファナを大声で呼ぶ。普通の店なら店内で大声を出されれば迷惑にでもなるだろうが、ファナの温厚な性格と、お世辞にも繁盛してるとは言えないこの店の状況がそれを許してくれている。

 まあ、大声と言っても多少は加減してるけどな。


「すいませんユウマさん。少し待っていてもらえますかーっ?」


 店の奥の方からファナの声が聞こえてきた。

 その声に適当に返事をしてから暇つぶし程度に店内を物色する。


「相変わらずな品揃えだな……」


 魔法使い御用達のアイテムや、少し遠出をするときに便利なアイテムや、ポーションなどの冒険者でなくても使えるアイテムまで色々なものがあるファナの魔道具店。魔道具以外の物も売ってるじゃん。なんて言うのはもはや無粋である。

 ここだけ聞けばなんでも屋のように聞こえるかもしれないが、詳しく話を聞けばそうも言えなくなるだろう。


「ちょっとした刺激で爆発する爆発ポーション。ヒーラーが解毒魔法の練習をするための毒々ポーション。いい匂いの香水、に見せかけた魔物を呼び寄せちゃう香水。そりゃあ売れなければ売れ残るわな……」


 絶対に売れ残りとわかる商品たちを目にしながら、自分が作ってファナの店に置かせてもらっている商品の売れ行きも確認する。俺が置いてもらっているのはライターと水筒だ。冒険者はもちろん、そうでない人にも便利なアイテムで、手ごろな値段で売っているのでそれなりの売れ行きのようだ。他の商品に比べて量が少ない。


「おお……。あれから鍛冶屋のドワーフのおっちゃんに制作は全部任せてるけど、それでも俺の手元に来る金が減らないわけだ」


 最初は俺が暇なときに作っていたのだが、大量の借金を抱えてしまってからというもの、そんな時間に恵まれない俺はいつもお世話になっているドワーフのおっちゃんに制作を頼んでいる。

 もちろん売り上げの一部を渡しているし、ファナもそのことは了承している。それでも俺の手元に来る売り上げが変わらないのは、それだけ需要があるのだろう。


「おまたせしましたー」


 店の奥からエプロン姿のファナが笑顔でやってきた。

 その姿に若妻を想像してしまい、少しの間見惚れているとファナが小首をかしげる。そこまで来て俺はようやく現実に戻ってきた。


「お、おうファナ。悪いな。忙しかったんだろ?」


 ぎこちないながらもいつも通りを装う俺。


「いえいえ、ユウマさんはうちの一番のお客様ですから。それに商品の提供もしてもらってますし」

「そういってもらえると助かるよ。それでさ、ちょっと相談なんだけど……」


 俺はここに来た目的をファナに話す。


「クリスマス……ですか。ユウマさんの故郷ではそんな行事があるんですね」

「ああ、いろいろやったりするんだけど、その中でもプレゼント交換っていうのがあってさ。せっかくだからアイリスとかにプレゼントを渡そうと思うんだよ。前に話したらすごく楽しそうだったからさ」

「なるほど。ふふっ、ユウマさんは本当にお優しいですね」

「ファナぐらいだよ、俺を優しいなんて言ってくれるのは……」


 ファナの優しい言葉に若干涙目になりながら俺は応じる。


「それでさ、アイリスが最近ほしがってたものとか、こういうのが喜んでもらえる、みたいなもんないか? できればそれなりの値段で」

「そうですね……」


 そう言うとファナは悩ましげな表情をしながら店の中を歩き回る。

 いつもの流れだとここで売れ残りをおすすめされたりするのだが、今日は内容が内容だからか真剣だ。

 珍しいファナの真剣な顔に少しの間見惚れていると、ファナがいくつかの商品を手に戻ってくる。


「とりあえずリリーナさんにオススメのものを持ってきました」

「ファナ、俺はアイリス用のものを……」

「でも、リリーナさんやミカさんにも何か差し上げるんですよね?」


 笑顔で見透かしたようなことを言ってくるファナ。

 確かに何かしら用意するつもりではあったが、ここで素直に認めるのも少しばかり癪なのでごまかしておく。


「何言ってるんだよファナ。確かに仕方ないから用意するつもりではあるけど、それはあくまで後でうるさそうだからであって、いつもの感謝とじゃないんだよ。本命はアイリスだけだ」

