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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第六章
142/192

29話

 次の日。

 なんでも早朝からヤマタニオロチ討伐会議なるものがギルドで開かれたらしく、王都の冒険者たちは今日の午後に早速討伐に向かうらしい。正直言って撤退タイミングを計って冒険者たちに言うことを聞かせるのは面倒なので今日はどうにかしてもらいたい。


「てーわけだから俺たちも午後から一緒に行くぞ。面倒だけど、引き受けちまったからな」

「ふふん。まぁ、そんなめんどくさそうな顔をするのも今日までよユウマ。なんか今日の私はすごく調子がいいの。ヤマタチオロチの余裕に違いないわ!」


 隠すことなく面倒な顔をする俺に、なぜか自信満々のリリーナ。

 って、こいつが自信ないところなんて見たことないな。


「今日はエイトではなく、私が同行させてもらいます。よろしくお願いしますね。ユウマ殿」

「こちらこそよろしくです。あと……護衛よろしくお願いします」


 なんとも情けない発言をしつつ、情けない態度で頭を軽く下げる。

 俺に情けなくない時になんてあったっけ? いや、あったはずだ。あるに違いない。


「でも、昨日の今日で大丈夫なんでしょうか? けが人も結構いましたし、いい作戦もそう簡単には出ないと思うんですけど」

「だよねー。正直昨日と同じ戦法で言っても同じ結果どころか、ムキになって被害が悪化しそう……」


 アイリスとミカがもっともなことを口にする。

 本当のところ、俺も二人の言っていることが一番の不安材料だ。あのリーダーは頭が固そうだったし、融通も聞かなそうだった。ミカの言う通り「作戦は良かった。でも、初めてのことだったから対応が遅れた」なんてもっともらしい理由を掲げて昨日と同じ戦法を取るんじゃないかと思っている。


「うーん……。けが人は最低限に抑えられたし、大けがした人もいなかったから魔法でどうにかなるとして、戦法の方はあのリーダーの腕を信じるしかないだろ。伊達に王都で冒険者やってるわけじゃないだろうしな」


 とりあえずみんなを安心させるためにもそれらしい言葉を吐いておく。これっぽっちも今言ったようなことを思ってないが。


「無理なんじゃないかしら? あのリーダーの頭、鉄より固そうだったわよ?」


 俺はリリーナの頭に拳骨を落とした。


「な、なにするのよユウマ!! 痛いじゃないの!!」

「なにするのはこっちのセリフだ!! お前は俺のフォローをどうして無駄にするんだよ!!」

「はぁ~!? フォローってなに……あぁ」


 二人の不安そうな顔を見て、ようやく俺の言ったことの意味を理解したらしいリリーナがしゅんとする。いつもこうなら可愛いのに。


「だ、大丈夫ですよ。ユウマ殿の言った通り、彼らだって王都が誇る冒険者です。同じ二の舞はないと考えてもいいでしょう」

「そ、そうですよね。みなさん私たちより実績も実力もある冒険者の方々ですもんね」

「だよねー。それに最悪はユウマが何とかしてくれるでしょ」


 そんなセツコさんの言葉に二人が若干を顔を明るくする。

 でも―――


「あんまり俺に期待されても困るんだが……」


 仲間の謎の期待に不安が募る俺だった。




 時が過ぎ、ヤマタニオロチの討伐の時間。俺たちは昨日ぶりのヤマタニオロチと退治していた。昨日与えたはずのダメージはほとんど残っていないようで、ヤマタニオロチはピンピンしている。少しは弱体化してしてないかと期待したが、そう簡単にはいかないらしい。

