34話
「ふぁ~……ねみ」
目をこすりつつ、ようやく上り始めた太陽に顔を向ける。が、太陽の眩しさに勝てなかった俺はすぐさま太陽から目を逸らした。他人と目を合わせるのが苦手なうえに太陽からさえ目を背ける俺はいったい……。
そんなバカなことでも考えてないと、ボーっとしてしまうほど眠い。
ガチャ
そんな音が近くから聞こえる。その場所はわかりきっていて俺たちの拠点である屋敷のドアだ。ドアはそのままゆっくりと開かれていき、その中から一人の人物が姿を現した。真っ白な雪を想像させる長い髪に、透き通るほどきれいな肌、どこかだるそうにしながらも、気品の様なものが見え隠れしているその人物は誰か。
ルーシアだ。
俺はルーシアが俺を無視できないように、あえて玄関から敷地の外に出られる場所に立っている。こうすれば屋敷から敷地を出るための入り口はここ一つ。それこそ空でも飛べない限り出口は完全に塞いだ。
そう、俺は今の今までずっと屋敷の外にいたのだ。
「よお、お嬢様。どうだ、一般家庭のベッドは? お城のと違って硬いし、においもよくないし、寝心地悪かっただろ」
「ん~? ユウマ~? もしかしてお見送りに来てくれたの~? 悪いね~」
普段からだるそうにしてるからわからないが、ルーシアは眠そうにふらふらしながら目を擦りつつ、本当に眠いのか、通常運転なのか、本当にわからない状態で言った。
「違うな。俺はお前を止めに来たんだよ。ここから先に行きたいんだったら俺を倒してから行くんだな」
まさかこの名言を言える日が来るなんて……。
少し感慨に耽ってしまう。
でも、これって負けフラグみたいなもんだったような……。
「そっか~。じゃあしょうがないね~。それじゃあ遠慮なく~」
俺の言葉を真に受けたルーシアがいつの間に取り出したのか杖を構えていた、何なら既に何かの魔法の詠唱を終えているのか、杖先が光っている。
ふっ……俺もなめられたもんだ。まさか俺の専売特許の不意打ちを先に撃たれるなんてな。でも、そんなこと想定済みさ。こういう時にどう動くのが正解か、俺はよく知っている。
「すんませんでしたーーーっ!!!」
土下座である。大抵のことは土下座ですべてカバーできる。これが日本で俺が両親の気を落ち着かせるのに有効だと知ったのは中学生の頃だった。
つまりは中学生のころにはプライドなんてフライトに出ていた。早く帰ってこないかな? 来ないよな。一生。
「ユウマ~? なにそれ~? なんで地面に頭をこすりつけてるの~?」
「これはな、俺が元々住んでいたところでの一番の謝罪の仕方だ」
「えっと~。それじゃあユウマは~ごめんなさいしてるの~?」
「そうです!」
自分と同い年か、少し年上の女の子の前で恥ずかしげもなく土下座をして、プライドも何もなく本気で頭を下げ、しかもそれを自信満々に肯定している冒険者がいるそうな。
―――俺でした。
「それじゃあそこどいてくれる~? ユウマが大きな声出したりしたから~みんなが起きちゃったかもしれないし~。早く行かないと~」
ゆっくりと杖を構えたままこちらに向かってきてルーシアは言った。脅してるつもりはないんだろうけど、杖を構えている時点で俺としてはもうガクブルです。
「悪いけど、それはできないな。それに、その言葉は少し遅かったみたいだぜ」
恰好のいいセリフを言っているが、俺はまだ土下座中だ。せっかくのかっこいいセリフもこれじゃあ台無しである。俺って本当にかっこつかねぇ……。
「どういう……」
どういうこと~? と、言おうとしたのだろう。しかし、その言葉は玄関から出てきた二人組の大声によってかき消された。ナイスタイミングだっ!! 脳筋コンビ!!
「ちょっとユウマ! どういうことなのかしら!! 私たち昨日アイリスたちにばれないように屋敷を出るって言ったわよね! なのになんで朝から大声出してくれてんのよ! アイリスたちが目を覚ましちゃったらどうすんのよ!」
「そうだよユウマ! 確かにユウマは人の嫌がることを率先してやるクズだけど、まさかここまでとは思わなかったよ!!」
酷い言われようである。ミカに至ってはただの悪口だ。なんだよ、人の嫌がることを率先してやるクズって。俺はそこまでクズじゃねえよ! まず、優先順位的に自分の利益より面倒さが勝ることはやらねえし。それにまさかここまでってなんだ!!
あと、お前らの声の方がデカいんだよ! アイリス起きちゃうだろ!!
「うっせーっ! 脳筋コンビは黙ってろ! 俺にだって色々あるんだよ!!」
脳筋コンビにいいように言われるのは癪なのでせめてもの抵抗を試みる。しかし、俺の抵抗もどこ吹く風な様子の二人。それどころか少し冷めた視線すら感じる。この季節だし、外が寒いのが原因だろうか?
