38話
というわけで、今回のオチ。
「「「かんぱーいっ!!!」」」
あの後どうにか氷柱の崩壊前にヤマタニオロチの落下地点から脱出をした俺たちは、エイトたち騎士団、王都の冒険者たちにイニティの街の冒険者全員でドヤ顔をしながら王都へと戻り、セントラル王へと事の次第を報告した。
俺達だけだったら嘘と思われたかもしれないが、のじゃロリとルーシアの口添え、それに俺のことも少なからず信頼してくれていたこともあってセントラル王は割とすんなり俺たちの話を信じてくれた。
まぁ、可愛い二人の娘の言葉を無下にするほど馬鹿な人でなかったということだ。信じてもらえなくてどうせ後で王都の冒険者やエイトたちの証言で分かることだったしな。
それからイニティの街の冒険者全員でセントラル王のありがたい校長先生の話のような話を聞いて、俺たちは打ち上げをしようと話を始めると、セントラル王がそれならここを使いなさいと、この前貴族を集めてパーティーをしていた場所と料理と飲み物を無償で提供してくれた。
その結果がさっきの乾杯である。
「ぷっはー! この一杯のために生きてる……わけじゃないな、どちらかというと美少女との生活のために生きてるな。うん」
この世界ではお酒を飲むのに年齢制限はない。十六歳だろうが十歳だろうが五歳だろうが、自分の責任でお酒を飲むことができる。それでも、大人が子供にはお酒を飲まさないようにはしてるみたいだけど。
そういうことで俺もこの世界でなら合法的に酒を飲むことができる。ということで俺も酒を嗜んでいた。
「なにバカ言ってるのかしらこの男は」
「何だよリリーナ。こんな明るくて楽しい場所なんだからちょっとくらいバカ言ってもいいだろ」
「なにがちょっとよ。ユウマのちょっとは全然ちょっとじゃないのよ。それに、お酒っていうのは私みたいに静かに嗜むものなの。そんなこともわからないのかしら」
そう口にしたリリーナが俺と同じ酒を口に含む。確かに今さっき俺がバカ飲みしたのとはわけが違ってお酒がなんだか高級なものに見えるし、なんならリリーナがいつもの五割増しで美人に見える。
「……ねぇ、ユウマ、リリーナ。そんなにおいしそうに飲んでるけどさ、お酒っておいしいの? なんか苦そうなイメージしかないんだけど」
「あっ、私も気になります。どうなんですか?」
俺とリリーナが自分たちらしい会話をしていると、今まで王都のお城のシェフたちによる高級食材がたくさん使われた料理に舌鼓を打っていたミカとアイリスが話に参加してきた。
俺とリリーナと違ってこの二人はジュースを飲んでいるので酒の味が気になるらしい。
「うーん……。正直そこまでおいしくはねえよ? これは俺の個人的な意見だけど、普通にジュースの方がうまい」
「そうね。私も紅茶とかの方が好きだわ」
「それなのにお酒を飲むんですか?」
「そうだな、なんつーかこう、こういうときだけは飲みたくなるんだよ。なんか大きなことを達成したときとか、やけに疲れたときとかさ」
「そうね。どうしてって聞かれると困るけど、飲みたくなるものなのよ」
「そういうものなんだ」
俺たちの曖昧な返答にアイリスとミカは理解まではいかないものの納得はしてくれたらしく、うんうんと頷いている。
でも、実際おいしくないのにお酒をどうして飲むのって聞かれても困るのだ。俺の場合は本当に場の雰囲気で飲んでいるところもあるからなおさわ。
「ねぇねぇ、ユウマ。ちょっとだけ飲ませてよ」
こんな話をしたからか、それとも前から興味があったのかミカが俺の手に持ったお酒を要求してくる。俺は別に構わないが。
「間接キスだぞ」
「今更そんなの気にしないよ。小さいころからさんざん回し飲みとか、回し食べしたじゃん」
「それもそっか。ほれ、あんまり一気に飲むなよ。気持ち悪くなるから」
本当ならドキドキな展開のはずの間接キスが全くドキドキしないものに変わり果てたので、俺の方も特に気にすることなくミカに酒の入ったグラスを渡す。
