23話
「とまあ、こんなところかね。俺らがしてきたことといえば」
朝食を食べ終わり、俺がこの城に滞在する間借りた部屋で四人に今までの冒険の話をし終えると、みんな様々な表情を見せた。セツコさんとエイトは俺の話を聞いて主に戦闘面に関して何か思うことがあったのか、それともそれは俺の自意識過剰で他の話をしているのかわからないが、何かを話し合っている。
のじゃロリは「今まで聞いてきた冒険者の話の中で一番楽しかったのじゃ! さすがユウマなのじゃ!」と、やたら持ち上げてくれていた。
ルーシアは俺が話し始めてからものの五分で、一人夢の世界へとトリップしていた。
「ユウマ、お主はすごいの! オークの大群から冒険者を率いて街を守り、悪い貴族相手に勇敢に立ち向かい、さらには魔王幹部のヴォルカノを退治! すごいの! ほんとうにすごいの!!」
スーパーハイテンションになったのじゃロリが興奮気味に言う。
そんなに素直に褒められると俺としても悪い気はしない。でも、これは決して幼女から褒められたから喜んでいるのではない。というところを強く主張したい。
幼女ではなく、美少女に、だ!
ちなみにロレンスの件はロレンスが悪行の限りを尽くしていたので俺たちが懲らしめたという話にしておいた。大きな間違いはないから問題ないな。だってロレンスは悪いやつだったし。解決方法はともかく俺が解決したし!
「まあ、それほどでもあるな」
褒められなれていない俺は、褒めてもらえばすぐに調子に乗る。自分でわかってるなら少しは控えれば? なんて意見もありそうだが、そんなことは気にしない。褒められたのだから素直に喜んで調子に乗って何が悪いというのか。
「のおのお、ユウマ! 他には? 他には何かないのかの!!」
「さすがにこれと同等の話はもうないな。俺たちだって年がら年中こんな危険な中にいるわけじゃないし、むしろ一気にあんな危険なことがたくさん来られても困る。俺が死ねる」
あれらの一連の騒動は約一か月ごとに俺たちに降りかかってきた。ロレンスの件はザックに頼まれて自分から首を突っ込んだり、オークの集団についても、やや俺たちに原因があったものの結局は偶然だ。ヴォルカノの件は完全に偶然だが、結局はすべてのことに俺たちはたまたま関わっていて、どれもたまたまとか偶然である。
運命の悪戯にしても約一か月ごとにあんな大事を持って来られてもたまったもんじゃない。
「そうか、残念じゃの……」
のじゃロリが本当に残念そうに下を向く。
子供に、それも美少女にこういう顔をされるのは俺としても望むところではない。
何かないものだろうか?
「ユウマ殿、少し質問をさせてもらってもいいだろうか?」
俺がのじゃロリのために頭をひねっていると、セツコさんが話しかけて来てくれた。
「別にいいですよ。で、なんです?」
セツコさんにだけ未だに敬語の抜けないまま、なんてことない返事をする。
「ユウマ殿はヴォルカノを最終的には俺が倒した。と、おっしゃっていましたが、具体的にはどうやって倒したのでしょうか?」
「ヴォルカノをどうやって倒したか……ですか?」
「うん。ヴォルカノの情報はもちろん王都にも届いててさ。僕らが聞いている話だと、ヴォルカノはすごいタフで剣や槍、ハンマーなんかで攻撃したらその武器が溶かされて、魔法で攻撃しようにも大抵の魔法はその圧倒的な火力とタフさを突破できないって聞いてるんだよ。だから、どうやってそれを突破したのかなって思ってね」
セツコさんの質問に足りないところをエイトが補足してくれている。
なるほど、どういうことか。
確かにヴォルカノに物理攻撃は通用しなかったし、魔法も効かなかったけど、まさか王都にいるような連中の攻撃でも無理だったとは。って、リリーナの魔法が大して効果を示さなかったんだから当たり前か。
リリーナは脳筋魔法使いだけど、魔法使いとしての実力だけなら本物だからな。
「そうだな。確かに物理攻撃はできなかったし、魔法もダメだったよ」
あの時のことを思い出しつつ、もう二度とあんなやつとは戦いたくないと改めて思いなおしながら俺は言う。
「では、どうやって倒したのじゃ!」
のじゃロリがこの話は大層お気に召したのか、再び元気を取り戻していた。
でも、俺の膝に手を置いて前のめりになるのはやめて。お兄ちゃん嬉しくなっちゃう。第二の心の妹作っちゃう。
