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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第六章
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17話

 

「ここが私の部屋だ。遠慮しないで入ってくれ」

「……入ってくれって、そんな気軽に言われても……」


 十分ほど城の中を歩きようやくセントラル王の部屋まで着いた俺は、まるで少し硬い感じの友達が自分の部屋に友達を招き入れるみたいな感覚でそう言ったセントラル王に聞こえないようにを小さく呟く。

 ―――ごめんなさい。俺、友達いないのにその感覚わかるはずなかったわ。


「ん? どうかしたかね? 本当に遠慮しなくてもいいんだぞ?」


 首を傾げ、心底不思議そうにしているセントラル王に俺は冷や汗を掻きながらもなんとか返事らしい返事をする。

 さっき訓練場で覚悟を決めたとか言ったが、覚悟を決めたといっても緊張しないわけではないらしい。俺はそれを今日知った。俺、リアル知識の偏差値低すぎ!!


「し、失礼します……」


 学校の職員室に入るようにわざわざ開けてもらっているドアをノックし、ドアの前に立っている槍を持った兵士二人とセントラル王に頭を下げつつセントラル王の部屋に足を踏み入れる。


「おぉ……」


 セントラル王の部屋はまさしく王様の部屋という感じだった。まず目の前に飛び込んできたのは大きな机に大きな椅子。それらが部屋の中央に置かれている。机の上には花を生けた花瓶が一つ置かれており、机自体にもテーブルクロスが掛けられている。椅子もただの木の椅子なんかではなく、宝石かなにかで装飾されている。そのまま視線を上下左右に順番に動かしていく。

 左を向けばなにやら難しそうな本の並ぶ本棚、仕事用なのか羽ペンの置かれたデスクが一つ。右を向けば衣装棚にどうやら隣にもう一つ部屋があるらしくそこへと続く扉。この部屋にはベッドがないのでおそらくはここが仕事用の部屋、向こうが寝室といった感じだろう。下を向けば高価そうな真っ赤な絨毯。上を向けばシャンデリア。

 なんというか、一度くらいは豪華な部屋に住んでみたいとか思っていたが実際に目の当たりにすると落ち着かなく、全く気が休まりそうにない。やはり俺にはそれなりの広さで、体を碌に動かさずに欲しいものが取れるような部屋がいい。

 ニート最高! ニート万歳! ニート生き辛い!

 ―――生き辛い。借金ヤバい。人々の視線が痛い。

 なんで俺セントラル王の部屋でネガティブになってるの?


「ユウマ殿はそこに掛けてくれ。君たちももう出てくれて構わないよ」


 俺が部屋を見て感嘆の声を漏らしていると、セントラル王は部屋の真ん中にあるテーブルと椅子を指しながら言い、次には部屋の入口に立つ二人の兵士にも指示を飛ばした。


「で、ですが……」


 セントラル王の指示に一人の兵士が不安そうな声を漏らす。もう一人の兵士も何も言いはしないがその場を動きもしない。

 まあ、一冒険者と王国の国王を二人にするなんて一介の兵士にはできないか。


「私はユウマ殿と二人で話がしたいんだ。それが分からないのかね?」

「い、いえ、そんなことは……」

「それではなにか? ユウマ殿が私になにかよからぬことを図ろうとしてるとでも言うのか? そして私がそれを前に屈すると。私の実力は諸君らでも聞いたことくらいはあると思うのだが。それとも、もう老体一歩手前の私では信用におけないかな?」


 特に表情を変えずにそう言ったセントラル王だったが、うっすらとだが王の威厳のようなものを感じる。なんてことのないはずの言葉がセントラル王が話しただけでどれも重みのあるような言葉になるんだからすごい。

 だって俺が同じ言葉を言ってもみんな顔を逸らすか、笑いをこらえるか、憐みの視線を向けるか、顔をぶんぶんと縦に振ることだろう。簡単に想像できる。

 ……自分で言ってて悲しくなってきた。


「そ、そんな! 消してそんなことはっ……!!」


 直接言われたわけじゃない俺でも背筋をピンと立たせてしまったんだから、直接目を見て言われた兵士は気が気がじゃないだろう。現に二人の兵士は固まってこそいないものの、緊張したような声で返事をしていた。