「どれどれ~」
若干緊張した面持ちでミカがグラスの酒を少し口に含む。そして次にはんくんくと喉を鳴らしながら酒を飲み込み始めた。
「お、おい! 一気に飲むなって言っただろうが!」
慌てて俺がミカから酒の入ったグラスを取り上げると、ミカは特に抵抗することなくグラスから手を放した。あまりにもあっさり手を放すものだから勢いよくグラスを取ろうとした俺の方が態勢を崩しかけたくらいだ。
「それでミカ、味はどうだった? 少しは私たちの気持ちがわかったかしら」
リリーナが優雅に酒の入ったグラスを軽く回しながらミカに尋ねる。
しかし、ミカからの返事はない。
「ミカさん? 大丈夫ですか?」
ミカから返事がないことを不審に思ったアイリスがミカに近づく。
その時、それは起こった。
「アイリスちゃ~ん!!」
「わっ!?」
突然ミカが甘ったるい声を出しながらアイリスに抱き着いた。あまりの勢いにアイリスはミカを支えきれずにその場に倒れこむ。
「ちょ、ちょっとミカさん。どうしちゃったんですか!?」
「え~、別にどうもしてないよ~。いつも通りの私だよ~」
「そ、その割にはなんか目がおかしい気がするんですが!?」
「そんなことより~。アイリスちゃんってかわいいよね。キスしちゃおっ!」
「え……。んんっ~!?」
「……は?」
あまりの出来事に俺とリリーナは思考を停止した。グラスを落とさなかったのは奇跡に近かったと思う。
「っは~!」
大きく息を吐きながらミカがアイリスの唇から自分の唇を離す。
アイリスはあまりに突然の出来事に放心してしまっていた。
「ちょ、ちょっとユウマ。これはどういうことなのかしら……?」
「俺が知るわけないだろ。俺が住んでたところだと俺たちの年齢じゃ酒なんて飲めなかったんだ。ミカが酒飲んだ時の反応なんて知ってるはずがない」
俺とリリーナはお互いにミカから視線を外すことなく会話をする。
今の現状に頭が追い付かずに混乱している俺たちを、どうやら少しの酒で酔っ払って、さらにはキス魔に豹変するらしい俺の幼馴染は見た。
まるで次の獲物を見定めるように。
「リリーナも~。すっごいきれいな顔してるよね~。スタイルもいいし~声もきれいだし~肌もすべすべだし」
「ミカ、その話もっと詳しく!」
「ちょっと黙んなさいよユウマ!」
俺の真面目な受け答えにツッコミを入れたリリーナ。しかしそれは今この現状においてもっとも悪手だった。今のミカから目を離すということは―――
「えいっ!!」
「きゃっ!」
ミカに飛びかかられるということだ。
いきなりのミカの体当たりに特に体制を整えていたわけでのないリリーナはあっさりとミカ諸とも倒れこむ。
「リリーナ~。ちゅう~」
「ちょっ! ミカ! やめなさい! いくらミカでも怒るわよ!!」
ミカに馬乗りになられ、上手く動けないながらにもリリーナがミカの顔を押さえつけて抵抗する。
「ユウマ! ちょっと助けなさいよ!」
「悪い、今録画で忙しいんだ」
「あんたなに撮ってんのよ! 助けってって言ってるでしょ!」
「バカ言え! こんな素晴らしい百合はなかなか見られないんだぞ! こんなチャンス逃がせるか!」
「逃がしなさいよバカ!!」
必死にリリーナは抵抗しているが、女神ラティファから『金剛力』なんてチートをもらったミカにとってそんなのは些細な抵抗に過ぎない。リリーナの全力の抵抗もむなしくどんどんとリリーナとミカの顔は近づいていく。
さて、そろそろ助けてやるとするか。いいもの撮れたしな。
「ミカ、こっち来い」
俺はそう言うと両腕を広げた。リリーナが本気で助かったという顔ともっと早く助けなさいよ。という表情で俺を見る中、ミカは酔っているのか赤い頬でとろけた顔を俺に向けていた。
「ユウマ~っ!!」
