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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第六章
125/192

12話

「立ってる兵士にこの手紙を見せれば入れてもらえるのか?」

「そうよ。正確に言えば、その手紙にある王家の刻印を、だけどね」


 ようやくというべきか、ついにというべきか、城の前まで来てしまった俺達一向は、ラストダンジョンのボス前で必ずと言ってもいいほど聞かれる「この先に進んだらもう終わるまで戻ってこれなさそうだ」の質問に肯定をし続け、城の中に入るための手順の確認をしている。


「刻印を見せちゃえば、あとはあの兵士か担当の兵士が来て、案内してくれるはずよ。あの後はその場に合わせてとしか言いようがないわ」


 珍しく冷静で頼りになるリリーナの言葉に、残りの俺たちは全員首を縦に振る。


 一応、最低限のことは宿で決めてきてはいる。

 例えば、基本的な受け答えは、なぜかこのパーティーのリーダーということになっている俺。各個人で聞かれたことは個人で答える。

 お礼などの全員で言うべき言葉は俺が先に言って、残りの三人は少し遅れて言う。お辞儀などの全員でやるべき行動も同様。

 といった具合だ。


 なぜか、こういうことに詳し気なリリーナに確認したところ、「特に問題はないんじゃないかしら」と言う返事が出たので、問題はないはずだ。

 元からこの異世界(せかい)の住人のアイリスも「大丈夫だと思います。……責任は持てませんが……」と、少し頼りないものの、ないよりはマシな言葉でもあった。

 後は、それを信じていくしかない。


「それじゃあ、行くか。すいませーん」


 覚悟を決めて、門の前に立つ二人の兵士にリリーナの言う通り、送られてきた

 手紙を見せる。

 すると、少ししてから二人は顔を合わせて頷きあった。


「刻印の確認ができました。どうぞ中にお入りください」


 思っていたより丁寧な言葉遣いで門を通された俺たちは、田舎暮らしの人が都会の中にいきなり放り込まれたみたいに周囲をキョロキョロと見まわしながら歩を進める。

 そして、門から少し離れたところにある、本当の意味での城の玄関前までやってきた。もちろんというかのように、そこにも兵士が二人立っている。

 二重警備とはなんとも厳重なもんだ。


「やっぱり王様が住むお城はすごいですね。せっかく落ち着いてきたのに、また胸がドキドキしてきました」


 そう言いながら、アイリスが自分の胸を押さえる。

 かくいう俺も、いざ目の前にこれだけの城が建っているのを見ると緊張する。


「わーっ! ねぇねぇユウマ! 本物のお城だよ! 夢に見たお城だよ! お姫様とか王子様がいるお城だよ! すごいわー、すごいねー、すごいよー!!」


 その点、ここに来るまであんなにテンションが低かったミカが、バカみたいにはしゃいでいる。

 あいつ、メンタルが強いのか弱いのかどっちなんだよ。


「また手紙を見せればいいだよな?」


 ミカの頭の中を考えていてもしょうがないと考え直した俺は、この場で一番頼りになるリリーナに確認を取る。


「ええ、そうよ。後は誰かが案内してくれると思うわ」

「そうか。ふうー……さすがに嫌な汗掻いてきた」

「まだセントラル王にも会ってないのよ? このまま行ったら帰る時には干からびてるんじゃないの?」

「お前は冗談言う余裕があるんだな」

「冗談じゃなくて願望よ」

「たち悪いなっ!?」


 意図せずリリーナに落ち着かされた俺は、再び兵士に手紙の刻印を見せる。

 さっきの門の時と同じように兵士が二人係で刻印の確認を行い、今度は一人が何も言わずに城の中へと入っていった。

 さっきとは違う対応に内心恐怖する俺に、残った一人の兵士が口を開く。


「刻印の確認が終わった。今、中を案内してくれるお方を呼びに行っている。それまでの間ここで少し待機していろ」


 そう言われた俺たちは、兵士から少し距離を取って案内役の人とやらを待つことにした。


「なんか、最初の門の人と違って、今の門の人は口が悪かったね」


 ようやく少しは落ち着いてきたのか、ミカが口を開く。

 この後のセントラル王の前で下手なことを喋らないように今のうちに喋るだけ喋っておいてほしい。


「どうせ、さっきの兵士より階級が上とかそんなとこだろ。どこの世界だって上の人間が下の人間に対して偉そうなのは変わんないはずだ。ああいうのに限って大したことないって俺は思うね」


