16話
「それではみなさん。それぞれ衣装を合わせておきましょう。パーティー直前にやっぱりサイズが合わなかったでは意味がありませんから」
俺がアイリスたちを説得している間にエイトが連れ戻してきたセツコさんが言う。
ちなみにセツコさんの方の誤解のようなものもエイトを通してしっかり通した。ただ、それでもセツコさん的には思うところがあるのかあまり俺と目を合わせようとしてくれない。
目が合った瞬間に見ちゃいけないものを見てしまったように目を逸らされる。
「美人のお姉さんに養われた願望があった俺には辛い……辛すぎる」
涙が出そうになるのを必死にこらえ、何とか前を向く。
「それでは女性のみなさんは私についてきてください。衣装のある部屋までご案内いたします」
「「「はーい」」」
小学校の先生と生徒のような会話を交わした四人にエイトは呆れたように首を振る。
「まったくもー、セツコさんは固いよ。そんなんじゃみんなも緊張しちゃうじゃないか」
「し、しかし……。私にはこういう話し方しかできん」
「まあまあエイト、そう攻めるなよ。みんな気にしてないし、俺の居たところではああいう喋り方も需要があるんだ。おばあちゃんみたいな喋り方の小さな女の子とか、やたら罵倒してくる女の子とか、上から目線のお嬢様とか」
「そうなのかい? それは少し興味深いな」
散々迷惑をかけたセツコさんにせめてもの助け舟をと差し出した船は見事にエイトを乗せることに成功した。
「ユウマの言う通りですよエイト様。私たちは全然気にしてませんし、セツコさんの喋り方、なんかカッコいいです」
「ふふっ。そう言ってもらえると同じ専属騎士としてありがたいよ。ありがとうミカさん」
「ふぁ、ふぁい! 名前呼んでもらえた……」
「……」
目をハートにさせ乙女全開のミカに俺が呆れる中、リリーナとアイリスも少し困ったような視線をミカに送る。そんなことに気づくことのないほど盲目になっているミカはエイトの好感度を上げようと必死だ。
「セツコさん。今のミカの言葉を聞いてわかってくれたとは思うけど、気にしないでな」
「あ、あぁ、すまない。ユウマ殿」
本来の目的であるセツコさんのフォローを最後にびしっと決める俺。そしてセツコさんの照れくさそうなお礼の言葉に顔を緩める俺。
エイトに夢中なミカと、セツコさんにある種の憧れを持つ俺。幼馴染というのは程度の違いはあるのもののこうも似るものなのか。
「ユウマ!」
「な、なんだよミカ。急に大声出すなよ。心臓飛び出るだろ」
「そ、それは大変です! すぐに『ヒール』を!」
「待ちなさいアイリス。あれは比喩表現よ。ユウマの言うことなんていちいち真に受けないの」
「そ、そうなんですか?」
ミカの大声に驚く俺の冗談をアイリスが真剣に受け止めリリーナがアイリスに冗談だと余計なことまで付け足して話す。
あとで覚えとけよ。リリーナ。
「それよりなんだよミカ。そんなに怒ったような顔して、ただでさえあれな顔がさらに残念になるぞ」
「ふんっ!!」
「―――」
俺の右耳のすぐ横をミカの拳が風を切って通り過ぎる。髪の毛が数本宙に舞った。
やばい、死ぬ。
「……ないで」
「な、なんと?」
「……呼ばないで」
「なにをでしょうか?」
繰り出された拳が俺の顔のすぐ横に停止したままの状態なので、俺はふざけたことなど抜かさずに真摯に丁寧に対応する。
怖いものは怖いのだ。逃げて何が悪い。
ユウマ、ジブン、ダイジ。
「だから、私の名前を今呼ばないでよって言ったの!」
言っている意味が分からずに疑問を浮かべる。
視線を少し動かしてリリーナたちの方を盗み見るも、今回はさっきの冗談以外俺に比はないと二人も思っているのかアイリスもリリーナもわからないという表情で俺を見る。
頼みの綱とセツコさんとエイトの方を見ると、セツコさんは「すなまい」と、まるでこれから俺が殺されるんじゃないかってほど重たい謝罪をし、エイトは黙って笑っている。
アイツ、絶対に楽しんでやがる!
