10話
あの後すぐにダンジョンに向けて歩き出した俺たちは、途中で何度か戦闘を挟んだものの大した消費もなくダンジョン前までたどり着いた。前衛に短剣持ちのザック、中衛に銃でサポートができ、さらには色々な機転を利かせることのできる俺。後衛に回復と能力面のサポートと魔法攻撃担当のアイリスとシュリちゃん。
いつものメンバーに比べて断然火力は落ちるが安定感が圧倒的に違う。
ザックが盗賊らしい素早さで相手を翻弄しつつ、的確に相手の急所を突いて仕留め、俺がその間他の魔物の牽制、アイリスとシュリちゃんはその場その場で回復か補助魔法、余裕があれば攻撃魔法によって援護してくれるので、数が多い敵も余裕を持って戦えた。
「毎回この安定感が欲しい……」
無意識のうちにそう零してしまうくらいには安定感のある冒険だった。
「それじゃあ、早速ダンジョン探索に入るけど、アイリスとシュリちゃん大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。シュリちゃんは大丈夫? 疲れたなら少し休んでから行こっか」
「ふんふん」
「そっか。でも、無理はしないでね。ケガしちゃったらみんな悲しいからね」
「むふーっ」
「そうだよね。シュリちゃん強いもんね。でも、油断はしちゃだめだからね」
アイリスとシュリちゃんがお姉ちゃんと妹のやり取りを始めたのを見て黙り込む俺とザック。俺、今日の本題のダンジョン探索止めて、二人の観察したいんだけど。
「それじゃあ、行きましょうか。ユウマさん」
「ふふーっ!!」
いつもの笑顔のアイリスと、腰に両手を当ててやる気満々のシュリちゃん。
なんだろう。この二人と一緒だと疲れを感じない。アイリスもいつもは魔物を回復しちゃうのに、今日はシュリちゃんの前でお姉さんをしているからかそれがないし、本当に安心できて、癒されて、お金も手に入ってで一石二鳥どころか一石三鳥だ。
「あぁ、それじゃあ行くか。ザックもいいよな?」
「もちろんだぜユウマの兄ちゃん。ちゃちゃっと済ませちゃおうぜ!!」
最後にザックの確認も取った俺は、改めて宣言する。
「それじゃあ本日の本題。ダンジョン探索に取り掛かるぞ!」
「「「おーーーーっ!!」」」
俺の言葉に元気よくグーを天に突き出す三人を見て思う。
あー……俺、将来小学生の先生になりたいかもしれない。
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「そんじゃあアイリス。早速頼む」
「わかりました。『ライト』!」
前回とメンバーは違うものの四人でダンジョン内に足を踏み入れた俺たちは、少し進んで前回同様少し暗くなって視界が悪くなってきたかな? くらいのところでアイリスに明かりを頼む。
すぐにアイリスは『ライト』の魔法で周囲を明るく照らしくれた。
「おぉ! さっきまで真っ暗だったのにすげーな!」
「ふんふんっ」
俺は二度目だからそんなに驚きもないが、今回が初めての二人は少し興奮気味の様子だ。
そんな二人の反応にアイリスが「そ、そんなことないですよ」と恥ずかしそうにしていた。可愛い。
「よし、それじゃあゆっくりと進んでいくぞ。ザック、俺もやるけど、マッピングも同時にするから一応『敵感知』頼むぞ」
「任されたぜ!!」
俺の言葉に元気いっぱいに胸を叩きながら応じるザック。
こういうところを見ると、やっぱりザックもまだまだ子供である。微笑ましいものだ。
「さてと、前回はマッピングもなしに軽く歩いただけだったからな。今回は本腰入れないとな」
前回の探索ではダンジョンになれるため、というのと中の魔物の探索をメインにやって来たのでマッピングはするつもりがなかった。ここは夢のような世界ではあるが、あくまで二次元に近い現実だ。ゲームの様に歩けば地図が勝手に作られることはないし、ダンジョン内に都合よく地図が落ちていることもない。しっかりと一から自分で作る必要がある。