「まあ、あいつが火属性の魔法を吸い込んじまうみたいだったから思いっきり吸い込ませて、吸い込めなくなるまで思いっきり炎を食わせてやろうとしたんだよ。あれだ、お腹いっぱいの人に無理やり飯を食わせる感じ。これなら倒せはしなくても無力化か、なにかしら状況が変わると思ったんだ」
「思った、ってことは、ダメだったんだね」
「ああ」
エイトの言葉に俺はうなづく。
「リリーナの火属性魔法の最大火力だった『エクスプロージョンインフェルノ』でもダメでさ。あいつ腹膨らませて耐えきりやがったんだよ」
「それで、どうなさったのですか?」
セツコの言葉と、さっきより前のめりになっているのじゃロリが早く先が聞きたいとばかりに責め立ててくる。ちょっとうれし……おほん。
「最終的には俺が火傷覚悟であいつの口に『スプラッシュ』を使って爆発させたんだ」
「爆発? どうして『スプラッシュ』で爆発するのじゃ? 『スプラッシュ』は水魔法の初級魔法じゃったはずじゃが……」
「ああ、そうか。こっちじゃ水蒸気爆発はわかんないのか」
「すいじょうきばくはつ……ですか?」
「そうそう。えっと……水蒸気爆発ってのは、簡単に言うとすごい熱いものにいきなり冷たいものをかけると起こる爆発なんだ」
「それって、爆発系の魔法じゃなくても爆発を起こせるって事かい?」
「そうだな。さすがに威力は劣るとは思うけど」
あの時はヴォルカノの腹の中で爆発したからどんな威力だったのかは具体的にはわからなかったが、少なくともリリーナの『エクスプロージョンインフェルノ』ほどの威力はなかったと思う。あれは外側からの攻撃ではなく、ヴォルカノ自身どうにもできない、自分の体内からの攻撃だったからどうにかなったと俺は思っている。
「水蒸気爆発……聞いたこともない現象だね。……ユウマ、君はそれをどこで知ったんだい? そんな知識、たぶんこの王都にいる学者たちの誰も知らない。それどころか、この国の誰も知らないはずだ」
「ど、どこで知ったかって……そりゃあ……」
日本。そう言ってしまえれば楽なのだが、俺は今のところ日本についてをこの国の連中に話すつもりはない。それに話すにしたって最初はアイリスとリリーナにだ。それは俺が最初から心の中で決めていたし、ミカとも相談してある。
「前になんかの本で読んだんだと思う……。正直、どこで聞いたんだか俺自身も覚えてないんだわ」
結局俺はそんな曖昧な答えで済ませることにした。
エイトあたりは変に勘が鋭そうだから俺の言い分に違和感を持つかもと内心怖かったが、特に疑われるようなこともなく、エイトは顎に手を添えるだけで終わった。
「もうこの話は終り! どうせならもっと楽しいことしようぜ! 王都の探索とか、城の中を冒険とか! ミカたちも呼んでさ!」
この話をとっとと終わらせたかった俺は強引に話題を切り替えることにした。
ちょっと大げさなくらいの大声で言ったせいか、ルーシアの花提灯が割れ、ルーシアも目を覚ます。
「あれ~。もうお守り歌終わったの~」
「別にルーシアのお守りをする歌なんて歌ってなかったけどな。子守歌だったとして歌ってないけど、まず歌ですらないし」
起きて早々もはや伝統芸とも思えてきたルーシアのボケにツッコミを入れ、俺は意気揚々に立ち上がる。
「そうだな。よかったら街でも案内してくれよ」
俺たちは王都に来てから街の探索をしていない。来た日当日から今日までセントラル王都の謁見が怖すぎて他のことを考えている暇がなかったからだ。
でも、もうその心配もない。
あまり長く滞在するのも悪いとは思うけど、だからと言ってこのまま何もせずにバイバイというのもなんか味気ない。せっかく来たのだから満喫して聞かないとな! ……借金だらけでもう来れないかもしれないし。
「ごめんユウマ。実は今日の午後からは兵士のみんなで実戦訓練があって、僕もセツコさんも時間がないんだ。明日なら明日なら一日空けられるから明日でもいいかな?」
「あ、そうなのか。そりゃあしゃあないな。さすがに訓練の邪魔するのもあれだし」
俺が興味本気でついて行ってもこっちの魔物なんて相手できるはずがない。イニティ周辺の魔物ですら俺一人では苦戦必至なのだ。王都の方なんかの魔物と戦ったら一溜りもない。
「別に私たちはご一緒してもらっても構わないのですが、ユウマ殿たちもせっかくこちらまで来てまでクエストを受けることもないでしょう。こっちにいる間だけでもゆっくりしてください」