 聞こえてないことを良いことに、俺はあの兵士に対して散々なことを言った。

 ただ、そのことに賛同してくれる奴がこの中にいるとは思えないので、ほとんど独り言のような感じでだ。

 もしかしたらアイリスなんかは「そんなこと言ってはいけませんよ、ユウマさん。あの人だって一生懸命頑張ってお城の警備をしてるんですから」なんて言ってくるかもしれない。

 そんなことを思っていた俺に掛けられた言葉は以外にもリリーナからの肯定の言葉だった。


「ユウマの言うとおりね。大したことないくせに貴族の警備兵だからとか言って、まるで自分が偉くなったみたいに態度を変えるような奴は碌な奴じゃないわ」

「おっ? 珍しく気が合うな」

「ほんとにね」

「私はそんなことないと思いますけど……」

「わたしもー」


 俺とリリーナの中で謎の信頼が生まれる中、やっぱり俺の意見に納得できない様子のミカとアイリス。


「確かにあの兵士さんの言葉遣いは乱暴でしたけど、それだけであの兵士さんの人となりを全部決めつけるのは、私は良くないと思います」

「私もアイリスちゃんに賛成かなー。むかつくけど、話してみたら良い人かもしれないし」

「二人の言ってることもわかるけど、こればっかりは個人の印象だからな。こればっかりは仕方ないだろ」


 そんなやり取りを俺たちはしていると、城の中からさっきの兵士と、案内役をかってくれるという人が出てきた。俺はてっきりメイドさんとか執事が出てくるものと思っていたのだが、実際は男女の騎士が一人ずつ出てきた。

 たかが、始まりの街の冒険者パーティーを案内するにはやけに丁重なもてなしの気がする。


 そんなことを思いながら、俺たちが自分たちから行くか悩んでいると、向こうの方から歩いてきた。


「待たせてしまってすまない。私は今から貴殿たちをセントラル王の所まで案内するセツコというものだ。この城では第一王女ルーシア様の専属騎士を務めている」


 最初に自己紹介をしてきたのは、女騎士のセツコさんだ。

 綺麗な紫色の長髪を腰くらいまで伸ばし、腰にはレイピアを差している。顔も端正に整っており、かわいい系というよりは綺麗系。やや吊り目勝ちで、優しいお姉さんというよりは何事にも厳しいお姉さんといった感じだ。

 格好は騎士から連想されやすいゴツゴツとした鎧ではなく、赤と白を基調にした布地で、どちらかと言えば細身のセツコさんによく似合っている。


「セツコさんは固いなー。そんなんじゃみなさんも緊張しちゃうじゃない。改めまして、僕はエイト。この城では第二王女ルリ様の専属騎士をしてます。セツコさんと一緒にみなさんを案内させてもらいますので、よろしく」


 次に自己紹介をしてきたのは、男騎士エイト。

 オレンジの短髪で、腰には一般的なロングソードを携えている。顔はイケメンそのもので、さっきから笑顔を絶やさないところを見ると、爽やかタイプのイケメンらしい。

 こういうタイプは、俺らみたいなのが嫌味を言っても、笑顔のまま「なんでそんなこと言うの? 僕何かしたかな?」とか言って、こちらに罪悪感を植え付けながら悪気もなく仲良くなろうとしてくるので、俺は苦手だ。

 そんな俺のイケメンに対する感想はともかく、性格は厳しそうなセツコさんとは対照的に、温和で話しやすそうな印象だ。あくまで一般論の話ではあるが。

 格好はセツコさんを似たような感じで軽装だ。違いがあるとすれば、セツコさんは赤と白を基調にしていたが、エイトは青と白を基調にしている。

 ちなみにさっきからミカはエイトの方を見て目をハートにしている。

 乙女かっ! ……一応乙女か。


「エイト。お前は軽すぎる。少しは王族の騎士としての威厳をだな」

「はいはい。そういう固い話はあとで聞くから。それより、お客様を案内しないと」

「はっ……そ、そうだな」


 イメージとは逆にエイトにセツコさんが諭された。

 セツコさんは軽く咳き込み、身なりを正してからこちらに向きなおった。


「失礼した。それでは早速セントラル王の前に貴殿たちを案内したいのだが、困ったことに王は今来客中でな。すなまいがその間、城の中の案内をでもと思うのだが、どうだろうか?」


 淡々とそう告げるセツコさんを前に、俺たちは顔を見合わせる。

 そして、みんな断る理由もないので首を縦に振った。


「それじゃあ、その方向でお願いします」


 パーティーを代表して俺がそう言うと、セツコさんは「ありがたい」と、お礼を言ってくれた。なんというかこう、美人のお姉さんにお礼を言われるとドキドキする。

 もしかして……これが恋?

