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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第六章
140/192

27話

 

「ユウマ、本当によかったのかい? 別に無理をしなくても僕の方からルリお嬢様を説得してもよかったのに」

「まあ、その、なんだ。いいんだよ。自分で言っちまったことだしな。それにこっちの冒険者が全部どうにかしてくれるだろ。俺たちは後ろの方でその様子を眺めてすげーなー。とかやべーなー。とか思ってるからいいよ。あとは、のじゃロリのために少しばかり動画も撮っといて土産物にすれば問題なしだ」

「そうかい? でも、本当に危ないと思ったらすぐに言ってくれよ。すぐに引き返すから」

「何だよお前、イケメンかよ」


 イケメンだったわ。なんて心の声はさておき、結局俺はあの後のじゃロリに乗せられて、というか俺が勝手に乗っかって、ヤマタニオロチとかいうヤマタノオロチのパクリみたいなやつの討伐に同行することになった。

 もちろん他の三人も一緒に来ていて、俺とエイトのすぐ後ろを歩いている。その様子は三人とも違っていて、ミカはエイトにハートの瞳を送っていて、リリーナは周りの魔法使いたちを見ながら「まだまだね」とか何やら偉そうなことをつぶやき、アイリスはこの場違いな場所にただただ、あうあうしていた。


「ねえ、ユウマ。ヤマタニオロチを私の大魔法で倒してもいいのよね? 王都の冒険者たちに恥をかかせちゃうかもしれないけどいいのよね?」

「はあ~。あのなぁ、相手は王都の冒険者連中がこれだけの人数がいてもてこずるような奴だぞ? いくらお前が魔力の化け物だとしてもさすがに無理だろ」

「バカ言わないでちょうだい。私だって成長してるの。ヴォルカノを倒せなかった悔しさをバネにさらに魔力を高めたのよ。今の私ならヴォルカノでも倒せるわ」


 どこから湧いてくるのか知らないが、無尽蔵そうな自信で言ってくるリリーナ。


「そーか。でも、今回はおとなしくしとけ。今回に限っては本当にお前の暴走のフォローをできる余裕なんてないぞ」

「フォローなんていらないわ。相手を捉える。詠唱をする。魔法を放つ。終わりよ!!」

「あー、はいはい。とにかくおとなしくしとけ」


 面倒くさくなってきたので適当にリリーナをあしらうと今度はミカとアイリスが話しかけてきた。


「でもユウマ。リリーナじゃないけど、本当に私たち何もしなくてもいいの? そりゃあ私たちじゃロクに戦力にはなれないかもしれないけどさ」

「そうですよ。私も回復や補助魔法くらいならお手伝いできると思いますし、できることはした方がいいんじゃないでしょうか?」


 確かに二人の言っていることは間違ってはいない。やれることくらいはする。適材適所ってやつを守るのはとにかく正しい。でも、今回の相手はそれこそ格が違う。ヴォルカノの時は自分たちの力でどうにかするしかなかった状態に近かったのと、お金に目がくらんだという理由で張り切ったが、今回はそんなことをしなくても金が入ってくる。

 討伐隊に参加したという事実さえあれば、討伐後にギルドからお金が支給されるのだ。

 こんなにおいしい話はない。


「またユウマ悪い顔してる。大方、討伐隊に参加したって事実があれば、お金がもらえるからでしょ」

「……お前エスパーかよ」

「いや、さすがにわかるよ。幼馴染なめんなさいな」


 くそ。これだから幼馴染は!