 でも、仕方のないことだと思う。だってユウマ君もガクブルだもん。俺やっぱり正義の味方に向いてないわ。悪の女幹部に言い寄られたり、強そうなやつに凄みを聞かされたら間違いなく寝返るもん。

 魔王に世界の半分をお前にやるから味方にならないか? と聞かれたら少し悩んでから首を縦に振るだろう。悩むのは俺の心の中にある残り少ない正義の心が……ごめんなさい。嘘です。俺に正義の心なんてありません。

 ユウマは自分の身体が一番大事で、一番かわいいです。

 二度目のごめんなさい。一番はアイリスでした。


「それじゃあ、部屋を出て行ってくれるな? なに、別にどこかに行っていろと言うってるわけじゃない。いつものように部屋の外で待機しててくれればいい。ただ、私とユウマ君の会話を盗み聞こうなんて野暮な真似はしないでくれよ」

「は、はっ! 失礼したしました!」


 紆余曲折はあったものの二人の兵士は急ぎ足で部屋を出ていく。セントラル王は二人の兵士の背中を見送り、ドアが閉められたのをその目で確認してからこちらに振り替える。


「すまないなユウマ殿。あの兵士たちも悪気があったわけじゃないんだ。どうか許してやってはもらえないだろうか?」

「え、あぁ、もちろんです……」


 いきなり話を振られコミュ症の俺はキョドリつつも何とか返事をする。


「それじゃあ話をしよう。そこの椅子に掛けてくれたまえ」

「あー、はい。その前にちょっといいですか?」

「ん? 何かな?」


 俺を追い越し机の前までやってきたセントラル王がこちらを振り向く。それを確認した俺はポケットの中に入れてあるもののボタンを長押しする。

 チャンスを窺ってて結局なにもないまま終わるということがよくある。俺みたいなやつには特に多い。クラスでの決め事の時とか、何人かで話しているとき、言いたいことを言おうと話の隙を窺ってたらいつの間にか解散になってるなんてざらだ。

 ……よく考えたら俺クラスで浮いてたから自分から何か喋ろうとしたことなかった。

 そんな悲しい思い出を思い返しながら俺はおそらく目的の状態になっているであろうポケットの中身を取り出す。


「はい。チーズ!」


 虚を突くようにそう言った俺は素早く構えたそれの画面を押す。すぐにカシャッっという音と一瞬のフラッシュ。

 もうわかると思うが、俺が取り出したのはスマホだ。ポケットの中でサイドにあるボタンを長押しして写真のモードにして、それを咄嗟に取り出したのだ。


「……」


 セントラル王は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに表情を柔らかくし笑顔になっていた。それに胸の辺りに手まで持ってきている。それで俺はすべてを察した。


 ……やっぱりな。


 そう思ったもの束の間、俺の背中の方にあるドアがバンっと大きな音を立てて開け放たれ先ほどの兵士が部屋の中に入ってくる。思ったより行動の早かった兵士の行動に動くのが遅れた俺は一人の兵士に押し倒され腹から地面にキスをする。痛い。

 次には俺の背中に足を勢いよく下し動きを封じてきた。肺の中から勢いよく空気が飛び出す。そして胃の中からよろしくないものが這い上がってきて咳き込む。。突然押し倒されてぶつけた腹と顔、踏みつけられた背中、そのすべてが痛い。

 気が付けば顔のすぐ横には槍が刺さっている。それも二本。おそらく俺が起き上がれないように二人の兵士が槍で×の字を作っているのだろう。

 それにしても、わかってたこととはいえ痛い。


「ご無事ですかセントラル王!」

「貴様っ! セントラル王にあれだけの言葉をもらっておきながら無礼を働くとはなにごとだ! 恥をしれ! 冒険者風情が!!」


 俺の拘束が終わった兵士二人がそれぞれの使命を全うするように言葉を発する。一人の兵士がセントラル王の安否の確認を、もう一人が俺を、いや、すべての冒険者を罵ってきた。

