14話
「リリーナ! 言い忘れたが、使う魔法は風魔法で頼むーっ!」
俺はアイリスの近くまで退避の完了したリリーナに大声で呼びかける。
ちなみになんでリリーナに風魔法を頼んだのかというと、俺のゲーム脳ではゴーレムやストーンマンのような岩のような魔物は基本的に風魔法に弱いというイメージがあったから。大地属性は風属性に弱い。それが俺の知っているゲームの数々の知識、ゲーム脳だ。
「ええ、わかったわー! 魔法の詠唱に少し時間がかかるからそれまでどうにかしなさいよねユウマ」
スモールゴーレムの攻撃を上手く避けていると、リリーナからそんな返事が返ってきた。
これで俺の仕事は囮をやるだけだ。
「ほーらっ! ノロマのスモールゴーレムやーい! 俺はこっちだぞー」
大声で自分の存在を主張する俺。セルフ挑発である。
「『スプラッシュ』!」
そして俺はさらに魔法でスモールゴーレムに対して攻撃を仕掛け意識をこっちに向けさせる。
俺の今回の役目はなにがなんでもスモールゴーレムをリリーナ達の方へ行かせないことだ。向こうでは一応アイリスがリリーナの護衛をしているが、正直一分も持たないだろう。つまるところ、俺がここを突破された時点で作戦は破綻する。
そんなことさせるわけにはいかない。
『スプラッシュ』の魔法を放ったからだろうか、スモールゴーレムは見事にこっちを向いてくれた。
俺はそこからさらに『逃走』スキルを利用して素早く動き回る。アイリスの敏捷力アップの魔法もかなり効果的だ。スモールゴーレムはちょこまかと動き回る俺に狙いを定め切れていない。
「『スプラッシュ』」
さらに俺はスモールゴーレムが俺を狙うのを諦めて、アイリスとリリーナの方に行かない様に隙を見ては『スプラッシュ』を放っておく。
逃げる、スプラッシュ、逃げる、スプラッシュ。
この行動の繰り返し、これはパターンに入った。
そんな慢心をしていたからだろうか、それとも日本での俺の行いにこの世界の女神ラティファ様がお怒りになられたのだろうか。
意識をスモールゴーレムに向けすぎていた俺は無様にも足元の小さな岩に躓いて転んだ。
ヤバいっ!!
急いで体を起こし、急いで視線をスモールゴーレムに向ける。
しかし……もう、遅かった。
俺の目の前には腕を降りかぶり、すでに俺に向かって拳を振り下ろすスモールゴーレムがいた。
ああ、俺の人生こんなところで終わるのか……。
思えばロクな人生じゃなかったなぁ。
中学の頃二次元にハマって、それがクラスの奴にバレていじめに合い学校を不登校になってみれば、いつの間にか外に出れなくなっていてニートとか呼ばれるようになって、そして気づいたらなんとか中学を卒業できていて、運よく高校にも入れちゃってたりして高校デビューに期待してみれば、入学式ですべてが破綻した。
母さんを散々泣かせたし、父さんにも迷惑をかけた。
美香には一番迷惑をかけたかもしれない。学校に行かないと言い張ってた俺を毎朝学校に行こうと呼びに来ては、しょぼくれて学校に行き、学校が終わったら毎日プリントを持って来てくれた。
そして暇なときには俺の部屋に勝手に入ってきて、俺のオタク話を聞いてくれた。自分の楽しい時間を削ってまで、こんな屑野郎の相手をしてくれた。
美香には本当に迷惑を掛けちまったなぁー。
……せめて、せめて今までのお礼に俺のゲーム脳を全部美香に教えてやれれば、少しはこの世界でも美香は楽して上手くやってけたかもしれないのに……。
……ああ、女神様。お願いだから美香だけは。……いや、美香とこの世界で俺といてくれた、アイリスとリリーナだけは、どうか無事でいさせてやってくれ……。
あ、今更だけどこれって走馬灯ってやつなのかな?
