2話
あれから、一時間ほどで旅行の支度を済ませ、その大荷物を持って南門の前まで来ていた。
「あれに乗れば王都に行けるのか?」
「はい。あれに乗れば王都まで行けますよ」
門の近くで止まっている大きな馬車を指さしながら訪ねるとアイリスが答えてくれた。
アイリスも見ての通り元気になった。
起きた瞬間こそ王都へ行くことに慌てていたが、俺たちみんながいるんだったら平気かもしれません。と、勇気を振り絞ってくれた。
かくいう俺とリリーナもさっきまであんなに慌てていたのに、今ではちょっとした旅行気分だ。
「今まで気にしたことなかったけど、馬車の数結構多いんだな」
「そうですね。王都行き以外にもたくさんの馬車がありますからね。それに一回でたくさんの人を乗せて移動するので、馬車の数も自然と多くなってるんだと思います」
「そうね。今から乗る王都行きなんて、一回に十台も馬車を出すらしいわよ。人数も二、三十人にはなるんじゃないかしら」
なんだろう。あんまりすごいとは思えない。
いや、すごいはすごいんだけど、台数と人数を具体的に出されると、バスの方が一台で何十人も乗せれるしなー、とか考えてしまう。
まあ、この世界の公共の乗り物は馬車しかないので文句は言えない。
「こうなってみると、魔法とか便利そうだな、とか思ってた頃が嘘みたいだな。しかも現実は逆で、魔法よりも科学の方が優れてるという……」
「そだねー。日本じゃ、空飛んで出かけられたらとか、テレポートで移動したいとか、火とか水とか自分で出せるの便利そうとか思ってたけど、そうでもないよね」
「隣の芝生は青いとはよく言ったもんだなー」
「ん? 何言ってるのさユウマ。この辺に芝生なんてないじゃん。ほとんど石畳だよ。それに芝生は青というよりは緑じゃん。まったくユウマはバカだなー」
「お前こそ辞書でも引いてみろ。どっちがバカかわかるから」
この幼馴染、お世辞にも賢いとは思ってなかったが、まさかここまでとは……。
「ゆ、ユウマさん……。ごめんなさいなんですが、私にもユウマさんのお言葉の意味がわからなかったのですが……」
「気にしない方がいいわよアイリス。どうせまたユウマ語でしょ。いちいち意味を考えてたら切りがないわ」
アイリスが申し訳なさそうにさっきの諺の意味を訪ねてくると、リリーナはそれを気にすることないと一蹴した。
ちなみにユウマ語とは、元居た世界の言葉でこちらの異世界にはない言葉のことだ。
実際この異世界には諺というものがほとんどなく、あったとしても俺たちの知っているものと全然違う。
諺に限らず、異世界というだけあって俺たちの元居た世界と異なるところは多々ある。
じゃんけんがなかったり、クリスマスなどのイベントごとがなかったりと。
まあ、イベント事のほとんどはリア充御用達イベントなのでむしろない方がいいのかもしれない。
決して、バレンタインとかいうお菓子業界の罠が嫌いだからではない。
違うからな!!