「うふふっ。それじゃあ、そういうことにしておいてあげます」


 上手くごまかせたつもりだったのだが、ファナにはお見通しらしく、年上の優しい笑顔を俺に向けてきた。

 これ以上何か言っても逆効果だな。ここは話を変えてしまおう。


「それで、リリーナに何を用意してくれたんだ?」

「はい、これです」


 ファナが持ってきた商品の中から木の実のようなものを見せてくる。


「なんだこれ? ただの木の実にしか見えないんだけど?」

「はい、こちらはハッカの実というものでして、魔力切れを起こした際に瞬間的に少しだけ魔力を回復させる木の実なんです」

「便利そうだけど……普通の魔力ポーションでよくね?」

「確かに魔力ポーションの方が回復量は多いんですけど、回復までに少し時間がかかるんです。緊急時にはこちらの方が早く魔法が使えます。ですから両方持っておいても損はないと思うんですよ」

「なるほどな。もしもの時にハッカの実を持っておいて、普段は魔力ポーションで回復か」

「ええ、そうすることで、危ない場面を少しでも減らせると思いますよ」


 話を聞く限り持っておいて損はない商品だ。木の実だからかさばらないし、聞いたところ腐ったりもしないらしい、さらには意外と洒落た見た目をしているのでネックレスなんかにしてもよさそうだ。

 しかし、ここまで笑顔で説明をしてくれるファナには悪いが、まだ不安はある。値段と、ファナ魔道具店お得意の副作用のひどさだ。


「値段は?」

「お一つ二千ギルですね。この辺にはあまりないので少し高めにはなってしまいますが、そこまで高いというほどではないと思います」

「そうか。じゃあ―――副作用は?」

「ふっふっふっ。ユウマさん。今日の私はいつもの私とは違いますよ」


 なにやらいつにも増して自信満々なファナ。

 どうしたのかと尋ねると、ファナは自信をそのままに言った。


「こちらの商品、副作用はございません!!」

「え……?」


 あまりにも驚きすぎて間の抜けた声を出してしまう。


「なに? 使ったらしばらく魔力回復が遅くなるとか、体に不調が起きるとか、そういうのは?」

「ありません。正真正銘、先ほどの説明以外の効果はありません!」

「そ、そうか。それならリリーナにはこれをネックレスにでもして渡すか。……「それにしても、今日はどうしたんだファナ? 言っちゃ悪いけど、ファナがこんなにまともな商品紹介をするなんて変だぞ?」

「うっ……。確かに今までのことを考えれば言われてもしょうがないのですが、実際言われると少し堪えますね……」


 肩を落とし落ち込むファナに罪悪感を覚える。

 が、今までのことを考えたら仕方ないでしょ! 今まで散々変な商品紹介されたんだぞ!


「でも、ユウマさんの言うこともあってるんですよ」

「というと?」

「実はですね。さっき、いい商品を大量に仕入れたんです! ユウマさんにお待ちいただいたのも、その商品を運んでいたからなんですよ!」


 さきほどと同様に自信に満ち溢れた顔をするファナ。

 これが普通の人相手なら、「おっ? どうしたどうした?」なんて言ってしまうところだが、油断してはいけない。相手はファナだ。絶対に裏がある。

 俺に普通の商品を紹介しちゃうくらいの何かがそこにはある。


「なあ、ファナ。もしよかったら何を仕入れたのか教えてくれるか? ほら、前も言ったと思うけど、この店の経営を少し手伝ったりしたいしさ」

「もちろんいいですよ。今日までの売り上げのほとんどがユウマさんが買ってくれたものか、ユウマさん発案のものですから。喜んで見せちゃいます。むしろ、見ていただきたいですね、はい!」


 ファナが自信を募らせるたびに俺の不安が募っていく。

 なにこれ、なんなのこれ?