へえー、本当に死ぬ寸前ってこんなに色々なことが考えられたり思い出せたりするんだな。
そんな諦めムードと何殊勝なこと考えているんだ俺らしくもない、というアホな空気が俺を包み込んだ時―――
「諦めてんじゃないわよユウマーっ!!」
どこかの脳筋魔法使いの声が響いた。
「この地に住まう風の精霊たちよ、この世界を統べる精霊神の一人、風の精霊神よ、今ここに荒れ狂う風を巻き起こせ」
リリーナが杖を俺に向って拳を振り下ろすスモールゴーレムに向ける。
そして。
「『ウインドブレス』ッ!!」
魔法を唱えた。
リリーナの杖の先から二つの竜巻のような風がスモールゴーレムに向かって行く。その途中にある岩をその形通りに抉っていき、周りの小さな石を粉砕しながら、どんどんとこちらに向かってくる。
あれがリリーナの魔法。あの自信満々な態度は伊達ではなかったというわけだ。
そして、リリーナの放った風魔法がスモールゴーレムに直撃した。
「ウゴゴゴゴゴゴオオオオオオッ!」
スモールゴーレムが苦しそうな声をあげながら暴れる。あの周りの岩をいとも簡単に砕いていた腕が崩れ、俺を何度も踏みつぶそうとした巨大な足が砕け、岩の塊がどんどんと轟音と共に崩れ去っていく。
「……す、すげぇ……」
感嘆の声を呆けた顔をしながら傍観する。
そして気が付いたら、俺の目の前にいたスモールゴーレムは跡形もなくなくなっていた。リリーナの放った風魔法で木端微塵に切り刻まれたのだ。
……でも、俺はそんなことよりも……
「おいこらリリーナっ! 早く魔法を止めろ! 俺にも当たってる! かすっちゃってるよーっ! 死ぬ、マジで死ぬっ! 風に切り刻まれて死ぬとか痛そうでいやだぁっ!」
俺の間の前に未だに存在している二つの竜巻の方が問題だ。
スモールゴーレムを倒したというのに、なぜか未だにリリーナの杖の先からは二つの竜巻が出続けている。
それが俺の目の前にあるのだ。逃げようにもこの魔法の特性なのか、俺の体は自然と二つの竜巻に吸い込まれて、近くの岩にしがみ付いているのが精いっぱいだ。
その岩すらもいつ崩れるかわかったもんじゃない。
「は、早くっ! 早く魔法を止めろーっ! 俺を殺す気かっ! 俺を殺す気なのかっ! さっきスモールゴーレムの攻撃を回避させるのに『スプラッシュ』撃ったの怒ってるのかーっ!」
声の限り大声で叫ぶ。後で喉が潰れったってかまうもんか。そんなの後でアイリスに『ヒール』してもらえばいい!
そんなことよりも今は俺の命だーっ!
せっかくスモールゴーレムの攻撃を食らわずに済んだのに、仲間の魔法で死ぬとかいやだーっ!
しかし、俺とリリーナとの距離があるのと、風魔法の轟音によって俺の魂の叫びが聞こえないのか、あろうことかリリーナは……
「えー? なに、ユウマー? なんにも聞こえないわよー。もっと大きな声でお願いするわー!」
とか、いいながら―――
杖を少し横にずらした。
正確に言えば少し右に、俺の居る方に―――
「このバぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァ!!」
仲間の渾身の魔法を受けるという最低最悪の事故はあったが、俺とアイリスとリリーナは無事? にスモールゴーレムの討伐に成功した。
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「……ひどい目にあった……」
「ゆ、ユウマ。……さ、さっきは悪かったわ。悪気はなかったの。ほんとよ! だからコボルトの群れに私一人で置き去りはやめてほしいわ……」
特に何も言っていないのだが、リリーナが小刻みに震えながらそんなことを言った。
よっぽどコボルト討伐の時のトラウマが大きいのだろう。
「ユウマさん。あんまりリリーナさんを怒らないであげてください。リリーナさんもわざとやったわけじゃないんです」
アイリスも俺がリリーナに何がお仕置きをすると思い込んでいるのか、そんなことを言ってきた。
え? なに、俺ってそんな鬼畜な存在に見られてるの? リリーナにだったらいいけど、アイリスにそう思われるのは辛いんだけど……。