そのための方法も素人ながらちゃんと考えてきた。
「そういえばユウマさん。地図の作成もお願いされてましたけど、ユウマさんは地図作りの経験あるんですか?」
ダンジョン内をゆっくりと進んでいると隣を歩いているアイリスが話しかけてきた。
「いや、ないな。でも、素人なりにちゃんと考えてきたからその辺は任せてくれ。アイリスは今回のメンバーのサポートにおいても戦闘においてもメイン火力だからそっちの方だけ頑張ってくれればいいよ」
今回のパーティメンバーは職業だけで考えればちょっとだけおかしな編成だ。まず、メイン物理火力が盗賊であるザックに一任されているし、魔法もアイリスとシュリちゃんは攻撃、サポートのどちらかに特化しているわけでなく、どちらも満遍なく使えるいわゆる万能タイプだ。
そのためリリーナやミカのような特化した鋭い火力の期待はできない。
が、ゲームはともかくとして現実ならそれでいい。むしろそれが良い。
ゲームは各自が自分の役割だけを的確にこなしていれば勝てる。が、現実はそうとはいかない。いつ想定外のことが起きるかわからない以上、一人一人にできることが多い方がいい。
異世界ものでなにか一つに特化していなくて、いろんなことに手を出しているのに強かったり、チートも何もなしに仲間の力を上手く使って戦う主人公たちが強く見えるのは、そう言ったことがちゃんとわかっているからだ。
「そうですか……。でも、私にお手伝いできることがあったら言ってくださいね! 私頑張りますから!」
今日のアイリスはやけに張り切っているように見える。
それがこの前のヤマタニオロチ戦前の自分は役に立てていない発言によるものなのか、それともシュリちゃんにお姉さんなところを見せたいからなのかわからないが、前者だった場合は少し危ういかもな。
「そういえばユウマさん。ザック君たちとダンジョンの探索に来た理由は何となくわかるんですけど、よかったのでしょうか……。リリーナさんとミカさんに黙ってきてしまって……」
「いいんだよ。ミカは今回なにも悪いことしてないけど、リリーナは仲間の命を奪いかけたんだぞ? 毎回そんなことされたら俺の命の数が足りない。話したら話したで絶対に邪魔しに来るんだからこれで正解だ。俺は緑のキノコを食っても、コインを百枚集めても命の数が増えないからな」
「緑のキノコ? コイン百枚? 命の数? ……すいませんユウマさん。私にはちょっとわからなみたいで……」
「そ、そうだったな。えっと、気にしないでくれ。いつもの、リリーナで言うユウマ語だと思っててくれ、な?」
「は、はい」
しまった。いつもはミカがいるからツッコミを入れるか話に乗ってきてくれるが、今日は一緒じゃなかった。反省しないとな。
「ユウマの兄ちゃん。ここはどうすんだ?」
アイリスとの会話は一段落したところで先頭を歩いてくれていたザックから声がかかる。前方に視線を移すと、分かれ道だった。真っすぐ進む道と、右と左に進む道が一つずつある。どうしたものか。
「……とりあえず真っすぐだ。変に曲がると道がわからなくなる可能性があるからな」
「了解だぜユウマの兄ちゃん! 真っすぐだな!」
「あぁ、でもちょっと待て」
「んあ? なんでだよ、ユウマの兄ちゃん」
「これを置いておくんだよ」
そう言って俺は『ゲート』を使って一本の太くて長い木の棒を取り出す。
「木の棒ですか? ユウマさん、何に使うんですか?」
取り出した木の棒を見て三人がハテナを浮かべている。
口で説明するより実際に行動して見せた方が早いと判断した俺は、三人に「ちょっと見てな」と言ってからポケットからナイフを取り出す。
「それでどうするんですか?」
「こうやって印を残しておくんだよ。木の棒に何かを書いておいて、ここはどこだって後でわかるようにするんだ。こうしておけば後で曲がってからここに来た時にどことどこの道がつながってたかわかるだろ?」
