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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第六章
150/192

37話

「どれどれ、戦況は……っと」


 イニティの冒険者を引き連れて王都から出てきた俺たちは、ヤマタニオロチの姿が視認出来たところで一旦進軍を止め、ギルドのお姉さんから拝借した双眼鏡のような魔道具で戦況を確認する。


「あー。冒険者どもの方は相も変わらず学習してねえな。同じことしてやがる。エイトたちの方は……冒険者に比べたらマシだけど、攻めあぐねてるな」


 大雑把に戦況を確認したところ、今の通りだ。

 王都の冒険者たちは今まで通りの戦法でヤマタニオロチに挑んでいる。前衛に盾班を置いて炎を防ぎ、その後ろから魔法班と弓班で攻撃、隙あれば近接武器持ちが突貫しようと試みるが、そんな隙はなく、ただただ突っ立っている。その後ろでは回復班が必死に傷ついた冒険者の回復を行っていた。


 一方、エイトとセツコさんが率いているであろう王都の兵士軍の方はというと、こっちはまだマシな戦い方をしていた。エイトとセツコさんは交代で俺たちに同伴してヤマタニオロチの戦い方を見ていた。だからか、少しは対策をしてきたらしい。

 大勢の兵士たちがヤマタニオロチの前方に出て攻撃を防ぎ注意を集める中、少数精鋭の班をいくつか作り、その班が隙を見てはヤマタニオロチに攻撃を仕掛けている。魔法班や弓班以外にも、近接武器持ちが多少なりとも攻撃できている分冒険者たちより幾分かマシだ。


「でも、火力が足りない」


 エイトたちの指示のもと攻撃を仕掛け、確かに思惑通りに進んでいるのではあろうが、圧倒的に火力が足りない。あんなに大きな怪物を数人がかりで切り付けたり突っついたりしたくらいでは大したダメージにならない。魔法も効果的ではあるものの、今までの戦闘から顧みるに決定打には足りえない。

 つまり、物理と魔法、両方の火力を最大限に高める必要がある。さらにはそれを相手の弱い部分、急所に入れられなければ意味がない。


「ユウマさん。どうしますか? そろそろ動きますか?」

「のぉ、ユウマ。焦ってもしょうがないことはわかっておるんじゃが、早く助けてやってほしいのじゃ」

「おねがい~」


 後ろの方でアイリスと王女様二人が催促してくる。

 そう、今回の戦いにはのじゃロリとルーシアもついてきている。

 本当は待ってるように言ったんだが。のじゃロリは「せっかく生の戦いが見れるチャンスなのにおとなしくなどしておれん!」と言い、ルーシアは「いや~私も王家の王女様だし~」と、なにやら折れてくれる様子はなかったので、変に動かれるより、近くにいてもらった方がマシだと判断した俺が連れてきた。


「わかってるよ。そろそろ動く。たぶんあいつらももう限界が近いだろうからな」


 戦況を見るからにもうどちらも長くは戦闘できそうにない。俺の作戦にはあいつらも利用する予定なので、限界が来られてはこっちも困る。


「やっとヤマタニオロチを倒せるのね! ユウマ! わかってると思うけど、とどめは私に刺させなさいよ!」

「えぇ~! リリーナずるいよ! たまには私にもとどめ刺させてよ!」

「ダメよ! こればっかりはミカでも譲れないわ」

「バカな喧嘩してないで早くいくぞ。脳筋コンビ」


「「脳筋じゃない(わよ)!!」」


 俺が片手をあげて進軍の合図をすると、イニティの冒険者たちは一斉に進軍を再開する。ただ、作戦上距離感を誤るわけにはいかない。いつも以上に神経を集中させながら俺はミカたちとともに先頭を歩く。


「そろそろだな……」


 さっきまでヤマタニオロチを肉眼でどうにか視認できるだけだった距離を、今では冒険者と兵士たちの行動もある程度見えるところまで距離を詰めた。


「みんな! そろそろ戦闘開始だ! ギルドで話した通りに頼む!」


 あらかじめ冒険者たちには今日の作戦についてギルドで話してある。それからの変更点は特になく、強いてあげるとすればアイリスに必要以上に頑張ってもらことになっただけだ。それ以外の変更点は一つもない。


