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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第六章
128/192

15話

「じ、地獄だ……」

「そうですね……」


 セントラル王との会見を終え、一先ず休憩をと案内された客間で俺とアイリスはやたらと豪華そうなソファーに身をゆだねつつ、大きなため息をこぼしている。それももう何度目になるかわからないほどだ。


「もう二人とも、ため息吐きすぎだよ。もう決まっちゃったことなんだから、おいしいもの食べて楽しんでやろうくらいの気でいないと!」

「ミカ……お前、『金剛力』の能力で頭の中まで筋肉になり始めてないか?」

「ないよ!? 頭の中も体も女の子らしくぷにぷにだよ!」

「脂肪で?」

「せいっ!」

「ハルバード!!」


 本格的に冗談でも言ってないとドンドンと気落ちしていきそうだったので頑張ってみたら、幼馴染に鳩尾を強打されました。理不尽。


「ほら、アイリスちゃんも緊張するのもわかるけど覚悟決めないと。大丈夫だよ。隅っこの方でおいしいもの食べてたらすぐ終わるって。エイト様やセツコさんも気を使ってくれるって言ってたし」

「は、はい……」


 いつもならミカの今の言葉で少しくらいは元気を取り戻すアイリスもセントラル王との会見の後、なおかつ、今までよりも緊張感のある出来事のせいか、しょんぼりしたまんまだ。

 しょんぼりアイリスかわいい。


「もーう。少しは私やリリーナを見習いなよ。ほら、こんなに堂々としてる」


 そう言ってミカはこの部屋に来てから一度も口を開いていないリリーナの隣まで歩き、そこまでない胸を張った。


「ごめんミカ……。今回ばかりは私もユウマとアイリスと同じ気分よ」

「えぇっ!?」


 仲間に裏切られたミカが心底驚いた声と顔をし、リリーナを見つめる。

 俺も下ばかりを向いていてもスカートの中身は見えないので上を向くと、確かにリリーナの表情はいつもより少し硬いように思う。


「なぁ、なんか王都に来てからお前変じゃないか?」


 王都に来て以来、なぜかやたらと様子のおかしいリリーナ。いつもみたいに自信満々だったかと思えば、急に自信を失って消極的にもなったりする。そんな精神的不安定な人みたいな行動ばかりのリリーナ。

 ちょっとくらいならリリーナでもこんな日くらいあるか。と、思えたかもしれないが、ここ数日リリーナの調子はおかしい。

 それに、さっきのセントラル王との会見の時も、様子がおかしかった。いくら狂犬脳筋魔法使いとはいえ、リリーナは以外にも、ちゃんとした場での礼儀は正しい。それは、素人の俺から見ても気品のようなものを感じるほどに。それほどのやつが、セントラル王との会見だったとはいえ、暴走するだろうか?

 これは何かがあると、ユウマレーダーが言っている。


「そういえば焦ってて忘れてたけど、リリーナのこと見てセントラル王何か言おうとしてなかったか?」


 俺の記憶が正しければリリーナが暴走をする直前にセントラル王はリリーナを見て何か驚いたような顔をしていた気がする。緊張してたし、距離もそれなりにあったしで、確信はないがそんな感じがした。


「ななな、なに言ってるのよユウマ! そんなわけないでしょ!?」


 俺の言葉にリリーナがなぜか慌てふためく。

 これは何かあるぞ。


「そうか~? 俺のレーダーは何かあるってビンビン言ってるんだけどな」

「ば、バカね……。いくら私が天才魔法使いだからってセントラル王と知り合いなはずがないでしょ? 全く、バカなのもほどほどにしてよね」


 そう言っていつものように、正確に言えばいつものように振る舞うリリーナ。

 しかし、目線が泳いでいるし、声にいつもの強気な感じがない。なんというか、お母さんに嘘をつく小さな子供のような反応だ。


「リリーナさん。前に王都に来たことがあるんですか?」


 俺たちの話を聞いていたアイリスが会話に参加してくる。ミカもミカで喋ってはいないものの、会話の内容に興味はあるようで耳を傾けている。


「あ、アイリスまで何言ってるのかしら。ユウマのバカがうつっちゃったんじゃないの。あー、いやねー、これだから感染性のバカは」

「それで、どうなんだ?」


 リリーナは俺を怒らせていつもの言い争いにもっていきたかったようだが、そこまで俺はバカじゃない。ここまで慌てているリリーナは珍しいし、ここで逃がしたらこの後も絶対に逃げられる。

