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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第六章
143/192

30話

 ミカがブチギレて冒険者たちのリーダーをボコボコにしてから早一週間。

 俺たちは毎日のようにヤマタニオロチの討伐に駆り出されては、頭がダイヤモンドか何かでできてるんじゃないかと俺たちの間で話題の、冒険者たちのリーダーに手を焼いていた。


 一日目。


「なぁ、もうさすがにあんただってわかるだろ。昨日と同じようになりたくなきゃおとなしく撤退を指示してくれ」

「うるさい! もうお前たちとは会話もしたくない! どこかに行ってくれ!」

「仕方ない……『ボルト』」

「あががががががががっ」


 二日目。


「おい、もう俺の言いたいことはわかってんだろ? 早く撤退の指示を」

「お前たちと交わす言葉なんてない!」

「悪い、手が滑った」

「な、なにをする! あ、目の前にヤマタニオロチの炎をがっ! うわああああああああぁっ」


 三日目。


「……もういい加減わかれよ」

「……」

「無視か……」


 少し離れたところで『潜伏』スキルを使い、後ろから鈍器で頭を殴った。


 四日目。


「もうめんどいから話に行かなくていいや」


 少し離れたところから『狙撃』スキルでこんな時のために作っておいたパチンコで石を飛ばした。


 五日目。


「たまには休んだらどうだ? 日に日にケガが増えてってるぞ?」

「誰のせいだと……!」

「『スリープ』」


 もうそろそろ手がなくなってきたので、お城の魔法使いにセツコさんとエイトから口添えしてもらって教えてもらった『スリープ』で振り向きざまに眠らせた。


 六日目。


「……すまなかった。もう来なくても討伐後の賞金分配の際には君たちも参加したことにしてもらうし、今日も何もしないならいくらかお金は払うから何もしないでくれ……頼む」

「そうか。いくらだ?」

「これでどうだろうか?」

「うん、いいぞ。俺たち貧乏だから助かる。それじゃあ今日も帰ろうな。アイリス、頼む」

「ご、ごめんなさい! 『フリーズ』」


 リーダーを全身氷漬けにして持って帰った。

 こんな感じに日々は過ぎて行き、今日でもう七日目だ。



「さすがにもう面倒になってきたな……」

「ユウマじゃないけど、確かにああも言うこと聞かないとね……。一日目でユウマが渋った理由がわかったよ」

「そうですね……私もまさかあそこまで話を聞いてもらえないとは思いませんでした……」


 結局六日間もの間、あのリーダーは俺たちに怯えるようにはなったが、俺たちの言うことを聞いてくれる気配はなかった。

 そんなリーダーの無能っぷりにさすがにミカもアイリスも参っているようだった。それは俺も同じではあるが。


「ねぇねぇ、ユウマ。今日もヤマタニオロチのところに行くのよね! まだなのかしら!! 」


 俺たち三人が疲労困憊している中、唯一元気なリリーナに俺はふかふかなソファーに身を埋めながら視線だけを向ける。


「なんでお前はそんなに元気なんだよ……」

「そりゃあ元気にもなるわよ! 毎日ああも魔法が撃てるのよ! 確かに倒せないのは悔しいけど、それ以上の達成感があるわ。あれを倒したときに私はまた大魔法使いに近づくんだもの!」

「そですか」


 恋に恋する乙女の様な目でリリーナが楽しそうに語る。生憎このバカを相手できる元気のない俺は適当な返事を返し、これ以上は放っておいてほしいとばかりにリリーナに背中を向ける。

 あぁ、ソファーやわらけー。


「ちょっと! なんでそっち向いちゃうのよ!」

「あのなぁ、俺たちのことを見てみろよ。俺もミカもアイリスもあの無能リーダーに手を焼かされて疲れてんだよ。今日はまだ討伐に向かうなんて話は来てないし、こういう時くらい休ませてくれ」

「何言ってるのよユウマ! 確かに無能かもしれないけど、あいつが無能なおかげで私はこんなに楽しめてるのよ? これが前にユウマが言ってたウィンウィンってやつなんじゃないの?」

「確かにお前の中ではそうなのかもしれないけど、俺たちにとってはどっちも損しかしてないんだよ。てか、毎日歩けなくなるほど魔法撃っといてなんでそんなに元気なんだ」


 この数日、リリーナはヤマタニオロチからの撤退の際に俺に背負われて撤退している。アイリスに適宜に筋力増強魔法である『アグレッシオ』を掛けてもらって俺がリリーナを背負い、ミカとセツコさんかエイトが何かあった際に俺を守る。そういう感じで撤退をしてきた。