 作戦開始の指示を冒険者たちに飛ばすと、イニティの冒険者たちは気合を入れるように声をあげながら、作戦通りの行動を開始する。向こうで分けたとおりに犯が固まり、各自自分の役目を全うする。


「俺たちも行くぞ。ほれ、手だせ」


 イニティの冒険者たちが行動を開始したのを確認した俺は、自分たちも行動しなくてはと、同じ班のミカに手を差し出す。ここからは『潜伏』スキルで近づくため、『潜伏』スキルを持っていない人は持っている人と肉体的に接触している必要がある。服や靴なんかの使用者の体に接触しているものを触れても効果はあるらしい。


「手……洗ったよね?」


 手を差し出した俺に、ひどいことを言ってきたミカ。

 しかも冗談的な感じではなく、本気で心配している感じだ。


「洗ったわ!! なんなのお前! 俺は別にいいんだぞ! 『金剛力』持ちのお前は簡単には死なないんだから『潜伏』スキルに混ぜてやらなくても俺はいいんだからな! 」

「いやでもさ、これってお約束って言うか、やっぱり少し心配じゃん?」

「もういい! のじゃロリ! ルーシア! リリーナ! 二人は俺と手をつないで、もう一人は適当に服の裾でも持ってくれ! このバカは放っておく!」

「待ってユウマ! お願いだから私も入れて! 謝るから! ちゃんと謝るからー!」

「知るか! こっちがマジになってるときにそんなことを真顔で言う方が悪い!」

「ああん! 可愛い幼馴染の可愛い冗談じゃんか~っ!!」


 結局、泣き縋ってきたミカも『潜伏』スキルの恩恵を与えてやってから、俺たちは進軍を再開する。ここからはみんなで同じ方向を目指すわけじゃない。ある程度ヤマタニオロチと距離を詰めたら、そこからは各自自分の持ち場に向けて動いてもらう手筈になっている。


 俺の『潜伏』スキルの恩恵を受けているのは俺を抜いて四人。さっき名前を呼んだ、のじゃロリとルーシア、リリーナとミカだ。本来のパーティーメンバーであるアイリスは役割が違うので他の班に行っている。


「いいか、ミカ。お前はドジなんだから細心の注意に細心の注意を重ねて、それを細心の注意でコーティングするくらいしておけよ」


『潜伏』スキルでヤマタニオロチと距離を詰めていく中、俺はこの中で一番の不安要素、ミカのドジについて言及しておく。なぜここまで慎重になるのか、もちろん相手が今までとは規格外の大きさをしているとか、命がけだからとかいろいろと理由はあるが、その中で俺たちは一番危険な場所に向けて進軍しないといけないからだ。


「ユウマは心配しすぎだよー。私だってそんなにしょっちゅう転ぶほどドジじゃないよ―――」

「い、言わんこっちゃねえ……」


 早速転ぼうとしたミカをどうにか手をつなぎながら腕で支えて抱きとめる。

 俺たちの今の陣形は俺の右手に一番の不安要素ミカ。左手にのじゃロリ、後ろで左右の服の裾をリリーナとルーシアが掴んでいる。きっと今日のこの服は伸び伸びになっているだろう。


「のう、ユウマ。疑っておるわけじゃないんじゃが、ユウマの作戦で、勝てるの可能性はどのくらいあるのじゃ?」

「あっ、それ私も気になってた~」


 もうそろそろ戦闘区域に突入というところで、のじゃロリがそう尋ねてくると、ルーシアが質問に同乗した。『潜伏』スキルは姿は消せても音は消せないので、もちろん小声でやり取りをしている。


「そうだな。正直言って、勝つ可能性も負ける可能性も半分半分って感じだな。結局のところ勝つか負けるかの二択しかないんだから、どう計算したって確率的には半分半分だろ」


 のじゃロリがこういうことを聞きたいんじゃないことくらいはわかっちゃいるが、生憎こっちもちょっとばかり余裕がない。こんなひねくれた返しをしてしまうのも許してほしいところだ。


「ユウマ。あんたさすがに意地が悪いわよ。悪いのは顔と性格だけにしないさよ」

「おい、リリーナ! 確かに今のは意地悪な返しだったかな。と、自分でも思ったけど、お前の方が意地が悪いだろ! なんだよ、顔と性格が悪いって! それ以外にどこが悪くなるってんだよ!」