 だから俺は腹が立つのを堪え、さらに追及する。


「早く吐いて楽になっちゃえよ」

「……気持ち悪くなんてないわよ」

「誰が汚ねぇもん吐けって言ったよ! 隠してることを吐けって言ってんだよ!」


 どうにも煮え切らない様子のリリーナにさすがの俺も堪忍袋の緒が切れそうになる。


「ねぇ、リリーナ。言いたくないならそれはそれでいいんだけど……私たちってそんなに信用ない?」


 今まで黙っていたミカがいつになく大人しい声と表情でリリーナに尋ねた。その質問にアイリスはハッと不安そうな顔をし、リリーナはそんな二人を見て慌てた顔をする。

 おい、俺に対する反応と違いすぎませんかね?


「そんなはずないでしょ!」


 リリーナはすぐにミカの言葉に反論をした。


「じゃあ、なんで……」


 教えてくれないの?

 おそらくそう続けられるはずだったミカの言葉を遮り、部屋のドアが開かれた。


「失礼するよ。……もしかしてお邪魔だったかな?」


 部屋に入ってきたのはエイトとセツコさんだった。

 二人は少し深刻な雰囲気になっている俺たちを見て、表情を変える。

 誰からも喋り辛いこの状況で口を開けるのは空気を読めてはいるけど、読もうとしないことに定評のある俺くらいだろう。


「いや、そんなことはないぞ。それで、何の用だ? もしかしてもうパーティー始まる感じ?」


 いつも通りの俺でエイトとセツコさんに返事をする。

 二人は顔を見合わせて少し困ったような表情をしてから、俺の調子をみて安心した顔をする。


「パーティーはまだだよ。ただ、お客様を放っておくのもどうかと思って様子を見に来たのさ」


 エイトがさわやか笑顔で言う。


「えーっ! そ、そんな~、わざわざすいませ~ん。私たちなんかのために~」


 さっきまでの感じはどこに行ったのか、ミカはエイトにメロメロだ。

 これでは半分くらいの確率でしか命令を聞いてくれそうにはない。

 ……元から聞いてくれるような奴じゃないけど。


「あはは、お客様なんだから面倒でも何でもないよ」

「エイト、それよりも早く本題を」

「あ、それもそうだね」


 エイトとセツコさんが短いやり取りを交わす。

 会話の内容的にただ様子を見に来たわけではないようだ。


「実は、この後のパーティーでの服装のことを相談しに来たのです」

「服装……ですか?」


 セツコさんが言葉にアイリスがインコのように言葉を返す。

 いや、アイリスとインコは並べるものじゃないな。可愛さでもなんでもアイリスの方がインコよりも上だ。

 そんなどうでもいいことこの上ないことを思いながら様子を見守る。


「私たちとしてはユウマ殿たちにそのままの格好でパーティーで参加してもらっても構わないのだが、そうすると周りの貴族たちから変な目で見られてしまうかもしれないと思い、相談しに来たんです」


 なるほど。

 確かにセツコさんの言う通り、俺たち冒険者が貴族たちの中にそのまんまの格好で紛れ込んだら浮いてしまうだろう。相手は貴族。どうせド派手な格好で俺たちのような冒険者のことは下に見ているだろう。

 そんな奴らの中にいかにも冒険者ですという格好でいたら確かに嫌な目で見られるかもしれない。俺は目立ちたくないし、アイリスやリリーナ、ミカが変に見られるのも腹が立つ。