「なしてでしょう?」
結局俺は本人の口から答えを聞くことにした。
しかも、あまりに困惑して訛った。
「せっかく……せっかくエイト様に名前を呼んでもらえたのに……ユウマの声で汚さないでよ!!」
「ひどくね!? 俺何も悪くないよね!?」
あまりにもとんでもなくひどい言葉にさすがの俺も驚き傷つく。
まさか、そんなことで幼馴染にこんなことを言われる日が来るなんて思いもしなかった。
本当にひでー……。俺でなきゃ死んでるよ絶対。精神的に追い詰められて。
「君たちは本当に面白いね……くくっ」
「おいそこ! 笑ってんじゃねぇ!」
本当に楽しそうに笑いをこらえているエイトに怒声を飛ばす。
「ゆ、ユウマ殿……。その、なんだ気にしない方がいい」
「セツコさん……」
セツコさんの不器用ながらも優しさと温かさのある言葉に俺は嬉しくなる。
「わ、私も今回のはユウマさんは悪くないと思います!」
さらにアイリスの援護。
こんなに嬉しいことはない。
ただ、アイリスが少し不機嫌そうに頬を膨らませているのが気になる。
なんでだ?
「アイリスもありがとな」
「は、はい!」
アイリスにもお礼を言いつつ頭をなでてやるとアイリスは気持ちよさそうに顔を歪ませた。やっぱりさっき怒っているように見えたのは気のせいだったのだろう。
天使であるアイリスが怒ったりなどするはずがない。
だって天使だもん。
「はあ~……セツコさん。もう行きましょ。このままここでふざけてたらきりがないわ」
俺たちの会話に特に参加するでもなく、大人しくしていたリリーナが呆れたように言った。
「そうですね。それでは改めて女性の皆さんは私についてきてください。ユウマ殿の方はエイトが案内してくれます。エイト、くれぐれも失礼のないように」
「信用ないなー、僕」
エイトと短い会話をした後セツコさんはアイリスたちを連れて部屋を出て行った。
「そういうことだからよろしくユウマ」
「あぁ。よろしく……」
「ユウマはとことん自分に素直だね」
「だろ」
セツコさんが居なくなって明らかにテンションを下げる俺に特に苛立った様子もなく対応してくるエイト。
ホントにいい性格してるよ。
「それじゃあ僕らも行こうか。場所は訓練場の方だから」
セツコさんやアイリスたちと別れ、エイトと二人並んで訓練場の方へ向かって歩いていく。訓練場に近づいていくほど自主練なのか、なにかのメニューなのかわからないがそれぞれ自分の武器を振るっていた。
「今夜は遅い時間まで警備があるんだろうにご苦労なこって」
自分なら絶対に体力温存とか言って訓練なんてしないと思いながら訓練に励む兵士たちに横眼を向ける。
「警備って言ってもこれだけの人数がいるからね。確かにこの城は大きいけど人数的には全然余裕があるし、交代だってできる。手を抜くとか慢心してるとかじゃないけど、みんなそんなに深く考えてるんじゃないんだよ」
「はーん。王国の兵士って言ってもやっぱり人間なのな」
「そりゃあそうだよ。ユウマがさっきセツコさんに言ったように王国の兵士である前に一人の人間だからね」
エイトとそんなやり取りを交わしながら歩いていると、ようやく訓練場に着いた。
俺たちがセントラル王との会見を終えた後に案内された部屋からここまで十分近くかかったぞ。どんだけ広いんだこの城。
ここまで広いと逆に住みたくないぞ。
「……ユウマ。ちょっといいかな?」
「ん? なんだ? ちょっとだけだぞ」
隣を歩いていたエイトが突然止まったので、俺も車と同様すぐには止まれなかったが、二三歩ほど進んでから止まった。
俺が後ろを振り返ってエイトの方を見ると、エイトは表情はそのまま、なんてことないような顔ですぐ横にある訓練場の広場を指さした。
「向こうに何かあるのか?」
「うん。訓練場があるよ」
「そりゃあ見ればわかる。そこに何があるのかって聞いてるんだ」
エイトの指先に首を向けた俺視界にはただのだだっ広い訓練場が広がっている。学校の校庭くらいはあるかと思われる訓練場ではたくさんの兵士たちが剣を交え、槍を突き出し、弓を引いていた。
逆に言えばそんなこの場所なら当たり前であろう光景しかなかった。
「いやね、実はずっと気になってたんだよ」