 ったく、だから王国の兵士とかは嫌いなんだよ。自分たちが偉い人の警備をしてるからってすぐに自分も偉くなった気になる。自分が選ばれた人間だと勘違いする。そんなことで威張れるなら俺はボッチの神様に寵愛を受けてるって自慢して回りたい。


「ん? なんだこれは? 何かの魔道具か?」


 終いにはスマホまで取られてしまった。


「セントラル王。この不届き物の処遇はどうしましょう。この場で打ち首になさいますか?」

「バカを言うな、ここではダメだ。王の部屋が汚れるし、王が汚れる。そんな失礼なことをここでするわけにはいかない」


 二人でどんどんと俺の処刑場所を決めていく二人の兵士にいい加減足と槍どけろよ。と、心の中で念を送りながらさすがにそうもいかないよなー。という大人な部分を引き出す。

 全く、この城の兵士は人の話もちゃんと聞けないのか。押さえつけるのまではしょうがないにしても処刑方法を決めるよりも先に事態の確認の方が先だろうが。小さいころにママから人の話はちゃんと聞きましょうって習わなかったのか。

 それとも俺を人として見てないんですかコノヤロー。

 そんなとこまで不満を心の中で声を大にしていい、俺はおおよその事情を把握しているであろうセントラル王に助けての視線を送る。


「二人とも、ユウマ殿を離しなさい」


 ようやくセントラル王が口を開く。


「な、なにをおっしゃるのですか!? こいつは王によからぬことを働こうとした輩ですよ!」

「そうです! 我々は確かにドアの前で何か不審な音を聞きました!」


 おそらくはシャッターを切った音だろう。


「見てみろ。私にどこか異常があるか?」


 セントラル王は両手を広げて見せる。


「た、確かに見たところ異常がありませんが見た目ではわからない何かをされたのかもしれません。今魔法使いと僧侶、あと呪い師も呼んで参ります」

「いいと言っておろう。お前の持っているそれは危険なものではない。それはある時をそのまま絵として保存できる魔道具のようなものだ。嘘だというのなら貸してみなさい」


 セントラル王の言葉に兵士二人は頭にハテナを浮かべている。そりゃそうだ。日本人でもない奴からしたらカメラなんてもんは意味の分からない魔道具にしか思えない。そして、それが危険なものだと思っても仕方ないだろう。

 現にこれを売っていたファナも使い方を知らなかったし、アイリスもリリーナもスマホどころかカメラの存在すら知らなかった。

 つまり、これは俺やミカのような日本人。というか異世界人にしかわからない品物だ。

 そう。()()()()()()()()()()()()ものだ。


「どれどれ……」


 困惑したままの兵士から俺のスマホをやや強引気味に取ると、セントラル王はスマホをいじり始める。しかし、カメラと認識していたせいかスマホの扱い方がわからないらしく、セントラル王は首を傾げる。


「はて、これはカメラではないのか?」


 ついにはそんなことを言い出した。

 見たところセントラル王の年齢は四十代くらいだ。スマホが普及したのは少し前出し知らなくても当然だろう。下手をしたら形態が折りたためるようになったことすら知らないかもしれない。いや、もしかしたらポケベル時代か?


「セントラル王。それカメラじゃなくてスマホっていう携帯電話なんですよ。カメラ機能は付いてるんですけどね」

「ほほう、そうなのか……」


 セントラル王はそう言うと物珍しそうにスマホを眺めた。


「すまないユウマ殿。これの使い方を教えてはもらえぬか? そなたの無実の証明になると思うのだが」

「それは助かります。まずは右横のボタンを一回押してもらえます?」

「こうか?」

「はいそうです。そしたら画面の左の方から右の方に向けてゆっくりと指を動かしてもらって……」


 俺の指示のもとにセントラル王はどうにかこうにかスマホを操作していく。その様子を俺の背中を踏み、首元に槍を突き立てたままの兵士が驚いたような困惑しているような、そんな色々な感情が入り混じった様子で見ている。