「まあ、それも本心だけど、いざというときに自分の身は自分たちで守らなきゃだろ。ミカだって『金剛力』があるからって大丈夫とは限らないぞ。なんていっても相手は大型モンスターらしいからな」


 こっちにはいつものギルドのお姉さんがいないので、エイトとセツコさんにヤマタニオロチの情報を聞いたが、結構やばい感じの魔物らしい。頭が三つあり、大きな口からは炎を当然のように吐き、図体は数百メートルにも及ぶらしい。

 つまりは下手に足元に入り込むと、そのままつぶされる可能性すらあるというわけだ。

 遠距離から攻撃しようにも相手も炎を吐いて遠距離攻撃をしてくるし、安全地帯というものが存在していない。そんな相手に俺たち始まりの街の冒険者ができることなんて何もない。ただ邪魔にならないようにおとなしくしているのが一番賢い行動だ。


「んー……それもそっか。確かに『金剛力』がある私は大丈夫でもアイリスちゃんとかはどうしようもないもんね」


 ミカが隣にいるアイリスを見やる。そのようすはどこか妹を心配する姉の姿を想像させた。


「おねロリ……」

「なんか言った?」

「いや、なんでも」


 素敵な幻想を見てましたなんて口が裂けても言えない俺は咄嗟にミカをごまかす。ミカは少し訝し気な目を向けてきたが、すぐにため息を一つ零し「どうせろくでもないこと考えてたんだろうなー」なんて失礼なことを言いやがった。


「いたぞ!! ヤマタニオロチだ!!」


 こんな他愛もない会話をしていると、前の方からそんな声が聞こえてきた。その声を聞いてから少し歩くと、聞いた通りヤマタニオロチの姿が少しずつ見えてくる。まず目の飛び込んできたのは恐ろしい三つの頭。一つ一つが人間一人なんかよりもよっぽど大きくて、簡単に人一人を飲み込めるだろうと思えるほどサイズだった。

 次に飛び込んでくるのがその頭を支えている体だ。四本足で立っているその体はエイトたちに聞いた通り大きく、実際に見たことがないのでわからないが。東京ドームを想像するくらいにはデカかった。


「はわわっ! よ、予想よりもすごく大きいです……」


 ヤマタニオロチの全容が見えたころにはアイリスはすっかり怯えてしまっていた。プルプルと足を震わせながらもミカに手を引かれ歩くその姿はまさしく天使。


「なに、大丈夫だよアイリス。こっちの冒険者たちが何とかしてくれるって。何んといっても王都の冒険者たちだからな。俺らの何倍も強いだろ。少なくともリリーナやミカみたいなのがたくさんいるのは間違いない」

「そ、そうですよね。大丈夫ですよね。みなさんお強いんですもんね」


 俺の言葉に少し安心したのかアイリスがほっと息を漏らした。心なしか足の震えも収まっているように見える。


「ユウマがまともなこと言ってる」

「俺だってまともなこと言えるんだぞ幼馴染」


 なんとも失礼な言葉を漏らした幼馴染に一瞥をくれてやる。

 ミカは俺の視線と言葉に気が付くと、わざとらしく明後日の方向を向いて、吹けもしない口笛を吹いていた。

 ……口笛が吹けないのに吹こうとする女子ってありかもしれんな。


「総員! かかれーっ!!」


 ヤマタニオロチとある程度距離を詰めたところで冒険者のリーダーらしいやつが号令をかけた。その号令に王都の冒険者たちは雄たけびをもって返し、各々の武器を掲げて見せた。