「あー、なるほどな。ユウマの兄ちゃんはやっぱり頭がいいな! 俺じゃあ思いつかなかったぜ!」
「別に俺が考えた方法ってやつでもないんだけどな」
今言った通り、少し賢い奴ならこんなことくらい誰だって思いつくだろう。そうでない俺がこんな方法を知っていたのは何かのアニメで同じようなことをしていたからだ。それを真似しているに過ぎない。
「そうなんですか? でも、やっぱりすごいですよ。この方法をちゃんと後で役に立つかもしれないってユウマさんは覚えてたんですよね? なら、やっぱりすごいですよ」
「そうだぜユウマの兄ちゃん!」
「ふんふんっ!!」
妙に悲観していた俺に三人の子供たちが笑顔で言ってくれる。
これがミカとリリーナだったら「へえー、すごいね。で、これは何のアニメの知識?」、「これくらいで調子に乗らないでちょうだい。そのくらい私でも思いついたわよ」なんて言われるに決まってる。
こんなに素直にほめてくれるのは、あの三人ならアイリスだけだろう。実際今ほめてくれてるし。
「そ、そうか。ま、まあ覚えてたのは確かに偉かったかもな。うん。俺ってば超えらい!」
そして、褒められなれてない俺は少しでも持ち上げられると簡単に調子に乗ってしまう。それが自分より小さな子供だったらなおさら。
「とにかく、これからの分かれ道には全部同じことをしていくぞ」
これ以上煽てられては俺の精神衛生上悪いと判断した俺は、さくっと話を打ち切ろうとする。まさか褒められて精神を壊すかもしれないと危惧する日が来るとは思わなかった。
普段だったらここぞとばかりに調子に乗る場面だが、今日はそういうわけにはいかない。
今回は魔力チートも物理チートもない。正真正銘普通のパーティメンバーでの探索だ。いくらザックが盗賊として優れていて、シュリちゃんが思った以上にいろんなことができて、アイリスがリリーナに比べたら引けは取るものの、ヒーラーとしての実力は常人以上といえど、緊急事態になったら立て直しは難しい。
とりあえずミカを特攻させるとか、適当にリリーナに魔法を撃たせとけばいい。なんてことができないのだ。慎重に慎重を重ねておくくらいでちょうどいいだろう。
「んっ? ユウマの兄ちゃん……」
「ああ、わかってる。前からだな」
笑顔だったザックが顔つきを鋭くする。続いて俺もザックの表情の意味が分かって顔をこわばらせた。そんな俺たちの表情を見てアイリスとシュリちゃんも真剣な面持ちになる。
「ユウマさん、敵ですか?」
「そうだ。前から来てる」
『敵感知』は範囲内にいる自分に対して敵意を持っているものに反応して使用者にそれを教えてくれるスキルだ。魔物相手なら問答無用で発動し、人間相手にも敵意を感じ取れば反応してくれる。前にリリーナが俺への仕返しをしようと近づいてきたときに試したらしっかりと反応していたから間違いない。
もちろんその時は返り討ちにしてやった。
ただ、問題点もあるにはある。
「距離が正確に掴めないのがなぁ……。数もある程度近づかないとわからないし、魔物の特定もできやしない」
今言った通り『敵感知』といえど、あくまで感知してくれるだけだ。相手がいることを教えてくれるだけで、距離は何となくしかわからないし、数もある程度距離を詰めないと正確に把握できない。どのような相手なのかも教えてくれない。
それでもありあまるほど有能ではあるが。
「みんな、とりあえず『潜伏』スキルで様子を見るぞ。もし勝てそうにない相手だったらまずいからな。アイリスは『ライト』も消しておいてくれ」
俺の指示に三人が頷く。
それを確認した俺は敵が近くにいると、こっちを視認されて『潜伏』スキルが効力をなくすのを嫌い、これ以上は声を出すのを止め、アイリスが明かりを消す直前にジェスチャーで三人に最後の確認も含めた指示を送る。
