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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第六章
126/192

13話

 

「さあ、着いたよ」


 三分ほど歩いたところで、目的の訓練場に着いたようだ。


「かなり広いんだな。さすが一国を治めてる王様のいる城ってところか」


 誰に言うでもなく、素直に思ったことを口にする俺に、いつの間にか横に来ていたエイトが笑いながら話しかけてきた。


「そうだね。この城だけでも何百何千って兵士を抱えてるし、街を警備を手伝ってる兵士たちの訓練場も兼ねてるから、これでも狭いくらいだよ。剣術にかんしてはどうにかなってるけど、弓兵の訓練場は的の数的に人数が絞られちゃって大変だよ」

「やっぱり大変なんですね。俺達自由気ままな冒険者とは大違いです」


 俺達冒険者は訓練なんてものはしない。俺が知らないだけで、してるやつもいるかもしれないが、してるやつと、してないやつを比べたら圧倒的にしてないやつの方が多いだろう。

 その違いはおそらく、戦う理由に基づいてるはずだ。

 俺たちは自分の生活のために戦っている。そのおかげで冒険者でない人たちが助かっているとしても、それは結果であって俺たちの目的ではない。

 それに比べてこの城の兵士たちは国やそこに住んでる人たちを守るために戦ってる……はずだ。その対価として国民からお金をもらっている。戦ってお金をもらう、ということは同じでも、理由が変われば意識も変わる。

 この城の兵士たちはお金をもらうからには努力をしなければならない。その点俺達冒険者は自分の生活基準に満足さえできれば、もう努力をする必要はない。ここには大きな差がある。


「やっぱり色々縛られる兵士より、自由な冒険者が俺には向いてるな。気分で働くか決められるし……」


 色々並べ立てたものの、結局俺が言いたいことはこうだ。

 毎日労働とか、やってられない。ニート最高!


「あはは。ユウマは面白い考え方をするんだね」


 小さな独り言が聞こえてたのか、隣に立っているエイトが楽しそうに笑う。

 ―――あれ?


「あのー……私、名前名乗りましたっけ?」


 俺の記憶が正しければ、セツコさんとエイトの自己紹介の後、俺たちが自己紹介をするタイミングを逃して、名前を名乗ってないはずだ。アイリスが俺の名前をさっき呼んだが、その時エイトは俺達より結構前を歩いていた。

 アイリスが気を使って小さな声で話しかけてきていたので、聞こえていたとは考えづらい。


「あぁ、それは君たちは結構有名だからね」


 俺はてっきり、お客さんの名前くらい事前に把握してるよ。とか、そんな返事を想像していたのだが、返ってきた言葉は違った。


「有名? 俺たちが?」

「そうとも。君たちは始まりの街の冒険者でありながらオークの大軍を撃退し、魔王軍幹部のヴォルカノを討伐した。オークの大軍の時も、ヴォルカノの時も、イニティのギルドから応援要請があった。僕たちは無理だとは思いながらも急いで準備したよ。でも、僕らが準備を整えてる間に事は終わっていた。そして、その時冒険者たちのリーダーを務めていたのがユウマで、どちらの戦績にも君のパーティーメンバーの名前が挙がっている。さっきも言ったけど、魔王軍幹部は僕たち王族の兵士たちでも討伐できないほど手ごわい存在だ。その一人を倒したとなれば、有名にもなるよ」


 長々とそう語るエイトに俺は「はぁ~……」と、気のない返事を返すことしかできない。何度も言うが、あれはまぐれだ。実力じゃない。仮に実力だというならそれは俺以外のメンバーの実力だ。

 天然魔法チートのリリーナ、女神ラティファからの転移ボーナスで物理チートを手に入れたミカ、二人に比べれば見劣りするものの、始まりの街の冒険者の中だったらトップレベルのアイリス。この中の誰か一人でも欠けていたらどうしようもなかったはずだ。


「それよりユウマ」


 エイトが俺の苦手なさわやか笑顔で話を続ける。


「さっきから敬語を使ってるけど、僕には使わなくてもいいよ。僕もその方が嬉しい」

「え? いや、王族直属の兵士様にそんなことできるわけありません」


 俺はこの城に来てから、パーティーメンバーには敬語を使うことを心がけている。中には、さっきの独り言みたいに聞かれてしまってるものもあるだろが、面と向かってはタメ口を使ったことはないはずだ。


「いいの、いいの。直属って言っても王族なわけじゃないし、僕たちはもう友達だろ?」


 出た!

