12話
「さて、何か言うことはあるか?」
五体のコボルトを何とか退け、リリーナを救い出すことに成功した俺は、現在アイリスに『ヒール』を掛けてもらっているリリーナの言い訳を聞いてやろうとしていた。
リリーナはコボルトとの戦闘で何があったのか、黒のローブはところどころ切れてしまっていて、帽子もボロボロだ。その姿は意外と扇情て―――ゲフンゲフン。
「……私は悪くないわ」
「いや、どこからどう見てもお前が悪かっただろ。どこの世界に魔物の群れに突っ込んでいく魔法使いがいるんだ。それで倒せるならともかく、お前はボコボコにされてただろ。俺たちが助けなかったら今頃下手したら死んでたぞ」
「そ、そんなことないわよ。アンタたちが来なくても私一人でどうとでも……」
「そうか、ならもう一度行ってこい」
俺は少し離れたところにいる、コボルト三体のところへ『ヒール』の終わったリリーナの首根っこを掴んで引っ張っていく。
「ままま、待ちなさい! そうね、私も少し見栄を張ってたかもしれないわ。だからこうしましょ、今回は私とあんた二人とも悪かったってことで手を打ちましょ? ね? いい案でしょ?」
「そうだな。ど・う・で・も・いい案だな。それじゃあ行くぞ」
「わわわ、わかったから待ちなさい! 謝るから! 全部謝るから! だから少し待ちなさい!」
さすがにリリーナが反省の色を見せ始めたので、首根っこを掴んでいた手を離してやる。
「ぜえ、ぜえ、なんなのあんた……。悪魔かなんかなの? いいえ、悪魔なんてもんじゃないわ、あんたは魔王よ、悪の帝王よっ!」
「……どうやらお仕置きが足りなかったようだな。もう少し反省してもらうか」
俺は再びリリーナの首根っこを掴もうと手を伸ばす。
「は、離しなさいよ! なに!? あんたは自分のことを神様かなにかと思ってるわけ!?」
「さすがにそこまでは思ってねえよ……。ただお前みたいなやつには体で教えるしかねえって思っただけだ」
なんだか馬鹿らしくなってきた俺は伸ばしていた手を下ろした。
「……ユウマさんて、……たまに怖いです」
まずい。このままではうちのパーティーの癒し系マスコット、アイリスに嫌われてしまう。
「何言ってるんだアイリス。俺はこの先リリーナが一人でも、やっていけるように少し厳しいことを言っているだけだ。べつにイライラしてとか、虐めたくてやってるとかじゃないんだぞ」
半分は本当だから完全な嘘は言っていない。
もちろん本当のところはリリーナが一人でやっていけるように、というところである。けして、イライラしてとか、虐めたくてのところではない。
「ねえ、それよりあんた。さっきの戦い見せてもらったけど、なかなかやるじゃない。なんならあたしのパーティーに入れてあげてもいいわよ?」
やっぱり少しお仕置きが足りなかったかもしれない。でも、また引っ張っていくのも面倒だし、今回は我慢しよう。俺もこの短時間で大人になったもんだ。
そしてそんなリリーナの提案を俺は。
「だが、断る」
即答で拒否した。
「なんでよっ! この私のパーティーに入れるのよ! 中級魔法を使いこなし、やがては世界最強の魔法使いになるこの私のパーティーに入れるのよ。何が不満だって言うの!」
「いや、全部」
「なんなのよーっ!」
リリーナが大声で叫ぶ。反応自体は面白い。
「おいおい。あんまり大きな声出すなよ。魔物が寄ってきちゃうだろ」
そんなリリーナを俺は大人な対応で軽くあしらう。
全く、これだから大人なお子様の相手は大変なんだよなー。
といっても、リリーナと俺の年の差はあんまりなさそうだが。たぶんあっても、一、二才ぐらいだろう。
身長は俺より少し高いくらいで、髪は赤髪のロング。胸も大変よろしい大きさである。本当に性格がこんなんじゃなければ彼女にでもしたいくらいだ。
「そんなことはどうでもいいのよ! なんで私のパーティーに入るのが嫌なのかって聞いてるの!」
「なんだそんなことか。わかった、一から説明してやる。まず、別にお前の能力自体は評価している。むしろ俺たちには火力が足りないからぜひとも魔法使いの仲間は欲しいくらいだ」
そう。俺たちの火力不足を補うのにリリーナは申し分ないと思われる。まだ魔法を見せてもらったことはないが、さっき聞いた話ではかなりの実力者だ。そこに文句はない。
「ふふん。何よ、ちゃんと私の実力がわかってるじゃない。褒めてあげるわ」
褒められたことがそんなに嬉しいのか、自慢げにリリーナが胸を張る。そのただでさえ存在感のある胸が主張され、俺の視線を釘付けに……。
いやいや、アイリスがいるのにそんなだらしないところは見せられない。俺は咄嗟にリリーナから視線をアイリスに逸らした。
