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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第六章
133/192

20話

 

 暴れるリリーナを五人がかりでどうにか周りに被害を出さずに沈めた後、特にこれといって問題のないままパーティーは進行していった。

 今ここにいるのは俺とミカとアイリスとリリーナの四人だけだ。セツコさんとエイトはお嬢様の様子を見に行ってくると、少しの間この場を離れている。

 そのおかげで今の俺は三人のドレスを着た美少女と一緒にいるサボりの兵士のような感じになっている。

 さっきからチクチクと周りの視線が突き刺さり、コミュ症特有の居心地の悪さをこの場に感じている。

 気を紛らわせようと滅多に食べれない高級料理を口にしてもあまり口に合わず、自分で作った料理の方がおいしく感じるほどだった。そんなこんなで俺は今孤独を感じている。

 高二病も経験しておくべきだったと本当なら高一の俺は思った。


「おいしいっ! あれもこれもそれもどれも全部おいしいっ!!」

「確かにおいしいですね」

「まあまあね。さすがは王宮料理って感じかしら」


 俺が一人孤独を感じている中、綺麗なドレスに身を包んだ三人は王宮の高級料理に舌鼓を打っていた。


「おいミカ。マジで言ってるのか? なんか味が薄いし、量もお上品で少ないし、なんか物足りなくないか?」


 高級料理だからなのか量が少なく、元の味を生かすためなのか味付けも薄い。それがいいという人もいるんだろうが、まだまだ若い育ち盛りの俺には少々物足りない。それこそジャンクフードが恋しくなってしまうほどに。

 ……今度ハンバーガーでも作ってみるかな。


「んー。確かにそうだけどー。美味しいものはおいしいよ」

「えー、俺の作ったものの方が上手い自信まであるんだが。そこんとこはどうよ?」

「そだねー……どっちかしか食べれないとか、毎日食べるとかならユウマの方かなー。やっぱり慣れ親しんだ味だし、なんか緊張もしないでいいし安心する味だもん」

「お、おい。急に褒めるなよ! うっかり惚れそうになるだろ! それともなに? 毎日私のためにお味噌汁を作ってくれ的なあれなの? 本気にすんぞマジで」


 何度か言ったこともあるが、ミカは十分に美少女に分類される女の子だ。

 元気で明るく親しみやすい。誰とでも気軽に話、あまり話すのが得意でない奴や、無口な奴でも平気で話しかける。そのくせ妙に気が利いたり鋭いため相手が嫌がったらすぐに引くことも心得ている。顔だって年相応の女の子らしい顔をしており、ほとんと笑顔でいることが多いためさらに魅力を引き出している。

 見た目だってセミロングくらいの少し茶色じみた髪に、太すぎず細すぎずの少し肉付きがいいくらいの体型。身長も女子の平均ほどで、特別にかわいいというわけではないが、クラスのかわいい女子ランキングで一位にはなれないものの上位をキープできる女子。それが俺が生まれてからずっとミカと一緒にいて感じている俺の感想だ。

 幼馴染じゃなかったら一級ニートの俺でも惚れてしまって、うっかり告白してたまである。


「ユウマ……」

「な、なんだよ……」


 え? 八割方冗談だったんだけど、もしかしてミカのやつ結構本気にしてくれてる?

 マジで? デジマ? 俺にも春が到来ですか? 俺的にはミカでも十分ありだぞ? 幼馴染で気を使う必要もないし、それなりに可愛いしい、こんな俺でもちゃんと受け入れてくれるし、アイリスを娘としてちゃんと育ててくれそうだし。

 ……あれ? 俺って自分で思ってた以上にミカのこと……。


「毎日お味噌汁はさすがに具を変えても飽きるよ。たまにはお吸い物とか豚汁とか、コーンスープとか作ってくれないと」

「ちくしょう!! 俺の清らかな心と純情を返せ!!」

「なに怒ってんのさユウマ。もぐもぐ」

「食べ物を口に入れたまま喋るんじゃありません!」


 もう会話する気がないのか料理の方に向き直ってしまったミカに少し怒りを覚えながら、最近借金返済のためにニート力の低下していたせいか、ミカに対してうっかり恋愛感情を抱いてしまった自分に心の中で叱責する。

 何やってるんだユウマ! お前にはアイリスがいるだろう!

