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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第六章
121/192

8話

 

「まず前提として男の俺は執事、女のミカはメイドだな」

「そうだね! それじゃあ最初は……」

「挨拶だな!」


 王様との面会でなくても、人と人が会って最初にやるのは挨拶のはずだ。

 ……コミュ障で親とミカ以外の人間と日本で対して話してなかったけどあってるよな?


「そうだね! 基本は挨拶だよ!」


 よしっ! ミカの反応を見るに合ってるな!


「執事の挨拶ってーと、こんな感じか……?」


 俺は姿勢を正して、右手を胸の辺りに当て、軽く頭を下げた。

 俺の知ってる執事の挨拶は二つ、いま俺がやっている胸に手を当て軽く頭を下げるのと……罵倒、もしくは毒舌だ。


 そしてその二つの選択肢の内後者は二次元限定だということぐらいは引きこもりの俺にもわかる。

 ましてや、相手が初めて会う一国を担う王様ともなれば俺の首は体とバイバイするだろう。

 もし、見逃してもらえても、俺はこの国で生きていける気がしない。

 ともなれば、こっちが正解のはず。


「んー……私が知ってるのとなんか違うなー」


 俺ほどではないにしろミカもそれなりに二次元に詳しい。

 原因はもちろん俺で、俺の家で長時間耐久アニメマラソンや、名作漫画一夜で読破や俺推薦! 次はこれが来る! ラノベ編などで数々の物語に触れてきたからだ。

 そして簡単に影響を受けたミカは自分でも色々な作品に触れ始めた。

 まぁ、やっぱり女子だからイケメン物が多かったが……

 でも、今回はそれが役に立つはずだ。


「どこが違うんだ? 正直俺はそんなコテコテな執事物は見てないから正直わからんのだが……」


 俺は男の子らしくお嬢様が目的でそういうものを買うので、あまりその辺は詳しくない。


「そうだなー……足とかは?」

「足? 普通に真っすぐじゃまずいか?」

「まずくはないんだろうけど、ほらっ! なんかお辞儀をするときに片足だけ後ろに回して少し腰を曲げるのあるじゃん? あれあれ!」

「ああー、あの気取った感じの執事がよくやってるやつか!」

「そうそう! 「お待たせしましたお嬢様。今夜は素敵なパーティーにしましょう」的な!」

「わりー、それはわかんね……」

「えーっ! なんでわかんないのーっ!」

「なんでって、お前がイケメン執事を求めているように、俺はかわいいお嬢様を求めてんだから見どころが違うのはしょうがないだろ」

「いいじゃん! 男が男のことカッコイイって思って好きになっても! 私はユウマにはそういう差別なく人を好きになってもらいたいです!」

「いや、無理だから。男の娘までだから俺は」


 やっぱり男と女では見方が違う。

 男が美少女を求めるように女はイケメンを求める。

 だからかっこいい執事のセリフは女子の方が覚えがいいし、かわいらしい表情や仕草は男の方が覚えがいい。

 ……あれ? これってこの世のすべての男女が逆の正確になれば理想の男と女ができるんじゃね?


 ……うん。ないね。うん。ないない。


 だって、いくらかわいくても中身は男だもん。

 ネカマと一緒だもん。


「うん。そうだよね……。ユウマはヘタレ受けだもんね……」

「ちげーよ!? 私はわかってるから的な感じだしてるけどちげーからな!」

「うんうん。嫌よ嫌よもなんとやらってやつだね。わかるわかる」

「わかんな! 嫌なもんは嫌なんだよ!」

「うん。……実は私もユウマとイケメンの絡みは見たくないと思った」

「おお……やっとわかってくれたか」


 さすがのミカもそこまでは腐ってなかったみたいだ。


「イケメンが……かわいそう……」


「てめーっ! ぶっ殺してやる! 表出ろ表っ! 二度と嫁にいけないようにしてやらーっ!」

「二度とって、ぷぷっ……まだ私一回も結婚してないし」

「そういう意味じゃじゃねえよ! お前意味わかって言ってんだろ!」

「さすがにわかってるよー。でもユウマ、初めてが外はやっぱり恥ずかしいと思う」

「わかってねえじゃねえか!」

「にゃはははは」

「わらってんじゃねえーえええっ!!」


 しばらくミカとこんな感じのいつもの言い合いをして、疲れたので自分のベッドに倒れこむ。


「なにやってのさユウマ。まだレッスンは始まったばかりだよ!」

「脱線させたのはお前だけどな!」

「それよりほらほら、片足を後ろに回す奴。はい、いってみよー」

「ちっ、今度脱線したらやめるからな」

「はいはい。そうそうゲーブルは切れないよ」

「……断線な」


 結局数十分もの間ミカと誰もいないのにコントを繰り広げ、明日何もなければ今日も疲れた、さあ、寝ようぜ。とミカに一声かけてベッドさんに包まれながら安らかな眠りの中に行けるのだが、今日はそうもいかない。

