25話
「つっても、俺たちにできることなんて、ただの救護班だけどな」
俺ほどの男になれば今の自分にできることを瞬時に判断できる。適材適所というやつだ。その結果、俺が今できることは豪傑グマと戦う兵士の邪魔をせずに、のじゃロリとの約束を果たすため、兵士たちが勇敢に戦う姿をスマホの動画に残すことである。
後はケガを負ったやつの回復だ。それだって俺ではなくアイリスの仕事だったりする。
「ねぇユウマ。もっともらしい理由をつけて逃げるのもうやめない? てか言ってて恥ずかしくない? 他力本願っていうかさ」
「うっせー。ミカ、お前は俺に死ねってのか? 俺があんなのと相撲してみろ、一瞬だぞ一瞬」
「誰も金太郎になれなんて言ってないよ!?」
ミカが哀れみの視線を向けてきたので一蹴し、しっかりとスマホを構える。
俺は自慢じゃないがスマホのカメラ機能なんてほとんど使ったことがない。だから撮影技術なんて全然ない。異世界に来てからアイリスの可愛さを少しでも記録残そうと、少しずつ技術を磨いている俺だが、動画の方はさっぱりだ。
それでも最低限の知識くらいはある。なるべく全体が映るように撮ったり、魅力的な場面はアップにして撮るとか、そのくらいのことは知っている。
「ユウマ、もうそろそろ接触するけど準備はいいかい?」
「ああ、いつでもいいぞ。どうせなら派手に頼むぜ」
「無茶言わないでよ。ケガをしないことが最優先だ」
優しい顔でイケメン発言をエイトがするもんだからうちの面食いドジっこ格闘家が目をハートにして釘付けになってしまった。そんなミカを見てリリーナが「ミカのことは好きなんだけど、ああいうところはよくわからないわね……。確かに整た顔はしてるけど、何がいいのかしら?」なんて、珍しくまともな意見を言っていた上に俺と同意見だったので、肩に手をポンと置いて、
「だよな。イケメンンが何だっていうんだよな。世の中顔じゃないんだよ。中身だよ中身。確かに見た目も重要だけど、見た目と中身の協調性というか、自分の中の妥協点というか、そういうのが大事だよな!!」
熱く語ってやった。
するとリリーナは少し引いたような顔をしながら。
「でもユウマは見た目も中身もダメダメじゃない。ユウマとエイトが男として勝負したら一票も入らないわよ?」
「んだとごらぁ! いるよ! 俺の内なる優しさに気が付いてくれて俺に票を入れてくれるやついっぱいいるよ!」
「誰がいるのよ?」
リリーナの奴がやけに強気でむかつく笑みを浮かべながら言った。
俺は対抗心をさらに燃やして票を入れてくれそうなやつの名前を片っ端から上げていく。
「アイリス!」
「同情票ね。そんなのでうれしいわけ?」
「ファナ!」
「同じく同情票」
「ザック!」
「ゆ、ユウマ、あんた女の子にモテないからって男の子に鞍替えするわけ?」
「しゅ、シュリちゃん」
「はいはい、ロリコンロリコン」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ!!」
ぱっと浮かんできた俺に票を入れてくれそうなやつの名前を挙げ連ねたってのに何だこの体たらくは。それに本当にむかつくのはリリーナの言ってることが正論なことだ。
マジでむかつく!