 なんとなくかっこよかったので、俺も急いで『ゲート』を開き、ショートソードを取り出し掲げる。かっこいい。


「炎がくるっ! 盾班は前衛へ! 後ろに少しも炎を通すな! その隙に魔法使いたちは攻撃魔法の詠唱! ヒーラーは補助魔法をありったけかけるんだ!」


 一応のじゃロリへの土産として動画でも撮ろうとリーダーらしき冒険者の方へカメラを向けていたんだが、ありきたりでテンプレ的ではあるが、なかなかいい指示だと思う。

 実際そいつには信頼もあるのか、他の冒険者たちも何の迷いもなく指示に従い、あっという間に陣形のようなものが完成した。

 一番前に盾持ち、その後ろに近接武器持ち、その後ろに魔法使いとヒーラー。その後ろに俺たちといった具合だ。


「ユウマ! もう我慢ならないわ! 私も行ってくるわね!」

「あーもー。勝ってにしろ。でも、絶対に死ぬなよ」

「なに? 珍しく私の心配してくれるわけ? でも安心なさい、未来の大魔法使いはこんなところで死んだりはしないわ!」


 カッコいい言葉を残してリリーナは中衛の魔法使い達のもとへと走っていく。


「いいのかいユウマ。 リリーナ嬢が行ってしまったけど」

「あぁ、どうせ言っても聞かないからな。今回は他の冒険者もたくさんいるし、あいつの魔力はお世辞抜きですごいからな戦力にはなるだろ」

「そうかもしれないけど……」


 少し心配そうに戦場へと走っていくリリーナを見送るエイト。俺のすぐ傍にいたミカとアイリスも同様の表情でリリーナを見送っていた。


「そういえばユウマ。さっきは珍しく素直にリリーナを心配してたね。そこら辺に生えてる雑草でも食べた? それともキノコ?」

「んなもん食べてねえよ。俺を何だと思ってんだ俺だって心配くらいするさ」

「そうですよミカさん。なんだかんだ言ってユウマさんはいつも私たちを助けてくれるじゃないですか」

「アイリスの言う通りだぞ。少しは俺に感謝をしろ」


 アイリスの後ろ盾を得た俺はここぞとばかりに胸を張る。こんな時くらいしか胸なんて張れる機会がないから、今のうちに目一杯張っておくことにする。


「でも、なんかユウマらしくないというか、引っかかるというか……。ねえユウマ、ユウマはリリーナの何が心配なの?」

「んなもん決まってるだろ」


 何を今更と思わざる負えないミカの質問に俺は滅多に張ることのできない胸を張りながら答える。


「死んだり大けがしたら帰るときに運ぶの大変だろうが」


「ユウマ……」

「ユウマさん……」

「ユウマ……さすがの僕もそれはどうかと思うよ」


 ……。

 なんだよなんだよ! みんなして人を憐れんだ目で見やがって!

 だって言えねえだろうが! 何が恥ずかしくて「お前の死ぬところなんて見たくないから生きて帰ってこい」とか言えんだよ! 俺はそこまで素直になれねえし、なりたくもねえよ!

 ああ、俺ってば本当に不憫!!


「くっそ。みんなして俺をかわいそうな目で見やがって。腹が立つ」


 みんなの視線に耐えかねて、カメラの位置調整をしている風を装いながら少し前に出て、三人から距離を置く。


「全くユウマは素直じゃないなー」


 なんかミカのそんな声が聞こえた気がしないでもないが、たぶん気のせいだろう。

 そういうことにしておく。


「なんか思った以上にやばくねえか……?」


 ヤマタニオロチとの戦闘が始まって早数十分。戦況は正直に言ってお世辞にもいい状況とは言えないものだった。前衛で後衛への攻撃を防いでいた盾持ちの半分が今では盾を失うか、踏ん張りの効かない程傷ついていた。中衛の魔法使いたちもほとんどが魔力切れを起こしており、残っている魔法使いたちもロクな魔法を使えていない。ヒーラーも回復よりもけが人が出る時間の方が早すぎて回復が間に合っていない。

 リーダーらしい冒険者も既に指示を出しておらず、というか、戦況が悪すぎて何も考えが浮かばないらしく、苦しい顔をしていた。


 しかし、こんな絶望的状況の中でも未だに張り切っているやつが三人ほどいた。

 一人は中衛で最初から変わらない威力の魔法を放ち続ける自称未来の大魔法使い。一人は回復が間に合わないヒーラーを手伝うと言ったはずが、なぜか補助魔法まできっちりこなしている小さな天使、もう一人は危ない状況になった冒険者を助けつつ、自分自身何度も転んだり、ドジをして他の冒険者の邪魔をしてしまっている女の子が一人。