 明日は王様―――それも一国の王様のいる城に出向かなければならないのだ。

 こんなところで命を落としてたらいくつ命があっても足りない。

 作戦名、命を大事に。


「それじゃあ話を戻して、えっとなんだっけか? 足を後ろに回しながらだっけ?」


 さっきのやり取りで本来の目的の半分くらいが吹っ飛んでいたので一応確認。


「そうそう! 足を後ろに回しながら軽く足を曲げるの!」

「こ、こうか?」


 不器用な柄にも初めてにしてはそれなりのことができた気がする。

 ただ自分では見切れていない場所もあるのでミカに意見を求める。


「んー……なんか違うんだよねー。なにか足りないていうか……」

「何かってなんだよ?」

「んんー……」


 ミカが顎に手を当てて考えてますアピールをしながらたぶん頭を回している。

 そして数秒後に特に表情を変えることなく口を開いた。


「わかんないからとりあえず他のことやっちゃおうよ」

「お前なー……」


 ミカらしいといえばミカらしい答えが返ってきた。

 まあ、正直これ以上思い出せるかもわからないことを思い出そうとするよりも他のことをできるようにしておくのは間違いじゃない。

 ここはミカの案に乗っかっておこう。


「それで、執事の他の仕草ってなんだ? 正直俺が出せる引き出しはおいしい紅茶の注ぎ方(ただし本当においしいとは限らない)くらいだぞ」

「ふっふっふっ。あまいよユウマ。ケーキに砂糖をかけちゃうくらい甘いよ」

「そりゃさぞかし甘いだろよ。で、なにがあるんだ?」

「執事といえばお嬢様のすべてをサポートできる存在だよ? 時には盾に、時には剣に、癒しを求めれば癒しを与えてくれるエキスパートだよ?」


 ミカが何やら偉そうに理想の執事像を語っている。

 その顔はとても幸せそうだ。

 ただな、ミカ―――そんな執事は現実にはいない。

 だって俺の理想のメイドもいないもん。


「あー、はいはい。それで結局のところ何ができればいいんだ?」

「そうだね……まずはお姫様抱っこ!」

「はあっ!? お姫様抱っこ! なんでそんなこと執事に必要なんだよ!」

「バカだなユウマは。もし敵に追いかけられたときに執事は相手と戦う必要があるでしょ? でも、いつでも戦えばいいわけじゃないんだよ。時には逃げも大事なんだよ。それで逃げる時にユウマだったらどうする?」