「ちょっと待っててくださいね。今すぐ持って来ますから」


 笑顔のまま店の奥に消えていくファナを緊張気味に見送る。

 少ししてファナが何か大きな石のようなものを持って戻ってきた。


「見てくださいユウマさん! これ、絶対に売れると思うんですよ!」


 大きな石を抱えながら嬉しそうに語るファナ。

 俺からしたら、なんか変に大きな赤い石を思った美人でかわいい店長がはしゃいでいるようにしか見えない。

 ……尊い。


「な、なんなんだそれ……?」


 ただ赤いだけの石を高値で買ったんじゃないかという不安が拭えない俺が少し言葉を詰まらせながら訪ねる。

 そんな俺にファナは心配はいりませんよ。とでもいうように、「この石の使い方をお教えしますね」と言い始めた。


「最初に申し上げますと、これは熱を発する石なんです。この寒い季節にぴったりの商品だと思いませんか? ユウマさん!」

「確かにいい商品ではあると思うけど、大丈夫なのか? 発せられる温度が低いとか高すぎるとか、そういうのはないのか?」

「大丈夫です! 前に眼鏡の失敗をしたときにユウマさんに言われましたから、ちゃんと使ってるところを見せてもらいました!」

「おぉ。さすがにそれくらいはしたんだな。少しは安心できたよ」


 ここで、完全に安心できないのがファナなのだが。


「それじゃあ実際使ってみますね。えいっ!」


 ファナがかわいらしい掛け声とともに杖を使って赤い石を軽くたたく。

 すると―――


「なんか光りだしたな」


 赤い石が少しずつ光りだした。


「光ったのでこれで大丈夫です。少しずつ暖かくなってきますよ」


 ファナの言葉を信じて数分。

 先ほどより光が強くなったような気がする。

 そして、本当に驚くべきところなのだが……


「ほんとにあったかいな……」


 ちゃんとあったかいのだ。

 しかも、適温だ。強すぎず弱すぎず、今の季節には本当に助かる温度を石が発している。正直ストーブと発している熱量は変わらないと思う。熱と同じく石から放たれる光もそう強いものではなく、目にも優しい。


「マジでよさそうだな……」

「ですよね!? ユウマさんもそう思いますよね!!」


 俺の言葉に安心したのか、ファナ大きく体を揺らし、全身で喜びを表現する。

 おお、おっぱいおっぱい。ありがたや。


「で、これってどれくらい効果があるんだ?」

「この大きさですから数か月は確実に持ちますね。地面に落ちている小さめの石くらいの大きさにしても半日は持つんじゃないでしょうか。それに値段もそれなりの値段だったんですよ」


 笑顔で語るファナの口から値段を聞いたところ、確かに上手く売れれば元を取れるどころか、いい売り上げを出せそうな値段だった。


「まじか、本当に優良商品じゃねえか」

「ですよねですよね! ユウマさんのお墨付きがもらえれば私も安心です!」


 本当にファナが嬉しそうにしている。普段は他人の不幸は蜜の味(一部を除く)、と思っている俺だが、ファナの笑顔は素直にうれしかった。


「それで、これはどうやって熱を収めるんだ? さすがにずっと熱を出しっぱなしってわけじゃないんだろ? それともそうなのか?」

「いえいえ、ちゃんと収められますよ。えーっとですね。確か、もう一度軽く叩けばよかったはずです」


 そう言うとファナが杖で軽く石をたたく。すると、言っていたとおり石が徐々に光を失っていき、少しすると完全に光も熱も発しなくなった。


「うふふ。ユウマさんのお墨付きの商品。これは絶対に売れますね~」


 正直なところ俺のお墨付きになんの効果もないのだがファナが喜び続けている。

 やっぱりファナの笑顔にうれしくなっていると、俺はあることに気が付いた。


「な、なあファナ。それ、どうやって売るつもりなんだ? そのまんま売るわけじゃないだろ?」

「え? は、はい。これを小さめにして、持ち歩きできるようにして売るつもりですよ? いくつかはそのままにしておいてもいいかも、とは思ってますけど」

「そ、それって―――」


 俺が気が付いたこと、それは一つの不安だ。

 話を聞いた限り、実際に使った限り、全くもって反論の余地のない完璧な商品。

 少し前までの俺だってほしいと思っていた。

 でも。ちょっと待ってほしい。


「どうやって持ち歩くんだ?」

「それは、まあ、ポケットなどに入れてもらう形になると思いますけど」

「あったかくしたらどうするんだ?」


「……」

「……」

「……」

「……」


 黙り込むファナ。

 何も言い返せない俺。


 さっきも言った通り、この石はストーブ並みの熱量を発することができる。それはおそらく小さくしても変わらないだろう。変わるのは持続時間だけだ。

 そんなものをポケットに入れられるだろうか? それ以前にポケットに入れる前には手で持たないといけないわけで―――。


「えへっ」

「かわいいっ! かわいいけどやっぱりダメだろこれ!!」


 ファナが持ってきたのはまだ砕く前の大きな石だ。どれくらい大きいのかといえば大きい段ボールくらい。そして、その値段は三十万ギルだという。

 それを細かく砕いて、小さくして売ればそれを取り戻すこともおそらくは可能だ。

 でも、売れなければしょうがない。


 大きいまま家でストーブ代わりに使うにしたって一か月しか持たないものに誰が三十万も出すだろうか。そんなのお金持ちぐらいだろう。そのお金持ちだって、もっと便利な暖房道具を持っているわけで―――。


