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最弱ニートの異世界転生  作者: Rewrite
第五章
110/192

18話

「……こんなもんか?」

「はい。これでうちの商品全部です」


 あれから数時間。ファナと一緒に魔道具店の倉庫を隅から隅、端から端まで、まるでこの部屋をひっくり返す勢いで調べた。


「やっぱりこのままだとまずいな」

「ま、マズいですか……?」


 正直、倉庫の中のラインナップもあんまりよろしくなかった。商品の必要性の低さ、値段の高さ、そしてそれを店に入庫するときの値段、そのどれもこれもが最低値と言っても過言ではない。

 爆発ポーション。毒毒ポーション。いい匂い、だけど魔物を呼び寄せちゃう香水。読むと集中できる本。ただし読み終えるまで本を読むのをやめることができない。必読時間十時間以上。などなど、あんまりな商品の数々。商品を見ていて何度、この頼みごとをあきらめようと思ったか、今ではもう覚えていない。


「ファナ。まずは商品のラインナップをどうにかするぞ」

「はい! ユウマさん。私は一体どうしたらいいのでしょうか?」

「ああ。まあ、この件に関してはもう予想してたから俺に考えがある。後はファナがそれを受け入れるかどうかだ」




「なるほど……。でも、いいんですか?」

「ああ。さっきの条件でファナがいいんなら俺は構わない。むしろありがたいまであるな」

「……わかりました。受けましょう」

「よし、あとは他の商品のラインナップの変更と、値段の変更。受け入れ先を絞り込むのと、やること多いな、おい」


 自分で言ってて悲しくなるほどやることが多い。

 結構自信満々に安請け合いをしてしまったが、俺にこの店の経済をどうこうできるのかという不安が胸をよぎる。

 これはゲームとは違う。間違ったらロードしたり、リセットしたり、どうしようもできなくなったらデータを消して初めからなんてできないのだ。

 今ほど死に戻りを欲したことはないかもしれない。


「いや! 自分を信じろユウマ! 大丈夫! お前は何度店を救ってきた! 何度自分の店を持った! 何度その中でも一位の店になった! 大丈夫! 俺のゲーム脳さえあれば!」


 我ながら何の信憑性もない、やることさえやれば必ずみんながハッピーエンドにたどり着けるゲームでの話を持ち込んでいる辺り、俺も救えないやつである。


「さあ! ファナ! 早速次の作業だ!」

「はい! ユウマさん!!」


 ということで、俺とファナの短いようで長い戦いが始まった。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――


「ふう~。まずは一晩でここまでの商品が集まれば上出来だろう」

「はい! すごいですねユウマさん。まさか半日でここまでの商品を百万ギルで集めるだなんて。私ならこの半分も集まりませんでした」


 服の袖で汗をぬぐう仕草を取る俺に、水の入ったコップを持ってきてくれたファナが言う。

 正直、昨日の後半は大変だった。ファナがいつも商品を仕入れている連中と顔を合わせたのだが、そのほとんどがファナをカモとしか見ていない連中で、相場の倍の値段くらいでファナにものを売っていた。

 そのほとんどの商売相手との契約を切り、こちらの条件通りに取引をしてくれそうなところだけを残し、色々な商品を見て、この先の季節にみんなが使いそうなものを予想し、とやることが多すぎた。


「ファナ……。ファナのその性格は美徳だし、見た目も美人だけど、もう少し世間を知った方がいいぞ?」

「え? なにをおっしゃっているんですかユウマさん? 私、これでも結構常識人なんですよ!」


 そう言って豊満すぎる胸を張るファナ。

 あれだけぼったくられていて、その自信を持てるのだから本当にすごい。


「はあ~。それよりまず今日を乗り切ろう。いいかファナ。今日は今までで一番忙しくなるだろうから覚悟しろよ? いつも通りの気分でいたら午前中にはへばるぞ」

「はい! 任せて下さいユウマさん! 大丈夫です! 私、結構体力には自信あるんです!」

「そうか。なら頑張ってくれ。この店のかっては俺よりファナの方が詳しいからな」

「はい! お任せです!」


 朝の十時。

 ここから俺たちの初陣が始まる。




「よし、朝の十時だ! ミカ! リリーナ! 行け!」

「え~!? 本当にこの格好で行くのー?」

「当たり前! お前らの服はすでに『ゲート』によって俺の部屋に転送済みだ。ここにお前らの着替えはない! もし自分の服に着替えたいんならその服を着て家まで自分の足で帰れ! ちなみにここからまともに帰ったら三十分はかかるからな!」