「だからなにが」
「君の実力だよ」
エイトが顔色一つ変えずに俺を真っすぐ見つめてそう言った。
「……どういうことだ?」
なんとなく意味はわかっているが、勘違いの可能性もあるので確認をする。
そんな俺の言葉にエイトは「全く、わかってるくせに」と、かわいい女の子になら言われてみたいセリフを言う。
「ユウマ……手合わせをしてくれないか?」
やっぱりそうだよなー。
「嫌だ。これから疲れることしなきゃいけないのにわざわざ自分から疲れようとは思わない」
無駄だとは思うが俺は抵抗を試みる。
まあ、本当に無駄だとは思うが……。
「まあまあ、そう言わないでよユウマ。僕と君の仲じゃないか」
だよなー。
諦めてくれないよなー。
「出会ってまだ半日も経ってないんだが」
「それに近い時間は経ったと思うよ?」
「あのなー……。何度も言うけど俺って雑魚よ? イニティでも下から数えた方が早い冒険者よ? レベルだって1だし、魔王幹部を倒したって言ってもほとんど俺以外のパーティーメンバーとイニティの街の冒険者たちのおかげだぜ? 俺ってばみんなの後ろに隠れて見てただけよ?」
実際は俺なりにちゃんと指示を出してたり、行動をしていたりしたが、結局のところほとんどはアイリスにリリーナ、ミカのおかげだ。
アイリスの回復魔法と補助魔法、リリーナの天然チート魔力、ミカのラティファからの贈り物である『金剛力』。どれも欠かせないものだった。
「謙遜はもういいよユウマ。レベルだって1なわけがないだろ? さすがに冗談が過ぎるよ。魔王の幹部を相手取るなら最低でも50以上は必要だろう。イニティに突如現れたすごい能力持ちの冒険者だったとしても40は必要だって僕は思ってる」
「……」
エイトの発言に俺はそれこそ目が飛び出す勢いで驚く。
え? 魔王幹部ってそんなに強かったの? 確かにヴォルカノと戦った時も一歩間違えれば死んでただろうけど、レベルそんなに必要なの?
確かあの時の俺たちのレベルって俺は案の定一桁、他三人が20前後だったはずだぞ? 他の冒険者たちだってそう変わらないだろう。
「とにかく、少しでいいんだ。手合わせをお願いするよ」
このまま無駄なやり取りを続けるのも不毛だ。
エイトのいつになく真剣な目を前に俺は面倒なことになったなー、と内心思いながら大きなため息を零しつつ、俺は手合わせをするのを条件付きで了承することに決めた。
「わかった。そこまで言うなら俺の実力見せてやるよ。弱すぎてビビんなよ?」
「ふふっ。そこはすごすぎてとか、強すぎてじゃないのかい?」
「じゃないから俺も恥ずかしいし、悩ましいし、困ってるんだよ。……ただ、条件付きな」
「条件……?」
「あぁ、そんなに難しいことじゃないから安心してくれ」
不思議そうな顔をするエイトに俺はなんてことなしに言う。
実際、なんてことないのだ。
「それじゃあ条件なんだが―――」
「これでいいのかいユウマ?」
あれから少し時間が経過して、俺とエイトは既に衣装合わせを終えたアイリスたちとその案内をしていたセツコさんと合流していた。場所は変わらず訓練場。
しかし、変わったこともある。それは周りに俺たち以外のギャラリーが増えていることだ。なぜだか知らないが、いや、エイトが俺と手合わせをするからだろうけど、城の兵士がこぞって集まっている。
ざっと数えても三十人以上。注目を集めるのが苦手な俺には辛すぎる環境だ。
「あぁ……なぁ、今からでも考え直さね?」
「悪いけど珍しく僕もやる気になっててね。今更剣を収めるのは少し難しそうだよ」
「そかですか……」
エイトのやる気に満ちた様子に俺は落胆する。
だから苦手なんだよ爽やかイケメン。違う、イケメン全般。
「ユウマさん、ホントに大丈夫ですか? 王国の専属騎士と模擬戦とはいえ手合わせなんて……」
この中で唯一俺をまともに心配してくれているアイリスが話しかけてきた。
心底心配そうに胸の辺りで両手を合わせているアイリスに俺は小さく尊いとつぶやき、僅かながらの癒しを得る。
「いや、さっきのやり取り見てわかると思うけど俺だって嫌なんだよ。でも、エイトがやる気になっちゃって」