「いや、何もしないから。今回は俺の不注意が悪かったんだし、なんだかんだでスモールゴーレムは倒したんだから、それでいいってことにしようぜ」
二人はやたらと俺が怒っているんじゃないかと心配しているようだが、特にそんなことはない。
確かにリリーナの魔法はかなり痛かった。というよりは死を覚悟したが、なんだかんだで俺は今こうやって生きているわけだし、アイリスとリリーナの二人には怪我もなく街に帰ってきている。それだけで十分だ。
「それより二人とも、大変申し訳ないんだがもう少し早く歩けないか? その……はずかしい……」
俺はとてつもない恥ずかしさから、現在死にたい気分になっている。
さっき命拾いしたんだからそんな簡単に死ぬとか死にたいとか言うなと思われるかもしれないが、まずは俺の話を聞いてほしい。
まず、俺の体はリリーナの風魔法のおかげで全身ボロボロだ。アイリスに『ヒール』を何度か掛けてもらったが、アイリスもスモールゴーレム戦と、それまでの道のりで魔力を消費していたので、俺の体完全復活とまでは行かなかった。というよりはあんまり掛けてもらえなかった。
俺自身も魔力を思った以上に消費していたらしく、ほとんど枯渇している。今ならアイリスがこの前魔力が枯渇していた時の気持ちがわかる。
これだけならいいのだ。体の痛みに耐えるくらいは俺にだってできるし、魔力の枯渇も完全ではないので、特に問題はない。
問題なのは俺がアイリスとリリーナに肩を貸され、引きずられているこの状況だ……。
俺は現在、体が全くと言っていいほど動かない。
といっても縛られているとかではない。俺の体は全身自由だ
ならなんで俺が、女の子二人に支えられて引きずられる男、なんて羞恥プレイをしているのかというと、簡単に言えば身体が痛すぎる上に魔力がほとんど枯渇していて身体が動かないだ。
言い訳をさせてもらえば少しは動くのだ。指を少しピクピクさせてみたり、足の親指をピクピクさせることぐらいはできるのだ。でも、逆に言えばそんなことくらいしかできない。
そのため俺はスモールゴーレム戦の後ずっと、アイリスの筋力アップ魔法の掛かっているアイリスとリリーナに引きずられている。
街に入るまではよかった。人目を気にしなくていいから。
でも、街中でこれは……辛い。
流石に元ニートの俺でも辛い。
アニメやラノベでよく見る感じの、異世界で美少女と一緒に冒険して、美少女達をかっこよく守って、疲れて動けない仲間をおぶって帰る。みたいなカッコいい冒険者になりたかったのに、なんで俺がする側じゃなくされる側になってるの? ねえ、なんで?
しかもさっきから街の人たちの視線が痛い。
たまに聞こえてくる声はみんな「なにあれ、男の冒険者が女の子二人に自分を支えさせて歩かせてるわよ」やら、「ねえ見て、あんな小さな女の子に大の男が支えられてるわ」とか、「う、羨ましいぜ、俺もあんな美少女にあんなことされてみてぇ」みたいな声ばっかりだ。
……あれ? 最後のヤツなんか変なこと言ってなかったか?
まあ、そんなことよりだ。俺は早くこの羞恥プレイを終わらせたい。
「ふぁ、ふぁーい。が、頑張りますね……ユウマさん」
アイリスも相当疲れきっている。自分も魔力をかなり使っているはずだし、体力だってそんなにないのだ。そんなアイリスにこんなことをさせるのは本当に申し訳ない。
「む、無茶言うんじゃないわよ……。……こっちだって、いっぱいいっぱいよ……」
リリーナもあんな強力な魔法を放ったのだ。疲れていないはずがない。帰りの道中もほとんどリリーナに頼りきりだったし、俺やアイリス同様リリーナも魔力が底を尽きかけているはずだ。
そんな疲労困憊の今すぐにでも横になりたいくらいの疲労感の中、俺たちは笑っていた。疲れていて声には出していないが、俺もアイリスもリリーナもみんな顔が笑っていた。
スモールゴーレムをみんなで倒した達成感というやつだ。
そんな疲労感と周りからの痛い視線と戦いながら、俺たちは宿へと向かった。