 ―――違うか? 違うな。


「それじゃあ、最初は訓練場を見てもらおうよ。一番僕らが知ってる場所でもあるし」

「そうだな。あそこなら話せることもたくさんあるし、お客人に暇を感じさせないで済みそうだ」


 なにやら二人で俺たちを案内する場所について話してるみたいだけど、俺達からしたら、そんなに丁重にもてなさなくても大丈夫です。という感じである。

 これは日本人は謙虚だとか、そういう問題ではないはずだ。


「あのー、別に俺達暇とか思わないんで、どこでも大丈夫ですよ? 訓練場とか、訓練の邪魔になりません?」

「そんなことないですよ。なんせ貴殿らはオークの大軍を撃退し、魔王軍幹部の一人、灼熱のヴォルカノを倒した方々だ。むしろ、私たちの方が勉強をさせてもらうことがあるかもしれないくらいだ」

「そうだね。僕らですら魔王軍の幹部と戦うって勝つのは難しいのに、始まりの街に住むみなさんが魔王軍幹部を倒した。その秘訣とか知りたいね」


 ただ話しているだけなのに、どんどんと俺たちの冒険者としてのランクが上がっていく。

 でも、聞いて! 俺達、そこだけ聞けば聞こえはいいけど、イニティ一の借金パーティーなの。俺なんて『冒険者』なんて最弱職なの。女神ラティファに転生ボーナスのチートももらえなかったの。ただのニートなの。

 オークの大軍のことだって、原因は俺たちにあるの。その罪悪感で自分たちで尻拭いしただけなの。ヴォルカノのことだって正直まぐれなの。

 ホントだよ。


「胃が痛くなってきた……」

「だ、大丈夫ですかユウマさん。一応『ヒール』しておきますか? 病気じゃなかったら少しは楽になるかもしれません」


 王女専属騎士様たちの中で俺たちの株が上がるたびに俺の胃はどんどんと締め付けられていくように感じる。そんな俺を見かねてか、アイリスがこっそりと話しかけてきてくれた。

 それだけで俺の胃は少し回復する。

 俺って単純だわ。


「大丈夫だよ、アイリス。心配かけてすまん」

「良いんですよ。さっきは私は助けてもらったんです。今度は私がユウマさんのお気持ちを軽くする番です」


 ええ子や。

 この子、ええ子や。

 娘と嫁にほしい。


「ホントに大丈夫だよアイリス。サンキューな」


 実際、アイリスのおかげで少しは気が晴れた俺はアイリスの頭を撫でる。

 アイリスはセツコさんとエイトが見ていないとはいえ、近くにいるからか頬を赤く染めて恥ずかしがりながらも、俺の手を受け止めた。


「全くもー。ユウマはだらしないなー」

「そういうお前もだらしない顔してんぞ。鏡見てみろ鏡。目がハートで口から涎出ってから」

「嘘だー。でも、別に出てたっていいもん。エイト様に拭いてもらうから」

「お気楽かよ……。口から涎垂らしてる女を見て喜ぶ男がいるかっての。ましてや拭くなんて嫌すぎるわ」


 ミカにそういった俺だが、内心アイリスなら、、寝てるときにだらしない顔で涎を垂らしてても大丈夫だな。と、俺は思いました。まる。


「それじゃあ、早速案内しよう。付いてきてくれ」


 そう言って歩き出したセツコさんの少し後ろを俺たちは付いていく。こんな緊張感しか生まれないような空間で、リリーナは依然とした態度で、アイリスはびくびくしながら俺の服の裾を掴んで、ミカはセツコさんの隣を歩く、エイトの後ろ姿に見惚れながら歩く。

 全くミカの奴は。なんつーだらしない顔してんだよ。エイトが少しばかり……すごいイケメンだからって浮つきやがって。

 俺を見ろ。綺麗なセツコさんの後ろ姿を眺めても、顔色一つ変えてないぞ。ただ、その姿をいつでも思い出せるように舐めるように見まわし、瞼というシャッターを何度も切っているだけだ。

 心の中でミカにドヤ顔を決めつつ、俺たちはセツコさんとエイトについて行った。

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