素直に俺が先ほどまでのエイトとのやり取りを話すと、アイリスはどうしようもなさそうなことを悟ったのか、顔を少し暗くした。
そんなアイリスを見ていられないお父さん兼お兄ちゃん兼未来の旦那様である俺は心配を掛けまいとアイリスの頭に手を撫でる。
銀色の髪が手に引っかかることなく手を左右に揺らしていると、アイリスは少し安心したのか顔を赤くしながら俯く。
可愛い。尊い。
俺が紳士じゃなかったら誘拐してるね。
―――皆さん。俺、今日で紳士辞めます。
「心配すんなアイリス。もしもの時のためにアイリスがいるんだぞ? 俺にもしものことがあったら回復魔法頼むな?」
「はい! 任せてください! 例えユウマさんが死んでしまっても絶対に生き返らせて見せます!」
「おいおい、勝手に殺さないでくれ……気持ちは俺もわかるけど……」
俺の出した条件は二つある。
その一つが今アイリスと話していたもしもの時の回復だ。
エイトは俺をかなりの実力者だと思っている。本来実力に大きな差がある者同士が手合わせをする場合、強い方は弱い方の剣を往なしたり、交わしたりするのが普通だが、エイトは俺を下に見ていない。むしろ上に見ているまである。実際はかなり下なのにだ。
そんな状況で手合わせをして、エイトが俺が受け止めると思って全力で剣を閃かせたら俺は一瞬で体の一部とお別れをすることになる。
そんな時にこの広い城から回復魔法を使える人を探していたら、俺は間違いなくその間に死ぬ。
だから俺は救護班としてアイリス達にも模擬戦を見てもらうことにした。
これで、もしもがあってもアイリスが大体のことはどうにかしてくれる。
問題があるとすれば死んでしまった場合と、みんなにに無様な姿をさらさないといけないことだ。
「ユウマ殿、本当にいいのか? もし本当に嫌なのでしたら私がエイトを説得しますが……」
俺とアイリスが話しているとセツコさんがアイリス同様心配そうな顔絵でやってきた。
「お気持ちは嬉しいですけど、大丈夫です。どうせ今断ったって、いつかは絶対に同じことになります。それなら早いこと事を済ませて本当の俺の実力を見て落ち込んでもらった方がいい」
「ですが……」
「大丈夫ですって。でも、もしもの時はさっきお願いしましたけどお願いしますね?」
「それはもちろん。私もそんなことは望んでいないですから」
凛とした顔で任せてくださいと胸を張るセツコさんの胸に視線を動かさないよう、必死に自制しきれずに目を向ける。
男は正直に生きるべきだとユウマは思います。
そして、これが俺の出した条件の二つ目。
アイリスの回復魔法は本当に最後の最後の手段だ。
最初からやられることを想定して動くのはあまりによろしくない。主に俺の身体と精神的によろしくない。それに、アイリスとはいえ亡くなった命を蘇生することはできなのだ。
つまり、一撃必殺をもらっただけで俺の勝負どころか人生が終了する。
実際はまたラティファの言う俺の能力で生き返れるのかもしれないが、俺はその能力をしっかりと把握していない。次も確実に生き返れるとは限らないのだ。
だから、もしもの時に戦闘を中断できる存在が必要だった。
それがセツコさん。
エイトと同じお嬢様の専属騎士となれば実力だって近いものだと考えるのが普通だ。
「それじゃあアイリス、セツコさん。もしもの時はよろしく」
「はい!」
「お任せを!」
最後にもう一度アイリスとセツコさんにもしもの時のことを頼み込み、俺は既に準備を終えて俺のことを待っているエイトの正面、少し離れた位置まで移動する。
もう少しで勝負開始位置まで着くところで俺は足を止め、リリーナの方を見やる。
「……もう一つくらい保険を掛けておくか。保険はいくつかけておいても損はないだろ。金は入らないけど」
いざ勝負となるとやっぱり怖くなった俺は、時間稼ぎも含めて保険をもう一つ掛けておくことにする。
俺はミカと一緒に並んで立っているリリーナの元へ足を向けた。
「何よユウマ。まさかここまできて怖気づいたのかしら?」
「バカ言え、最初から怖気づいてるっつーの。足が震えてないのが不思議なくらいだぜ」
リリーナがかっこ悪いわね。といいたそうな顔で俺を見た。