「(ザックとシュリちゃんはそっちで二人で潜伏。俺とアイリスはこっちで潜伏。戦闘になったら挟み撃ち。大丈夫そうなら敵を見送る。いいな?)」
そういった意図を込めてジェスチャーをする。我ながら完璧なジェスチャーだったと思う。
「(わかったぜ、ユウマの兄ちゃん!)」
「(ふん)」
「(わかりました)」
三人の頷きにそのような返事が聞こえた気がする。
なんだろうこの安心感。前はこれで背中を押されて敵と遭遇し、俺だけ命がけのレースを強要されたわけだが、今日はその可能性が全くない。
さっきのジェスチャーだって、ミカとリリーナあたりだったら理解できなくて「わからないから直接言え」みたいなことを言ってきたに決まっている。
まったく、小学生でも理解できるってのにあいつらと来たら。
ここにはいない二人にため息を漏らしながら、『潜伏』スキルで一緒に隠れるためにアイリスに手を差し出す。アイリスは何も言わずにその意図を察し、手を繋ぐのは恥ずかしいのか、服の袖をつかんだ。
でも、直接アイリスの手を触りたかった。でも、服の袖とか裾を掴むのも可愛いから万事オッケーだな。どう転んでも俺の勝ちだ。
「「『潜伏』」」
俺とザックが同時に『潜伏』スキルを発動させる。
これで相手に俺たちの姿は見えないはずだ。でも、スキル発動前からお互いを視認していた俺たち四人はしっかり姿が見えている。
『潜伏』スキルは姿を隠せるスキルだが、相手に見られている状態でしても意味がない。隠せるのも姿だけで音やにおいは隠せない。
それでも姿を隠せるのには十分な魅力がある。
そう、例えば姿を隠して女風呂に潜入し、男の夢を叶えるとか。
しかし、その夢は数秒で打ち砕かれた。前に、まだ何も言ってないのにリリーナが「ユウマ、一応言っておいてあげるけど、『潜伏』スキルで犯罪まがいのことをするのはやめておいたほうがいいわよ。スキル使用での犯罪は普通の犯罪より罪が重いから」などど釘を刺されてしまった。
なんでバレたし!!
「来たな……」
「ユウマさん。ゴブリンでしょうか?」
「まだわからないな。『敵感知』で距離が掴めただけだから」
敵の姿が薄ぼんやりと見え始めた。
アイリスとバレない程度の小声でやり取りをする。
「いや、なんか違うっぽいぞ? なんかもっと背が高い」
ゴブリンは人型の魔物だ。二本足で立ち、二本の腕で武器や防具を操り、基本的には形も人間に似ている。ただ、その身長は小さい。正確に言えばアイリスと同じくらいか少し大きいくらいだ。つまりは小中学生くらい。
それなのに今こちらに向かってくる影はそれなりの身長がある。俺と同じくらいはあるとみていいだろう。
「なんか細いな……。なんか体に穴が開いてるように見えるし」
そこまで口にして、ようやく相手が何なのかわかった気がした。
「スケルトンか!」
ようやく姿が見えるようになった相手、それはスケルトンだった。
ゲームなんかでは洞窟や魔物の城のような暗いところに現れる人型の骸骨モンスター。人と同じような武器を扱い、ステータスも意外と平均的でよく、力やHPが高かったりすることもある。
そして、この世界のスケルトンもおおよそゲーム脳と同じような感じに見える。
剣と盾を持ち、三体いるうちの一体が剣を鞘に納めて松明を持って明かりを確保している。
「アイリス。スケルトンってのは強いのか?」
こちらに向かって来ている三体のスケルトンに注意しつつ、アイリスに問いかける。
なぜ散々スケルトンについて語っておきながらこんなことをしているのかというと、この世界は完全なゲーム脳で構成されてはいないからだ。前にスライムは雑魚だとミカと調子に乗っていたらそんなことはなかったし、他にも細部が俺のイメージと違っていたこともあった。だから確認は大事だ。
そんな心配をしている俺にアイリスは小さく返事をしてからスケルトンについての説明をしてくれた。
