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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第六章
122/192

9話

 

「俺の方はもういい! 今度はミカ! お前の番だ!」

「うん! どうやって王子様に惚れられるか、考えていこう!」

「んなことはあの城に王子がいることがわかってから考えろ! そうじゃなくて最低限の礼儀作法だ!」

「えー……めんどくさいよー」

「お前……ホントにお気楽だな……」


 ホントたまにこいつの能天気さが羨ましくなる。


「とりあえずこれ着ろ」


 俺は『ゲート』のスキルを使って自室に繋ぎ目的物を取り出す。


「ユウマ……これって……」


 ミカが少し引き気味に俺が持っているものを見る。

 なに、今更ミカに少しくらい引かれたところでどうってことない。

 どうせなら惹かれてほしいとか思ってないよ。ホントだよ?

 ユウマ、ウソ、ツカナイ。


「そう―――メイド服だ!」


 俺が取り出したのはファナの店を盛り上げるときにリリーナとミカに来てもらったメイド服だ。

 あの時はリリーナは短めのスカート、ミカは長めのスカートだった。今回もその時と変わらずに長めにスカートの方を取り出す。


「ねぇ、ユウマ。なんでこれ着る必要があるの?」


 ミカのいつにもない鋭い目が痛い。

 でも、漢ユウマ、あきらめない。


「よく言うだろ。何事も形から入るのが大事だって。それで執事服はないけど、メイド服はこの前作ってあったってだけだ。それに俺の『裁縫』スキルだってたまには使ってやらないと宝の持ち腐れだろ?」

「まあ、よく聞くよねそれ。スキルの方はともかく」

「だろ? だから形からいこうぜ」

「……で、本音は?」

「ミカだってそれなりにかわいい方だし、こんな時ぐらいしか着てくれそうにないから叶えられる時に男の夢は叶えとこうと」

「正体を現したね」

「図ったな!」


 クソっ! なんで俺はこうも誘導尋問に弱いんだ!

 相手はミカだぞ! COMレベル2みたいなもんだぞ!

 なのになんで俺が!


「はあ……。まあ、今回は結構嬉しいこと言ってくれたから着てあげるよ。次はわからないけど」

「マジか!?」


 なんかわからないけど、ミカが呆れつつもメイド服を着てくれることになった。

 にしても、嬉しいこと言ってくれたって、俺何か言ったか?

 俺は鈍感系主人公じゃないからヒロインの好意的なセリフや仕草を見逃すはずナないんだが。

 まあ、ミカが俺のヒロインかと言われると、属性だけはそう。としか言いようがないんだけど。

 そういえば、なんでヒロインはいつも負けヒロインなんだ?

 教えてエロくて偉い人。


「それじゃあ着替えるから」

「ああ、待ってる」

「……」

「……」


 俺とミカの間に少しの沈黙が生まれる。


「なあ、なんで着替えないんだ?」

「ユウマがいるからだよ!? なに、さも当たり前のように部屋の中にいて私の方ガン見してんのさ!」

「は? そりゃあお前がメイド服に着替えるのを見るためだろ? 何言ってんだお前?」

「ユウマの方こそ何言ってんのさ! なに自分は当然のことを言ってますみたいな顔してんの!? やろうとしてることはただの変態行為だからね!」

「馬鹿な!?」

「本気で驚いてる!?」


 とりあえずさっきまでからかわれた分は返した気がするので、俺はベッドから立ち上がり部屋を出ようとする。


「そうだ、ミカ」

「なに? 覗いたら許さないよ?」

「ちげーよ。さっきの変態行為って言葉なんだが―――」

「ん? それがどうかしたの?」

「えっちなこと、の方が俺好みだ」

「知らないよバカ! 早く出てけ! この世から!」

「ひどくね!?」


 最後の一発をかましてやり返されてから俺は大人しく部屋の外でミカの着替えを待つことにした。


「今度、『透視』スキルとか『聞き耳』スキルがないかザックに聞いてみるか。持ってたら教わっとこう。今後のために」


 俺は王都から帰ったらまず最初にザックに会いに行こうと心に固く誓った。




 少ししてミカから着替え終わったから入っていいよ。という言葉がかかった。

 俺は適当に返事を返しつつ、部屋に入る。


「おお、馬子にも衣裳だな」

「孫? 何言ってんのさユウマ。私はユウマの孫じゃないよ。私のおじいちゃんユウマじゃないし。ぷぷぷっ」


 冗談ではなく、本気で口元を抑えて俺のことを笑っている幼馴染を見て、かわいそうな奴だと思った俺はおかしいだろうか?