「どどど、どうしましょうユウマさん! 今月の売り上げどころか、今のうちのお金を全部つぎ込んで買ってしまったので、これが売れなかったら私もう生きていけません!」

「ちょ!? なんでそんなに買ったんだよ!? 確かに売れそうな気配は感じたんだろうけど、それでも生活費くらい残しとけよ!」

「だ、だって、絶対みなさんのお役に立てるものを買えるだけ買いたかったですもん……」

「くっそ、なんだこの守ってあげたくなる系年上お姉さんは! どストレートなんだよ畜生!!」


 涙目で俺にすがってくるファナを邪険にすることができない俺は、どうにかいい方法はないかと思案する。


「大きいままじゃ売れないだろうし、売れてもすぐには難しいだろうな。かといって小さくしたって、持ち運びはできないし、家で使うには持続時間が短すぎて使い物にならない」


 今言った通り一番可能性のある小さくして自宅で使ってもらう。という案があるが、半日しか持続しないのに薪よりも値段が高く、利便性こそ勝るとはいえそこまで大きなメリットのないそれを買うか? と、問われれば俺は絶対に買わない。

 それなら大人しく暖炉で使う薪を買った方が、効果も持続時間もお金的にも優しい。

 売れるはずがない。


「そうだ! 返品! ファナ、これを全部返品しに行くぞ! 俺が『ゲート』でここをつなぐから、そうすれば手ぶらで商人を追える!」

「む、無理だと思います……。昨日購入して、商人さんがここに今日届くように手配してくれたんですけど、直接商人さんが来ない理由が、商人さんは今日の朝にはここを出るからとのことだったので」

「完全に詐欺商法じゃねえか!? 売るもん売って、もらうもんもらったら逃げるって完全に詐欺師の手口じゃん! しかも返品されないように完璧な手はずだし!!」


 完全に退路が断たれた。

 完璧な八方塞がり。

 そういえば、八方塞がりと八方美人って似てるよな?