すると、アイリスはなんでいきなりこっちを向いたのか不思議だったのだろう。俺を見て、可愛らしく首を傾げた。
うん、癒された。
「ユウマさん。それならなんでリリーナさんとパーティーを組まないんですか? リリーナさんならスモールゴーレムを倒すのにも十分な火力になるかと」
アイリスが再び不思議そうに俺を見る。
そんなアイリスに俺はリリーナの可哀そうな点、欠点を教えてやることにした。
「確かにアイリスの言うとおりだよ。火力だけなら十分だ。俺だってさっきも言ったけど、そこは気にしてないよ」
「それならなんで……」
「いや、だって……。さすがに魔物の群れに突っ込んでいく魔法使いなんていらない……」
「「……」」
アイリスとリリーナが二人とも一斉に黙り込んだ。
と、思ったらリリーナが瞳に涙を浮かべ始めた。
ヤバい。直球に言い過ぎた。
「……ううっ……ひっく……な、なによ……。そ、そこまで言わなくても……いいじゃない……。わ、私だって……一生懸命やってるんだから……」
え? なんで俺が泣かしたみたいになってんの?
ちょ、アイリスもなんか俺を少し冷ややかな目で見てるんだけど! なに? これ俺が悪いの? いや、確かに泣かせたのは俺の一言なんだろうけど、いや、でもちょっと待て。ちょっと待てーっ!!
「わ、悪かった……。なんだ、その、言い過ぎた。なあリリーナ、もしよかったら俺たちとパーティーを組んでくれないか?」
結局俺はリリーナの提案を少し変えて受け入れることにした。
というか、選択肢がそれしかなかった。
「ふ、ふんっ! しょ、しょうがないわね。本当は私のパーティーに入れるつもりだったけど、今回は私があんたたちのパーティーに入ってあげるわ」
こうして魔法使いリリーナの俺たちのパーティー参加が決まった。
そして、今日の俺の教訓、女の子の涙はズルい。
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次の日。俺がこっちの世界に来てから六日目。
今日も俺とアイリスと昨日パーティーに加わったリリーナはギルドに来ていた。
そして今日はこの前アイリスと一緒に挑んでまるで歯の立たなかったスモールゴーレムへのリベンジ戦である。
「それじゃあ、この後スモールゴーレムを狩りに行くわけだが、その前にみんなのステ―タスを確認させてくれ」
そう言って俺は自分の冒険者カードをテーブルの上に置く。
それに習ってアイリスもリリーナも何も言わずに自分の冒険者カードをテーブルの上に出した。
「じゃあ、まずはアイリスからいってみるか。えーっと……おっ。アイリス、レベル二つも上がってるじゃないか。すごいな」
アイリスの冒険者カードを見てみると、レベルのところが最初は六だったのに八になっている。
「はい。ユウマさんと冒険するようになってからあんまり魔物さん相手に『ヒール』を掛けなくなったので、レベルが上がりやすいみたいです」
そう、アイリスは俺と組んでから魔物に『ヒール』を掛ける回数が格段に減ったらしい。話を聞いてみると、俺と出会うまでは毎回倒せそうなところまで行っても、とどめをさせずに回復してしまっていたそうだ。
それが、俺とパーティーを組んでから、三回に一回ぐらいに減った。実際俺が確認しているのでこれは確かな情報だ。でも、未だに〇にはならない。
それにアイリスが最初に言っていた毎回魔物に回復魔法を掛けてしまう件だが、正直最初は信じられなかったが、アイリスの性格を考えると自然と頷けた。
「レベルが上がったからいろいろとステータスが上がってるな。魔力もまた上がってるじゃないか。よかったなアイリス」
俺は無意識のうちにアイリスの頭を撫でていた。
また恥ずかしがって嫌がられるかと思ったが、なにやら嬉しそうに笑っているので問題なさそうだ。撫でられるときに撫でておこう。
「へえー。アイリスも小さいのに結構魔力高いのね。私ほどじゃないけど、かなり高い方だわ」
リリーナもアイリスの能力に少し驚いている様子だ。
「えへへー。ありがとうございますリリーナさん」
アイリスの方もリリーナに褒められてうれしそうだ。
「それじゃあ次はリリーナ。リリーナの強さは話しでしか聞いてなかったからな。期待させてもらうぞ」
「ええ、期待してもらって構わないわ。私のあまりの強さにショック死しないように気を付けなさい」
「あー。はいはい、それじゃあ拝借」
適当にリリーナをあしらい、俺はリリーナの冒険者カードをアイリスと一緒に覗き込む。今の俺とアイリスの距離は少し動けば頬をくっついてしまうぐらいの距離だ。なんだかいい匂いもする。
あ、アイリスの顔がこんなに近くに。童貞には刺激が強すぎる!