 勉強は嫌いだけど、これからも最低限くらいは身に着けていこうと心の中で密かに思った。

 ただ、ミカの間違いを正してやろうとは思わない。

 だって、その方がおもしろそうだから。


「馬鹿言ってないでさっさと始めるぞ」

「馬鹿言ってるのはユウマの方じゃん。ぷぷっ」

「今ここに辞書があったらお前の顔面にぶん投げてる自信があるぞ」


 さっきの言葉は一応心の中で訂正しておこう。

 いつか絶対にこのネタでミカを馬鹿にして見せる!


「とりあえずメイドのオーソドックスな挨拶からやってみるか」

「オーソドックスって、メイドさんの挨拶の仕方なんてそんなに数ないでしょ。執事だってすぐに出てきたのは二つだけなのに」

「何を言ってるのかねミカ君。メイドといっても色々なメイドがあるんだぞ。お屋敷なんかで働いている本格的なメイド、メイド喫茶のような親しみやすさを追求したメイド、さらに細かく分けていけばドジっこメイドに、完璧メイド―――」

「あーもう、今はそんなユウマのメイド好き好き講座はいいから礼儀作法の方やろうよ」

「た、確かにそうだな……。まあ、メイドマスターの俺に任せておけば百パーセント大丈夫だから安心していいぞミカ君」

「すごいウザいな、そのキャラ……」


 ミカの心無い一言に内心めっちゃ傷つきながらも、顔には出さずに自分からやりだしてしまったせいで変に引っ込められないウザい教授キャラのまま、ミカの礼儀作法を考えようの講座が始まった。


 ……やっぱり普通でいこう。


 これ以上ミカにとはいえあんなこと言われた豆腐メンタルのユウマさんは耐えられない。スクランブルエッグならぬスクランブル豆腐になっちゃう。

 え? なんで豆腐の部分は日本語なのかって?

 ……豆腐の英語がなんなのかわかんないんだよちくしょー!