「ユウマ、楽しそうなところ悪いけど頼むよ。もう接触した。何人かはすでに先頭に入ってる」
「エイト! お前は今の会話のどこが楽しそうだってんだよ! いじめだよいじめ! 学級崩壊……じゃなくて、パーティー崩壊だよ!」
「ユウマさん。大丈夫ですよ。ちゃんと私はユウマさんがなんだかんだ言って優しいところ知ってますよ? ですから、同情票なんかじゃありません」
「あ、アイリス~。やっぱりお前はいい子だな~」
リリーナのいじめに、それに加担しないまでも小さな追撃をかけてくるエイト。それを見て見ぬふりをする、というか、イケメンクラスメイトに夢中な幼馴染ミカとは違って委員長アイリスはやっぱり優しかった。ちなみにセツコさんに役を与えるとしたら先生な。異論は認めなくもない。だって、先輩でもありだって俺思うもん。
「ですから、その優しさを今見せてください。ちゃんとスマホで動画? を撮って、ルリちゃんに見せてあげてください」
「……お兄ちゃん、なんかたまにアイリスが怖いよ。なんか手綱握られてるみたいで。いつからそんな小悪魔天使になっちゃったの? どこから小悪魔が来たの?」
「へ? 私は天使でも小悪魔でもないですよ?」
俺の半分冗談がアイリスにはマジに捉えられてしまったみたいで、本気で不思議そうな顔で俺を見ている。そうだな。アイリスは天使でも悪魔でもない。
―――妖精だよな!!
「ユウマ殿。急かしているみたいで本当に申し訳ないのですが、本当にそろそろお願いできませんか。さすがに今日はこれ以上の戦闘は望めそうにないので」
「あ、すいません。今すぐやります!」
なんだかんだみんなとのやり取りが楽しくてついつい本来の目的を忘れそうになっていた俺をセツコ先生が優しく注意してくれる。俺としてももう少し強めでも―――ごほんげふん!!
「それじゃあカメラマンとして頑張りますか」
スマホの録画ボタンを押して、撮影を開始する。
とりあえず俺がカメラを向けたのは一番近くで豪傑グマと戦っている三人だ。一人が槍、一人が剣、一人が弓というそれなりのパーティー編成だ。剣持ちが前線で戦い、そのすぐ後ろで隙あれば槍使いが槍を突き出している。そして距離を取られたり、二人がカバーしきれないところに弓使いが的確に矢を放ち、豪傑グマの動きを牽制する。
「素人目に見てもかなりいい動きしてるな。さすがは王国先鋭の兵士たちってところか」
柄にもなく素直に感心する俺をよそに、なぜか偉そうに胸の前で腕を組みながらリリーナが「少しはやるようだけどまだまだね。詰めが甘いわ」とか、なにやらそれっぽいことを抜かしていた。
魔法使いのお前に前衛職の何がわかるってんだ。
「このままならどうにかなりそうだな」
「そうだねセツコさん。このまま上手く事が運んでくれることを祈るばかりだ」
命を懸けて戦っている兵士たちのおかげで俺たちの方には一切豪傑グマは血がづけていない。そんな兵士たちを少し離れたところから眺めていたセツコさんとエイトは互いに状況把握に努めていた。
「ねぇ、ユウマ。やっぱり私たちも手伝おうよ。なんか見てるだけっていうのも悪いしさ、私はアイリスちゃんみたいに回復できないし、リリーナみたいに遠距離から魔法で攻撃はできないけど『金剛力』で前衛できると思うんだけど、最悪
囮にでもさ」
「ミカ、何度も言ってるけど俺たちが下手に出てっても邪魔になるだけだぞ。むしろ兵士だっていきなりお前が来たら隊列乱れて大変だろ。それにお前すぐにドジるし」
「うぅ……反論できない」
「だから俺たちは補欠でいいんだよ。いや、補欠はエイトとセツコさんだから補欠の補欠だな」
二軍どころか三軍である。ベンチにすら入れていない。なんなら無関係者まである。
「まずいっ! ユウマごめん! 僕はあそこの部隊の援護に行ってくるよ!!」