「頭かしらね。でも、ユウマって変に頭が回るから頭だけは悪くないのよねー」

「褒め言葉ありがとよーっ!!」


 これ以上追及してもロクな言葉が返ってこないと早々に悟った俺は、半ばやけくそになりながら、今出せる一番の大声でリリーナにお礼を言っておく。

 お前の性格はともかく見た目だけは最高だよ! と、心の中でもお礼を言っておいた。


「さて、なんだかんだで作戦場所に着いたわけだが、他の奴らはどうかなっと?」


 俺たちの待機場所、ヤマタニオロチ真ん前まで到着した俺たちは、内心ひやひやしながら他の冒険者たちの位置を確認する。


「俺の方はオッケーだな。他の連中はどうだ?」

「あっちは大丈夫そうなのじゃ!」

「あっちも平気そうね」

「いけるんじゃないかな~」

「ばっちりだよ!」


 俺以外の四人からも大丈夫そうな返事を確認する。

 ということは、他の冒険者たちも既に自分たちの配置に着いたということだ。それに時間的にもそろそろ限界だ。王都の冒険者は完全に押されて一時撤退して前線より少し下がっている。エイトたちの方もどうにか食らいついてはいるが、既に限界そうで、ろくな攻撃を行なえていない。

 やるなら今だ。


「さーて、やってやりますか。ここまできたら逃げられないし、しょうがないしな」


 そう言いながら右手に実弾用の銃を握る。軽く握ったりして感触を確かめ、ゆっくりと銃口を空へと向けた。仲間たちに耳を塞ぐように声をかけ、それを確認してから自分も耳を塞ぐ。銃を握っていて手で耳を塞げない方は腕を使って上手く塞ぐ。運動会で先生がやっているみたいな感じだ。


「戦闘開始だぁっ!!」


 大声でそう宣言しながら、掲げた銃から三発ほど発砲。バンバンバン、と、大きな音を立てた拳銃から放たれた銃弾はヤマタニオロチのお腹に小さな穴を三つほど上げる。そこから出てきた血が俺たちを少し濡らした。

 これで戦闘が始まる。これが行動開始の合図だからだ。


「「「『リスント』!!!」」」


 ヤマタニオロチの首を目がけて三本のロープが伸びていく。ギルドが用意してくれた大物相手でも使える丈夫なロープだ。拘束魔法の『リスント』は自分で拘束できる道具を持っていない場合はその分魔力を消費して自動でゴム状の紐を作り出しそれで拘束する。今回の様に自前のロープがある場合はその分の魔力を抑えられ、道具によっては魔力で作られたゴム紐よりも効果を発揮する。

 今回の場合は後者で、普通の『リスント』よりも効果を発揮してくれる……はずだ。

 それらがヤマタニオロチ三本の首をまとめて拘束する。


「よしっ! まずは第一段階突破だ!」


 予定通り三か所から同時に放たれた『リスント』によりヤマタニオロチの首は三本共まとまった。その上、三角形に三か所から総勢五十人以上の冒険者たちによって綱引きの様に引っ張られているために炎を吐き出すための標準を定めることすらできず、三つの頭はそれぞれ上か正面を向いていた。これから炎の心配をする必要はない。


「こうなると次はその場を動こうとするよな」


 首を固定されてしまったのならその下、体を動かしてどこか一か所をどうにかしてしまえばいい。三か所の内、一か所でもその役割を全うできなくなれば前後か左右からしか拘束はなく、少なくとも二か所の方向には首を向けることができる。そうすればご自慢の炎を吐ける。

 でも―――


「でも、動けなくちゃ意味ないんだよなー」


 俺の意味深な言葉と、したり顔を共に聞きなれた魔法名が聞こえ始める。


「「「『フリーズ』!!!」」」


 四方からその魔法名が唱えられる。

 よく俺が相手の足止めや拘束に使う凍結魔法『フリーズ』。それがヤマタニオロチの四本の足に放たれる。ただ、それだけだとヤマタニオロチが強引に強引に動こうとすれば始まりの街の冒険者の魔法なんて簡単に突破されてしまう。