「愚問ね。私にとって苦痛なのは魔法が撃てないことよ? つまり、動けなくなるほど魔法が撃てるここ最近の毎日は私にとって幸せ以外の何物でもないわ」

「マジかよ……」


 毎日自分の体を限界まで鍛え上げてるスポーツマンとかと似たような感じなのかね。などと、どうでもいいことを思ってしまった俺。


「ともかく今日はこのまま何も連絡がなければ休みだ。各自王都から外に出ない範囲で自由行動。異議はないな」

「なーい」

「ありません……」

「あるわ!」

「よしっ。満場一致ということで解散ー」

「ちょっと! 満場一致じゃないでしょ!」


 アイリスとミカが俺に賛成してくれている以上俺に怖いものはない。だから俺はリリーナに「諦めろ」と一言だけ言って、未だにキーキーと騒いでいるリリーナを無視してもう一度ソファーに抱かれに行った。

 ごめんな布団。俺の体はもうこのソファーのものなんだ。


「ユウマいるかい?」


 暖かく、そして柔らかく俺を包み込んでいくれるソファーに身を委ねているとエイトとセツコさんが入ってきた。


「おう、いるぞー」


 もはや動くことすらめんどくさいとばかりに俺はエイトたちに背を向けたまま、ソファーから起き上がることもなく小さく手を挙げて答える。

 いつもエイト様エイト様言っているミカも今日はさすがに元気がないのか、おとなしい様だ。声が聞こえてこないからな。アイリスもたぶんさっきまでの様にソファーに上半身を預けて、ダラダラとしている猫の様な姿勢になっている事だろう。

 あぁ、動画に残してぇ。誰か撮ってくれないかなー


「お疲れのところ悪いんだけど、今日も行くみたいなんだ。頼めるかい?」

「私からもお願いする。ユウマ殿たちが私とエイトの様に交代制でないから大変なのはわかってはいるんだが、こんなことを私たちが頼めるのはユウマ殿たちだけなのだ」


 いつもの俺ならセツコさんのセリフに嬉しくなって調子に乗ることだろう。「任せて下さい! セツコさんのお願いなら何でも聞きます! たとえ火の中水の中草の中森の中、あの子のスカートの中にだって行きますよ!」なんて言っていたに違いない。

 でも、そろそろ俺だって限界である。毎日毎日命を懸けた冒険に片道二時間も掛けて出向き、頭がこの世のありとあらゆる硬いものでできているとしか思えないリーダーを強引に説得(口でとは言ってない)を行い。疲れ果てたリリーナを背負って帰って来る。

 こんな生活もううんざりだ。この生活良いところなんて毎日背中にリリーナのおっぱいの感触を味わえることくらいだ。割に合わない。


「マジかー……」

「もう動きたくなーい」

「申し訳ないですけど、私もたまにはゆっくりしたいです……」


 エイトたちには悪いが俺とミカとアイリスはもう色々と限界だ。いつもはなんだかんだ言ってめんどくさがる俺を三人が無理やり引っ張っていくというスタンスなのに、今日は俺の味方がいる。こんなに頼もしいことはない。


「そ、そうですか……」

「仕方ないよセツコさん。確かに毎日王都の冒険者たちに嫌われながらリーダーを説得するのは精神的にもつらいはずだし」


 いや、そこはそうでもないです。説得言っても毎日強引に力技でねじ伏せてるだけだし。それに昨日はお金ももらったし、その点だけなら毎日でもいいです。


「ユウマ、なにわがまま言ってんのよ。子供じゃないんだから二人に迷惑かけてんじゃないわよ」

「毎日俺に迷惑をかけてるお前がそれを言うのか。鏡の前でもう一度そのセリフ言って来い。それで自分の最近の行動を見つめ返せ」

「わかったわよ。私はユウマみたいに我儘じゃないからやるわよ。でも、それは帰ってからでもいいわよね? だから行きましょ」

「おいこら、何詐欺師みたいなこと言ってんだ。ぜってーやらないだろ。あと、俺の言ってることがわがままだってんならお前が言ってるのもわがままだからな」


 いい加減本気で面倒になってきたリリーナとのやり取りにうんざりしながらも、俺はミカとアイリスに視線をやる。やっぱり二人とも椅子やらベッドやらに身を委ねてだるそうにしていた。