「でも、私たちパーティーに着ていけるような服持ってないよ。ユウマだって、さすがに『裁縫』スキルでドレスとか作ってないでしょ?」

「ドレスはさすがになぁ……。作ってみたいとは思ったけど、材料費とかすごそうだし、作り方もメイド服とかと違って複雑そうでな。見本でもありゃ試してはみたんだが……」

「でも、作ろうとは思ったんだね……」


 ミカから聞いてきておいてなんだと文句を言いたくなるような冷ややかな視線をもらいつつも、俺はセツコさんやエイトの前ということで仕返しは我慢してやった。

 さすがにミカ相手でもエイトやセツコさんの前ではかわいそうだからな。幼馴染の優しさに感謝しろよ。


「今から作ったりはできないんですか? 見本はお店とかに行けばどうにかなると思いますし、お金は仕方ないと思うしかないんじゃないでしょうか?」


 アイリスが口を開く。

 確かにアイリスの言う通りかもしれない。というか、実際俺達にはそれくらいしか選択肢が残されていない。

 ただ、問題が一つ。


「さすがに時間がなぁ……」


 俺はこの世界で拾ったスマホで時間を確認する。

 充電が切れたら終わりだと思っていらこのスマホだが、物は試しとばかりに俺が威力を抑えに抑えた雷属性の初級魔法を充電口に当てると、見る見るうちに充電は回復していった。

 そのおかげで今ではカメラ、電卓、メモ、時間の確認と、日本にいた時よりは制限が多いものの便利ではある。

 そしてそのスマホは今の時刻は午後の五時だと言っている。

 セントラル王はパーティーは夜からだと言っていた。セツコさんに正確な時間を確認すると、パーティーは夜の八時から。残り時間はあと三時間。


「さすがにこの残り時間で見本を探しに行って、三人分のドレスを作るのはなぁ。俺はどうでもいいけどさ」

「諦めるしかないんじゃない? あんな奴らには思いたいように思わせとけばいいのよ。実際のことは私たちが良く知ってるんだから」


 さっきまで口を閉ざしていたリリーナが口を開いたかと思ったら、いつになく真面目で照れくさいことを口にした。言った後で気が付いたのか、リリーナは「勘違いしないでよね! ユウマだけは別だから!」と、顔を赤くしながら、ツンデレごちそうさまですなセリフまでオプションで付けてくれた。


「とまぁ、俺たちの事情は今のでわかってもらえたと思うけど問題ありますか?」


 話し合いを聞いていたから説明もいらないであろうセツコさんに俺は問いかける。

 エイト相手だったらタメ語でいいが、セツコさんにはどうしても敬語を使ってしまう。なんかお姉さんっぽくてタメ口を使うのが憚られる。さっきのこともあるし……。


「いえ、私たちも突然パーティのことを話したのでユウマ殿たちがそのような衣装を持ち合わせているとは到底思ってもおりません」

「ん? じゃあなんで来たんです?」


 もっともな質問を俺がみんなを代表してする。


「あはは、ユウマ。簡単なことだよ。こっちで衣装を貸し出そうかってこと。聞きに来たのはもしかしたらユウマたちがそれを拒むかもしれないから。そういうことなんだよ」

「あー、なるほど。納得した」


 不足していた説明をエイトがしてくれる。


「でも、貸し出し用の衣装とかあるのか?」

「もちろん……と、言いたいところなんだけど生憎そういうのはなくてさ」

「なら来る必要なくね?」

「人の話は最後まで聞くべきだよユウマ」

「そうだよユウマ! エイト様の綺麗でかっこいい声が聞こえないでしょ!」

「……」


 エイトに対してやたらと好感度の高いミカが俺を罵ってきた。

 さすがの俺でもマジな感じで幼馴染に罵られると少しカチンときたり、イラッときたり、ショックにもなる。

 そんな俺の様子を見かねてかアイリスが「本気じゃないと思いますよ」と、小さな声で俺に言ってくれた。

 天使かな? 天使だな。


「女性人たちの方の衣装はお嬢様たちにお願いして貸してもらえることになったよ。運よくアイリスちゃんはルリ様と、リリーナさんとミカさんはルーシア様と年齢も体型も似ているんだ。だから三人は大丈夫だよ」