しかし、俺はそれに気づかないふりをする。まともに受け止めたら俺……精神的に死ぬ。
「それで何の用なのかしら? わざわざお別れの言葉を言いに来たんじゃないでしょ?」
「当たり前だ。もしもの時の保険を増やしに来た」
「保険?」
リリーナ言葉の意味を理解できずに端正に整った顔に疑問を浮かべる。
本当にコイツは性格を除けばかなりの美少女なんだよなー。
俺よりやや高いくらいの伸長。炎のように真っ赤な挑発と、ルビーみたいな赤くてきれいな瞳、同じ人間なのか疑いたくなるくらい長いまつ毛。顔だってセツコさんほどではないものの凛としていて、肌は雪みたいに白い。体つきもボッ、キュッ、ボンを体現したような理想的な体型。
服装こそ魔女らしい大きな黒帽子に少しリリーナ自身のアレンジが加わって可愛くなっている黒のローブだけど、それすらも着こなしているんだからすごい。
「ほんと、あとは性格だけなんだよな……」
「うっさいわね!! それより保険って何よ!」
ついこぼしてしまった本音にリリーナは俺が何を言いたいのか悟ったらしく怒りをあらわにする。
「あー、保険っつーのは、俺がヤバそうになって、セツコさんの対応が間に合わなかったら俺のことを風魔法辺りで軽く吹き飛ばしてくれってお願いだ」
「は? なんで私がユウマのためなんかにそんなことをしなきゃいけないのよ。いやよ、やられるなら大人しくやられなさい」
「いいのか、そんなこと言って? 俺が死んだらアイリスもミカも悲しむぞ。今のミカはちょっと怪しいが、少なくともアイリスは泣いてくれるだろうなー。そして、お前はそんなアイリスの姿を見て罪悪感を抱くわけだ」
「うっ……」
半ば脅しに近い俺の言葉にリリーナが言葉を詰まらせる。
意外と俺以外の仲間に対しては優しいリリーナだ。
「……わかったわよ。私も、あんたの汚いしたいなんて見たくないしね」
「はいはい。ツンデレごちそうさま。でも、行き過ぎると人気なくすぞ」
「人気なんていらないわよ! とういうか誰からのよ!」
「読者……?」
「頭大丈夫?」
本気で心配されてしまった。
しかもリリーナから。
「とにかく頼んだぞ」
俺は逃げるようにしてリリーナに背を向ける。
「ユウマ!」
俺が今度こそ覚悟を決めるしかないか。と、ため息交じりに開始位置まで歩こうとするとミカが俺を呼び止めた。
これはあれか? 幼馴染が危険に立ち向かう主人公に「頑張ってね」だの「生きて帰ってきてね」とか言うあれか?
さすがミカ。いくらエイトに見惚れていても最後の最後には幼馴染を心配してくれる。これぞ幼馴染の鏡ってやつだな。
俺は嬉しくなって勢いよく後ろを振り返る。
するとミカはこちらに近づいてきて、少しでも動けば華どころか唇がくっつきそうな距離まで近づいてきた。
「ユウマ……」
「な、なんだ?」
いくら見慣れた幼馴染の顔とはいえ、これだけ距離が近いとさすがに意識してしまう。
ミカだって、それなりの美少女なのだ。リリーナほどきれいな感じではないし、アイリスほどかわいいというわけではないが、こう、どっちつかずな感じがミカらしいというか、美少女感を漂わせている。
気さくで話しやすく、面倒見も良いということで俺がちゃんと学校に通っていた時の時に限るが、ミカはクラスの男子から人気があった。
一番ではないにしろ、常に上位をキープしていた。
肩まで伸びたやや短い茶髪に、少し幼さを残している顔立ち、身長は俺と同じくらいで、スタイルについては平均的、これだけ聞けばザ・普通の女の子、みたいに思えるかもしれないが、性格も含めミカはかなり美少女の部類に入ると思う。
そんなことを思いながら近すぎる距離に困惑する俺にミカは言った。
「エイト様を気づけたら許さないから」
「……」
「ちょっと、ちゃんと返事してよ」
「……んな」
「え? なに?」
「ざっけんな! ここはふつう幼馴染の俺を心配するところだろ! ケガしないでね。とか無理はしないでね。とかさ! それなのにイケメン傷つけるなってなにさ! 俺の純情返せよ! あーあ、ユウマ傷ついちゃったー。幼馴染の心無い言葉でユウマ傷ついちゃったぁー」
不貞腐れる俺。
でもここで不貞腐れないのは無理ではないだろうか。