「ひどっ!? さすがにひどいよユウマ! 鬼畜の所業だよ!」

「なんとでも言え! 俺は俺の為ならなんでも利用する男だ!」

「クズだ! ここにクズがいる!!」

「いいから行ってこい! それ全部配るまで帰ってくんな!」


 そう言ってミカの尻を蹴とばし店から追い出した。


「……ねえユウマ。ミカのメイド服、私のよりもスカートの裾が長くないかしら?」

「あ? そりゃあ当たり前だろ? 短いほうが男が喜ぶ。ミカはドジして転んだ時にパンツ見られそうで俺が腹立つから少し長くしたんだよ。その点リリーナはそういうドジはしないだろ?」

「そりゃあ私は天才だし、そんなちっちゃなミスはもちろんしないわよ? でも、恥ずかしいのよ……」

「なに言ってんだよリリーナ……。お前の存在の方がよっぽど恥ずかしいよ。魔物に突っ込んでいく能筋魔法使い。これだけで恥ずかしぶべらっ!!」

「行ってくるわっ!!」


 俺にものすごい蹴りをかましてからリリーナは怒った顔で出て行った。

 ちなみにあの二人の着ていた普段着はこの店の倉庫にある。家にある私服も全部ここに移動済みだ。つまり、あの二人が全力で家に帰ったところで着替えはない。


 あの二人が恥ずかしがって着ていた衣装。それはメイド服だ。

 黒と白を基調としたフリフリの服で男の憧れの一つでもあるメイド服。リリーナのはこの前着てもらったものと同じだが、ミカのは今しがた言った理由により新しく作っておいた。

 現在はアイリス用のメイド服も製作中である。


「あの……大丈夫ですかユウマさん? 『ヒール』いります?」


 俺がリリーナに蹴り飛ばされたまま地面に体を預けていると、アイリスがひょっこり現れて俺にそう尋ねてくれた。

 やっぱりこの世界にはアイリス以上の天使はいないと思う。異論は認めない。


 リリーナとミカがメイド服を来て店の近くでチラシ配りを初めて一時間ほどが経過した。

 その頃お店は―――大繁盛に次ぐ大繁盛だった。

 店の前にはすでに百人近い行列ができており、俺が必死に列をまとめている。


「はいそこ! 割り込みはダメだ! ちゃんと最後尾から並べ。列に並んでる皆さんもあと半歩詰めて、通りすがりの人に迷惑だから! 大丈夫、みんなはぷよぷよじゃないから集まっても消えないよー。テトリスでもないよー!」


 さっきから列に割り込もうとする人、無理やり後ろの方から前に出てこようとする人、なんの原因かは知らんが喧嘩しようとしてしてる人を止めるので忙しい。コミケのスタッフはこの何十倍もの人間を相手にああも上手く対応していたなんてと少し感心する。

 隙を見計らって店の中を見て見ると、レジ役のアイリスとファナが慌ただしく体を動かしている。レジ前もそれなりに人が並んでおり、二人でも対応しきれていない。正直、多少混むことは想定していたし、もしいつもよりも混雑してもファナは仮にも商人だし、レジはアイリスと俺もいるからどうにでもなると踏んでいたのだが、お客は想像以上に多い。


 その原因はわかっている。まず商品の見直しだ。

 俺が昨日ファナのご贔屓にしているという商人たちに会い、値段交渉を行い、物を安く買ったので、いつもよりも安く商品を売ることができている。

 その他にも俺が作った便利道具もいくつか並べている。

 家でも重宝しているライターや、クエストに出かけるときに飲み物を入れていける水筒などなど、即席でできて冒険者たちに人気の出そうなものをできるだけ今日の朝まで作っていた。

 おかげで絶賛寝不足である。徹夜したのすら久しぶりだった。


 ただ、作れるのが俺一人ということもあって数は多くない。だから俺はこういう策も取っていた。『一万ギル以上お買い上げの方にのみ、冒険者便利道具を売ります!』というものだ。もちろん数に限りがあることも書いてあるし、その道具の使用方法もしっかりと記載している。そしてそのチラシをリリーナとミカにメイド服で配らせているというわけだ。


「はいそこー! ずるはダメっすよー!」


 俺たちの戦いはまだ始まったばかり。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「す、すごいですユウマさん! 私……一日でこんなに売れたこと今までにありません! 夢みたいです!」