俺がミカを窘めつつ、近くの兵士たちの検討を特に祈り乗せずに録画していると、エイトが突然焦ったような声を出して、俺の返事も聞かずに走り出した。俺はカメラマン魂を捨てることなく、カメラを構えたままエイトの姿を追う。
エイトが向かった先には右腕から血を流した兵士を他の二人の兵士がかばっていた。
どうやら豪傑グマの攻撃をもらってしまったらしい。いたそー。
俺が他人事のようにその様子を眺めていると、豪傑グマがほかの二人の兵士を強引に吹っ飛ばし、ケガを負った兵士に向かって突進をしだした。
利き腕をやられた兵士はロクに剣を構えることもできず、悔しそうに顔をゆがませる。
さすがにあれはまずい。そう思った俺が『ゲート』を使ってお得意の銃を二丁取り出そうとしたその時、イケメン騎士様が兵士と豪傑グマの間に割って入った。
「させないっ!!」
腕を振り上げ、兵士を切り裂こうとしていた豪傑グマの腹を素早い一閃。大きな血しぶきが上がった。
「ガアアアアアアアアアア!!」
エイトの一撃をまともに食らった豪傑グマはたまらずに叫び声をあげる。
「君は早く引くんだ! あそこの小さな女の子がヒーラーだ。話は通してあるから回復してもらうんだ!」
「わ、わかりました。ありがとうございます!」
豪傑グマから視線を逸らすことなく後ろの兵士に指示を飛ばしたエイトが、再び豪傑グマに攻めかかる。体を低くして相手の懐に飛び込むような速攻を仕掛けるエイトに対し、豪傑グマは自慢の力技を駆使して牽制を仕掛ける。
「甘いよ!」
しかし、さすがは王国先鋭の騎士の中で王女様の専属騎士を任されているエリート。まるで相手の動きを読んでいたとでも言うように豪傑グマの攻撃を軽々と避けた。さらにそのまま攻撃態勢に移るエイト。振り下ろされたの腕の脇を抜け、相手の横に陣取った。
「もらうっ!!」
カッコいい掛け声とともに放たれた素早い一閃を攻撃後でロクな回避行動もとれない豪傑グマに攻撃を避ける術も受け止める術もない。まともな剣撃が豪傑グマを切り刻んだ。
「さすがエイト様ーっ!! かっこいいー!!」
隣のミカからうるさいくらいの黄色い声援が送られる。
なんでだろう。別にミカが誰を好きになろうと、応援しようと、気にすることなんてないはずなのに、なんかこうむしゃくしゃする。
やっぱりエイトがイケメンだからだろうか? そうだな。そうだとしよう。
「さすがは専属騎士ね。さっきの兵士とはわけがちがうわ」
「す、すごいですね。なんかしゅばばばばっ! って感じで、早くてかっこいいです……」
「……」
ちくしょう。エイト! お前ミカだけに飽き足らず、うちの女子メンバー全員のハートを射止めるつもりかよ! 恋の狩人なのかよ! 剣士のくせに!!
「まぁ、あっちはもう大丈夫だろ。他のとこはどうなってんだ?」
『ゲート』スキルで取り出してしまった銃を片手でどうにかポケットにねじ込み、再び両手でスマホを構える。やっぱり片手だとぶれちゃうしな。
「ユウマ殿! 申し訳ないが私も少し失礼する! あの部隊が少し心配だ!」
さっきのエイトのように今度はセツコさんが俺に声をかけては返事を待たずに走り出した。まるで加速装置でも背中に着けているんじゃ中と疑いたくなる顔S区力でセツコさんは数十メートルはあった距離はものの数秒で埋めた。
「加勢する! まずは体制を立て直すぞ!」
「は、はい! ありがとうございます!」
「礼などいい! 今は目の前の敵に集中しろ!!」
「わ、わかりました!!」
戦闘に入ったとたんセツコさんの感じがまるでスイッチを入れ替えたかのように変わった。何んというか、優しいは優しいんだけど、少し言葉がきつくなったというか、元から少し硬い感じできつく聞こえていた言葉に鋭さが増したような、そんな感じ。
「私もエイトには負けていられないからな。同じ専属騎士として!!」
セツコさんはそう言って豪傑グマに切りかかる。一振り目はなんてことなく外れた。しかし、セツコさんの顔に動揺は見えない。むしろ避けられて当たり前といったような感じがする。そして、その意味はすぐに分かった。
