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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第六章
146/192

33話

「ったく、あれだけ違うって言っておいたのに、どうなってんだこの街の連中は!」


 どうにか憲兵に事情を説明した俺は、とりあえず王都の方へ連絡を取って確認を取るから逃げるなよ? なんて脅し文句を言われながらもどうにか開放された。

 にしても、魔王幹部を倒し、オークの大群からこの街を救った英雄に対する対応が雑すぎやしないかこの街。敬われるのもそれはそれで嫌だが。なんにも思われないのもそれはそれで嫌だ。


「おいおい……誰か死んだのかよ……」


 みんなが集まっている居間に戻ると、リリーナとルーシア以外の全員が落ち込んだように暗い顔をしていた。ようやく腰を落ち着けられたからか、のじゃロリも落ち込みモードに戻っている。

 完全にお通夜状態だ。


「これはしばらくはこの状況を覚悟しなくちゃダメか……」


 さすがにこの状況で、気にするなだとか、大丈夫だなんて無責任なことは言えない。俺にだってそれくらいの頭はあるのだ。だから俺は逃げるようにキッチンに向かい、冷蔵庫に残っていたもので適当な食べ物を用意する。

 ついでも簡単なお菓子も作っておいてやることにした。

 全く、ニートを働かせるとか美少女最強かよ。


「のぉユウマ……」

「うおっ!? のじゃロリか! どうしたんだ?」


 キッチンで包丁でこぎみよい音を立てていると、のじゃロリが背後から話しかけてきた。これが夜だったら俺は包丁を振り回しながら振り返っていたかもしれない。本当に危なかった。


「無茶なことは承知で聞くのじゃが……。王都の現状、ユウマにもどうにでも出来ぬのか……?」


 こんな状況でもなければ俺は適当におちゃらけて返事をしただろう。俺は最弱冒険者だぜ? 始まりの街のパーティーに無茶言うなよ。ニートは家から出ないのが基本スタイルなの。そんな言葉を吐いていたと思う。

 でも、さすがにこんな顔をしている美少女にそんな言葉を投げかけることは俺にはできなかった。


「絶対に無理とは言えない……。でも、限りなく無理には近いっていうのが俺の見解だな」


 だから俺らしくもなく正直に面白味もない返事をした。

 俺の言葉にのじゃロリは怒りもせず、今以上の悲しみも見せず、ただただ淡泊に「そうか……それはすまなかったの」などと言った。

 だからそういう顔やめろって。俺は確かに美少女の泣き顔に萌えたりできるが、こんなのは専門外だ。

 なんて言葉をかけるべきなのか俺が悩んでいると、のじゃロリは何も言わずに居間に戻っていった。


「……どうしろってんだよ」




 こんなことがあってからもお通夜状態は続き、俺がせっかくおいしい手料理を振る舞い、お菓子まで出してやったというのに女子たちの表情は一向に明るくならない。


「そんなこんなで夜になってしまった……」


 居間にいるのがいたたまれなくなった俺は、久々に自室でゆっくりしたいなどと適当なことを言って、屋敷の自室に逃げ込んだ。全部を投げ出すようにベッドに身を投げ出すと王都で借りていた部屋のベッドより固くて、妙に寝心地が悪い。

 たった一週間いいベッドに寝ていただけなのに、あのベッドがそこまで人をダメにしてしまうものだったなんて知らなかった。


 コンコン。


 王都のベッドに思いを馳せていると、部屋のドアがノックされた。ノックをしてくるということはアイリスか、のじゃロリか、ルーシアだ。リリーナもミカも絶対に俺の部屋にノックなんてしない。いつも俺の返事も待たず、それどころか何も言わずにズケズケと入ってくる。

 もし俺がナニに勤しんでたらどうするつもりなんだと一度説教したい。


「だれだ? カギならかかってないから勝手に入っていいぞ」


 今は特に何かの作業をしているわけでもなく、ただボーっと窓から夜空を眺めているだけだ。別段人と話したくないような気分でもない。部屋に入れない理由はなかった。


「こんばんわ~」

「おっ? ルーシアか? どうした? もしかして部屋がどこかわかんなかったか?」


 元ロレンスのものであるこの屋敷は、俺たち四人が各自自室を持ってもゆうに部屋が余っている。だからルーシアとのじゃロリにも部屋を貸し与えた。王都の城に比べればこの屋敷も小さいが一般家庭にしては広すぎるくらいだし、口頭の説明だけじゃわからなくてもしょうがない。