 面倒くさいことに質問に質問で返してきたが大人で真摯な俺は怒りをぐっと飲みこんでミカの質問について真剣に考える。


「美少女だったら一緒に逃げる。美女なら二人で逃げる。ブスなら囮に使って自分だけ逃げる」

「はいダメーっ。ダメダメのダメだよユウマ。それじゃあただの屑だよ」

「そこまで言うか。で、正解は?」

「そりゃあお姫様抱っこだよ! さっとお嬢様のところに来て、さっとお嬢様を持ち上げて、少しの間我慢してください。すぐ済みます。っていうんだよ」

「えー……」

「文句はいりません。早く実行なさい」


 なぜかミカがお姫様抱っこされる気満々な様子でこっちを見ている。

 というか手までこっちに伸ばしている。


「あのさ、お姫様抱っこって好きな人とかにやられないとただ不快なだけなんじゃねぇの?」


 少なくとも俺はそう思う。

 好きでもない子に自分のTシャツを着られても、別に嬉しくもなんともない。

 同じ理論でいけばお姫様抱っこだって誰にでもやらせるようなものじゃないはずだ。


「何言ってんのさユウマ。私にとってユウマは迷惑をかけられた年数=年齢みたいなもんだよ」

「全然うれしくねえ!!」

「そりゃあ褒めてないもん。それで嬉しかったらドMだよ」


 ミカに言い返すと返って俺が不利になるからこれ以上は言及しないでおこう。

 ただ、生まれてすぐにはミカに迷惑はかけていない。ここ、テストに出ます。


「はあ~……やってから怒んなよ?」

「もちろん。それに女の子にとってお姫様抱っこは夢だよ? 嬉しくないわけがないよ」

「そんなもんかねぇ」


 嫌々ながらも逃げ道はなさそうなので、大人しくミカをお姫様抱っこすることにした。


「んをっ!?」

「ん? どうかした、ユウマ?」

「べ、別になんでもねえよ」


 ……言えるわけない。

 以外にもミカの体が柔らかくていい匂いがしたんて死んでも言わない。

 言ったりしたらミカの奴は絶対に調子に乗って明日アイリスとリリーナに言いふらし、このネタで結構な期間俺をいじってくるはずだ。それだけは許せない。

「それじゃあ持ち上げんぞ」

「どうぞー」


 持ち上げるために力を入れるとさらにミカの体の柔らかさがダイレクトに伝わってくる。

 え? なにこれ?女の子って砂糖とか素敵なスパイスでできてるんじゃないの? なんでこんなにいい匂いで柔っこいの!?

 でも、ここで負けるわけにはいかない。

 俺は女の誘惑をどうにか振り切ってミカを持ち上げる。


「よい……しょーっ!!」

「おおーっ! すごい、すごいよユウマ! わぁーっ、お姫様抱っこってこんな感じなんだー!!」


 なにやら大変ミカお嬢様が喜んでおられる。

 キョロキョロと周囲を見回し、時に俺の顔を見て、興奮しているのか少しバタバタしている。


 ただ、俺にももう限界が来ていた。

 もう正直我慢できそうにない。顔が赤くなり、手が震え、息も荒くなってきた。

 がんばれユウマ! 男だろ! と、自分で自分を励ましてみてももうどうしようもない。

 こんな状況で誰が我慢できるというのだろう。

 この状況に耐えられるという猛者がいるんなら今すぐ出てきてほしい。

 あぁ……まずい……。


「も……もう無理……」


 ついには我慢ができずに俺は―――


 ミカを床に落とした。


「いたっ!? ちょっとユウマー、なにすんのさー……いたた……」


 俺にいきなり床に落とされたミカがお尻をさすりながら文句を言ってきた。


「いや、限界だったんだって」

「なにが限界だったのさ……。あー、私みたいな美少女をお姫様抱っこしたから興奮しちゃった? ごめんねー、美少女で!」


 なにやらミカが勘違いをしている。

 間違いは幼馴染としてただしてやろう。


「いや、純粋にミカがおも―――」


 言葉を言い終える前に俺の顔のすぐ横を風が通過した。

 後ろからはパラパラと何かがこぼれる音が聞こえる。

 さっきから冷や汗が止まらない。

 眼だけで横を見ると、そこには一本の腕があった。


 ミカの腕が。


「ユウマ……それ以上はイケナイ」

「は、はい……」


 正直、しょんべんちびるかと思いました。


 この後、どうにかミカの機嫌を回復させた俺は少し休憩ということで、二人お互いのベッドに座り込んだ。


「とりあえず俺はこんなもんでいいだろ。大体のところは日本(むこう)と変わらないだろうし、付け焼刃はついたろ」

「そうだね。それに王様っていうくらいなら寛大な人でしょ!」

「そうとは限らねえぞ。中には切れやすくて自分の思い通りにならないとすぐにキレる王様だっているんだ。むしろ王様ってのは自分の思い通りの国を作りたいって奴がやってんだから下手なことしたらホントにやべーぞ」

「うっ……確かにそう言われるとそんな気も……」

「だろ? だからお前も最低限の付け焼刃くらい身に着けとけ。つっても『金剛力』があれば、そう簡単にはやられたりしねえだろうけど」


 物理系最強ランクのスキルの『金剛力』いくらここが王都といえどもそう簡単には敗れるはずがない。


「そういえばユウマ。さっき私、何かがユウマには足りないって言ってたじゃん。あれ、わかったよ」

「おっ? マジか! 教えろよ!」


 全く期待はしていなかったことをミカが言い出した。

 ちょっとしたこととはいえ、少しでも生存確率はあげておきたい。

 俺は期待を込めた目でミカを見る。


「顔」


「……はっ?」


「だからー。顔だよ顔。やっぱり執事はイケメンじゃないとダメなんだよ。だからユウマも少し顔を変えて……ちょっ!? ユウマ!? 落ち着いて! ハウスハウス!!」

「うっせーっ! 少しでも期待した俺がバカだった! てめーちょっと表出ろや!!」


 こうして、役に立つのかわからないが、最低限の付け焼刃をつけることに俺は成功した。


 ……したよな?

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