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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第七章
157/192

6話

「おっすー。ファナー、いるかー?」


 ギルドから出てきた俺達四人は今、ファナの店まで来ている。理由はと言えばダンジョンへ行くための道具の調達だ。

 いくら少し浮かれているとはいえ、なんの用意もしないでダンジョンに挑むほど俺もバカじゃない。それに、ミカとリリーナは絶対になにかやらかす。その尻拭いの役目は絶対に俺に回ってくる。それを考えれば用意はしたってしたりないくらいだろう。


「はーい。ファナはいますよー」


 俺の声に店の奥からエプロン姿のファナが出てくる。

 その素敵すぎる姿に俺は、我を忘れて口を開いていた。


「な、なあファナ。頼むからこう言ってくれないか? おかえりなさいあなた。ご飯にする? お風呂にする? それとも」

「た・わ・し?」

「ミカ! 確かにそれはお約束だけど、そのお約束が通用するのはギャグマンガだけだ! 大体の男の子はみんな普通の方を求めてるんだよ!! だから邪魔すんな!!」

「知らないよそんなの。なにもわからないファナさんに変なお願いするユウマが悪いんじゃん」


 こっちの怒りなんて知りませんとばかりに、興味もないくせに近くの棚から適当なものを手に取ったミカがそれを眺める。


「すいませんファナさん。お店に来るなり騒がしくしてしまって……」

「いいんですよ、アイリスちゃん。ユウマさんたちにはいつもお世話になってますから。それに賑やかなことはいいことですよ。ヤマタニオロチ討伐報酬で今月は久しぶりに黒字になりそうですしね!」


 店の中に入るなり、いきなり喧嘩を始めた俺達のフォローに入ってくれたアイリス。正直、俺もやり過ぎたと反省しているところだったので、ありがたく思っていたのだが、ファナはそんなことどうでもいいんですよ。とばかりに笑顔でそう返してきた。

 相当に赤字が続いてたんだろうな……。普通のものを売ればファナの容姿も相まって男性冒険者がほいほい釣れるだろうに。


「それでみなさん。今日はなにをお求めですか? それともまた何かの依頼の協力ですか?」


 こんな童貞ニート丸出しの俺にも、いつもニコニコあなたの隣に這いよる混沌のごとく笑顔を向けてくれるファナだが、今日は一段と笑顔が眩しい。それはもうスマホのシャッターを無意識に押しているくらいには。


「今日は買い物に来たんだよ。実はダンジョンの探索に向かうことになってさ。ダンジョンで役に立ちそうなものが欲しいんだけど、なんかないか?」

「ダンジョン探索に欲しいものですか……。明かりはあるんですか? 基本的にダンジョンの中は真っ暗ですので、明かりは必須ですよ?」

「明かりは一応私が『ライト』を覚えてますね。あまり魔力の消費も激しくないので一日くらいなら多少戦闘があっても余裕をもって使い続けられると思います」

「うーん……アイリスは回復も担当してもらうし、今回に限っては火力担当にもなってもらうからな、少しでも魔力の消費は抑えたい。それに、探索自体は明日からとはいえ、アイリスには昨日すごく頑張ってもらったしな。おい、リリーナ……って、攻撃魔法じゃないから覚えてるはずないし、覚える気もないか」


 女神ラティファからチートをもらったわけでもないのに、天然の魔力チートを誇っている自称未来の天才大魔法使いである脳筋リリーナに声を掛けようとして、一人で勝手に納得してやっぱりやめる。

 普通こんなことをされれば多少なりとも話の内容が気になったり、イラつかれたりするものだが、俺がもうほとんど質問を口にしてしまっていたことと、リリーナ自身が妙に頭が良いことが災いし、リリーナは質問の内容をはっきりと確信した上で、その大きな胸を張って言う。