「はああっ!!」
後ろに一歩下がって一閃を回避した豪傑グマにセツコさんは一回切り込んだ後にそのまま追撃する形で懐に入り込む。一度回避行動を取ってしまった以上豪傑グマにその攻撃を避ける方法はない。
「燕返しか。ひゃー、実際見るとやっぱスゲーな」
スマホで撮影していて音声しっかりと録音されているのも忘れ、俺はっしっかりと声に出しながらセツコさんの動きに感心していた。
「ユウマさん。あの技? の名前をなんで知ってるんですか?」
「ん? ああ、俺の読んだことがある本に同じような攻撃をしてる剣士がいたんだよ。そいつがさっきみたいな攻撃を燕返しって呼んでた。何つーか、わざと最初の攻撃は浅めに仕掛けて、逃げきめが本気みたいな」
「はい。剣のことは全然わかりませんでしたけど、私でもそれはわかりました」
俺がスマホを構えたまま、どうやらさっきの兵士の回復を終えたらしいアイリスとやり取りしていると、エイトの方の戦闘が終わったらしい、エイトがキザったらしく剣を音を立てて鞘に納めていた。そしてそれとほぼ同時にセツコさんの方の戦闘も佳境を迎えていた。
「はっ! せいっ!」
相手の爪攻撃を鮮やかに剣で弾きながら確実にダメージを与え続けるセツコさん。そして、豪傑グマがそんなセツコさんの戦闘方法に痺れを切らし、あまりにも強引すぎる腕ふるいをする。
しかし、そこはさすがはセツコさん。わかっていたとでも言うようにその場でしゃがみ難なく攻撃を回避。そして流れるような動きで豪傑グマの胸にレイピアを突き立てた。
「か、かっけー……」
素直な感想を漏らす俺の視線にセツコさんが気づいたのか、少し頬を赤くしながら恥ずかしそうにそっぽを向いた。セツコさん。その行動がさらに俺を尊死させるんですよ?
「ゆ、ユウマさん! 大変です! あそこの兵士さんたちが!!」
エイトとセツコさんの活躍により、どうにか最低限の被害で戦闘が終わると思われたその瞬間、アイリスの悲鳴にも近い声が俺の耳を通した。
「どうしたっ! アイリス!」
さすがに無視をするわけにはいかず、でも決してカメラマン魂を忘れることなくカメラを構えたまま俺はアイリスが指さした方を向く。
そこにはすでに二人の兵士が武器をその手から放していて、その二人を庇う様にへっぴり腰ながらも立ち向かっていた兵士がいた。
「しまった。彼らはまだ新人だからちゃんと見ててあげないといけなかったのに……」
「不覚だ……」
三人の兵士と正反対の位置にいるエイトとセツコさんが悔しそうに顔をしかめながらも、助けに行こうと足を動かす。でも、距離がありすぎる。さすがにこの距離を一瞬で詰められるほど二人は化け物じみてはいない。
「ミカっ! 補欠の補欠の出番だ! いけっ!」
俺は迷うことなくスマホをポケットにねじ込んで近くで戦闘をただ見ているだけの罪悪感に苛まれているミカに声をかける。俺の声にミカは顔を輝かせながら立ち上がり。
「ようやく私の出番だね! 張り切って言っちゃうよーっ!」
「わかったから早く行けっ! 間に合わなくなるだろうが。お前の『金剛力』なら一歩で行けるだろ」
「余裕だよ! それじゃあ行ってくるけど、ちゃんと応援に来てね? それじゃあ、あらほらさっさーっ!!」
よほど見ているだけに罪悪感を覚えていたのかミカは嬉々としてその一歩を踏み出した。
そして―――盛大にすっころんだ。
「バカっ! お前こんな時に!」
「ご、ごめーん。わざとじゃないんだよー……」
全力で転んで顔から地面にダイブしたらしいミカが、顔をさすりながらよろよろと立ち上がる。しかし、そんなことしている間に向こうは向こうで時が進行していて―――
「う、うわーっ! や、やられるっ」
へっぴり腰だった兵士までもが豪傑グマの攻撃で武器を弾き飛ばされていた。そして、豪傑グマがもう勝ったも当然とばかりに、その逞しく力強い腕を振りかぶった。