 だからその対策もしてある。


「「「『フリーズ』、『フリーズ』、『フリーズ』っ!!!!!」」」


 魔法使いたちはまだ氷が破壊されていないにも関わらずに『フリーズ』を連続で唱える。唱え続ける。四本の足に最低でも五人ずつは配置してある。二班だけ三人のチームもあるが、そこにはアイリスとファナという魔力が高い二人を置くことでカバーしている。いくら相手が格上でも五人が連続で『フリーズ』を唱え続ければいくら始まりの冒険者の魔法だってそれなりには通用するのだ。

 このとおり、俺が考えた対策は至ってシンプルだ。壊されるなら壊される前に立て直す。魔法に魔法を重ね掛けする。ゲームでだってステータス強化の魔法を何回かは掛けたりする。なら、これだってできると思ったのだ。

 そして、その対策は見事に功を成した。

 ヤマタニオロチは氷を突破できずにその場を動けずにいる。

 ここからは簡単だ。少しの間だけとはいえ身動きの取れないヤマタニオロチの鱗がない弱点部分にこちらの最大火力で攻撃する。ただそれだけだ。


「よしっ! 第二段階も突破! やれっ! ミカ!」

「任されたっ!!」


 元気のいい返事とともにミカが足に力を入れて飛び上がる――――はずだった。


「わかってた! 正直絶対こうなるのはわかってたよ!」

「さ、さすがユウマだね。これでイケメンだったら私うっかり惚れてたよ」

「バカ言え。俺は今でもそこそこはイケメンだろうが……」


 大地を蹴りつけ、ヤマタニオロチのどてっ腹に一発を食らわせようとしたミカが、案の定というかお約束というか、足を滑らせた。それが読めていた俺はミカのすぐ後ろで待機していたのでその背中を支えて体を起こす。


「これでお約束のドジっこは終わったな。今度こそ頼むぞ!」

「今度こそ任された!!」


 若干不安が残る中、今度こそミカが大地を蹴りつけて常識的にはあり得ない跳躍を見せる。そして、その勢いのままミカは右手を上に掲げてヤマタニオロチの腹に大きな一発をぶちかます。


「グゴゴゴゴゴオオオオオオオオオ!!!」


 ミカの一撃が入ると同時にヤマタニオロチがうめき声をあげた。今まで何回も戦ってきた中で初めて聞くヤマタニオロチのうめき声に、自分の作戦が予想以上に効果を成していて、ミカの攻撃が思った以上に入っていることに安堵する。


「せいっ! そりゃっ! でやっ!」


 一発かますごとに地面に降りてきて、すぐに跳躍して攻撃を続けるミカ。俺も一発ごとに何かしらドジをしようとするミカをカバーするのも忘れない。今も着地に失敗して尻もちを着こうとするミカを支えることに成功した。


「ねえユウマ。支えてくれるのは嬉しいんだけど、それを口実にお尻とか胸とか触るのやめてくれない? さすがの私でも怒るよ?」

「な、なんのことだかわかりませんね……」

「これが終わったらあとでちょっと二人でお話ししようか?」

「や、優しくしてね……」


 俺の言葉にミカが若干可哀そうな目をしながら再び跳躍する。

 うん。ここで生き残っても俺はこの後ミカにやられますね。なら、最後の晩餐じゃないが、開き直ってたくさん胸やお尻を触っておくことにしよう。そうしよう。

 そんな開き直りを俺がしている中もミカは着々とヤマタニオロチにダメージを与えていく。ふと気になってエイトたちや王都の冒険者たちの動きを見てみれば、俺たちが突然現れてヤマタニオロチを圧倒していることに驚いているのか、立ち尽くしていた。

 どうせなら『リスント』組か『フリーズ』組みの手伝いでもしてほしいところだが、そうも言ってられない。今は時間が惜しいのだ。


「リリーナっ! 魔法の詠唱の方はどうだ!?」

「すごく順調よ! なんかわからないけど、今日はすごく調子がいいの! 魔力が体からあふれてくるみたいだわ!」

「そうか! ところでその魔力で服が破れたりは……」

「するわけないでしょ……。冗談は顔だけにしなさい」

「……」


 場を和ませるための冗談にまともな答えを返されて無言になる俺。

 あれ? 目から食塩水が……。


「ゆ、ユウマ! お主はすごいのっ!! あれだけみなが苦戦しておるヤマタニオロチに始まりの街の冒険者だけでここまで戦えるとは、本当にすごいの!!」

「ほんとだね~。正直ここまでとは思わなかったよ~」


 興奮した様子ののじゃロリと、いつも通り眠たそうなルーシアの称賛が耳に届く。


「だろっ! 俺はやればできる子なんだよ!」

「でも、やってることと言えばミカのカバーとセクハラだけなのよね」

「おいリリーナ! せっかく上がった俺の株を下げんな!」


 リリーナのせいで上がったはずに好感度が下がってしまったような感覚に陥る中、俺は改めて戦況の確認を行う。その間もミカへのセクハ……カバーは忘れない。

 いてっ! ミカの奴、飛ぶ前に俺の頭に肘鉄入れやがった! 俺が何したってんだ!