「愚問ね、ユウマ! 私の魔力は攻撃魔法にしか使わないわ! それで命を落とすことになっても私は本望よ!!」

「そんなことで威張んなよ!! てか、人には死ぬなとか言っておいて自分はいざというときは死にます宣言かよ! 自由すぎんだろ!!」

「ま、まぁまぁ。落ち着いてくださいユウマさん。リリーナさんだって本気で言ってるわけじゃあないですよ」

「だと良いんだけどな……」


 そう言って俺がジト目でリリーナをにらみつけると、本人はケロッとした顔で何かしら? みたいな顔をしている。その表情を見て、リリーナの言葉の真実味を感じ取ったのか、ファナが話を変えようと商品を紹介してくれる。


「とりあえず、こちらの商品なんていかがでしょう? さっきも話しましたけど、ダンジョンの中では明かりは必須です。お話ですとアイリスちゃんの魔力を大切にしたいみたいですし、これはおすすめですよ」


 自信満々に、笑顔でファナが差し出してきてくれたのは、ランタンのような魔道具だった。それを受け取り、軽く持ち上げたり、重さを確かめたりと、それっぽいことをしてみる。見れば見るほどにただのランタンだった。


「これ、ランタンだよな? でも、どこから中に火をつけるんだ? どこも開きそうにないんだけど」


 軽く見てみたところ、このランタンは開きそうな場所がなく、明かりをつけるようなスイッチも見当たらない。ランタンなんて今まで見たことないから知らないが、こういうものなんだろうか?


「はい、ユウマさんの言う通り、そのランタンは開いたりしませんよ」

「それじゃあどうやって使うの? ファナさん」


 さっきまでその辺の棚を漁っていたミカがランタンに興味を持ったのかこちらにやってきた。


「これではですね。魔力を光に変換する魔道具なんです。少しの魔力を注ぐだけで、『ライト』以上の光を、誰でも使用することができるんです!! これなら『ライト』の魔法を覚えていないユウマさんやミカさん、リリーナさんだって明かりをご自身で確保できますよ!」

「ほう。それはすごいな。『ライト』を実際に見たことないけど、明かりは大きければ大きいほど視界が確保できていいし、アイリス以外が自分で明かりを確保できるのも便利そうだ」

「ですよね! しかもこの商品! 本当にお安く仕入れさせてもらっていて、なんと! 一つ千ギルなんですよ!!」

「おーっ!! それは安いね! よっ! ファナさん! 商売上手!!」

「えへへー。それほどでもないですよ。私はただ、みなさんのお役に立ちたくて道具を集めて売っているだけなんですから」


 ファナとミカがなんとも微笑ましい光景を見せつけてくれる中、俺はいつもならスマホのシャッターを連打しているだろうこの時に、冷静な思考を働かせる。

 確かに、今のファナの話を聞く限りこのランタンは便利そうだ。今回のようなダンジョン探索に限らず、夜にトイレに行くときや、やるつもりはないが、夜までかかるクエストなんてものもあるかもしれない。そういった時にも非常に便利そうな商品だ。

 これが普通の店に売っていたら、俺は迷わず先行投資とかいって四人分のランタンを購入していただろう。でも、忘れてはいけない。

 ここはファナの店だ。金色の長い髪にエメラルドの瞳、リリーナにも負けない大きな胸に、アイリスのような優しさと笑顔、さらにはこんな俺にも偏見なく接してくれる、大学生のお姉さんのような存在。それがファナ。

 だが、そんな一見完璧なお姉さんの様に見えるファナにも欠点はある。

 それは―――


「なぁ、ファナ。この商品に欠点はないのか? ほら、魔力を注ぎ過ぎると爆発するとか。今までが今までなだけに少し不安なんだが……」


 俺が今口にした通り、ファナは商売ごとが下手なのだ。

 今までも、飲んだ人を毒状態にして解毒魔法の練習をするためのポーションとか、少しの刺激で爆発する爆発ポーションとか、いいにおいがするのに、その匂いは魔物を引き寄せる香水だとか、掛けただけで相手のステータスがわかるというメガネを買ったつもりがただのメガネだったとか、本当にロクな買い物をしない。