 ファナの店の営業時間が終わり、俺たち四人とファナは店の中で今日の売れ行きと売り上げを確認する。


「売り上げは百万。最初からの借金五百万とこれだけの商品を集めるのに百万、差し引いて五百万の赤字か……。まだまだ油断できない、というかまだ状況的にはまずいな」

「え、なんで? 一日でこれだけ売り上げ上げられたなら、あと五日で全額換算じゃん」


 ミカがお気楽な発言をした。


「あのな……ミカ。今日だけでも結構在庫が飛んだんだぞ? つまり、またすぐに在庫の確保をしなきゃならん。それに俺が選んで仕入れたものは基本的に使い捨てになって、何度も買わないといけないもんだが、全部が全部そうなわけじゃない。それに俺が作った便利グッズを目当てに来てるやつもいる。そしてそれにも在庫がある。しかも数は少ない」

「ユウマ、長い……もっと簡潔に……」

「つまりこの後も出費はあるし、買うものを買った客が来なくなるから新規の客を明日からも呼ばないとならん」

「なるほど!」


 ミカが手をポンと叩いて納得したような顔をしているが、たぶん……いや、絶対にわかってない。

 その点ファナや、小さくても賢いアイリス、クエストになると脳筋だけど、基本的には頭の良いリリーナは俺の話しを的確に理解してくれたみたいだ。


「さっきも言ったが、明日からは在庫の確保と、店の経営の二つを同時に進行しないといけない。在庫の確保は俺が適任だから俺がやる。でも今日でさえあの忙しさだ。明日も覚悟しとけよ」

「了解です」

「わかったぁ!」

「わかったわ」

「はい! ユウマさん!」


「よーし、明日もがんばるぞーっ!」


「「「「おーっ!!!!!!!!」」」」



 次の日。


「もうちょっと安くなるだろ? さっきのところはお宅より安かった。まぁ、無理にとは言わないけど、安くなんないならこっちも商売だから向こうと契約を……」

「ま、待ってくれ! わかった! この値段ならどうだ?」

「そういえばお宅、結婚してるって言ってたよな? これは聞いた話なんだが、なんでもあんたが夜のお店に……」

「あー! そういえば、これはたまたま安く仕入れられたやつだ! だからもう少しだけ安くできるよ!」

「おっ? そうか? サンキューおっちゃん」


 今日もいい感じで在庫の増加ができそうだ。


 次の日。


「これ以上はまけらんねぇな。そっちが商売やってるようにこっちも商売やってんだ。これ以上はこっちが赤字になる」

「なぁ、あんた。これなにか知ってるか?」

「あ? なんだよその薄っぺらいのは」

「これはスマホって言ってな。まぁ、色々な使い方があるんだが、使い方の一つに、ある場面をそのまま保存できるって機能があるんだ。それで昨日こんな場面に出くわしたんだが……」

「こ、これは!」

「小さい女の子見て鼻の下伸ばしてるの、これお宅じゃないか? 俺はこの後ちょっと警察に用があっていくところなんだが、警察にこれを見せたら……」

「わわわ、わかった! これでどうだ!」

「そういえば他にも……」

「あああああああああっ! わかったわかった! 元の値段の半額だ!」

「そりゃあ助かるぜ。あんがとおっちゃん」


 この街の人はみんないい人だ。


 次の日。


「この値段でどうだい?」

「んー、こっちも結構厳しくてさ。もうちょい安くなんない?」

「こっちもこれで精一杯だよ」

「そういえば、あの花屋のお姉さん。最近、何かが欲しいって言ってるって聞いたな」

「え……な、なぁ、それが何だったか教えてくれないか?」

「わりぃ、俺もここまで出かかってんだけど思いだせなくてな」

「思いだしてくれよー、実はさ、俺……あの子のことが好きでさ、気を引きたいんだよ。同じ男としてわかるだろ?」

「んーっ、思いだせない。あー、今の商談が上手くいけば思いだせそうなんだが……」

「わかった。ここまで下げるよ。だから頼む!」

「オッケー。商談成立だ」


 商談が成立したので立ち上がる。


「あ、あれ? 花屋さんが欲しがってたものってなに?」

「んあ? 知らん」


 みんなの優しさで心が温かい。


 こんな感じで俺の在庫確保の商談は毎日のように上手くいき、一週間たったころには十分に在庫をためることができた。

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