「はあ~……ユウマのことだって心配してるにきまってるでしょ。二人ともケガしないでねってことに決まってるじゃん」
ミカが呆れた様子で言う。
そんな適当な言葉に俺は少しうれしくなった。
男って単純。ユウマはもっと単純。
「だったら最初から言えっての。それじゃあ行ってくる」
「はいはい。いってらっしゃい。夕方までには帰るんだよー」
幼馴染とふざけた会話を終えた俺は、今度の今度こそエイトの正面に立つ。
「随分と長く女性陣と話してたけど、楽しかったかい?」
「あぁ、俺くらいの男になるとモテすぎて困っちまうぜ」
「それはいいことだね。それじゃあ、始めようか」
「やっぱりお前のそういう余裕そうなとこ嫌いだわ……」
冗談に強者の余裕で返され、居たたまれなくなる俺。
「それじゃあ最後にルールの確認をしておこうか。お互いの認識の違いがあっても困るからね」
「そうだな」
「ルールは時間無制限。先に相手から一本取った方が勝ち。これはまぁ、実際に攻撃を入れたら致命傷になるだろう攻撃をできた方が勝ちってことで、武器は何でもあり、近距離、中距離、遠距離、魔法、何でもオッケー。こんなところかかな。ユウマの方もこれでいいかい」
「大丈夫だ。問題ない」
一回言ってみたかった。
使い方が少し違うけど。
「それじゃあセツコさん。審判お願い」
「わかった」
エイトの言葉にセツコさんが返事をし、セツコさんが俺とエイトの間に立つ。
「それでは模擬試合」
セツコさんの声に耳を傾けつつエイトと俺は視線をぶつける。
アイリスたちはそれぞれ違う反応を見せる。俺を心配するアイリス。特に思うこともなさそうなリリーナ。エイトにハートの視線と黄色い声援を送るミカ。
おい、幼馴染!
「開――――――」
俺とエイトはそれぞれ訓練用の木剣を構える。
そして、セツコさんの「始」の声を待つ俺たちに次に聞こえてきたのは、セツコさんの声ではなかった。
「随分と楽しそうなことをしているみたいだの」
「セントラル王!」
突然現れたのはセントラル王。
セツコさんが驚きの声を上げる。その声に俺たちも少し遅れて反応し、周りの視線がセントラル王に集まった。
「エイト、ユウマ殿と何をしようとしてるんだね?」
セントラル王のなんてことのないが、どこか威厳のある質問にエイトはしっかりとした対応をする。
「はっ。実はユウマ殿に模擬戦をしていただこうと思っていたのです。魔王幹部を倒したほどの冒険者なので、ぜひとも自分の実力がどこまで通用するのか試してみたくなりまして、ユウマ殿にお手数を掛けるのを承知でお願いいたしました」
俺と話すときとは違い礼儀正しく言葉遣いも整ったもので説明するエイトにセントラル王は顎を撫でる。
そんな行為一つで威厳があるように見えるんだから王様ってすごい。
あとエイト、何度も言うが俺にそんな実力はない。
「そうだったのか。それだと少しエイトには申し訳ないことをしてしまうな」
「どういうことでしょうか?」
「実は少し時間に余裕ができてね。個人的にユウマ殿と話がしたいと思ってユウマ殿を探していたのだよ」
……。
マジかよ……。
「そういうことでしたか、そうでしたらぜひとも私など気にせずにユウマ殿とお話しなさってください」
「そうか、すまないな。それではユウマ殿、少し老体の話に付き合ってはもらえないだろうか」
「も、もちろんですセントラル王……」
俺は冷や汗をたっぷり掻きつつ、エイトとの模擬戦を乗り切れたと思ったら追い打ちをかけられたこの状況に自分の運のなさを実感する。
「それでは場所を変えよう。私の部屋までついてきてほしい」
そういってセントラル王は歩き出す。
周りに集まっていたギャラリーはバラバラに散っていき、アイリスたちは自分たちはどうしようかとセツコさんたちと話し合っている。その中で俺との戦いを楽しみにしていたエイトだけがいつもの爽やか笑顔を顔に貼り付けたまま、少し残念そうに俺を見る。
そんなエイトの顔に俺は内心少し悪いと思いつつも、重たい足取りでセントラル王の後に続く。
「王様と二人っきりとか正直最悪だが、確かめたいこともあったし、まあいっか」
最後に俺は小さくそうつぶやき、覚悟を決めた。