 会ってちょっと話したら友達論! 俺はこの理論が意味わからねぇ! なんでまともに話してもないのに友達になれるんだよ。俺とエイトが話してたのなんてものの五分にも満たないぞ。つーか、どっから友達を名乗っていいんだよ。どこからが友達で、どこからが親友で、どこからが恋人なんだよ。

 ユウマわかんない。


 頭の中のユウマの暴走が終わり、表面上は顔色一つ変えていないはずの俺は、

 似合いもしない笑顔を張り付けて、会話を続ける。


「そう言ってもらえるのはありがたいですが、さすがに一介の冒険者に気を許し過ぎでは?」


 変にバカなことをしないためにも敬語を続行したい俺は、食い下がる。

 変にタメ口を聞いて首を持ってかれてはたまったもんじゃない。


「そんなことはない」


 そう思っていた俺に、そう言葉を投げかけたのはエイトではなく、さっきまでリリーナたちと話していたはずのセツコさんだ。


「私たちはエイトの言う通り、騎士ではあるが王族ではない。変に畏まられるよりも、いつも通りに話してもらえた方が我々も嬉しい」

「そういうセツコさんは言葉使いが固いですね」

「うるさいぞエイト!」


 からかうように喋るエイトにセツコさんが怒声を返す。

 女性に対して失礼かもしれないが、あまりの迫力に背筋がピンとした。

 ユウマ、美人のお姉さんには甘いことが発覚! ―――最初からだな。


「おー、怖い怖い。そんなんじゃ、お嫁の貰い手が見つからないよ?」

「そ、それでも別に構わん! 私は騎士として生き、騎士として死ぬ!その覚悟もできている! 女などというのは関係ない、そんなもの等に捨てた! 」


 セツコさんの今の言葉、美少女、美人には甘いユウマさんには見過ごせそうにないな。少しばかり出しゃばるとしよう。


「そんなに意気込むことはないんじゃないか、セツコさん」

「ゆ、ユウマ殿……。ですが、私は王族の騎士。国を守り、王を守り、皆を守るのが騎士の務めです。私が女だからと思って、そうおっしゃったのなら撤回していただきたい」

「いやいや、女だからとか男だからとかそんなんじゃなくて、そんなに張りつめて生きてたら人生つまらないし、勿体ないってことが言いたいんだよ」

「どういうことでしょうか?」


 セツコさんが俺の言葉に少し困った顔をする。美人は困った顔をしても美人なんだからお得だ。いや、素敵だ。

 ちなみにエイトはというと俺とセツコさんの会話をに笑顔で見守ってる。見守ってるというよりかは、楽しんでる、って方が正解か。


「そりゃあ、騎士の役目っていうのはセツコさんの言う通りなんだろうけどさ、だからって自分の人生をすべて犠牲にしてまで他人を喜ばせる必要はない、って話。人生楽しく生きなきゃな」

「ユウマ、良いこと言うね」

「だろ?」


 俺は決め顔でそう言った。


「それにさ、女を捨てたなんてもったいない。セツコさん美人だし、相手がいないなら俺がぜひ結婚を前提のお付き合いから始めさせてもらいたいね」

「やったね、セツコ。未来のお婿さん候補第一号だ」

「……」

「―――あれ? もしかして俺、調子に乗り過ぎた? 地雷踏んだ? 踏み抜いた?」


 調子に乗り過ぎたかと内心恐怖する。セツコさんの腰にはレイピアは刺さっている。それに対しこっちは丸腰、仮に武器があっても王族の兵士様に勝てるとは思えん。


「びびび、美人……お婿さん……結婚……お付き合い……」


 微かにだがセツコさんの口からそんな言葉たちが聞こえてくる。

 まずい、これ本当に地雷踏んだ臭い。地雷どころか核爆弾の発射スイッチ押したかもしれん。やっぱり調子になんて乗るんじゃなかった!


「ゆゆゆ、ユウマ殿。ききき、貴殿は本気で私のことを美人で、けけけ、結婚を前提にお付き合いしたいと言ったのか?」


 まずい、これは選択肢を間違ったら即死のパターンだ。慎重にならなければ。


「本気ではなかったけど、割と冗談抜きでセツコさんみたいな綺麗な人とお付き合いできたらなー、とは思ってる」


 ユウマ素直。

 ユウマ、嘘つかない。

 美人になら殺されてもいいと思った今日この頃。


「―――」


 セツコさんの顔がドンドンと赤くなっていく、頭から煙が出そうな勢いで赤くなっていく。やべー、選択肢間違えた? 怒らせた?