「『リスント』組はまだ大丈夫そうだな。『フリーズ』組ももう少しはいけそうか?」


『リスント』組は特に問題なさそうだったが、『フリーズ』組は少し辛そうにしていた。当然と言えば当然だ。格上に相手に魔力消費の少ないとはいえ『フリーズ』を唱え続ける。

 ここにいるのは最弱の冒険者たちだ。すぐ傍で立ち尽くしているエイトたち騎士団や、何度もヤマタニオロチに負け続けた王都の冒険者たちに比べて圧倒的にステータスが負けている。

 そんな奴らが、自分より強いやつらが勝てない相手に全力で魔法を使い続けているのだ。魔力の消費が激しいのは当然のことだった。

 むしろ、今でも額に汗一つも掻かずに魔法を唱え続けられているアイリスとファナがこの中では特殊なのだ。


「リリーナ。もうそろそろ『フリーズ』班が限界だ! 魔法を撃つ準備を整えとけ!」


 時期を誤るわけにはいかない俺は、少し早いかもしれないと思いながらもリリーナに指示を飛ばしておく。

 リリーナは集中を切らさないためか、無言のまま頷くことで俺に返事をした。

 ―――今胸を揉んだらどうなるのだろうか? 魔力が暴発したりするのだろうか? 気になるな。


「いだっ!? 何しやがんだミカ!」

「ユウマ今エッチな目をしてたからお仕置き」


 なぜがバレていた俺の思考内容。

 なに? 幼馴染って相手の考えてることがわかる特殊能力でもあるの?


「ユウマっ! 『フリーズ』班の一つが魔力切れしたのじゃ!」

「『リスント』組もそろそろ限界そうだよ~」


 俺たちがバカをやっていると、のじゃロリとルーシアが周りを見ていてくれたらしく、俺のそう教えてくれた。自分の目で確認してみても確かに二人の言う通りで『フリーズ』班が一班つぶれてしまっていた。今はアイリスが気を利かせて一人でそこの補助に入り、アイリスが抜けたところにファナの所から三人が移動した。

 でも、アイリスとファナが一人で抑えきれるかというと怪しいし、他の班もそろそろガス欠だ。


「ミカっ! 最後に一発でかいのかまして来い!」

「オッケーっ!!」


 最後の最後、珍しく着地に失敗しなかったミカが、今まで以上に膝を曲げて勢いをつけて飛び上がる。

 あっ、お尻が……。


「ゴガアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 今までで一番の叫びをヤマタニオロチがあげる。ミカの拳によって放たれた攻撃は衝撃となり、鱗が無く、剥き出しの腹に波を立てる。さらには今までみんなで頑張ってもらっていた『フリーズ』をも壊し、『リスント』組もいきなりの衝撃に手を放した。

 その結果、ミカの拳たった一つだけでヤマタニオロチは数メートルも浮かび上がった。


「今だ! リリーナ!」

「わかってるわよ!!」


 頼もしい返事とともにリリーナが杖を天に向ける。大量の魔力が杖先に集まっているのか、今までに見たことのないような輝きをリリーナの杖が放っている。それらを爆発させるようにリリーナは魔法を唱えた。


「『アースクエイク』っ!!」


 リリーナが魔法を唱えると、地面が揺れた。何が起こったのかと地面に目を向けると、地面がいきなり突起した。まるでいきなりその場に岩の塔を建てたかのように突起した地面はヤマタニオロチを目がけて突き進んでいく。

 そして、見事にヤマタニオロチを捉えた。ヤマタニオロチがさらに数メートル浮かび上がる。


「まだよっ!!」


 リリーナのその言葉通り、さらに地面が突起し始め、ヤマタニオロチを目がけて突き進んでいく。右下から、左下から、真下から、あらゆる下方面から突起した地面がヤマタニオロチを打ちのめしていく。