「ううん~。ちがうよ~。少し話があってきたの~」

「俺に話? まぁ、別にいいけど。それならここ座れよ。座布団とかクッションなんて気の利いたもんなんてないけど」


 この部屋にはお城には当たり前にあったようなものは何もない。座布団なんてないし、ふかふかなクッションもないし、座り心地の良い椅子もない。だから俺はせめてこの部屋の中でもマシな方である俺のベッドに腰掛けるように勧めた。

 決してやましい思いがあったわけじゃない。……ほんとだぞ!!


「それでなんなんだ、俺に話って? もしかして愛の告白か?」

「んーん~。ちがうよ~」


 場を和ませるために言ったから別にいいんだけど、こうも無反応というか、いつもと変わらない反応をされると、本気で脈がないみたいで傷つくな……。


「あのね~。王都のことは気にしないでって言いに来たの~」

「王都のこと? ヤマタニオロチのことか?」

「そうそう~。ほら~、ミカさんとアイリスちゃんはすごく気にしちゃってるみたいだし~、リリーナさんも顔には出さないけど気にしてるしさ~。ユウマも気にしてるんだろうなって思って~」


 ミカとアイリスは目に見えて落ち込んでるから普通だと思うが、まさかそんなに関係の深くもないルーシアがリリーナが王都の一件を気にしてること気づいてるとは思わなかった。

 それに、まさか俺にまで気を遣いに来るなんて。これが上に立つ者の威厳みたいなやつなのか。


「悪いけど、俺はアイリスやミカほど繊細な人間じゃないからな。そこまで気にしてないよ。リリーナだってそういう大人の事情みたいなのには理解があるし、少しすればいつもの調子に戻るよ。ありがとな、自分たちが一番辛いのに気を遣わせちゃってさ」

「そんなことないよ~。元はといえばこっちの責任だもん、ユウマたちが気にする方がおかしいんだよ~」


 語尾が間延びしているせいで真剣みにかけるが、表情はいつもより少し強張っているように見える。のじゃロリとは結構会話をしてきたし、表情に出やすいから色々とわかりやすいが、ルーシアは基本的に近くにいるだけで寝ているだけだったし、表情もいつものほほんとしてるから考えていることがわかり辛い。

 こういっちゃなんだが、俺にはルーシアがどうしてここまで冷静なのか理解ができなかった。


「あとさ~ユウマ~」

「ん? なんだ? 今度こそ愛の告白か?」

「ちょっと違うかな~。告白は告白かもしれないけど~、そこに愛はないよ~。ユウマのことは好きだけどね~」


 最後の、ユウマのことは好きだけどね~。に、内心すごくドキリとしました。まる。


「それじゃなんの告白なんだ?」

「えっとね~。ユウマ達には悪いんだけど~。やっぱり私は王都に帰ろうかなって思うんだ~」

「いきなりだな。いや……当然っちゃ当然の行動か」

「ほら~。私とルリちゃんは王家の血筋を残すためにって逃がされたけど~。私だって一応は王家のお嬢様だし~、やる時くらいはやらないとだめかなー、って思って~。普段がこんなだから信用してもらえるかわからないけどさ~」


 なんてことないようにルーシアが言う。

 その喋り方は日常会話をしているような雰囲気だった。


「とにかくそういうわけだから、明日の朝私がいなくなっても驚かないでね~。それと、このこと誰にも言わないでね~。あと~、ルリちゃんのこともよろしく~」

「あっ! おい! ちょっと待て!」

「おやすみ~。ふぁあ~」


 俺の制止の言葉も無視してルーシアは欠伸をしながら部屋を出て行った。


 コンコン。


 ルーシアを追いかけようかと悩んでいると、また部屋のドアがノックされた。


「入っていいぞ」


 今日は来客が多いな。なんて思いながら、もう誰でもよかったのでロクに確認もせずに入っていいと言った。

 中に入ってきたのはリリーナとミカだ。


「おっ? ミカ、なんか少し元気になってるな。何かいいことでもあったか?」


 さっきまでのルーシアとの会話が尾を引いていた俺はそれを気取られないように少しおどけて見せる。しかし、俺のそんな態度に二人は顔色一つ変えずに決意に満ちたような目で俺を見ている。