「とりあえずさっき言ったオーソドックスなのからやろう。正直メイド喫茶とかの挨拶はあんまり使えそうにないしな」


 メイド喫茶のメイドさんは、さっきも言ったように親しみやすさを追求している。

 中にはツンデレメイドやヤンデレメイド、妹メイドなんかを主軸に置いている少し変わった趣向の店もあるみたいだけどどれも礼儀として使えるわけではないので却下。

 さすがに王様の前で「別にあんたのために来たわけじゃないんだからね!」とか、言わせられない。冗談抜きで。

 あと、勘違いしないでおいてほしいのは、中には本格的なメイドを目指したメイド喫茶もあるということだ。

 実際に行くのは恥ずかしくてネットで一時期猛勉強していた俺が言うんだから間違いない。

 ゴーグル先生は嘘言わない。

 俺はヤホー派だけどね。


「手を前で合わせて、斜め45度くらいまで腰を曲げる。そのまま少し待って、ゆっくりと腰を上げる。まあ、こんなところだろ」

「なんか卒業式とかの礼みたいだね」

「そうだな。違いなんて正直手を前で合わせてるか合わせてないかくらいだろ。とりあえずやってみろよ」

「あいあーい」


 おさーるさーんだよー。

 って、ふざけてる場合じゃねえな。


 俺が頭の中で一人乗りツッコミをこなしている間にミカが一通りの動作を終える。


「こんな感じかな……? ユウマ、どうだった?」

「あー、なんつーか……普通だな」

「そりゃあ普通にお辞儀してるだけなんだから普通でしょ。漫才やってるわけじゃあるまいし」


 俺がやってるときに意味深なことを言っておいて最後には顔だとか言い出した奴のセリフとは思えない。


「そういう意味じゃなくてさ。なんつーかな、卒業式とかみたいな時にはそれでいいかもしれないけど、王様の前でそれでいいのか? って感じだ」

「なにそれ? よくわかんないんだけど?」

「日本的に言えば、卒業式の礼を総理大臣の前でやる感じ」

「なるほど。……確かにそう考えると少し普通すぎる気がするね」

「だろ? 学校の先輩と総理大臣への挨拶の仕方が一緒なのはおかしいだろ?」

「でもさ、だとしたらこれ以上何すればいいの?」

「そうだな……」


 正直、俺的にメイドさんの一番礼儀正しく見える挨拶は今ミカがやった、ザ・普通のやつなんだよなー。

 一応他にも候補はあるけど、どれもなんか違う気もする。

 つっても、このまま考えてても仕方ないか、とりあえずやらせてみてそれから考えよう。


「次はあれやってみろよ。ほらっ、スカートを持って軽く姿勢を低くしながらスカートの両端を少し持ち上げるやつ」

「ああ! あれね! でも、あれってメイドっていうよりはお嬢様って感じがするんだけど」

「まあ、わからんでもないけど、メイドもやるだろ。俺もどれが正しいのかなんてわかんねーし、とりあえず色々やって一番マシそうなので行くしかないだろ」

「それもそっか。うん! やってみるよ!」


 変に迷ってるくらいなら体を動かす方がマシに思えたらしいミカが今俺が言った方法での挨拶を実行した。


「どうよ、ユウマ!」

「あぁ……良くも悪くもないって感じだな……」

「そっかー。他にはないの?」

「正直実際に使えそうなのなんてその二つくらいしか思いつかねーんだよ。アニメとかのメイドって基本的に親しみやすい感じだから変に拘った挨拶とかやってねえし」


 実際、アニメで真面目にメイドをしているキャラは少ないように思う。

 ドジっこだったり、ツンデレだったりとそれぞれの個性に合った挨拶をするキャラが多いのだ。

 ドジっこだったら挨拶をしながら転ぶ、ツンデレだったら雑で適当な挨拶をする。

 別にそれが悪いと言っているわけじゃない。むしろキャラに合っていて非常にいいと思う。

 でも、今回はそれが仇となっている形だ。


「そういえば、私あれやってみたかったんだよねー」

「あれ? なんだよあれって?」


 こっちが頭をひねらせている中、ミカが少し楽し気に言う。


「こーれっ!」


 ミカは説明するわけでもなく体を動かし始めた。

 上半身を軽く捻って、勢いよくその場で一回転する。

 すると、長いスカートが風に乗ってふわりと宙を舞う。


「あー、これか! これいいよな! なんかメイドって感じがするし、男心をつかんでるし!」


 スカートはふわりと舞う時に普段は長いスカートに隠れている足が少し見えたり、くるっと回ることで全身が見えるという素敵要素もある。

 誰でも一回は見たいと思ったことがあるはずだ。


「でもこれはさすがに使えないねー」

「まあな、変に構えたりして警戒されても嫌だし」


 ミカが軽く体を捻った瞬間に周りの兵士か騎士が一気に詰め寄ってきて槍で囲まれるとか絶対に嫌だ。

 どうせなら女の子に囲まれたい。

 それならむしろ喜んで馬鹿をやらかす自信がある。


「それっ、それっ、ほいっ」


 俺が褒めたからか、それともただ単に自分が気に入っただけなのか知らないが、ミカが調子に乗ってくるくると回りだした。

 スカートも膨らんでは萎み、膨らんでは萎みを繰り返している。


「おいおい、そんなに回ってるとまた三半規管に来るぞ。馬車でやらかしてるんだからここではやらかすなよ」

「……ユウマ」

「なんだよ」

「もう……遅い……目が回ったぁーあ」

「バカだろお前……」


 ミカが目をぐるぐると回しながらこっちにふらふらと近寄ってくる。


「ユウマがいっぱーい。気持ち悪ーい」

「おいっ! 俺が気持ち悪いみたいに言うな! 俺がいっぱいいて気持ち悪いって言え!」


 日本語って難しい。

 主語がないだけで意味が変わり、途中の単語を抜くだけで伝わり方が変わる。

 ホント、日本語って難しい。

 エイゴ、もっとムズカシイ。

 異世界語は……普通だな。


「ふにゃあーあ」

「ちょっ!? おまっ!」


 バカなことを考えていると、ミカが俺に向かって倒れこんできた。

 いきなりのことに足の踏ん張りがきかず、俺は勢いのままにミカの下敷きになった。


「っつー……。ったく、なにすんだよ」


 ここで俺に神からのお告げが来た。

 今の俺みたいに主人公と女の子がぶつかると必ずと言っていいほど起こるイベントがある。


 それは―――ラッキースケベだ。


 なぜか倒れた時と位置が逆になっておっぱいをもんでいたり、なぜか主人公の方が若干下に下がっててスカートの中に頭を突っ込んでいたり、顔を胸にうずめてたり、それはもう様々なラッキースケベがある。

 大抵その後は殴られるか気まずくなるかだが、ミカの場合は殴ってくるだろう。

 でも、俺は後悔しない。

 この先の人生で一回も目にすること、もしくは触ることのできないものを触れるのなら漢ユウマ、何があっても後悔はない!!