 空中にいるヤマタニオロチに回避の術はなく、一方的にリリーナの魔法の餌食になる。宙に浮きながら体を様々な方向に回転させてどんどんと突起した地面によって高く浮かび上がっていく。


「これで最後よ!」


 最後の魔力を振り絞ってリリーナが最後の一撃を放つ。今までで一番大きな地面の突起がヤマタニオロチを捉えた。


「や、やってやったわ……」


 数十メートルほどヤマタニオロチを浮かび上がらせたところで魔力が尽きたリリーナがその場で倒れこむ。しかし、それはつまりヤマタニオロチが宙に上がる術をなくしたということになる。そしてそれは、ヤマタニオロチ重力に従って落ちてくるということでもあり―――


「ゆ、ユウマ! 早く逃げるのじゃ! このままじゃ妾たちが潰されてしまうのじゃ!」

「そうだよ~。逃げよ~」


 同じことを言っている割には危機感が全く違う様に感じさせる二人のお嬢様を安心させるように俺は手を向ける。二人はその意味がわからずに首を傾げたが、役目を終え隣にいるミカと、未だ近くで倒れているリリーナだけは何も言わずにいた。それは、信頼の証の様にも見えて、少し嬉しかった。

 でも―――。


「やべー……どうしよう。まさかあそこまで浮かび上がるなんて想定外だ。逃げるにしたって間に合わないぞ」

「……え?」

「……は?」


 俺を信頼してくれていたらしいミカとリリーナが間抜けな声を上げる。


「ちょっとユウマ! それってどういうこと!? ちゃんとこれも想定内なんだよね!? そうなんだよね!?」

「そうよ! なんか策があるのよね?このまま潰されるなんてごめんよ!?」

「うっせーな! ちょっと黙ってろ! 今どうするか考えてんだよ!!」

「えっ!? だってさっき大丈夫だ。みたいな感じで王女様二人を手で制してたじゃん!」

「あれは考えるから待ってのポーズだ!」

「なにそれ! ユウマのバカ! アホ! オタンコナス!」

「変態! 鬼畜外道! ロリコン!」

「お前らほんと黙ってろ!!」


 こんな状況だというのに俺への悪口ばかりを口にする二人に怒鳴りつつ、冷や汗を垂らす。

 本来なら危なくない程度にヤマタニオロチを浮かび上がらせ、落下ダメージを負わせたところにアイリスのとどめの一撃、それでも無理なら全冒険者でタコ殴りという流れを想定していた俺の作戦は、見事に崩れ去った。

 それもこれも。


「自分たちがヤマタニオロチの真下にいるってこと計算に入れてなかったあああああああああああああああああああああっ!!」

「「ユウマのバカああああああああああああああああああああああああああああっ!!」」


 あまりの絶望に叫び声をあげる俺に、ミカと二人が罵りの声を上げる。お嬢様二人も声には出していないものの、『マジですか!?』みたいな顔をしている。

 だってしょうがないじゃん! そんなに時間なかったんだもん! 冒険者のみんなをどうやって集めて、どうやって焚き付けるかばかり考えてたんだもん! ヤマタニオロチの対策はこれで大丈夫だと思ってロクに考えてなかったんだもん!

 そんな俺の言い訳を世界が聞いているはずもなく、ヤマタニオロチがどんどんと落下してくる。

 マジでどうしよう……。


「おい、ミカ! どうにかあいつをキャッチできないか!?」

「無理だよ! さすがにあんなサイズのモンスターを地面につけずにキャッチとか無理! 私が先につぶれちゃうよ!!」

「くっそ! マジでどうすんだよ!!」


 どうにか絞り出した案も、まるで意味をなさなかった。

 あぁ、マジでどうすんのこれ? ユウマさん知らないよ?