 小学生と結婚は出来なくても付き合うことはできるんだ! あとは結婚できる年まで待てばいい! まず、結婚できる年齢が高すぎるんだよ。昔を見習えよ昔を。もっと幼いうちに結婚してたぞ!


「全く、さっきからうるさいわよ。変に目立っちゃうでしょ」

「さっき一番目立つ行動をしようとしてたやつに言われたくないんだけどな」

「あ、あれはユウマが悪いのよ。女心を弄ぼうとした罰よ、罰。あの程度で済ませてあげた私に感謝なさい」

「ああ、綺麗なドレスを着て豊かな谷間を見せてくれてるのは感謝せざる負えないな。ありがとう」

「本気で燃やすわよ?」

「どうせなら萌やしてくれ」


 本心を言っただけなのにリリーナはかわいそうな者を見る目で俺を見下した後、すぐに料理の方へと向き直った。これだから年増は!

 やっぱり時代は小さな女の子! 天使アイリスだ!

 二人の年増を視界から強制的に排除し、天使アイリスにだけ視線を注ぐ。

 俺の妹にしたい娘ランキング一位のアイリスが可愛すぎる。

 うん。いいラノベタイトルだ。書かないけど。


「なぁ、アイリス。アイリスは俺に冷たくなんてしないよな? アイリスは優しい良い子だもんな? な?」


 最後の砦ともいうべきアイリスに俺は話しかけた。アイリスはミカたちと一緒に料理を食べていたが、俺が声をかけるとすぐに振り向いてくれた。

 こちらを振り向いたアイリスはその小さな口を一生懸命に動かしておいしそうにしている。


「あ、ユウマさん! すごいですよこのお料理! すごくおいしいんです!」


 いつにも増して元気いっぱいなアイリスに少し驚きながらもこんなアイリスも可愛いと脳内に存在する全俺が喝采を上げる。

 ただ、今のアイリスの言葉に少しの不安を覚えた。


「あ、アイリス……。アイリスはこの料理よりも俺の料理の方がおいしいと思ってくれるよな?」

「え? お料理の味ですか? んー……そうですね。正直どっちもおいしくてどっちが良いとか決め辛いです……」

「うわああああああああああぁぁぁぁあんっ!!!」


 ユウマは逃げ出した!


「くそっ! くそっ! くそっ! みんなして俺より料理に夢中になりやがって! 俺だって焼きもちの一つや二つや三つや四つ焼くんだぞ! なんなら焦がすまである! それなのにあいつらと来たら!」


 周りから奇異の目で見られるもの構わずに俺は大きな声で泣きながらパーティー会場を後にする。ちらりと後ろを確認したらアイリスが俺の方へ心配そうな顔で手を伸ばしていただけで、ミカとリリーナはまたバカやってるみたいな目で一瞬こちらを見ただけですぐに料理の方へと戻っていた。


「あいつらには絶対にもう料理なんて作ってやらん! アイリスは除くけど!!」


 心底腹が立った俺は唯一悪気のなかったアイリスを除く二人には決して料理を作ってはやらんと心の決めた。

 会場を飛び出し、行く当てもなく長く広い廊下を走りながらとりあえず城を出て夜の王都でも楽しもうかと気持ちを切り替える。何人かの見回りの兵士とすれ違うも俺も今はエイトの予備の兵士服を着ている。特に怪しまれることはない。


「はあ、はあ、俺ってば冒険者のくせに体力なさすぎ……」


 五分ほど走って未だに城から出れてない俺は情けないことに息を切らして膝に手を付いた。心臓がバクバク言ってうるさい。もしかして、これって恋? ……違うな。うん。


「ったく。この城広すぎるだろ。大は小を兼ねるって言うけど、大きけりゃあいいってわけじゃないだろ」


 昔の偉人の名言に好き勝手なことを言いながら、息を整えつつ廊下を歩く。


「あーあ、俺にも曲がり角で美少女とぶつかっていい感じになるラブコメ的展開ないかなー。ねーよなー」


 目の前に見えている曲がり角を見ながら、言っていて悲しくなることを零す。ただ、男というものは単純でバカなもの。ないないと思いつつも、もしかしたら、ひょっとしたらという期待を抱いてしまう。