予想外に効果があったらしい俺の行動にミカがリリーナに馬乗りするのをやめてこちらに向かってくる。
「ユウマにも、ちゅ~」
「バッチ来い!!」
「ユウマ! あんたそれが狙いだったのね!」
酔ってたって構うもんか。美少女とキスできる最初で最後のチャンスかもしれないんだ。俺はチャンスを無駄にはしない。鈍感系主人公や、美少女の誘いを断るようなバカな主人公とは違うのだ。
「ちょっとミカ! 馬鹿な真似はよしなさい! その男はとんでもないクズなのは知ってるでしょ!!」
リリーナがなにやら騒いでいるが俺には関係ない。ミカにもお酒が入っているから関係ない。ということでどんどんとミカの顔が近づいてくる。距離が縮まるごとに、俺の頼りない心臓がバクバクとうるさくなっていくが構うもんか。
あともう少しでミカの唇と俺の唇が重なるというところでミカの腕が腰に回された。
ふっ、これで俺もファーストキスを卒業か。
「ぐがっ! あだだだだだだだだだっ!!」
突然の痛みが俺を襲った。痛みの発生源、それは俺の腰だった。ミカの腕が回されている腰だった。
「あががががががっ!! こ、こいつ! 酔って『金剛力』の制御まで馬鹿になってやがる……」
今にも折れそうな音を俺の腰が立てている中、俺は自分の状況を的確には把握する。
「くそっ! 名残惜しいがこの際仕方ねえ……『ボルト』っ!!」
どうにかミカの横腹まで腕を動かして『ボルト』でスタンガンのまねごとをする。結果、どうにかミカを気絶させることに成功した。
「し、死ぬかと思った……」
「あんな形で女の子とキスするような男は死んじゃえばよかったんだけどね」
「……」
正論すぎて何も反論できない俺だった。
ていうか、なんで王都まで救ったのに俺は最後までカッコつかないんだろ。
「こういうことしてるからか」
倒れているミカを見て、少し自分の行動を顧みようと反省をする俺だった。
「おっ、ユウマ君、それにリリーナ君。こんなところにいたのか」
「よう……セントラル王。どうもです」
倒れているミカと、呆けたまま気絶してしまったらしいアイリスをリリーナと二人で壁際まで運んで行って背を預けさせると、セントラル王に話しかけられた。
「今回のヤマタニオロチの件では本当に世話になったね」
「いえいえ、俺が勝手にやっただけですから」
「本当にね」
「んだよ。文句あんのかリリーナ。ちゃんとお前の要望通りにヤマタニオロチと戦えただろうが」
「その点に関しては文句はないわよ。でも、もう少しやり方を考えてほしかったわね。私たちの考えを全部無駄にしちゃって」
「けっ。そういうお前らの行動に腹が立ったからの俺の行動だって気づいてほしいもんだな」
「まぁまぁ、仲がいいのは結構だが、今くらいは喧嘩はよしたまえ」
「「仲良くなんてないです(わよ)!!」」
喧嘩になりそうな雰囲気の仲裁をしてくれようとしたセントラル王が俺とリリーナがハモッテ返事をすると、面白そうに笑った。
「それよりもユウマくん、報酬の件で話があったんだよ」
「報酬ですか? その話ならギルドから聞いてますけど?」
「いやいや、今回の件は王都という国を揺るがしかねない大きな事件だった。だからギルドからの報酬だけでなく、今回この街を助けてくれたユウマ君に私が個人的にお礼がしたいんだ。それを報酬として受け取ってほしいんだよ」
「そういうことなら」
今の俺たちの現状を考えて報酬が上がるのはうれしいことこの上ない。恥だとかプライドなんてそんなのはとうに旅行先から帰ってなど来ない。
「それでギルドからの報酬以外に君たちの借金をいくらか返してあげようと思うんだ」
「ほ、ほんとですか!?」
あまりにも嬉しすぎる言葉につい前のめりになる。
「ユウマ。あんた少しは遠慮ってものをしなさいよ」
「何言ってんだ。俺たちはそれだけの活躍をしただろうが! もらえるもんはもらう。それが俺のモットーだ!」
「はぁ~……」