「任せてください!」


 俺達五人が絶望の顔になっていく中、たった一人の頼もしい声が聞こえた。


「あ、アイリス! なんでこっちに来たんだ! 」

「言ったじゃないですか。今回は私も頑張りたいって! だから頑張りに来たんです!」

「頑張るたって、あんなやつどうするつもりなんだ? リリーナは魔力切れだし、ミカもさすがにどうしようもないらしいぞ」

「私が止めます! 止めて見せます!」


 そう意気込むアイリスが杖を空に向けた。先ほどのリリーナの杖ほど輝いているわけではないものの、かなりの光を放っている。


「ユウマさん。頑張ってって言ってもらえますか? そうしたら、もっと頑張れる気がするんです」


 こちらを向くことなく、アイリスが懇願にも似たお願いをしてくる。

 そのお願いを断る理由は、俺にはなかった。


「アイリス」

「はい」

「愛してる」

「はい……って、なに告白してるんですか!?」

「いや、これで死ぬんだとしたら告白しときたいなと思って」

「―――っ!!」


 アイリスの顔が真っ赤に染まる。他の四人の顔が引いた顔に変わる。

 でも、俺は大満足です!!


「ユウマ……」

「このロリコンは……」

「お主……」

「あらら~」


 大満足な俺でも、さすがに美少女四人にこんな顔をされると辛いものがある。だから、アイリスのお願いも叶えることにした。


「アイリス! 頼りにしてるぞ! 頑張れ!」

「は、はい! お任せください!!」


 俺の応援にアイリスが頼もしい返事をくれる。

 そして、次の瞬間、アイリスの杖先から青白い光が飛び出した。


「『アイスメイク・ブレイクニードル』!!」


 今まで聞いたこともないアイリスの魔法が放たれた。地面に紫色の巨大な魔法陣が展開し、先ほどのリリーナの魔法の時の様に地面が揺れる。それでけではなく、気のせいかもしれないが周りの気温が下がったようにも感じた。

 そして次の瞬間、氷の柱が姿を現した。

 東京タワーにも似た巨大な氷柱(つらら)が落下してくるヤマタニオロチを目がけて空間を割いていく。さっきのリリーナの魔法と違ってヤマタニオロチに向かっていくのはたった一本の氷柱だ。でも、その一本は確かな殺傷性を秘めている。さっきのリリーナの魔法は四角い柱のようなものを作り出していた。それに対してアイリスが作り出したのはたった一本とはいえ先端の尖った氷柱。攻撃力だけならアイリスの方が上のはずだ。

 それを証明するようにアイリスの作り出した巨大な塔にも似た氷柱がヤマタニオロチに突き刺さった。


「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」


 聞いたこともない大声をアイリスがあげる。その声に呼応するように氷柱はその標高を伸ばしていく。


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!!」


 アイリスの必死の攻撃。俺たちを守ろうと、自分の役目を果たそうと、そんな決意を小さな胸に秘めたアイリス渾身の一撃。そんなアイリスの全てを注ぎ込んだ攻撃が、ヤマタニオロチに確かに届いた。

 氷の氷柱がヤマタニオロチを完全に貫いた。


「グゴオオオォォォォッォォォォォォォォォ!!」


 世界を揺るがすような大きな咆哮をヤマタニオロチがあげる。そして次の瞬間、まるですべての力を使い切ったとばかりにヤマタニオロチは氷柱に突き刺さったまま項垂れた。


「や、やりまし……た」


 魔力を使い果たしたのか、アイリスがその場でふらふらと倒れこみそうになる。それを防ぐように俺はアイリスを背中から支えた。


「ゆ、ユウマさん。私、やりましたよ」

「あぁ、見てたよ。すごかった」

「ふふっ。ありがとうございます。でも、ちょっと動けそうにないです」

「いいよ。俺が運んでやるから」

「ありがとうございます。あと、ユウマさん」

「なんだ?」


 アイリスの言葉を聞く前に、背中の方からピキピキと嫌な音が聞こえて振り向く。他の四人も俺と同じ音を聞いたのか、音の音源に目を向けた。その音源はアイリスがヤマタニオロチを倒した氷の氷柱だった。

 よくみたら、少し罅が入ってるように見える。気のせいか?


「ユウマさん。あの氷柱は私の魔力でできているので、私の魔力が尽きた今はもうさっきまでの耐久力はありません」

「そ、その意味は……?」

「たぶんですけど、もうそろそろ氷柱が壊れちゃいます」

「……」


 アイリスの言葉に一瞬黙り込んだ俺は、次の瞬間アイリスを抱きかかえたまま立ち上がり、声を張る。


「総員退避ーっ!!!」


 最後までしまらない俺達だった。


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