 女子に挨拶をされただけで好意を抱いてしまったり、トイレに行っている間に自分の席に女子が座ってたらドキドキしたり、バレンタインにクラスの全員にチョコを配っている女子にもしかしたら俺のだけ本命なんじゃないか? なんて思ってしまったり、男というものは恋愛に関しては本当にバカなのである。ソースは中学生の頃の俺。黒歴史である。


「しかし! 今の俺はもう違う! さっきはうっかりときめきメモリアルしてしまったが、ニート一級の資格を持つ俺に隙はない。実際ちゃんと冷静になった今は違うって理解してる。うん。俺ってばマジニート! マジコミュ障! マジ底辺!」


 テンション高く言う度に心にダメージを負っていく。自分で自分を傷つけながら曲がり角を曲がると、お腹の辺りに小さな衝撃を受けた。


「およ?」


 すぐ横を見ればしっかりと曲がり角の角の部分がしっかりとある。つまり、おれは曲がり角にぶつかったわけじゃない。だとしたら何にぶつかったのか? 俺はさっきの妄想がもしや現実になったのではないかとバカなことを思いながら本当に美少女とぶつかったとしたら目の前で転んでいるであろうはずの場所に目を向ける。


「こんなんで美少女がいたら苦労はしな……い」


 しっかりと現実の厳しさを理解している俺はそんな都合のいいことなんてないないとばかりに気楽に視線を下げていった。

 しかしそこには、小さな美少女が尻もちをついていた。


「あれ? なんで俺の妄想が現実になってるの? あぁ、そうか夢か。そうだな。そうに違いない。現実はそんなに甘いわけないもんな。現実はいつだって苦くて苦しいもんだもんな。そうだそうだ」

「何を意味わからぬことを言っておる!なにが夢じゃ! 現実に決まっておるじゃろう!」

「うおっ!? 喋った!?」

「そりゃ喋るのじゃ!!」


 今の現状は夢説が一瞬で目の前の小さな天使に否定される。

 え? マジで夢じゃないの?


「悪い悪い、少し嫌なことが続いて気が動転しててな。立てるか?」


 現実に戻ってきた俺はとにかく美少女を尻もち付かせたままにさせておくのは申し訳なく思い手を差し出す。さすが俺、紳士的対応。

 決してかわいい女の子の手を触りたいとかそういうのじゃありませんですことよ。


「ふんっ! お前のようなものの手を借りずとも一人で立てるのじゃ」


 差し出した俺の右手を軽く叩きつつ美少女が立ち上がる。

 あ、今ちょっとだけど小さな美少女と触れ合えた……。


「まったく。目の前に妾がおったというのに、いったいどこに目をつけておるのじゃお前は」

「え? ここだけど?」


 美少女の質問に俺は両手で自分の両目を指さし答える。


「そんなことはわかっておるのじゃ! 今のはどこを見て歩いておるのじゃという意味じゃ!」

「まぁ、そうだろうな」

「知ってて言っておったのか!」

「そりゃあさすがにそれくらいのことわかんないとニートの俺でも生きてけないしな」

「むぬぬ……。どうやら貴様は妾を本気で怒らせたいようじゃな。いいじゃろう、受けて立ってやるのじゃ! そこになおれ! 妾が直々に鉄槌を下してやるのじゃ!」

「まてまて。確かに俺は君の小さなお手てでげんこつされたり、ぺちんってほっぺを叩いてはもらいたいが、なにも本気で怒らせたいわけじゃない。ただ……からかったら面白い子なんだろうなって俺のセンサーが反応したから確認しただけだ」

「そなたはそれで妾の許しがもらえるとでも思ったのか! というかなお理由が悪いわ! あとキモイのじゃ!!」

「うぐっ……!!」


 さっきまで散々同じパーティーの女の子に冷たくあしらわれていた俺にさらなる追加ダメージが与えられた。俺は心のダメージに耐え切れずについに胸を押さえ、膝を地面に着く。