 つまり、うちのパーティーメンバーだった。


「ユウマ……彼女たちすごいね。王都の冒険者も顔負けだ」


 さすがのエイトも驚いているらしく、口を少し開けて目の前の光景を見ていた。

 くそっ! イケメンはそんな顔ですらカッコいいのか。


「でもさすがに限界だ。あの三人がどんなに頑張っても、もう防戦一方だし、このまま戦ったって悪戯に戦力を失うだけだ。ここらで撤退した方がいいだろうな」

「だね。リーダーの彼に言いに行こうか」

「そうだな。さすがに俺も目の前で人に死なれるのはちょっと嫌だし」


 戦況を見てどうにもならないと判断した俺とエイトは、目の前の惨状を悔しそうに見つめている冒険者のリーダーの元へと走って近づく。


「おい、あんた。もう今回はだめだ。このまま戦ったって勝てないどころか死人が出るかもしれない。ここは一旦引いて作戦を考え直した方がいい」


 もうわかっているであろう言葉を冒険者のリーダーに投げかける。俺のそんな言葉にそのリーダーは。


「金目的で勝手に付いてきた始まりの街の冒険者は黙ってろ! まだ俺たちは負けたわけじゃない! まだ勝てる可能性が残ってるはずだ!!」


 そう怒鳴り散らした。

 確かに格下の相手に偉そうなことや正論を言われたら腹が立つのはわかる。俺だって年下のやつとかに偉そうなことを言われたりしたらムカつくし、信号機が赤でも明らかに車が来てないから渡ったら怒られ、正論を言われたら自分が悪いとわかってはいてもイラつきもする。でも、さすがに時と場所くらいは選んでいるつもりだ。

 少なくとも今この現状でこんなバカな判断を下したりはしない。


「おい、状況を考えろよ。確かに偉そうなこと言ってるかもしんないけど事実だろ。お前だって死人は出したくないだろ。なら手遅れになる前に撤退するべきだ」

「う、うるさい! 戦況もロクにわからないバカは引っ込んでてくれ!!」


 ぷっつーん。

 ここまで言われると俺もさすがに怒りのゲージがフルゲージにもなる。頭の中の何かが切れたのを確かに感じた。


「おいくそやろう。ちょっとこっち向けや」


 自分でもわかるくらいに苛立った声でリーダーにもう一度声をかける。

 そして「なんだ! まだいたのか! 戦う気がないなら邪魔だから隅にでも隠れてろ!!」などと宣ったリーダーの口元に自分の右手を当てた。


「ふぁ、ふぁひをひゅる!!」


 何をする! とでも言いたいのだろう。俺に口を塞がれてロクにしゃべれない冒険者のリーダーに俺は容赦のない一言を放つ。


「『スプラッシュ』」


 全力のスプラッシュ。いくら俺が低レベルで始まりの街の冒険者で、その中でも魔力が高い方ではない俺の魔法でも使い方次第では効果がある。

 いくら相手が王都の冒険者だろうと、実力のある冒険者だろうと、口元から直接放たれるスプラッシュを食らってはどうしようもない。

 口と鼻からすごい量の水が流れ込み息を吸うことを許さない。

 最初はゴポゴポと言っていたリーダー様も数秒後には借りてきた猫のようにおとなしくなった。

 見てください。あれだけイキっていたリーダーが匠の手によってあっという間に静かになりました。

 泡を吹き、白目になりながら静かになりました。

 ……。


「いい仕事したぜ」

「ゆ、ユウマ。仕方なかったとはいえさすがにやりすぎなんじゃ……」

「俺はいつでも全力なんだよ。手を抜いたら相手に失礼だろ。それより早く撤退の指示を出そうぜ。手遅れになる前にな」

「そ、そうだね。今のは見なかったことにするよ」


 その後すぐに冒険者のリーダーを強引に気絶させたくせに魔物の攻撃でリーダーがやられた。もうこの戦況はひっくり返せない。だから一度撤退しようと声高々に叫ぶ冒険者がそこにはいた。

 というか、俺だった。

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