「でもユウマさん。私たちが行かないと冒険者の皆さんはどうなるんでしょうか?」

「……まあ、少なくとも今までより被害が拡大するだろうな。全滅まではないとは思うが……」


 アイリスの言葉に、言葉の最後が尻すぼみになりながら返事をする。

 だって、絶対とは言い切れないし。


「むー……。行くのはもうヤだけど、そう考えると行かざる負えないよね……。私たちが行かなかったせいで他の人が傷ついたり、死んじゃったりしたら嫌だもん」

「確かにそうだが……」


 アイリスの言葉を聞いてミカも少し不安になったのか、そんな弱音を口にした。

 いつもならあの手この手で言いくるめる俺もさすがに言葉に詰まる。そんな顔をしていたからだろうか。ミカとアイリスが仕方ないけど行くしかない。と言いたそうな顔で俺を見ている。

 俺一人なら全力で断るところだが、二人に罪悪感を植え付けるのも嫌な話だ。俺は重たい体を起こし、重たい口を開く。


「はぁ~……仕方ない。とりあえず今日も行くぞ。ただ今日は俺たちも色々とやってみよう。あいつらに任せてたらそれこそきりがない」

「色々やるって、私たちにできることなんてあるの?」

「いつもみたいに支援魔法をかけるとかですか?」

「いや違う。いつもみたいなサポートなんてもうたくさんだ。今日からは討伐する気で動くぞ」

「さっすがユウマ! わかってるじゃない! いつもみたいに汚いやり方でも何でもいいから私に魔法を撃たせてちょうだい!」

「お前は喧嘩撃ってんのか! 今日動けなくなったらお前のことおいてくからな! せいぜい俺たちが安全圏に逃げるまで囮にでもなってろ!」

「ちょ!? それはおかしいじゃないの!?」


 結局行くことになってしまったが、もう言ってしまった以上言葉は取り消せない。リリーナはあの調子だし、エイトとセツコさんもほっとしたような顔をしているし、疲れた顔をしているアイリスとミカも、なぜか優しい顔で俺を見ている。

 全く、俺の周りは何でもこうもお人よしが多いかね。


「作戦は行きながら考える。とりあえず置いてかれないように急いで準備するぞ」


 俺は仲間たちにそう指示をしてから、借り物の自室にあるベッドに飛び込み限界までダラダラとした。




「やっぱり今日もいつもと同じ作戦か……。あいつには学ぶって言葉が辞書に載ってないのかよ。脳筋戦法にもほどがあるぞ。うちの魔法使いだってもう少しはまともな頭を……持ってるよな?」

「なんで私の方を見るのよ!」


 ヤマタニオロチと七日目の再開を果たした俺たちは前線には参加せずにいつものように後ろの方で戦況を見定めていた。いつもと違うことがあるとすれば、今日はアイリスもリリーナも前線に向かわせていないことだろうか。


「それでユウマ。作戦は行きながら考えるとか言ってたけど、なにかいい案は思いついたの?」

「あぁ、とりあえず使えそうな案をいくつか考えておいた。伊達に毎日あいつを見てるわけじゃないしな」


 毎日嫌というほどヤマタニオロチと冒険者たちの戦闘を見ていれば、ああすればいいのにだとか、こうすればもっと楽なのにとか、思うところはいっぱいあった。今日はそれらの中から少人数でも出来そうなことだけをピックアップしておいた。


「さすがユウマさんですね。期待してます!」

「おう、といってもほとんど他人だよりだから、どちらかというと頑張るのはアイリスたちの方だ。悪いけど頑張ってくれな」

「はい! ユウマさんのお役に立てるように頑張ります!」


 さすがはアイリスの癒し笑顔だ。少しだけやる気も出てくる。


「微力ながら私もできることがあるならお手伝いします」

「僕もセツコさんと同じだよユウマ。僕らにもできることがあるなら言ってくれ」


 アイリスに続いてエイトとセツコさんも協力を申し出てくれた。今日はあんな俺たちの様子を見たからか、二人とも同行している。俺たちの負担を少しでも減らそうとしてくれているのが目に見えてわかった。


「もちろん二人にも協力してもらうつもりだよ。つっても、無茶はしないつもりだから無理はしないでな。三人もだぞ」


 念のためにこっぱずかしい言葉を気にしていない風を装いながら口にし、恥ずかしさが勝って顔に出る前にそっぽを向く。


「ユウマは素直じゃないなー。でも、そんなユウマがユウマらしいんだよねー」


 いつも通り幼馴染特有のテレパシーにも似た何かで俺の考えを見抜いたミカがからかうように笑っている。ただ、ここでムキになるとミカの言葉を肯定していることになるので俺はとっとと話題を切り替えることにした。


「うっせー。さっさと行くぞ!」

「行くぞってどこに?」

「ん」


 俺はヤマタニオロチを指差した。


「あいつの懐だ」



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