「ふっ……ナイスパンチだぜお嬢ちゃん。いいパンチだった……」

「……まだ何もしておらんのじゃが」


 俺の行動になにをしてるんだこいつは。とでも言いたそうな顔で目の前の美少女は俺を見る。


「なにしてるのだお主は……」


 あっ。言われた。


「はぁ~。なんだかお主と話してると怒っているのがバカバカしくなってくるのじゃ……」

「え? なに? 俺ってばそんな癒しオーラ出してた? マイナスイオンとか出してた?」

「何を言っているのかほとんどわからんが、少なくとも違うのじゃ。ただ呆れてるだけなのじゃ」

「……」

「なんじゃ? 怒ったのか?」

「いや、小さな女の子に呆れられるのもいいものだなと」

「お主は変態なのか!?」


 本気で嫌そうな顔で俺から数歩距離を取る美少女に俺は待て待て待てと距離を詰める。


「まぁ、落ち着きなさいお嬢ちゃん。ほら、飴あげるから」

「くれるのか!?」


 距離を取ろうとしていた美少女が瞳を輝かせながらこっちに来た。

 え? なにこの子ちょろすぎ。ちょろ可愛い。でも心配。

 しかもこの構図完全にアウトだ。なんかやばいおじさんが学校帰りの女子小学生にお菓子で言い寄ってる感じの図だ。日本だったら俺は終わってたな。異世界最高。


 しかし困った。

 俺は飴など持っていない。ただちょっと言ってみたかっただけだ。言うべきだと俺の中の何かが言ったのだ。


「わ、悪い……飴ちゃんはもう品切れなんだ」

「お主っ! 嘘を吐いたのか!?」


 怒りと驚きを半分ずつ含んだ可愛らしい顔で美少女が俺の服を掴んでくる。

 可愛い。どうせなら俺の後ろを服の裾を掴んで歩いてほしい。「迷子にならないために仕方なくなのじゃ」みたいな。


「うぐぐ……妾をここまでコケにしてくれたのはお主が初めてじゃ! 今度こそ絶対に許さんのじゃ!!」

「ちょっと待て待て!」


 さすがに本気で怒ってそうだったので、俺も不味いと必至に何かお菓子の代わりになるものはないかと頭を回す。


「あっ、そうだ。ここにはないけどお菓子あるじゃん!」


 どうにかなりそうな答えを見つけ出した俺は九死に一生とばかりに『ゲート』を使う。


「何のつもりじゃ」

「まぁまぁ、少し待てって。飴はないけどお菓子ならある」

「なに!? 本当か!?」


 再び瞳を輝かせる美少女に再びこの子は本当に大丈夫だろうか? という疑問を持ちながらも俺も自分の家に繋がっている『ゲート』の中を探る。

 そしてようやく目的のものを探し当てた。


「ほれ、お菓子」

「……なんじゃこれは?」

「クッキーって言うんだけど知らないか? まぁ、こっちじゃ見たことないから無理もないかもだけど」


 俺が前に暇なときに家で作ったクッキーを美少女に差し出すと、珍しそうにそれを受け取った。そしてアイリスとリリーナの反応からクッキーはこの世界にはないのかもしれないとは思っていたが、やはりそうだったと確信を得た。

 この世界にはお菓子というものがほとんどない。ほとんどというのはそれなりのものはあるという意味である。飴とか、チョコとかがそれだ。当時はなんで同じくらいメジャーなクッキーがないのかと不思議に思ったものだ。そして、そんなことを知ってしまった俺は無性にお菓子が食べたくなり簡単そうなクッキーを自作した。前に食べていたプリンも俺の自作だったりする。