 王都の冒険者たちが俺たちを無視して陣形を組んでいく中、俺はパーティーメンバーとセツコさんに向き直る。



「とりあえず俺たちは俺たちで行動するぞ。リリーナは昨日みたいに好き勝手暴れてこい。死ななきゃ何してもいいぞ。なんなら倒して来い」

「わかったわ!! やっぱりユウマも最後にあてにするのは私なのね~。最初から私に頭を下げておけばいいものを」

「と思ってたんだが、なんかムカつくからここで待機だ。魔法なんて使ってみろ。口の中フリーズの氷でいっぱいにすんぞ」

「わ、悪かったわユウマ。だから前線に行かせて」

「ったく。ほら、行って来いよ」


 調子の乗りすぎているリリーナを少し落ち着かせつつ前線に送り込む。この場で前線に行っても通用するのはミカとリリーナ、あとはセツコさんくらいだからな。


「アイリスは後ろの方からこっそり支援魔法をかけまくってくれ。いいか? 絶対に支援魔法掛けますね。なんて言ったらだめだぞ」

「支援魔法は別にいいんですけど、なんで言ったらだめなんですか? ちゃんと話して、まとまってもらった方が大勢の人に一度で魔法もかけやすいんですが」

「昨日も言ったけど、変に王都の連中はプライドが高いからな。だから恩着せがましいことはなるべくしたくない。アイリスには悪いけど、頼むよ」

「ユウマさんがそう仰るならそうします。今までユウマさんの言うことを聞いて間違ってたことはありませんから」


 あまりにも恥ずかしすぎるアイリスの信頼の言葉に、顔をニヤけさせながらもアイリスを見送る。アイリス、いつの間にあんな天使な悪魔になったんだ。


「ねぇねぇユウマ。私は? 私も昨日みたいに前線で冒険者たちを助けてればいいの?」

「昨日のミカの行動の半分は確かに冒険者を助けてたけど。半分はドジしての冒険者たちの邪魔だったろだろうが。今日はこっちで俺たちと留守番だ。やることといえばヤマタニオロチが炎を吐きそうになったら顔面めがけて岩でも投げるくらいだ。そうすれば炎を受ける回数が少しは減るだろ」

「むー……。反論したいのに反論できない自分が辛い。ユウマも少しは私の気持ちをくんでよー」

「くんでるからこういう指示を出してるんだろうが。それに周りを見てみろ。ヤマタニオロチなんて名前の通り周りは山みたいに高い壁、その向こうは谷だ。お前がドジして吹っ飛ばされたら谷に落ちるかもしれないんだぞ」

「ゆ、ユウマ……。そんなに私のこと心配して……」

「そんなことになったらアイリスとリリーナにお前を助けるように頼まれて俺が苦労するだろうが。そんな面倒ごとは御免だ」

「少しでもユウマに優しさを求めた私がバカだったよ」


 寂しそうな、でもどこか嬉しそうな複雑な顔でミカが言う。

 ったく、これだから幼馴染は。大方俺の隠している気持ちなんてお見通しなんて思ってるのだろう。


「ユウマ殿。さきほどミカ殿に俺たちと留守番と言ったということは私もここでユウマ殿たちと待機ということでよろしいのでしょうか?」

「はい。ミカはともかく俺はへっぽこですからね。恥ずかしいし、情けないですけど俺の護衛をお願いします。あと、撤退することになったらリーダーの説得を一応するので口添えも頼みます」

「わかりました。ここまで来て何もしないというのも歯がゆいですが、ユウマ殿の指示に従いましょう」


 四人全員に指示を出し終わり、俺は戦況を見定める。


「なんか昨日と同じ陣形の様な気がするんだが……」

「やっぱりユウマもそう思う? 私もどこが変わったのかわからないんだけど」


 冒険者たちの陣形を見て、俺とミカは嫌な予感が頭をよぎる。


「昨日と同じ陣形ということは、昨日エイトに聞いたように前衛が炎を防ぐ盾班。中衛に魔法班、弓班。後衛に支援魔法と回復担当のヒーラー班という感じなんでしょうか」


 昨日の戦いを見ていないセツコさんが確認をするように言ってくる。俺はその言葉に頷き、呆れたように息を吐いた。


「これは早速リーダーの説得を考える必要がありそうだな」

「そうだね。でもユウマ。なるべく穏便にしてよ? 昨日言ってたみたいなのはアウトだからね」

「わーってるよ。あれは最終手段だ」

「最終手段でもやめてほしいんだけど……」


 若干引いたような視線を俺に向けるミカを無視して、俺は黙って戦況を見定めた。


「ユウマさん!」


 戦いが始まって数分後。これだけ時間が経っても昨日と違うところがまるで見当たらなく、難しい間違い探しでもしているような気分を味わっていると、後衛に紛れ込んでいたアイリスが小走りでトコトコと走ってくる。


「どうしたアイリス。何かあったのか?」

「は、はい。後衛の人たちの話を少し聞いてきたんですけど、やっぱり昨日と同じ作戦みたいなんです。けが人も多くなってきて、そろそろ回復が間に合わなくなります。撤退するならもうした方がいいかもしれません」