「ユウマさん……。やっぱりリリーナさんすごいですよ。私より魔力が高いですし、筋力や敏捷性も魔法使いにしては高い方です」
アイリスにそう言われて現実に戻ってきた俺は、リリーナの冒険者カードに再び目を向ける。
「……たしかにそうだな。レベルも十だし、俺たちの中で一番高い。スキルもかなり多いな。これが全部攻撃系の魔法ならかなりの戦力だぞ。相手の弱点を狙いやすいし、これからの戦いが今までに比べて圧倒的に楽になる。本当にすごいなリリーナ」
俺は素直にリリーナを褒めた。正直ここまですごいとは思ってなかった。
それに今言った通り、リリーナの冒険者としてのレベルは本当に高かった。
正直、なんで誰も仲間にしなかったのか不思議なくらいに……。
……いや、ほんとうはわかってるんだけどね。
少しキツイ性格とか、魔物の群れに突っ込んでいくところとかが迷惑だったのだろう。俺だって魔物の方はそう思う。
少しキツイ性格は気にしていない。リリーナのはツンデレだからむしろ嬉しいくらいだ。
「ふふん、もっと褒めてもいいのよ」
俺とアイリスの反応が大層お気に召したのか、リリーナが少し調子に乗り始めた。
でも、実際威張れるくらいの実力は持っているので、何にも言い返せない。
「にしてもほんとにすごいな。初級魔法、中級魔法の攻撃魔法を全部取得、それに加えて高速詠唱と魔力アップに各種攻撃魔法の属性強化。魔法攻撃だけなら本当にエキスパートだ」
俺は改めてリリーナの冒険者カードを見て、感嘆の声を漏らす。
「でしょ? よかったわねユウマ。こんなに優秀な魔法使いとパーティーを組めて。女神ラティファに感謝するのね」
「そうだな、すぐに魔物に突っ込む脳筋なところを除けばよかった」
「誰が脳筋魔法使いよっ!」
リリーナが周りの視線も気にせずに大声を上げる。俺はそんなリリーナの言葉に対し。
「お前だよ。リリーナ」
リリーナを指さした。
「……ユウマ、ちょっと外に出て話しましょうか。……もちろん力づくでね」
「それじゃあみんなのできることが確認できたし、スモールゴーレムを狩りに行くか。いこうぜアイリス」
なにやら少しご機嫌斜めのリリーナを無視して、俺は立ち上がり、アイリスに声を掛けた。
「無視すんじゃないわよっ!」
「ぶべらっ!!」
その瞬間、リリーナに後頭部を杖で思いっきり殴られた。
「ってーな。何すんだよこの脳筋魔法使い!」
「誰が脳筋よっ! こんなに美しい女性に向かって言う言葉じゃないわっ!」
「ユウマさん。今のは私も少し言い過ぎだったと思います。お願いですからいつもの優しいユウマさんに戻ってください」
「……うっ! アイリスにそう言われると弱いな……」
少し臨戦態勢だった俺はアイリスの言葉に戦意が少し落ちた。
しかし、リリーナは未だに怒りを抑えきれていなかったようで。
「……いいわ。私の実力を今ここで見せてやろうじゃないの」
そう言ってリリーナは杖を構えた。
「……え? おいっ。リリーナっ。お前なにしてるっ!」
そんな俺の制止も聞かずにリリーナは……。
「『ファイヤーボール』!!」
この後、俺とリリーナと何もしてないが一緒にいたアイリスはギルドのお姉さんにこっ酷く怒られた。