 ちなみに味は自分のほかにアイリス、リリーナ、ミカの三人にも太鼓判を押された。そのせいで少なくとも毎週一回は俺はクッキーを作っている。これはその余りだ。


「甘そうな感じがしないの。甘い匂いもしない……変なものではないのであろうな?」


 疑わしそうに美少女が俺をにらみつけてきた。

 小さな美少女ににらまれるもの乙なものだと思いながら、俺は手渡したクッキーを一つ取り、口に含む。

 サクサクとした触感が口の中を楽しませつつ、ほんのり甘いミルクの味が舌を幸せ味にした。


「うん、上手い。我ながら上出来だ」

「自分でも食べられるということは安全なものということか。……そんなに上手いのか?」

「あぁ、サクサクしててほんのり甘くて下手な料理より全然おいしい!」

「うぬぬ……」


 小さな美少女が俺が自分でクッキーを食べ、おいしいと感想を言ったことで警戒心を少し緩めた。自画自賛をすることによって美少女の警戒心を解くという思惑は見事に功を成したということだ。


「いいから食ってみろって。ぶつかったお詫びだしお礼とかいいから」


 食べたそうにしながらもまだ少し食べるかどうか迷っている美少女に俺は最後の追い込みとばかりに話しかける。


「そ、そこまで言うなら……」


 ようやく観念したのか美少女がおそるおそるクッキーを半分ほど口にした。ゆっくりとリスのように口が動く。その動きがだんだんと早くなってきた。これはおいしかったな。と、思っていると美少女がどんどんと口の中にクッキーを頬張り始めた。


「上手い! 上手いのじゃ!」

「おいおい。クッキーは逃げないぞ。ゆっくり食えって」


 上手い上手いとクッキーを食べ続ける美少女を眺めつつ、子供に喜ばれるのも悪くないと内心嬉しく思いながら、ゆっくり食べるよう注意をしつつ、クッキーを食べ終えるのを待つ。


「おいしかったのじゃ!」


 口の周りにクッキーの食べかすを付けた美少女が満足げに笑う。


「それはよかった。あと、口の周りに食べかすが付いてるぞ」

「本当か? ……ほんのり甘いのじゃ」


 俺の指摘を疑問に思いつつも、口の周りを舌で舐めて食べかすを処理した美少女。


「妾はお前が気に入った。今回の件は水に流してやろう」

「それはそれは、大変うれしゅうございますお嬢様」


 笑顔でさっきの件を許してくれた美少女に俺は恭しく礼をする。

 よく見ればドレスを着ているし、たぶん今日のパーティーの招待客の一人だろう。この反応が正しいはずだ。

 むしろ、さっきまで美少女美少女と舞い上がっていて気が付かなかったが、下手をしたら俺の首は身体とサヨナラバイバイしてたかもしれない。危うくデュラハンになるところだった。


「それよりお主。妾は大変このお菓子が気に入った。このくっきー? とやらはどこで手に入る? この王都にあるかの?」

「うーん……わかんないですね」

「……なぜ急に敬語なのじゃ?」


 俺の急な態度の変化に美少女が首を傾げる。

 そんな姿も、いと可愛い。


「いえ、さっきは動転して素で話してしまいましたが、そのお姿を見れば先ほどまでの態度は失礼なものだったと思いまして」


 美少女の姿を改めてみれば立派なドレスを着ていた。暗くてよく色はわからんが、さっき月明りで一瞬見えた気がした時の色は確かオレンジ色だったと思う。

 漢ユウマ。長いものには巻かれる生き物。

 決して身分の高い人には逆らわない。だって、あとが怖いもん。


「今更そんなことを気にしておったのか。なに、気にすることはない。さっきまでのように普通にしゃべるのじゃ」

「ですが……」

「これは命令じゃ」

「……それじゃあ」

「うむ、それでいいのじゃ」


 美少女が満足げに頷く中、敬語を使うのも面倒だった俺は楽になったと内心落ち着く。


「それよりも、このくっきーとやらが売っている場所がわからんとはどういうことなのじゃ。お主が持っていたものじゃろう? 誰かからの贈り物か何かなのか?」

「いや、これ俺が作ったんだよ。オリジナルかは知らないけど、少なくとも俺もその周りもクッキーが売ってる場所は知らないな」

「なにっ!? こんなにおいしいものをお主が作ったのか!?」

「そうだけど」


 心底驚いたような美少女になんてことなしに応える。

 ただ、ここまでのクッキーを作るのに時間がかかったことは知っておいてほしい。


「兵士なのに料理が得意なのか、珍しいの。うむ、ではこれから毎日妾のためにくっきーを作るのじゃ!」

「いや、無理だ」

「なぜなのじゃ!」


 俺を押し倒さんという勢いで美少女が俺につかみかかってくる。俺の中の小さな美少女にしてもらいたいランキングがどんどんと消化されていく。


「こんな服着てるけど俺ここの兵士じゃないのよ。セントラル王主催のパーティーに招待してもらったんだけど、突然のことで着るものがなくてさ。代わりにパーティーにいてもおかしくないような服ってことで借りたんだ」