 俺はどんなラッキースケベが起きているのか確認するためにまずは目を開ける。

 視界に映ったのはただの天井。

 つまりスカートの中に頭は入らなかった。

 だとすれば……。


 俺はゆっくりと自分の手を動かす―――やわらかい感触だ!!

 キタ! おっぱいに手が当たってるぞ!

 この際ミカのだって別にいい! 別にミカの胸は小さいわけじゃない、平均的だ。

 いや、この際大きさだって別にどうでもいい!!


「悪いなミカ、わざとやったわけじゃないんだぞ? ホントだぞー」


 我ながら胡散臭い言い訳をかましつつ、自分の手の方へ視線を移す。


「あれ……?」

「きゃーあーーーーーーーーーーーーーーっ」


 いきなりのミカに突き飛ばされた俺は受け身を取ることもできずに壁にめり込んだ。

 全身の痛みに堪えつつ、なるべく壁を刺激しないように抜け出す。


「なにすんだよ!」

「それはこっちのセリフだよ! 女の子が気にしてるところ触ってなんで怒られないと思えるの!!」

「思えるだろ! 街角百人に聞きました! 俺がやったことは悪いことか? やったら百人中百二十人が悪くないって答えるわ! 聞いてないやつまで答えに来るわ!」

「そんなわけないじゃん!」

「あるねー、絶対にあるー!」


 実際、俺は怒られる筋合いなんて全くないのだ。

 ミカに理不尽な暴力を振るわれただけだ。


「これは絶対にユウマが悪いよ! だって……だって―――」


 ミカが溜める必要もないのに言葉を溜める。

 そして、たっぷりと息を吸い込んで溜めきってから言い放った。


「女の子のお腹をつまんだんだよ!? 許されるわけないよ!」

「許されんだろ! どこからどう見ても聞いても!」


 そう。

 俺が触ったのはミカのおっぱいなんかでは決してない。

 もっと言うならお尻でも、太ももでもない。

 特になんてことのないお腹なのだ。

 これのどこに怒られ、殴られるような謂れがあるというのだろう。

 いや、ない。俺は間違ってない。


「許されないよ! 女の子のお腹のつまんだんだよ! いついかなる時でも自分の体重とか見た目に気を使ってる女の子のお腹をだよ! これは由々しき事態だよ!」

「んなもん知るか! それに、女は痩せてる方がいいみたいに思ってるみたいだけどな! 男からしたら少しくらい肉付きがいい子の方が良かったりすんだよ! 女の子らしい柔らかさが男はほしいんだよ!」


「むーっ!」

「いーっ!」


 ミカと俺との間に火花が散る。ように見える。


「こうなったらやるしかないね」

「あぁ、まさか異世界に来てまでやるとは思わなかったがこの際仕方ねえな」


 俺とミカはゆっくりと床に直接座り込む。

 今までにもこんな感じでミカとぶつかり合ったことがあった。

 そんな時に暴力を振るってもお互いに楽しくないので俺たちはある取り決めをした。

 俺たちは今からそれをしようとしている。


「それじゃあ始めっか」

「うん、いつでもいいよ」


 二人同時に大きく息を吸い込む。

 お互いが十分息を吸い終えたのを確認して俺たちはその方法の名を口にした。


「「朝までそれ討ーろーん!!」」


 朝までそれ討論。

 これが俺とミカの間で決まったお互いが譲れないもののために徹底的に戦う方法。

 やることは名前通りにどれだけ眠くても、既に勝敗が決していても朝まで絶対に寝ずにその内容について討論をする。

 ただそれだけだ。


「いよっしゃあーっ!!」

「ばっちこいだよーっ!!」


 俺とミカは自らの目に熱く燃え滾った炎を燃やし、自らの意見をぶつけ合った。


 そして


 ―――気が付けば朝だった。


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