「でも、ユウマさんのお話はいつも面白いので、お聞きしたいんですが……」
リリーナの言葉に怯むことなく、それどころか俺への好感度まで上げつつ言った。
ここまでされて、教えないのはお兄ちゃんとして失格である。
「隣の芝生は青く見える。ってのはな、俺たちの居たとこの諺っていう昔の人が残した教訓みたいなもんで、意味は自分のものより他の人のものの方が良く見える。って意味なんだ」
「そうなんですか。……なんか、話を聞けば聞くほどユウマさんやミカさんの居た所の方がここよりもすごいんじゃないかって思えてきます」
諺の意味を説明し終えると、アイリスは感心したように息を漏らした。
ちなみにミカのやつは、「へぇ~、そんな意味の諺なんだ。でも、やっぱり芝生は青じゃなくて緑だよ」とか、ぶつぶつ呟いていた。
まったく、あいつは青信号を緑信号って言うんだろうか。
「実際、ここよりすごかったところもいくつかありはするんだ。ただ、前も言ったと思うんだけど、俺のところには魔法を教えてくれる人がいなかったから魔法はなかったんだよ。だからどっちもどっちって感じだと思うぞ」
三十を超えて魔法使いになった人はいたかも知れないけどな……。
「あはは、そうだな。俺はあんまり行きたくないけど、アイリスが行きたいっていうならいいかもな」
もう帰れる見込みはほとんどないし、帰るつもりも毛頭ないけど、こう言わざる終えなかった。
「もうそろそろ出発するみたいよ。私たちも行きましょ」
リリーナに言われて俺たちは馬車の元へと向かう。
「私たちが乗るのってこの馬車だよね。うわー、初めて馬車なんて乗るよー!」
「そうなの? でも、ミカたちって遠くの方から来たのよね? それならどうやってここまで来たの? 魔法を使える人もいなかったってことはテレポートでもないんでしょ」
「え!? そ、それは……こう……ビューン! って来たんだよ!!」
なんとも頭の悪い説明だった。
異世界物のアニメや漫画の主人公たちは基本的に自分たちが異世界から来たことを隠している。その意味は全くと言っていいほどわからんが、俺たちもそれに倣って異世界から来たのではなく、すごい田舎の方から来たということにしている。
別にバレても構わないが、変に支障が出ても困るのでなるべくこういう方針でいる。
「俺たちは商業をやってる人たちに上手く乗せてもらって、寄り道をたくさんしながらここまで来たんだよ。そのおかげで、こっちに来た頃にはお金は底を着いてたけどな」
こういった時のための答えはいくつか考えてある。
そう簡単にバレることはないはずだ。
「そうだったの。ミカがビューン! って言うから、私はてっきりミカが『金剛力』でユウマを振り回して一緒に飛んできたのかと思ったわ」
「ハンマー投げじゃないんだからそんなことしないよ。ユウマはそれでよくても私は乙女だもん」
「そうよね。変なこと言って悪かったわミカ。私たち、乙女だものね」
「おいコラそこの自称乙女共、一回乙女の意味を調べて来い。あと、俺はハンマー投げでもいいってなんだよ。ヤダよ」
「ユウマ、わがままは、ダ・メ・だ・ぞ」
「『スプラッシュ』!!」
ただでさえ頭に来ていたところに、ミカのお姉さんぶった「ダ・メ・だ・ぞ」に腹の立った俺は、ミカの口元を塞いで水魔法の『スプラッシュ』を放った。
ミカはゴボゴボ言いながら暴れていたが、少ししたら何事もなかったように大人しくなった。
「さっさと乗ろうぜアイリス、リリーナ。他の人たちに迷惑になるだろ」
「え!? ミカさん放置ですか!?」
「あんた……久々に鬼畜の本性を見せてきたわね……」
アイリスとリリーナがそれぞれの反応を見せたところで、周りの人たちが騒いでいた俺たちの方を見て、倒れているミカを見る。
このままコイツを見捨てていくのは簡単だが、ここで捨てていくと、また俺は鬼畜王なんて言う嘘の噂を流されてしまう。これ以上はこの街に住めなくなりそうで怖い。
仕方ないか……。
「ったく、ミカ。いくら喉が渇いたからって『スプラッシュ』で水を飲むのは無理だって言ったのに。はあ~……アイリス、リリーナ、俺はコイツを起こしてから乗るから先に乗っててくれ」
「は、はい……」
「ユウマ……やっぱり鬼畜王になれるわよ。あんたなら……」
「リリーナ。なんかこの馬車は特等席が二つもあるらしくてな、一つは屋根の上で、もう一つは体に紐を巻き付けて、馬車の後ろに結ぶ席らしいんだけど、お前乗る?」
「え、遠慮しとくわ!!」
アイリスと、逃げるように馬車に乗り込んでいったリリーナを見送り、俺はお腹を膨らませて倒れている幼馴染を見る。
「面倒かけさせやがって……そいやっ!!」
ミカの腹に全力の拳を振り下ろす。
すると、ミカの口から大量の水が噴水のように噴出し、目を覚ました。
「ビューティフォー!」
「ビューティフォーじゃないよ!!」
こうして無事、四人で馬車に乗って王都に向えることになった。
「無事じゃないから! 私、腹パンされてるから!」
「コラっ! 俺の心の中を読むんじゃない!」
「二人とも、このままだと本当に置いて行かれちゃいますよ」
「おう」
「後で覚えててよね、ユウマ」
こうして、今度こそ本当に、無事に四人で王都に向かえることになった。