そんな厳しくも優しいセツコさんの言葉に俺は胸を密かに温める。この優しさを少しでいいからリリーナとミカに分けてやってほしい。アイリスにはこれ以上の優しさを与えると魔物を回復しちゃうどころか、攻撃すらできなくなりそうなのでやめてほしい。
「妾も行きたいのじゃ!!」
さて、これからどうしたものかと考えていると、セツコさんにのじゃロリが抱き着いて、一緒に訓練に連れて行ってくれと頼んでいた。
「申し訳ありませんルリお嬢様。セントラル王からのお許しが出ておりませんので、ルリ様を訓練に同行させることはできません」
「むーっ!! いつもそうなのじゃ! たかが、この王都を少し出た先での訓練なのであろう! 兵士もたくさんおって、お主やエイトもいる。なのになぜダメなのじゃ!!」
「で、ですからルリ様はまだお小さく、実戦に出すのは心配だというセントラル王のお心遣いがですね……」
「そんな言葉は聞き飽きたのじゃ! 姉上は良いと言われておるのであろう、なら妾だって良いじゃろうが!」
わがままを言うのじゃロリに立場上あまり強く言えないセツコさん。エイトに助けてやれよという視線を送るも、僕にもどうしようもできないと言いたげな顔で首を横に振った。
おいおい、腹黒爽やか騎士ですら手を挙げるってどういうことよ。
「ルリちゃ~ん。お外なんて楽しくないよ~? 魔物がいっぱいでお昼寝できないし~、うるさいし~、疲れちゃうしー」
「それでも行ってみたいのじゃ姉上! 妾だってちゃんと訓練は受けておる! それはエイトが一番知っているはずじゃ! エイト! 妾の腕ではまだ外に出るのが危ないのかの!」
「いえ、ルリお嬢様はすごく腕がよろしいので、その辺の魔物くらいなら油断さえしなければなんてことないと思います。それは僕が保証しますよ」
「ほれ! エイトもこう言っておる!」
「ん~。私にはわかならないな~。なんでわざわざ疲れに行きたいの~」
「ルーシア様は少しはルリお嬢様を見習ってください……」
話が進むにつれ、のじゃロリのテンションが上がっていく中、エイトとセツコさんの困った顔がどんどんと深刻化していく。この空気をあえて読まないことに定評のある俺ですら口を出すのが憚られるくらいだ。
……え? 面倒くさいから口出さないんじゃないかって?
馬鹿言ううなよ。そんなこと九割九分九里しか思ってないって。
あと、最後のセツコさんの言葉になにかすごくいつもの俺みたいな感じがした。
セツコさんも苦労してるんだな。
「妾だって訓練の様子を見たいのじゃ! 魔物を見てみたいのじゃ!」
とうとうその場に横になって暴れだすのじゃロリ。これがおもちゃがほしくてデパートで暴れる子供の図か。可愛げがあるな。スカートもひらひらしていてその手の人には堪らない状況だ。
うん。最高だ。小学生は最高だ。
「……ん?」
くだらないことを思いつつも、どうにかセツコさんの援護をできないものかと思っていた俺にとある考えが浮かぶ。ちなみにエイトのことはどうでもよかった。むしろ、イケメンでいつも楽しんだろうから少しは苦労しろと思っていたくらいである。
とにかく、俺はセツコさんの援護に出ることにした。
「なぁ、のじゃロリ」
「のじゃロリじゃないのじゃ! ……で、なんじゃユウマ」
「あのさ、さっき訓練の様子が見たいとか、魔物を見てみたいとか言ってたけど、訓練について行きたい理由ってそれだけなのか?」
「うむ? まあ、そうじゃの。欲を言えば戦ってみたいとも思っておるが、父上やセツコ、エイトの心配もわからぬ妾ではない。とりあえずは訓練の様子や魔物というのがどんなものか見れればそれで満足じゃ」
なるほどなるほど。そうですか、そうですか。
うん。どうにかなるな。正直少し気が重いけど、一人で王都に繰り出して変に迷うより明日案内してもらいながら回る方が効率的だし、問題児リリーナとミカの面倒もエイトとセツコさんとで分担できる。
このままここに残っても不機嫌なのじゃロリとのほほんとしたルーシアと一緒になって空気が悪すぎる。ミカたちが来てもどうせ状況は変わらない。むしろ、ミカとかリリーナ辺りが「かわいそうじゃない。私たちで連れっててあげましょうよ。大丈夫」とか言ってきて面倒なことになりそうである。
それなら、最小限の手間で済みそうな行動をとる。それが俺の性格で生き方だ。
面倒くさいことはできることだけ回避。回避できないことはできるだけ簡略的に、だ。
「のじゃロリ、それ、どうにかできるかもしれないぞ」
だから俺は、一番自分にとって楽そうな道を今回も選ぶことにした。