「そうじゃったのか……」


 悲しそうに俯く美少女に罪悪感が募る。美少女ってやっぱりずるい。


「それよりお嬢様。パーティーに行かなくてよろしいのですか?」

「そうじゃった! そろそろ戻らねば怒られてしまうのじゃ! というか、なんでまた敬語に戻っておるのじゃ?」

「それじゃあ会場まで送るよ。あと、さっきのは俺なりのジョークというか冗談というか会話術だ」

「うむ、頼むのじゃ。あと、変な話し方じゃの」


 どうにか普通の顔に戻ってもらった美少女をパーティー会場に送り届けるために、元来た道を引き返す。ここに来るまで随分長い間走ってきたはずなのだが、美少女と歩いている廊下はその時より短く感じた。


「着いたぞ」

「ご苦労なのじゃ。それじゃあ入るとするかの」


 会場前のでかい扉の前に立ち、美少女を見送る。せっかく出会えた天使との別れを惜しみつつ、俺は少しでも美少女で心を癒しておこうと瞬きを極力我慢してまで後姿を瞳に残そうと必死になる。


「何をしておるのじゃ?」


 必至になっているところで美少女が後ろを振り返った。よく考えれば前からの姿を心に焼き付けてなかったと思い、瞳のシャッターを連続で切る。

 くそっ! なんで俺はスマホを兵士服に忍ばせなかったんだ! そうすれば小さな天使とツーショットとか撮れたかもしれないのに!


「聞いておるのか?」

「おー、すまんすまん。美少女の姿を少しでもこの目に焼き付けようと必死になってた」

「本当に何をしておるのじゃ……」


 この少ない時間に何度されたかわからない呆れの目を前に、俺は屈さずに目を見開く。


「ほれ、中に入るのだろう。せっかくなのじゃ、一生に入ろうではないか」


 そう言って美少女は扉に掴んでいない方の手を差し出してくれた。


「いや、俺はいいよ。さっきまで中にいたんだけど、パーティーとかあまり慣れてないのもあって居心地が悪かった」

「そうなのか……。でも、気持ちはわかるのじゃ」

「お嬢様でもわかるもんなのか?」


 意外な返事に俺は質問を投げかける。


「そうじゃの。妾もパーティーは嫌いじゃ。みんな相手の顔色を窺ってばかりで本心で話しておらぬ。妾に話しかけてくる者も大半が父上に気に入られたい者ばかりじゃ」

「なるほどな。そりゃあ嫌にもなるわな」


 小さいながらも、いや、小さいからこそなのか、人の心や感情に鋭い美少女は残念そうに話した。確かにずっとそんな大人たちを相手にしていればこんな風に思ってもしまうだろう。

 その点俺のパーティーが嫌な理由と来たら。コミュ障とか恥ずかしすぎる。


「その点お主は他の者とは全然違うからいいの。顔色を窺ってくるわけでも、嘘を言ってるわけでもない。話していて楽しかったのじゃ」

「それはどうもありがとうございますだな。俺も楽しかったぞ」

「うむ、それじゃあ今度こそバイバイなのじゃ。もしまた会えたらくっきーをくれてもよいぞ」

「おう、バイバイな。これからはクッキーを毎日携帯しておくようにするよ」


 お互いに手を振りあい、今度こそ別れの時間が訪れる。扉が開かれ中の眩しい光が目に飛び込んでくる中、美少女の姿が光の量と反比例してどんどんと小さくなっていく。


「あっ、名前聞き忘れた」


 扉が完全に締まり、今更になってそんなことを思い出した俺は心の中で『のじゃロリ』とさっきの美少女に仮の名前を付け、その場を後にした。


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