「す、少し野暮用を思い出したので失礼する!!」


 セツコさんはそう言うと、綺麗に180度回転して、全力で走っていった。

 あれ? もしかしてセツコさんって、お堅い感じに見えて、結構乙女で純情?

 やばい。萌える、尊い。


「ユウマ、セツコさんの遊び方をこんなに早く覚えるなんてすごいね」

「いや、正直たまたまなんだが」

「たまたまであそこまでやってのけるなんてもっとすごいよ。それに、敬語を使うのやめてくれたんだね」

「あぁ、俺も敬語使いっぱなしなのは疲れるからな。これでいいんだろ?」

「もちろん。僕から言ったことだからね。セツコさんも何も言ってなかったし、問題なしだよ」


 どうやら少しばかり不安だった俺の対応は、エイト曰く問題なかったらしい。


「それにしてもエイト、お前さわやかイケメンみたいな顔して実は腹黒いんだな?」

「えー、何のことかな?」

「そういうところが腹黒いって言ってんだよ」


 色々あったが、俺はセツコさんとエイトと仲良くなることに成功した。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「エイト騎士団長! ここにいらっしゃったんですね」


 案内役からセツコさんが外れた……俺がはずしちゃった後、エイトに訓練場をぐるっと四人まとめて案内してもらっている最中、一人の兵士がこちらに寄ってきてそう言った。

 その隙に、俺の隣を歩いていたミカが小さくエルボを横腹に入れてくる。


「何すんだよミカ!」


 大切な話をしているかもしれないので、小声でミカに怒りを精一杯込めた言葉をぶつける。するとミカは、少し怒ったような顔をして話し始めた。


「ユウマさっき、エイト様と仲良さそうに話してたよね?」

「エイト様って……」

「いいから質問に答えて」

「お前、こっちに来てから『金剛力』をいいことにめちゃくちゃなこと言うこと増えたな」


 鋭い視線を浴びせられ、手の骨をポキポキ鳴らされたら、こっちはおとなしく従うしかない。俺は大きくため息をこぼし、会話を続けた。


「そうだな。さっき訓練場で話してて仲良くなった。セツコさんともそれなりにな。お前らだって最初はセツコさんと女の子揃って話してたろ。そっちはそっちで仲良くなったんじゃないのか?」

「そりゃあ、思ってたよりセツコさんが話しやすかったから仲良くなったよ。でも、私が本当に仲良くなりたいのはエイト様なの」


 真剣な顔で真剣にそう語るミカに俺はため息しか出てこない。


「お前な、王子様が目当てだったんじゃないのか?」

「この城に王子さまはいないってセツコさんが言ってた」

「行動早いな。それに変わり身も」


 いつもはとろいくせに、こういうときばっかり行動が早い。しかも頭の回転も速くなるんだから乙女パワーとやらはバカにできない。いや、この場合は女子力(物理)か。


「あのなー、ミカ。エイトはお前が思ってるようなさわやかイケメンじゃないぞ」

「そんなはずないでしょ。あんなに爽やかな顔してるんだよ? こっちを見てハニカんでくれるんだよ? ハニカミ王子だよ」

「いや、だから王子じゃないって」

「ハニカミ騎士様だよ」


 恋は盲目。

 俺はこの言葉にもう少し言葉を加えるべきだと思う。

 恋は盲目かつ難聴。

 意味、恋する乙女は周りが見えず、周りの声を耳を傾けない。

 ユウマ辞典に乗せておこう。


「とにかく、後でちょっとでいいから私とエイト様の仲を取り持ってよ」

「はぁ~っ! なんで俺がそんなことしなきゃいけないんだよ」

「良いでしょこのくらい。日本で誰のおかげで孤独にならないで済んでたと思ってんのさ。少しはここで可愛い幼なじみのミカさんに恩返しをしてもいいんじゃないの?」

「ヤダよめんどくさい。なにが悲しくて幼馴染の恋を応援せにゃならんのだ」


 まず、面倒くさいとかを抜きにして、エイトとミカをくっつけるのは俺には無理だ。仲を取り持つのくらいならできるだろうけど、取り持ったら最後、ミカはドンドン要求をエスカレートさせるに決まってる。