 そして説明通りにスマホを操作していたセントラル王はようやくさっきの写真を発見できたのか「ほおー」っと感嘆の声を上げた。


「見てみなさい。これがユウマ殿が私にしたことだ。せっかく会えたのだからと記念にということでな。この後二人で一緒に撮ろうとも話していた。わかったらユウマ殿の拘束を解きなさい」


 セントラル王がスマホを二人の兵士に見せる。話の内容は若干違っていたが、話を進めやすくするためのセントラル王の計らいだろう。ありがたい。

 スマホを見せられた兵士の二人はスマホの画面を見ては二人で顔を見合わせるという行為を何回か繰り返した後、「はあ……」と、なんだか納得はいってないが、王が言ってるんだから大丈夫なのだろう。という内心が読め読めな反応をした。

 ゆっくりと俺を踏みつけていた足がどけられ、首元の槍もどけられる。

 俺はほっと一息つくと、痛い背中を擦りながら立ち上がり、こんなきれいな部屋に対してあるはずもない埃を落とすように服を叩く。


「すいません。助かりました」

「いやいや、こちらこそすまなかった。ほら、君たちも謝りたまえ」

「ゆ、ユウマ殿、早とちりをしてしまった挙句、数々の無礼をしてしまい本当に申し訳ございませんでした!」

「申し訳ございませんでした!」


 熱い掌返しを見せてきた兵士に俺は偉そうに言う。


「仕方ないなー。めっちゃ痛かったけど、セントラル王にこうまで言われちゃー、俺も許さないわけにはいかないよなー。でもなー、痛かったしなー」


 想像以上に痛く苦しかった体制と腹の立つ言葉の数々にい荒立っていた俺は少々強気になって兵士たちをいじめる。俺みたいなやつは上に立てるときに立っておかないと、こうやって偉そうにできないからやれるときにやっておこう。


「ほ、本当に申し訳ございません!」

「ございません!」


 なにこれ……。

 普段見下されてばかりだからか、こうやって相手を下に見れるの楽しい。

 今なら自分より下のやつをいじめてるやつの気持ちがわからなくも……なくないな。うん、なくない。

 いじめ良くない。ユウマいじめ反対。

 世界はもっと俺に優しくなるべきだと思う。


「はっはっはっ、ユウマ殿。それくらいにしてやってはもらえないだろうか。その二人にも悪気はなかったのだ」


 二人の兵士を見るに見かねてかセントラル王が笑って言う。

 さすがにこれ以上はセントラル王の逆鱗に触れるかもしれないので俺は大人しく引き下がることにする。長いものに捲かれて生きる、それは俺の生き方だ。

 将来は専業主婦か自宅警備員かニートという役職に就こうと思っていたくらいだ。学校の職場体験は自宅を希望したが駄目だったのも記憶に残っている。


「わかりました。こっちも紛らわしい真似をしましたしお相子ってことで」


 俺の言葉にさっきまで顔を青くしていた兵士二人がほっと息を吐く。


「それじゃあ二人とも、私たちはまだ話し終わっていない。場を譲ってもらえるね?」

「はっ! もちろんであります!」

「あります!」


 二人の兵士がセントラル王に敬礼をしてから去っていく。少し前と同じようにセントラル王は二人が部屋を出るのを確実に見送り、そして改まって俺を見た。

 あまり仲良くない人と話すとき相手の目を見て話すのは苦手な俺は、いつもなら視線をやや下に向けていかにも顔を見て話しているように見せかけているが、今回はそうしなかった。

 俺は口角をにやっと上げて笑いながら言う。


「本当の名前はなんて言うんですか?」


 その言葉にセントラル王は驚く様子もなく、むしろ俺と同じように笑う。

 俺は言葉を続ける。


()()()()()セントラル王様」


 初めて出会う。俺たち以外の異世界転生者に向かって俺は尋ねた。


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