「リリーナ! 魔法は!? さっきからやたらと撃ちたがってたんだから詠唱くらいできてるんだろ!」
「当たり前でしょ! でも無理よ! あんなに近くに居られてこんなに距離が離れてちゃ巻き込んじゃうわよ! 下手したら一緒に死ぬわよあいつら。ユウマだったら躊躇いなく撃てるってのに本当に邪魔な奴らね」
「お前はこんな時にでも俺をディスらなきゃ会話もできんのかこの脳筋魔法使い!!」
こんな時だというのに人を小バカにすることだけは忘れないリリーナに怒声を飛ばしつつ、隣居るアイリスを見る。しかし、アイリスも首をフルフルと横に振った。
「エイトとセツコさんは……やっぱり間に合わなそうだな」
ミカとエイトとセツコさんは間に合わない。リリーナとアイリスも事情によって攻撃不可能。どうすんだよこの状況。
「し、死にたくないーっ!!」
次の瞬間、豪傑グマの最初の攻撃対象になってしまった可愛そうな兵士の情けない叫び声が耳に届いた。
「ゆ、ユウマさん……」
「ユウマ、なんとかしなさいよ」
「ユウマ~……」
アイリスが、リリーナが、ミカが、俺の名前を呼び、どうにかしてくれと訴えてくる。なんならエイトとセツコさんまでが俺に目でどうにかならないかと言っていた。
こんな最弱ニートの冒険者に何を期待してるってんだこいつらは。
でも――――――
「う……わあああああぁぁぁぁぁあっ!!」
情けない兵士の悲鳴。周りの兵士のどうしようもない顔、仲間たちの期待と不安の入り混じった顔、セツコさんたちの焦る顔、そんなものたちが全部俺に向かって突き刺さっているように感じて、俺は―――
「あぁもう! しゃーねーなーっ!!」
覚悟を決めた俺は少し離れたところにいるリリーナに二丁の銃の内の一つ、魔力を弾として撃ちだす銃で発砲した。もちろん最小限に威力を抑えて。
「こんな時に何すんのよユウマ! 状況がわかってないのかしら! ユウマくらいのクズになると、周りも見えなくなっちゃうのかしら!!」
リリーナがいきなりのことにわけもわからずに俺に怒声を浴びせる。
そりゃあいくら魔法使いで魔力に対し耐性があって、俺みたいな最弱冒険者が最低限まで威力を抑えた攻撃とはいえ銃は銃だ。それなりの威力はある。ちょっと強い水鉄砲くらいにはある。だからそれなりには痛い。
だからこそリリーナは俺に対して怒りを露わにした。
そして―――わずかだけど、確実な敵意を俺に向けた。
「悪く思うなよリリーナ。日頃の行いを見つめなおせ」
「あんたにだけは言われたくないわよ!!」
そんなリリーナの声を背中で聞きつつ、俺は『逃走』スキルを発動させた足で兵士たちの元へ向かう。
なんで俺がリリーナに攻撃をしたか、もうわかってるとは思うが、『逃走』スキルを発動させるためだ。『逃走』スキルは相手から視認されていて、その場から逃げる際に使用者の移動速度を劇的に向上させるスキルだ。だから、誰かに敵意を向けさせる必要があった。
ミカとアイリスじゃあ何があっても俺に敵意を向けそうにないから消去法でリリーナにした。それだけの話だ。
「実弾だと狙撃スキルなしの俺じゃあ外して兵士に当てる可能性がある。そのなったら意味がない。だからここは、魔力弾!」
リリーナを撃ったばかりの銃を豪傑グマの方に向けて散髪ほど発砲。兵士に当たったとしても兜をかぶってるし、鎧は着てるしでたいしたことはないはずだ。豪傑グマに当てて、意識を俺に向けさせればそれでいい。
そして俺の考えは見事に成功し、三発中二発が豪傑グマの顔面をとらえた。
「さすが俺のへっぽこ魔力……。全然効いてねえ……」
自分の魔力の低さに悲しくなりながらもどうにか豪傑グマの注意をこちらに逸らした。豪傑グマはその巨体からどうしてそんな速さで移動できるのかと問いたいくらの速さで俺の前までやってくる。
「さーて……ここからどうしようかな、マジで……」
後先考えずに走り出した男VS豪傑すぎるクマの戦いが、今始まる。