「スケルトンはそんなに強いモンスターじゃないと聞いています。見ての通り人型の魔物で武器も私たちと同じようなものを使っているらしいです。あと、厄介な性質を持っているらしいです」
「厄介な性質? どういう性質なんだ?」
「それが―――」
アイリスが顔を強張らせながらスケルトンの性質を言った。
「倒しても少ししたら復活してしまうらしいです」
と。
「なるほどな。そういう奴もいるにはいたな」
ゲームによっては特定の方法で倒さないと何度でも復活するタイプのスケルトンがいた。この世界のスケルトンは残念なことに厄介な方らしい。
「ならここは見送りだな。このまま隠れてよう」
「私もその方がいいと思います。倒し方までは私も知りませんし」
アイリスと二人で判断を終えた俺はこっちを見ていたザックにジェスチャーで待機を命じる。スケルトンの持つ明かりで視界が確保できていたこともあり、ザックはすぐに首を縦に振り、警戒のためスケルトンに目を向けた。俺もスケルトンの方へ目を向ける。
すると、服の袖が引っ張られた。
「ゆ、ユウマさん! あれ! シュリちゃんが!」
アイリスが慌てた様子で言ってくるものだから俺も慌ててシュリちゃんの方へ目を向ける。そこには顔を何かを我慢するように歪めているシュリちゃんがいた。
そして、その表情の原因もすぐに発覚する。
「くちゅん!!」
かわいらしいくしゃみがダンジョンに響き渡った。
この場にいる三人の視線がシュリちゃんに集中する。シュリちゃんはあわあわとした表情になり、次第に瞳に涙を溜めていった。
「アイリス!」
「はい! ユウマさん!」
俺とアイリスはすぐにやり過ごすことを諦め、混乱して動けずにいるシュリちゃんはザックに任せて、スケルトンに対して先手を打つことにした。
「『スプラッシュ』!!」
アイリスの魔法がスケルトンを目がけて飛んでいく。いきなりの攻撃だったのにもかかわらず三体とも盾で魔法を受けた。でも、アイリスの魔力を侮ってもらっては困る。そんな小さい盾じゃ防ぎきれるはずがない。
案の定スケルトン三体はアイリスの魔法を受けきれずに盾を手放し、まともに体で受ける。何本もの骨がダンジョン内に音を響かせながら地面へ転がった。
「やったか……?」
フラグだとはわかっていても、それ以外の言葉を思いつかないのでその言葉口にする。
しかし、俺がフラグを立てたせいなのか違うのかわからないが、地面に転がった骨が不気味にカタカタと震え始めた。
「な、なんで!? ちゃんとバラバラにしたのに!」
すぐに復活すると聞いていたアイリスでも驚いている。さすがにバラバラにしてしまえば大丈夫だと思っていたのだろう。
だが、そんな期待はあっさり裏切られ、カタカタと震えていた骨は何かを中心に一か所に集まっていき、すぐに三体のスケルトンが復活した。
「やっぱり駄目だったか」
悪い方に予想が当たってしまったことに残念な気持ちになりつつも、思考は次の作戦に移る。
「アイリス、頭だ! たぶんあいつらは頭を完全に壊せば復活できなくなるはずだ。だから『アイスニードル』とかで頭を狙え!」
「わかりました! ユウマさんを信じます!!」
次の指示に特に疑問を抱くことなく俺の指示に従ってくれるアイリス。しかし、問題だってある。アイリスのを守らなくちゃいけない。
「『狙撃』!!」
密かに取得していた狙撃スキルを発動して魔弾の方の銃を発砲する。
属性を持たない魔力が銃先から放たれ、少しのぶれもなくスケルトンの頭をとらえる。が、しかし。
「くそっ。やっぱり俺じゃあ火力が足りないか! でも、実弾の方は音で敵を敵寄せちゃっても困るから使えないし、最悪じゃねーか」
スケルトンの頭に見事に命中するも軽く頭に衝撃を与えるだけで傷の一つもついていない。これが半年も異世界にいてレベル一のままの男の現状である。