「ふぇっ!? わわわ、私たちなんかのために王女様のドレスをお貸しいただけるんですか!?」

「そうだよ。ちゃんとお嬢様二人には僕らから確認済みさ。安心していいよ」


 突然の提案にアイリス他全員が驚く中、エイトは当たり前のように笑っている。


「そんで、俺のは? さすがに俺にもドレスを貸してくれたりはしないよな?」


 アイリスたちの衣装はどうにかなったとして問題なのは俺だ。

 聞いた話だとここに王子はいない。つまり、アイリスたちのように衣装を借りるという選択肢は最初からない。


「あはは、面白いこと言うねユウマ。僕はそれでもいいと思うよ」

「俺はよくねぇよ」


 相変わらず爽やかに笑うエイトに俺は呆れた返事をする。


「冗談はよせエイト。ユウマ殿には申し訳ないが執事服かエイトが着ているような騎士の服を用意した。サイズもたくさんあるから問題はないと思うのだが、どうだろうか?」


 適当な性格のエイトに比べセツコさんは俺に親切だ。

 ただ、視線は完全には俺をとらえてはおらず、少し横を見ているように思う。

 普通人の目を見て話せない人がやるものだが、他の三人と話すときはそんな感じはしない。

 つまり俺だけ―――


「やっぱりさっきのこと怒ってるのか? だとしたらどうにかしたいところだな。セツコさんとはぜひとも末永くお付き合いしていきたいし」


 何度も言うが、セツコさんは美人だ。

 紫の長髪はさらっと腰まで伸びていて綺麗だし、声もハキハキとしているものの透き通っていて耳心地がいい。スタイルだって抜群で、胸はそれほど大きくないように思えるが、それすらも彼女の美を際立たせようとしているように思う。

 ここが日本なら女優なり、モデルなり、アイドルなり、なり放題どころかスカウトの嵐だろう。

 俺が生きてきた中でも上位クラス、いや、一番といってもいいくらいの美人かもしれない。


「どうかしたか、ユウマ殿?」


 俺が色々と思考していると、セツコさんが話しかけてきた。

 これはチャンス。


「あのー……セツコさん。さっきのことなんですが……」

「……!!」


 おずおずと俺が喋り出すとセツコさんは一気に顔を真っ赤にした。


「あれはですね。さっきも言いましたけど、セツコさんは美人だし、女を捨てるなんて言わないでほしいから出た方便でしてね。いや、言ったことは全部ほんとなんですけど」


 あれ?

 すんなりと謝って済ませるはずが、なんか変な感じになってきたぞ?

 敬語もなんか抜けないし、美人を相手にすると俺ってこんなにダメなの?

 このまま喋りつつけても墓穴を掘りそうな気しかしなくなってきた俺は今度こそ早急に話をつけるべく、簡潔に言いたいことを述べることにした。


「つまりですね。セツコさんって美人だし、世の中の男どもがほっとくわけないなー。その中の一人が俺か。ってなわけでして」

「な、な、ななな……」

「な?」

「失礼する!」

「えっ!? ちょっと!? セツコさん!?」


 俺の言葉を聞いて、壊れたラジオのようになってしまったかと思われたセツコさんが、さっきのように綺麗に回れ右をして部屋を出て行ってしまった。

 そんな状況に困惑する中俺は思う。

 長い髪の女性がくるっと回った時のふわっと舞う髪が好きです。


「ユウマ……。君ってやつは……最高だよ」

「笑ってんじゃねえよエイト! お前から誤解といてくれ!」


 俺とセツコさんのやり取りをミカと会話しながらもしっかりと見ていたらしいエイトが面白そうに笑う。

 ただ、問題はそれだけでなく―――


「ユウマ……あんた」

「ユウマさん……」

「エイト様ぁ~」


 セツコさんの誤解よりも先に、ミカを以外つまりはアイリスとリリーナの誤解を解くことから始めないといけないようだ。

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