「うう……。もうおしまいですぅ……」


 完全完璧に意気消沈してしまっているファナ。

 最悪みんなに事情を説明して少しの間屋敷に来てもらうことを考えながら、どうにかこの状況に抗える術はないかと悪あがきを試みる。


「……。………。…………。―――いける」


 本当のところ半分以上諦めていたところに、我ながら名案すぎる名案が思い浮かんだ。


「喜べファナ! 絶対に売れる方法を思いついた!!」


 あまりの嬉しさに声を荒げながら、床に座り込んで世界の終わりのような表情をしているファナに声をかける。

 ファナは俺の言葉に顔をあげて、心配そうな瞳で俺を見た。


「だ、大丈夫なんですか、その方法……。 あの、捕まったりとかしませんか?」

「や、やめろ! リリーナとかミカに言われる分にはどうでもいいけど、ファナとかアイリスみたいな根っから優しい人にそんなこと言われるとマジで傷つくから!!」


 助け舟を出そうとしたら一緒に座礁させられかけた。

 しかし、今までさんざん悪口、陰口、嫌味を言われ続けてきた俺はどうにか踏みとどまる。

 よかったな、ファナ。お前が美人さんじゃなかったら俺はもう帰ってたぞ。


「し、失礼しました。で、どんな方法なんですか? ユウマさん」

「ああ、確かにこいつはそのまんまじゃ使い物にならない。使えたとしても他のものに利便性で負ける。だから、上手く使えるようにして、利便性を上げるぞ!」

「確かにそうすれば売れるでしょうけど……そんな夢みたいな方法があるんですか? 私でももう駄目だと思うんですけど……」

「なあに、俺に全部任せとけファナ」


 心配そうな瞳のままこちらを見るファナに薄い胸板をドンと叩いて応じる。

 しかし、思いっきり叩いたせいでマジで痛かった。油断したら咳込んでたまである。


「ただ、お願いがあるんだ」

「お願い、ですか?」


 真剣な顔をトーンでファナに告げると、ファナは不思議そうな顔を少しの間見せ、すぐにそれに応じてくれた。


「も、もちろんです! ユウマさんのお願いなら何でも聞きますよ! せ、生活が懸かっているので!!」


 え? 今なんでもって。

 というお約束に持っていこうとしてやめた。これがミカやリリーナなら冗談で済ませられるが、ファナあたりはマジにしそうで怖い。俺の好感度ダダ下がりだ。

 これでエロいお願いなんてしてみろ。

 最高で最悪な人生の終わり方するぞ俺、絶対に後でミカたちに殺されるもん。それで、ラティファにもゴミを見るような目で見られるもん。

 そんなご褒―――そんなの絶望耐えられない。

 いい意味で!!


「いや、そんな畏まらないでくれよ。お願いつっても―――」


 自分の生活が懸かってるんだから仕方ないとはいえ、俺の腰に手をまわして抱き着き、涙目の上目遣いというあまりにも真剣すぎて危ない精神状態のファナを落ち着かせるべく気を抜いて言葉を続ける。


「いつも通り、売り上げの一部を恵んでほしいだけなんだよ」


 ここで、無償で女の子を助けられないから俺は鬼畜王とか、外道とか、言われるんだろうか。

 でも、こっちだって借金持ち。それも結構な額の。

 だからこれくらいは許してほしい。

 でも、これ。


(結局好感度下がりは免れねえ……)


 どうあがいても好感度下がるとか、なにこの罠選択肢!

 エロゲやギャルゲで出たら思わずコントローラー投げつけるぞ。まじで。


「も、もちろんです! この状況をどうにかしていただけるなら私、全身全霊でユウマさんのために頑張りますよ!!」

「言い方ぁ!! ファナ的には俺への協力はどんなことでも惜しまない的に言ってるのかもしれないけど、俺の腰に手を回して抱きついて、全身全霊で頑張るとか言われるとなんか危ないから! ご近所さんに勘違いされるから!」


 自分にとって不利なことというのは大抵の場合、気づいたその瞬間にはもう遅いことが多い。「あっ! しまった!」と、思った時にはもうすでに遅いのだ。すべてが終わってしまっているまである。

 そして、それは今の俺にも当てはまることであり。


「見て奥さん。あの男、またファナさんを泣かせてるわよ」

「ね、ねえ。それにあの体勢……もしかして―――」

「ねえママ、あのお兄ちゃん、お姉さんはしゃがませて何させてるの?」

「そ、そんなこと言っちゃいけません! それに見てもいけません! だ、だれか! 憲兵さん呼んできて! 鬼畜王がファナさんにいかがわしいことを!」

「やっぱりそうなのね! 白昼堂々と女の子にあんなことをさせるなんて、なんて最低な男なの!!」

「もう許せない! 早くこの街から出ていけばいいのに!!」


「……」


 なんで俺はこう、何もしてないのに勝手に好感度が下がっていくのだろう。

 だって俺、今回もファナを助けようとしただけだよ? この状況だって、ファナがあまりの絶望から立ち直りかけてこうなってるだけで、実際はなんてことないんだよ? 俺の息子だって睡眠中だよ?

 それなのになんで俺はこうも鬼畜扱いされるの?

 それに一番心の来るのは―――


「なんか泣いてますけど、ユウマさん、どうかなさいましたか? もしかして、やっぱり無理とか言うんじゃ……」


 この状況を作り出した当人のうち一人が、まったくもって無自覚で悪意もないから文句も言えないってところなんですよね。


「いや、そんなことはない。でも、その前に一仕事ありそうだけどな……」

「一仕事、ですか? そうですか……じゃあ、私も、この状況をどうにかしてもらうお礼にユウマさんのお仕事手伝いますね!」

「……あぁ、ぜひとも頼むわ」


 この後、数分後に当たり前のようにやってきた憲兵に、ファナの説明があったにもかかわらず一時間ほどこってり疑われ、挙句の果てには「こんな勘違いが起きないよう注意してくれ。まあ、今までが今までなだけに本当に無実かわからないけどな」なんて、言葉まで吐かれる始末。


「もうぜってー、この街の危機になってもこの街は助けねえ……」


 割と本気でそう思ってしまった俺がいた。

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