 嫌な予感がしてきた。


「ユウマ。私たち、明日の朝一番に王都に行ってくるわ」

「……ヤマタニオロチをどうにかしに行くのか」

「うん、そうだよ。ユウマとアイリスちゃんは歯が立たないかもしれないけど、私とリリーナはやっぱり少しは役に立てると思うの。だから、私たちだけでもってリリーナが提案してくれたんだ」


 なるほど。リリーナがイニティに帰れと言われてからやけに言葉数が少なくなってたのはそれが原因か。こいつなりに色々と考えてたわけだ。


「勝算はあるのか?」

「ないわ」


 俺の質問に自信満々に答えるリリーナ。相変わらず大きな胸を張っていらっしゃる。


「俺がそれを許可すると思うか?」

「思わないよ。なんだかんだ言ってユウマは優しいもん。意地でも汚い手を使って私たちを止めると思う」

「よくわかってるじゃないか。さすが幼馴染だな」


 こういうこともよくわかっている幼馴染のミカが言う。リリーナだって結構な付き合いだ。俺の考えくらいは読めているだろう。こいつは変なところで頭も回るしな。

 それをわかった上で二人はここにやってきたのだ。


「……好きにしろよ。どうせ俺が全力出したってお前たち二人が全力出したらかなわないんだ。それがわかってるから何もしねえよ。でも、俺は絶対に行かないからな。わざわざ死にに行くなんて俺はごめんだ」


 わざわざ勝てない戦に行くのはバカのすることだ。ここは理想とは少し違うけど異世界。剣があって、魔法があって、スキルがあって、日本で憧れてた夢があって、それをやっと俺は手に入れたんだ。借金ができたり、街の人間に鬼畜だの外道だの言われてはいるけど、なんだかんだ楽しくやれている。

 その生活はむざむざ捨てるほど俺もバカじゃない。俺は利口だ。ずる賢い男だ。


「別にそこまで言うつもりはないわ。むしろユウマにはアイリスを引き留める役や、ルーシアやルリの面倒を見てもらった方がいいもの」

「そうそう。いつもユウマも言ってるじゃん。適材適所だよ」

「そうか、話が早くて助かるな」


 この短い時間で俺の反応を予想し、会話をシミュレートしてきたのだろう。話に迷いがない。


「それじゃあ私たちは明日に備えてもう寝るわね。わかってると思うけど、このことをアイリスやルリたちに言ったらだめよ。絶対に止めに来るわ」

「そうだよ。ユウマは美少女に迫られると簡単に口を開いちゃうからね」

「当たり前だろ。美少女は正義なんだから優しい俺が正義の味方に味方するのは当然だ」

「よくもそんなことを真顔で言えるわね……。今までの自分の行いを忘れたのかしら」


 呆れた視線を俺に送りながら、どこか楽しそうに笑うリリーナ。

 そして二人はこれが最後の挨拶だとでもいう様に丁寧なあいさつをして部屋から出て行った。


「……くそ。くそくそくそっ!!」


 ベッドに横になり、枕を思いっきり何度もたたきつける。単なる八つ当たりだ。

 この年にもなって、自分の思い通りに物事が動かないからと八つ当たりをしている。まるで小さな子供だ。おもちゃを買ってもらえずにデパートで暴れるお子様だ。


「どいつもこいつも好き勝手言いやがって! なにが明日の朝いちばんい屋敷を出ていくだ! なにが私たちなら少しは役に立てるだ! ふざけんな!!」


 さっきから好き勝手言ってくれた連中に腹を立てる。あれだけ好き放題言われれば俺だって頭にくる。腸だって煮えくり返る。


「見てろよこのやろー。俺が人の言うことを大人しく聞くだけの人間じゃないってところを見せてやる。指示待ちなんてまっぴらごめんだ! ニートなめんなよ! 自分の安息の地を守ることに至っては誰よりも優秀なんだぞ!」


 俺はそんな言葉を口にして、夜も深まった街に繰り出した。

 目的地も、やることも決まってる。後は野となれ山となれだ。なるようになる。

 いつも通りに、口先とずる賢いと評判の頭をフルで使ってやるぜ!!

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