「ツッコムまいと思ってたけど、限界だから言うね。ユウマ……なんで土下座してるの?」
「ミカ、ユウマの行動に理由なんて求めちゃだめよ。あれは、これから王都に出向く私たちに敬意を示してるの。そう思うことにしましょ。それがお互いのためだわ」
「おいこらふざけんな! 誰がお前らなんかに敬意を表するんだよ! そんなことするくらいならセクハラでもして警察のお縄になるわ!」
「ねえユウマ! そこは普通舌噛んで死ぬわ! とかだよね!? なのになんで自分の欲望を満たそうとしてるの!?」
わかってはいたよ。目を背けてただけだって自分でもわかってたさ。そりゃあ目の前で知り合いが土下座してたら、こんな冷めた視線を送ってもおかしくない。俺だって似たような反応をするだろうよ。
こんな感じに、朝だというのに、やたらと元気な幼馴染のツッコミをもらったころ、さらに玄関から二人の女の子が姿をのぞかせた。
「役者はそろったな」
ちょっとカッコつけたかったので、それっぽいセリフ言いながら土下座をやめてかっこよく立ち上がる。ズボンに付いた砂埃を落とすのも、もちろん忘れない。
出てきたのはもちろん、のじゃロリとアイリスだ。どちらのパジャマ姿も可愛くて、昨日の疲れが一瞬のうちに吹っ飛んでいく。
俺はやっぱりロリコンなのかもしれない。もうロリコンでいいや。
「騒いでいたようじゃが、なにかあったのかの?」
「みなさん、こんな朝早くから何をやっているんですか?」
玄関から姿をのぞかせるなり、全員集合している俺たち見て二人が目を丸くする。ただでさえ可愛いおめめがさらにかわいくなった。しかも二人分。
そんな二人に俺は事情を説明するでもなく、指示を飛ばす。
「おう、二人ともおはようさん。ところで、起きてばかりのところ悪いんだが、今日は朝から全員参加の急用があるんだ。だから着替えてきてくれるか?」
「急用ですか? えっと、戦闘の準備をしてこればいいのでしょうか?」
アイリスがリリーナとミカを見やって、戦闘の準備だとすぐに判断する。俺はそれを肯定するように首を一つ縦に振った。
「わかりました。事情はよく分かりませんが、すぐに用意してきますね!」
そう言うとアイリスは意気揚々と笑顔で自分の部屋へと戻っていく。
「妾も事情はわからんがユウマがそういうのなら従うことにするかの」
「のじゃロリはいつもの格好でいいからな。戦闘服とかじゃなくていいぞ」
俺の言葉に「わかったのじゃ!」と返しながら、のじゃロリもアイリスに続いて自室に戻っていく。今ここにいるメンバーが最初のメンバーに戻った。
「ちょっとユウマ! 何してくれてるわけ!?」
「そうだよユウマ! 話が違うじゃん!」
「そうだそうだ~」
やたらと好戦的なうちのパーティーメンバーに混ざって、眠そうなお嬢様が俺の行動に対して抗議してくる。そりゃあそうだ。昨日言われたことをことごとく破ってやったわけだからな。俺がやられたって同じ反応をするだろうよ。
でも、今の俺は強気だ。スーパーハイテンションだ。深夜テンションが持続しているだけともいえる。ただ、寝てないだけなんですけどね。はい。
「一つ言っておく。俺はひどく怒っています」
なにかの英文翻訳みたいに俺が本気で怒ってますアピールをすると、三人が一瞬だけひるんだ。でも、それも本当に一瞬。
自分たちの方が優勢だと考え直したのだろう。だから口を開かれる前に言いたいことを言ってやろうと、とりあえず口任せに喋ってしまうことにする。
「みんなして好き勝手言いやがって、俺だって怒るときは怒るんだ! なにがユウマたちはお嬢様たちを連れて帰ってくれだ。なにが王都のお嬢様だから守りに帰らなきゃだ。なにが私たちならできることがあるだ。好き放題言うのもいい加減にしろってんだ!!」
驚く三人の態度なんて無視をして、俺は思いのたけをぶちまける。今までさんざん我慢してやったんだ。ここらで少し憂さ晴らしさせてもらうぞ。
「みんなしてこっちが困るようなことばかり言いやがって、こっちの身にもなって見ろってんだ。のじゃロリもアイリスもどうにかならないのかって目でこっちを見てくるし、ミカは昨日お通夜状態だし、リリーナも顔には出さないけど落ち込んでるし、ルーシアは眠そうだし!」
「それはいつもだよ~?」
「おだまんなさい!!」
一国の王女様に対して言っていい言葉ではない言葉でツッコんでようやく少し気分が落ち着いてきた。
「とにかくだ。俺は怒っています。みんなが変に俺に期待して、そのくせ最後の最後は頼らなくて、しまいにゃ好き勝手言って屋敷を出て行こうとする。本当に腹が立ってしょうがない。だから、俺も好き勝手やらせてもらうことにした!」
意気揚々と宣言する。そんな俺を三人は呆然としてみていた。
その視線にだんだんと耐えきれなくなってきたころ、街の中に大きな音が響き渡る。サイレンだ。
「緊急事態です!! 今すぐこの街にいる冒険者はギルドに集まってください! もう一度繰り返します!!」
いつもクエストを受ける際にお世話になっているロリ巨乳ちゃんの声が町中に響き渡る。今の時刻は朝の六時。朝が早い者たちがどうにか起きてくるような時刻だ。大抵の人はまだ眠っているだろう。そんな時間に、この甲高いサイレン。緊急事態とはいえ、迷惑なことこの上ないだろう。いつもの俺だったら寝てて気づかなかったとかいう言い訳を用意して、耳栓をして二度寝にしゃれ込むだろう。
それほど迷惑な音を響かせるサイレンの音を聞いて着替えに行っていたアイリスとのじゃロリが飛び出してくる。
「ユウマさん! このサイレンは!!」
「ユウマ、これは一体どういうことなのじゃ!!」
二人に勢いよく迫られながらも、俺は不敵に笑う。
そして、この場にいる全員に聞こえるように言ってやった。
「俺が好き放題やってやった結果だ。やるからには全力でみんなを巻き込んでやる」
とても物語の主人公の顔とは思えない顔をしている自覚がありました。まる。