「やっぱりか……。ったく、あのリーダーは昨日何を見てたんだよ」


 呆れた視線をリーダーに送る。そんな俺の視線にリーダーは気づくことなく、昨日のように悔しそうな顔で戦況を見ている。

 なんであいつはアイリスですらわかるようなことがわからないんだよ。小学校からやり直せっての。……異世界に小学校なんてあったっけ? ないな。


「はぁ~。面倒だが、リーダーのところに行こう。アイリスの言う通りそろそろ限界だ」


 昨日同様に盾班の半分近くが前線を退いて後衛のヒーラーに回復してもらっていて、魔法班も魔力切れを起こしている。弓班も炎によってダメージをろくに与えられていなく、近接武器持ちは何もできずに立ち尽くしている。


「ミカ、アイリス、行くぞ。今日はアイリスからも後衛のことを話してみてくれ。無駄だとは思うけど、やらないよりはマシかもしれない。セツコさんも口添え頼みます」

「あいあいさー」

「わかりました」

「任せてください」


 ノリが良かったり、可愛かったり、礼儀正しかったりする返答を受けた俺は三人を引き連れてリーダーの元へと向かう。


「おい、あんた。今日もそろそろ限界だ。撤退して作戦を考え直した方がいい」


 昨日と同じようなことを口にしつつ、アイリスにも後衛の現状を伝えさせる。


「差し出がましいとは思いますが、後衛の回復が間に合ってません。このままじゃあヒーラーのみなさんの魔力もなくなって回復ができなくなります。そしたら撤退もできなくなっちゃいます。ですから、今日はあきらめましょう。お願いします!!」


 アイリスの下でに出た上に、ろくに知りもしない人のことを心配した言葉にリーダーが顔をこちらに向ける。

 相手が女子だからって昨日と対応を変えるのかコノヤロー。と、内心思っている俺が次に耳にしたのは驚きの言葉だった。


「またお前たちか!! 昨日はよくも僕を気絶させて勝手に撤退してくれたな!今日こそは邪魔をしないでくれ! もう少しで勝てそうなんだ!」

「ちょ!? 何言ってんの!? この状況見てまだ勝てるんなんて思ってるの! 見てよ! みんなもう辛そうだし、けが人だってたくさんいるんだよ!」

「ミカ殿の言う通りです! この状況は決していい状況とは言えません! 今すぐに撤退を始めないと取り返しのつかないことになります!」


 アイリスの言葉を無下にしたリーダーに向けてミカとセツコさんが半分怒りを始めた言葉をぶつける。しかし、リーダーの奴はどこ吹く風で。


「うるさい! うるさい! これだから戦況を見定めることのできないうえに、実力もないやつは! お前らは黙って僕らの勇姿を見てればいいんだ!!」

「勇姿って……こんなのかっこよくないよ! ただ何も考えずに突っ込んでいってるだけじゃん。これはゲームじゃないんだよ! 死んだらおしまいなんだよ!!」

「黙れと言っている! なにがげーむだ! 意味のわからないことを言って俺をバカにしているのか!」


 この世界の人間はゲームなんてものを知らない。だから当然の反応といえばそうだ。でも、今の言葉の意味が全部わからないというわけじゃない。死んだらおしまい。その言葉の意味はわかるはずだ。それなのに聞く耳持たず。それどころか俺たちから離れて行った。

 やっぱり無理やりにでもこいつを気絶させて―――。

 俺はボルトの準備をしつつ、リーダーにこっそり近づこうとする。


「……あったまきた」

「え……?」


 ミカの横を通り過ぎようとしたとき、ミカの口からそんな小さなささやきのような言葉が聞こえた。


「み、ミカさん……?」

「ユウマ。確か最終手段の中に私がドジしてリーダーをぶん殴ってボコボコにするってのがあったよね?」

「いや、ボコボコまでは言ってないんだが……」

「やってくる」

「ま、まて! 今のやってくるってなに!? 殺すの方じゃないよな!? 大丈夫だよな!? 信じてもいいよな!?」

「ユウマ、意図的じゃなかったら人殺しって罪じゃないよね?」

「罪だよ!? だから絶対にやめろ!」


 すごいお怒りのミカさん。ここまで怒っているミカを見るのは初めてかもしれない。


「とにかく今日は私に行かせて」

「わ、わかった。でも、手加減しろよ? お前の『金剛力』で本気で殴られたら下手したら死ぬぞ」

「手加減なんてできないよ。だって―――」

「だって……?」

「出すの足だもん」

「なら足加減しろ!!」


 結局、ミカの渾身の踵落としでリーダーは気絶し、冒険者たちは撤退を余儀なくされた。

 今度からミカは本気で怒らせないようにしよう。

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