「任せてください! 『アイスニードル』!!」
小さな女の子一人守れないのかと、カッコいい主人公のような悩みに頭を回転させていると、頼もしいアイリスが俺の横に並び立ち杖を三体のスケルトンに向ける。
青白く発光した杖先から大きな氷柱が現れる。回避しようにもアイリスが調整したのか横幅も縦幅もほとんど道を埋め尽くしている。回避のしようはない。
「行ってっ!!」
かわいらしいかけ声に反応したように氷柱が勢いよく飛び出す。
そして見事に氷柱がスケルトンを三体とも捉え、頭どころか全身を粉々に砕く。
「どうでしょうか!?」
「大丈夫だ。俺の予想だとこれで復活はできないはずだ」
ゲームなんかでは今のように頭を砕くか、アクション系のゲームなら核のようなものを破壊すれば復活はしない。ものによっては何をしようと時間経過で復活してしまうものもいるが、前者の方が多いように思う。
「う、動きせんね……」
「そうだな。一安心ってところか……」
少ししてもスケルトンが復活しないのを確認した俺とアイリスは大きな息を吐きながら安心する。
「おっと、それよりもシュりちゃんの方か」
自分のせいで敵に見つかったと落ち込んでいるだろうから慰めてやらんとな。
これがリリーナやミカのミスなら怒鳴りつけてもやるが、わざとでもないシュリちゃんの失敗なら笑って許してやるほかない。
「シュリちゃん。大丈夫だぞ。敵は全部俺とアイリスで倒したから。なぁアイリス。なんてことなかったよな?」
「はい。全然平気でした。だからシュリも気にしないでいいんだよ? お姉ちゃんたち強いんだから」
涙目でお兄ちゃんのザックに抱き着いているシュリちゃんに二人で慰めの言葉をかける。その言葉にシュリちゃんがゆっくりとこちらを向いた。
俺は女の子の笑顔が一番好きなタイプなんだが、女の子の涙目が好きなやつの気持ちが少しわかった気がした。
「ぷるぷる……」
少し震えながら、おそらく「ほんと?」と、言いたいのだろうシュリちゃんの顔に笑顔を向ける。
「ほんとに大丈夫だぞ。わざとじゃないんだから気にすんな。ミカとかリリーナならもっと酷いことしておいて笑って謝ってくるぞ。下手したら謝りもしない。シュリちゃんはちゃんと反省してるんだから偉いもんだ」
「ほら、シュリ。ユウマの兄ちゃんもアイリスも許してくれるってよ。だから泣き止めって」
胸にシュリちゃんを抱いたザックがシュリちゃんの頭を撫でる。金色のショートカットがサラサラとしていて気持ちよさそうだ。そんな光景を見ていた俺は無意識のうちに自然とシュリちゃんの頭に手が伸びる。
ゆっくりとシュリちゃんの頭に近づく自分の手に意識を集中していると、ふいに腕をつかまれて俺の腕が止まった。
「およ?」
不思議に思い、手の位置から犯人はわかってはいるのだが、俺の腕をつかんでいる女の子に目をやる。
「ユウマさん。私、頑張りましたよね?」
「え? ああ、もちろん。アイリスはいつも頑張ってくれてるよ」
「今日は特に頑張りましたよね?」
「ん? そうだな。さっきの戦闘ではよく頑張ってくれたな。正直助かったよ。アイリスを連れてきてよかった」
ここまで口にしてアイリスがもじもじしているのに気づく。少し顔を赤らめ、何かを言いたそうにしている。ここまでされて何を求められているのかわからないほど、俺は難聴鈍感主人公じゃない。
俺はシュリちゃんに伸ばしかけていた手をアイリスの方へ向け、頭をなでる。
銀色のさらさらな長髪が俺の指の間をすり抜け、心地よい感覚を与えてくれる。撫でられているアイリスも、満更ではなさそうで、顔を幸せそうにゆがめていた。
まったく、かわいい嫉妬だぜ。
「よーし。シュリちゃんが落ち着いたら探索再開だ。これからもお互い助け合っていこうぜ!」
こんな感じに、ちょっとしたトラブルはあったものの、危ないことは特になくダンジョン探索は確実に進行していった。