 その度に、自分には関係のない恋愛相談をさせられて溜まるか。

 っていうか、俺はゲームの中でしか恋愛をしたことがないんだぞ? 選択肢を選んできただけなんだぞ? そんな俺に恋愛相談をするのがまず間違ってる。

 別に泣いてなんかないぞ。ただちょっと、幼馴染がイケメンにメロメロなのが気に食わないだけで、イライラはしてても悲しくはない。


「むーっ! ケチッ! もういいよ!」

「ぽぷらっ!」


 怒ったミカが去り際に俺の横腹に最初のエルボなんて目じゃない本気のエルボを入れて行きやがった。あまりにも強烈すぎる痛みに俺はうめき声を挙げながらその場に蹲る。

 いてーっ! これ絶対に肋骨の二三本いってる。わかんないけどいってる。こんな痛み今までに感じた事ないぞ。


「ど、どうしたんですかユウマさん!」


 俺の異変に一番に気が付いた天使アイリスが心配そうな顔で寄ってくる。

 その顔だけで俺は癒される。でも、それは精神的な話で、ミカにやられた身体的な方は全くと言っていいほど痛みが和らがない。

 くそっ、ミカの奴、後で覚えてろ!


「ほっときなさいよアイリス。どうせアイリスの気を引きたいだけよ」


 優しいアイリスに対して、腕を組んだまま、俺を心配するどころかけなし始めるリリーナ。城に来てからやけにおとなしいと思ってたが、そんなことはなかったぜ。


「リリーナさん。そんなこと言ったらユウマさんがかわいそうですよ。本当に具合が悪かったらどうするんですか」

「アイリスは優しいわねー。それじゃあ、アイリスの優しさに免じてとりあえず聞いてあげるわ。どうしたのかしら、ユウマ」


 心にも思ってませんという顔でリリーナが言葉を投げつけてくる。

 やっぱりこいつとは、いつかどこかで決着をつけないといけないようだ。


「怒らせてはいけない怪物を怒らせた」

「怪物ですか!? ど、どこにいるんですか!? 今すぐ兵士さんに伝えないと!」


 俺の言葉を本気にしてしまったらしいアイリスが戸惑い始める。リリーナはというと、俺の言ったことを端から本気にしていないので、驚くどころか、反応すらしない。可愛げのないやつめ。胸ばかりありやがる。


「いや、違うんだアイリス。今のは比喩表現で、本当に怪物がいるわけじゃない」

「そ、そうだったんですか……。でも、この場に怪物みたいな人なんていないと思うんですけど……」

「―――」


 そうだよな。

 そう見えるような。でもなアイリス。人は猫をかぶれるように、怪物の皮の被れるんだぞ。

 声に出すことなく、脳内アイリスにそう伝えた俺。


「あ、アイリス。怪物に関しては比喩表現なんだけど、横腹の痛みはマジなんだよ。『ヒール』頼めるか? ってか、治せる?」

「わかりました。病気じゃないなら何でも治して見せます! 『ヒール』!!」


 アイリスの回復魔法でドンドンと体の痛みが引いていく。さっきまでの激痛は一分もしない内に、まるで最初から痛みがなかったように引いていった。

 アイリスに回復魔法をかけてもらっている際、アイリスが言った「病気じゃないなら何でも治して見せます!」という言葉に対して、なら俺のアイリスに対するこの恋の病も直してください。もちろん結婚という形で、なんて考えていたのは内緒だ。


「サンキューアイリス。さすがうちのヒーラー。頼りにしてるぞ」

「はいっ! 任せてください!」


 俺の言葉に頼もしい返事を返してくれたアイリス。

 神様はなんでこんなにも可愛い生き物を作ってしまったんだろう。いつかアイリスが原因で戦争が起こるぞ。そして、未来では第一次アイリス戦争、第二次アイリス戦争と名前が残っていくに違いない。


「みなさんお待たせしました。セントラル王の用件が済みましたので、これよりセントラル王の会見をお願いします」


 俺とアイリスの温かいひと時が終わりを告げた時に、ちょうど向こうの会話も終わったらしく、真面目な話だからか敬語を使っているエイトが俺たちにそう告げる。


「そういえば、今日ここに来た本題って、セントラル王との会見だったわ」


 色々あって、忘れかけていたセントラル王との会見。

 少し、あのまま肋骨を折っていてもよかったかな、と思う俺であった。

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