俺の言葉に呆れた声を漏らすリリーナ。
でも、そんなの知ったこっちゃない。借金が減るならなんだっていい。
「リリーナ君。ユウマ君の言う通りだよ。君たちはそれだけの活躍をしたんだ。この国を治めるものとしてお礼くらいはさせてもらえないか?」
「ほれみろ。セントラル王もこう言ってるぞ。それに、ここでセントラル王の申し出を断るのだってセントラル王の誇りとか尊厳を傷つけることになるんじゃないのか」
「ゆ、ユウマは口ばっかり達者なんだから」
悔しそうに顔をゆがめるリリーナ。
しかし、反論もなくなってしまったようで最後にはセントラル王にお礼の言葉とともに頭を下げていた。
「はっはっはっ。お礼を言ってるのはこちらなんだ。君たちがお礼を言うことはないさ」
俺たちのこんな態度に腹も立てずに笑ってくれるセントラル王。
その穏やかな性格と心持ちが国の人たちに信頼される所以なんだろう。
「ところでセントラル王、具体的にはどれくらいもらえるんですかね?」
「あぁ、全額はさすがに厳しいんだが、ギルドの報酬を合わせて残りが一千万になるまでは返済をしてあげようと思っているよ」
「マジですか!?」
「マジだよ」
「やったぜ!!」
恥も外聞もなくその場でガッツポーズをとってしまう俺。そんな俺を見てあきれた様子だったリリーナも、少しはうれしく思っているのか、少しその顔には優しさが滲んでいた。
「それともう一つ。これは聞きたかったことなんだけどね」
あまりに嬉しいセントラル王の言葉に浮かれていると、セントラル王がそう切り出してきた。
「リリーナ君。もしかして君はフルハート家の人間ではないか?」
「フルハート家……?」
「あぁ、貴族の中でも魔法のエキスパートな貴族たちでね。わけあって数年前に貴族としての座を追われたんだが、小さいころの彼女を見たことがあったような気がしてね。確かフルネームはリリーナ・ラブ・フルハート」
セントラル王の言葉を聞いて二人でリリーナの方を見てみると、リリーナが俯いていた。あっ、これビンゴっぽい。
そういえばセントラル王との会見の時、こいついきなり暴れ出したり、王都に来てから様子がおかしかったな。何かあったのか聞こうとしてた時もはぐらかしてきたし、なるほど、そういうことか。これならリリーナがやけにお嬢様っぽいのも貴族のマナーを知ってるのも頷ける。
「なぁなぁリリーナー。セントラル王が質問してるぞ~。質問にはちゃんと答えないとな~。な~」
借金がかなり返済してもらえて、その上リリーナをからかうための材料までもらえそうになって俺は浮かれていた。だから気づかなかったんだ。
「おいおいリリーナ~。だんまりはよくないぜ~。ちゃんと話さないとな~。俺たちは仲間なんだからさ~」
「……ン」
「ん~? 何だって~?」
手を耳に当てて、自分がされたら間違いなくブチギレる自信のある態度で耳を傾ける。
「『エクスプロージョ』」
「からかって悪かったからそれだけはやめろ!!」
危ない魔法を唱えようとしたリリーナをセントラル王と二人で強引に止めて、どうにか魔法を使わせずに済ませた。
あ、あぶねえところだった。
「はれ? 私寝てましたか?」
「んあ? 私も寝てたっけ?」
セントラル王都二人でリリーナを止め終えると、タイミングよくアイリスとミカが起きてくる。ミカの方は酒も抜けたのかいつも通り通常運転だ。リリーナも少しは落ち着いたのは口から抜けるような息を吐いてはいるものの、おとなしくなった。
「はあ~……。全く、俺の日常はいつからこんなににぎやかで騒がしくなったのかね。俺は毎日好きなだけ寝て、好きなだけ食べて、好きなだけ飲んで騒いでゲームしてマンガ読んでラノベを読んでたかっただけのはずなんだかな~」
そんな言葉をつぶやきつつも、この生活を悪くないと思ってる俺も確かにいて。
「まあ、とりあえず、やっぱり異世界は最高だな」