 人を疑わないファナの性格は確かに素晴らしいが、こればっかりは行き過ぎである。


「あ、はい、ユウマさんの言う通り、欠陥、とまではいきませんが、注意事項はありますね」

「ほーう。その注意事項って何なんだ? やっぱり爆発か? それとも魔力が切れるまで無限に魔力を吸い取られるのか?」

「いえいえ、そんな危険なものをお客様にお売りするわけないじゃないですか。もっと安全な商品ですよ」


 疑うような俺の質問に笑顔で答えるファナ。

 しかし、この場でその言葉をまともに受け取れるのは誰もおらず、基本的に温厚でファナ並みに人のことを疑わないアイリスでさえ、愛想笑いを浮かべている。ミカとリリーナもこればっかりはファナさんを擁護できない。という顔をしていた。

 その理由も俺たちはみんな一緒だろう。

 だって―――


(まだ爆発ポーション売ってるしなー……)


 俺達四人の視線がさっきまでミカが見ていた棚に寄せられる。そこにはフラスコ状の容器の中に色とりどりの液体が入れられていて、その中の一つが前にオーク戦でお世話になった爆発ポーション先輩だ。


「……ま。このことはおいておくことにしよう、そうしよう」


 ツッコんでもまともな会話にならないことはわかりきっているので、俺は素直にファナの言葉を受け取り、言いたい言葉はすべて飲み込むことにした。他の三人も、何か言いたげな顔をしてはいたものの、ファナ本人に悪意がないのがわかっているので何も言うつもりはないようだ。


「それで、その注意事項ってなんなんだ? もしかして使い捨てか? 一回使ったらそれまで、みたいな」

「違います。このランタンの欠点はですね―――」


 言いながらファナは俺からランタンを受け取り、なぜかわざわざ俺たちに背を向ける。俺たち四人が疑問に思っていると、世界が一瞬真っ白になった。


「な、なんだなんだ!?」

「ま、まぶしいですっ!!」

「なんなのよ、この光!」

「あわわわわわっ!!」


 俺たちが一瞬で白に染まった世界にそれぞれ驚いていると、その白の世界はほんの数秒で終わりを告げた。思わず閉じていた目を恐る恐る開くと、そこは見知らぬ場所でした。なんてことはなく、元いたファナの店の中だった。

 混乱で互いに顔を見合わせた俺たちは、唯一この中で事情を把握しているであるファナに視線を向ける。

 俺達全員の視線を集めたファナはゆっくりとこちらを振り向き。


「こ、このように、光が強すぎてまともに視界が確保できないのと、使用者本人もまともにその光を見たら、しばらくまともに周りが見えなくなることですかね……。はううう~。何も見えません~」

「なんで知ってて目をつむらなかった!?」


 どうやらその欠点を俺たちに直に見せようとしてくれたらしいファナが、目をぐるぐるとさせながらこちらを向き直る。説明通り本当に目がまともに見えてないのか、俺がいない方向に俺の名を呼んでいたり、リリーナの頭を撫でながら「なんで何も言ってくれないんですか、アイリスちゃん?」とか、言っている。

 本当なら愛すべき欠点なんだろうが、ここまでくるとポンコツにしか見えない。


「ファナさん。今頭を撫でてるのはリリーナさんのですよ!? 私はこっちです! 椅子まで連れていくので手につかまってください!」

「あー、はい。この小さい手は確かにアイリスちゃんですね。すいません、お願いします~」


 ファナのふらふら具合を見かねたアイリスが、手を取ってファナを椅子まで誘導する。なんかこう、ギャップというか、なにかを刺激する光景だった。


「そ、それでユウマさん、どうですか、このランタン。非常に便利だと思うのですが?」

「あぁ、悪い……いらないわ」

「そ、そうですか……。残念です……」


 ファナには悪いが、そんな悪戯アイテムのようなものはいらない。ダンジョンで下手したら全員視界がまともに確保できないとか怖すぎる。そんなの真っ暗で何も見えない最初と同じだ。命が何個あっても足りない。

 いつもなら「あの、ユウマさん、一つだけでも買ってあげられないでしょうか?」なんて、言ってくるアイリスも、今回はさすがに駄目だと思ったのか何も言ってこない。リリーナもミカも懸命だというような目で俺を見ている。

 結局のところ、満場一致でランタンの購入はなしになった。

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